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24話
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日陽とたくさん体を繋げばきっと、という思いで那月は昼休み、学校だというのに日陽を強引に抱いた。抵抗されたし終わった後も日陽は怒っていた。だがすぐに許してくれたし優しかった。
それに実際繋がっていると、あの黒い感情が湧くどころかひたすら夢中になって日陽を味わえ、とても満たされた気になった。
ただそれはその時だけで、しばらくするとまたあの感情にとらわれる。夜、日陽のことを考えながらひたすら寝返りを打つことが増えた。今も日陽を思い、また寝返りを打つ。
これが誰にでもよくあることだとは思わない。那月自身も、今までつき合ってきた相手に対してここまで焦燥感や渇望、そして求不得苦を感じることなどなかった。智充のことで躍起になっているだけなのだろうかとも思ってみたが、日陽を抱けば抱くほどそうではないと気づかされる。
いつの間にか好きで堪らなくて、そして好きだからこそ不安になり、それを拭い去りたくて日陽を抱いて満たされ、そしてますます好きになり、その分同じだけ不安になる。
何がそんなに不安なのだともし誰かに聞かれても相変わらず答えられない。というか、説明できるほど明確なら、那月自身で自分の感情をもう少しどうこうできる気もする。
自分が求められるに足る存在だとどこかで思えないのだろうか。ただ那月は自分に自信がないわけでもない。それを証明するかのように、昔から勉強もスポーツも頑張ってきた。人とのつき合いにも心を配ってきた。
「……だから自信は、ちゃんと、ある」
呟いてみる。
では何故不安なのだろうか。日陽はきちんと「好きだ」と言ってくれるし態度にも出してくれる。そして怒ったりもするが優しい。
でも気を使われているのかもしれないじゃないか、と那月の中の那月が呟く。
本当に日陽が気も使わないで楽しく心地よくいられる相手は智充じゃないのか?
「……煩い……違う」
だって見てみろよ。あいつらいつも楽しそうだろ? それに二人でいることが凄く自然だろ?
「違う……俺といても楽しそうだ」
でも気を使ってる。
「使われてない」
だったら、あんなに学校でするのを嫌がってたのに無理やりしたお前を何であまり怒らないんだ?
「……」
つき合いたての時ついキスしたら実力行使でやめさせてきたくらいなのにと何故と思わないか?
「そ、れは好き、だから……」
お前を? こんなドロドロしたもん抱えてるお前を?
「煩い……!」
おかしくなる。
那月はシーツへ顔を埋める。自分で勝手に悪い方へ考え、その感情にとらわれ、そして否定し、まるで体が分断されるような気持ちになる。
いっそ、日陽を好きじゃなければよかったのだろうか。それだったらきっとこんな苦しくて辛い思いは抱えていない。他の人と接するのと同じで、適度に好意を持ち、適度にやりとりを楽しむ。
そういえば今までつき合った人ともそうだったなと那月は思った。気持ちを打ち明けられ、那月も嫌じゃなかったのでつき合った。もちろんつき合っている間、きちんと相手に好意を持っていた。だが恐らくその好意も適度なものだったのだろう。それで那月としては支障はなかった。つき合いが長く続いたことはないが、今まで別にごたごたした関係を誰かと作ったこともないし上手くやってきていたと思う。
日陽ともそんな関係だったら楽だったのではないだろうか。
「……違う」
顔を埋めたまま、那月は呟いた。
違う。日陽ほど大好きな人はいない。その気持ちがまるで間違いだったかのようになんて、ほんの少しでも思いたくない。
むしろ日陽以外何もいらない勢いで好きで大事で、大切だった。
結局、気づけば日陽に触れることで安心感を得ようとしてしまう。初めて空き教室へ連れ込んだ日以来、那月は隙あらば日陽を連れ出していた。とまらなかった。少しでも多く日陽に触れていたかった。日陽を自分のものだと感じていたかった。そして日陽をひたすら独占していたかった。
欲しい。日