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28話
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日陽が那月をじっと見て、はっきり言ってきた。もうやめよう、嫌だ、と。
那月は戸惑う。もっともっと、と求めていればきっと安心感を得られると思った。きっとそうだ、と。しかし安心感どころか、黒い感情は増すばかりのような気がする。そして夜、那月は眠れなくなった。何故なのかわからない。つき合ったばかりの頃のほうがまだキラキラしていて満たされた気持ちになっていた気がする。
ひたすら日陽を求めているからといって、那月は別に考えることを放棄していたのではない。朝も夜もずっと、日陽のことを考え、恋い焦がれ、どうすれば安心できるのだろうかと思っていた。
もちろん、日陽にも笑っていて欲しいし楽しい思いをして欲しい。だがそこに那月がいないのは嫌だった。那月がいて、日陽が笑う。笑い、そして那月を必要としてくれる。那月はそんな日陽に安堵し、幸せを噛みしめる。
それは高望みなのだろうか。今までも誰かとつき合ったことくらいあるのに、那月には沢山のことがわからなくなってきた。
もういっそ何も考えずひたすら日陽を求めていればいいような気もする。ただ日陽が傍にいないとつらくて堪らなくて、何も考えない状態にすらなれない。本当に狂いそうなほど求めては悩み、いっそ気が触れてしまえばいいのにとさえ思う。
自分でも少しおかしいとは思っている。傍から見ればたかが高校生の恋愛だ。誰かを好きというだけで、のたうち回りそうなほどしんどくて気が狂いそうになるなんて、馬鹿みたいだろう。わかっていてもだが、どうしようもなかった。
ふとある日、那月は「ツキくん」とやらが出ているアニメを観てみた。ツキくんに多少の愛着は湧いていてもアニメに興味を持つほど湧いているわけでもないし、そもそもアニメに興味ない。日陽が関わるものにただ触れたいと思っただけだった。
日陽がショートアニメと言っていたように、一話十分か十五分程度の長さだった。その時は友人のいない小学生男子が友人欲しいなあと願っているとツキくんが現れたのち道端で答案用紙を拾う話だった。
ああ、ここから仲よくなるってやつか、と思っているとその少年は答案用紙を見てあまりの点の悪さに微妙な顔をした後に捨てようとしていた。一応思いとどまって落とした相手へ届けると、相手は相手でとても微妙な顔をしていた。話はそこで終わる。
「……ほんっとに微妙なツキをよこすだけのようだな」
見ている那月まで微妙な顔になった。ただ、その後生意気にもエンディング曲があるようでそれが流れている時に、その微妙な状態だった少年は相手の友人になっていた。どういう流れがあったのかという説明はない。結局微妙な気持ちのままではあったが、何となく記憶に残っていた。
どうやって仲よくなったのだろう。
あんなにお互い微妙そうだったのにと思う。迷惑そうにすら見えた。ツキは関係なく自分たちの努力で歩み寄ったとかだろうか。
いや、と那月は何となく思った。あの微妙なツキがなければ出会うこともなかったのかもしれない。そう思うと、ツキとも言い難い微妙なツキとはいえ、とても大切なきっかけでもあったのかもしれない。
那月のこのどうしようもない黒い感情も、何らかのきっかけがあれば変わることもあるのだろうか。きっかけとは言わないが、それを那月は「日陽をひたすら抱く」という風に解釈し、そして間違えてしまったのだろうか。
微妙でもいいから今ツキが欲しいと思った。やめよう、嫌だと言われても那月にはやめることなんてできない。例え間違えてしまったのだとしても、日陽を請い求め満たそうとする他の方法がわからない那月としてはやめるなんてできない。
そもそもなぜ日陽は嫌がるのだとさえ思ってきていた。
好きなのだろう? 俺のこと。じゃあ、何で俺と絡み合うのが嫌なの。俺はこんなに好きで、そしてひたすら日陽が欲しいのに。
もしかして、もう好きじゃない? 嫌なのは行為じゃなく、俺?
どんどんとマイナスな方向へ思考が行く。嫌だと言いながらも那月を叱ってこないのは気を使っているからだろうか。つき合っているのに変な気を使われているとかだろうか。
もしくは逆につき合っている相手がもし智充だったら嫌がったりせずに一緒に楽しんだりしていただろうか。それとも嫌だったらもっと笑いながら「バカ野郎」と気軽にはたいてきたりしていただろうか。
そんな風に考えたくないのに、まるで自分にナイフを突きつけ抉るかのように、ずくずくと自傷行為をしている。自傷行為を続けながらもなお、麻薬を求めるかのように欲している。
「もうやめよう。何度も言ってるけど、学校は嫌だ」
そう言ってきた日陽の唇を、那月はまるで黙らせるかのように貪った。
「な、つき……! いや、だっ」
拒もうとしてくる日陽に対し、那月の中はさらに黒く淀み、こぽりとあぶく立ちじわじわと煮えたぎった何かがせり上がってくる。やめるどころか、黙って続けた。
「っ、は……っ、やだ、い、やだ……っ、那月……っ」
最近は抵抗するどころかひたすら流されるように、むしろ投げやりなのかという勢いで受け入れていた日陽が抵抗してきた。それが嬉しいのか悲しいのかもわからない。両方かもしれない。
それとともに情欲が激しく湧き起ってきた。那月は激しく日陽の唇を求める。もうどちらの舌かもわからなくなる勢いで絡めた。
抵抗していた日陽が抵抗をやめてきた。それどころか那月のキスに応えてくる。ますます興奮し、那月はまた日陽の体を貪り出した。するとキスに応えてくれていた日陽がハッとしたように同じくまた抵抗し出した。キスも日陽の方から離してくると、渾身の力を込めたかのように思い切り引き離してきた。
「っ、日陽……」
「やめろっ、って……言ってる……」
そんなの、やめられない。
那月が続けようとすると顔を逸らされ「やっていけない」と言われた。
「ぇ……?」
「那月……俺は那月が好きだよ。でもな、これだけ言っても聞いてくれないなら、俺はもうお前とはやっていけない」
サラサラと砂の城が崩れるどころではなかった。恐ろしいほどの衝撃が那月の中を打ちつけてきた。
体が震える。血の気が引いていく。
那月は戸惑う。もっともっと、と求めていればきっと安心感を得られると思った。きっとそうだ、と。しかし安心感どころか、黒い感情は増すばかりのような気がする。そして夜、那月は眠れなくなった。何故なのかわからない。つき合ったばかりの頃のほうがまだキラキラしていて満たされた気持ちになっていた気がする。
ひたすら日陽を求めているからといって、那月は別に考えることを放棄していたのではない。朝も夜もずっと、日陽のことを考え、恋い焦がれ、どうすれば安心できるのだろうかと思っていた。
もちろん、日陽にも笑っていて欲しいし楽しい思いをして欲しい。だがそこに那月がいないのは嫌だった。那月がいて、日陽が笑う。笑い、そして那月を必要としてくれる。那月はそんな日陽に安堵し、幸せを噛みしめる。
それは高望みなのだろうか。今までも誰かとつき合ったことくらいあるのに、那月には沢山のことがわからなくなってきた。
もういっそ何も考えずひたすら日陽を求めていればいいような気もする。ただ日陽が傍にいないとつらくて堪らなくて、何も考えない状態にすらなれない。本当に狂いそうなほど求めては悩み、いっそ気が触れてしまえばいいのにとさえ思う。
自分でも少しおかしいとは思っている。傍から見ればたかが高校生の恋愛だ。誰かを好きというだけで、のたうち回りそうなほどしんどくて気が狂いそうになるなんて、馬鹿みたいだろう。わかっていてもだが、どうしようもなかった。
ふとある日、那月は「ツキくん」とやらが出ているアニメを観てみた。ツキくんに多少の愛着は湧いていてもアニメに興味を持つほど湧いているわけでもないし、そもそもアニメに興味ない。日陽が関わるものにただ触れたいと思っただけだった。
日陽がショートアニメと言っていたように、一話十分か十五分程度の長さだった。その時は友人のいない小学生男子が友人欲しいなあと願っているとツキくんが現れたのち道端で答案用紙を拾う話だった。
ああ、ここから仲よくなるってやつか、と思っているとその少年は答案用紙を見てあまりの点の悪さに微妙な顔をした後に捨てようとしていた。一応思いとどまって落とした相手へ届けると、相手は相手でとても微妙な顔をしていた。話はそこで終わる。
「……ほんっとに微妙なツキをよこすだけのようだな」
見ている那月まで微妙な顔になった。ただ、その後生意気にもエンディング曲があるようでそれが流れている時に、その微妙な状態だった少年は相手の友人になっていた。どういう流れがあったのかという説明はない。結局微妙な気持ちのままではあったが、何となく記憶に残っていた。
どうやって仲よくなったのだろう。
あんなにお互い微妙そうだったのにと思う。迷惑そうにすら見えた。ツキは関係なく自分たちの努力で歩み寄ったとかだろうか。
いや、と那月は何となく思った。あの微妙なツキがなければ出会うこともなかったのかもしれない。そう思うと、ツキとも言い難い微妙なツキとはいえ、とても大切なきっかけでもあったのかもしれない。
那月のこのどうしようもない黒い感情も、何らかのきっかけがあれば変わることもあるのだろうか。きっかけとは言わないが、それを那月は「日陽をひたすら抱く」という風に解釈し、そして間違えてしまったのだろうか。
微妙でもいいから今ツキが欲しいと思った。やめよう、嫌だと言われても那月にはやめることなんてできない。例え間違えてしまったのだとしても、日陽を請い求め満たそうとする他の方法がわからない那月としてはやめるなんてできない。
そもそもなぜ日陽は嫌がるのだとさえ思ってきていた。
好きなのだろう? 俺のこと。じゃあ、何で俺と絡み合うのが嫌なの。俺はこんなに好きで、そしてひたすら日陽が欲しいのに。
もしかして、もう好きじゃない? 嫌なのは行為じゃなく、俺?
どんどんとマイナスな方向へ思考が行く。嫌だと言いながらも那月を叱ってこないのは気を使っているからだろうか。つき合っているのに変な気を使われているとかだろうか。
もしくは逆につき合っている相手がもし智充だったら嫌がったりせずに一緒に楽しんだりしていただろうか。それとも嫌だったらもっと笑いながら「バカ野郎」と気軽にはたいてきたりしていただろうか。
そんな風に考えたくないのに、まるで自分にナイフを突きつけ抉るかのように、ずくずくと自傷行為をしている。自傷行為を続けながらもなお、麻薬を求めるかのように欲している。
「もうやめよう。何度も言ってるけど、学校は嫌だ」
そう言ってきた日陽の唇を、那月はまるで黙らせるかのように貪った。
「な、つき……! いや、だっ」
拒もうとしてくる日陽に対し、那月の中はさらに黒く淀み、こぽりとあぶく立ちじわじわと煮えたぎった何かがせり上がってくる。やめるどころか、黙って続けた。
「っ、は……っ、やだ、い、やだ……っ、那月……っ」
最近は抵抗するどころかひたすら流されるように、むしろ投げやりなのかという勢いで受け入れていた日陽が抵抗してきた。それが嬉しいのか悲しいのかもわからない。両方かもしれない。
それとともに情欲が激しく湧き起ってきた。那月は激しく日陽の唇を求める。もうどちらの舌かもわからなくなる勢いで絡めた。
抵抗していた日陽が抵抗をやめてきた。それどころか那月のキスに応えてくる。ますます興奮し、那月はまた日陽の体を貪り出した。するとキスに応えてくれていた日陽がハッとしたように同じくまた抵抗し出した。キスも日陽の方から離してくると、渾身の力を込めたかのように思い切り引き離してきた。
「っ、日陽……」
「やめろっ、って……言ってる……」
そんなの、やめられない。
那月が続けようとすると顔を逸らされ「やっていけない」と言われた。
「ぇ……?」
「那月……俺は那月が好きだよ。でもな、これだけ言っても聞いてくれないなら、俺はもうお前とはやっていけない」
サラサラと砂の城が崩れるどころではなかった。恐ろしいほどの衝撃が那月の中を打ちつけてきた。
体が震える。血の気が引いていく。
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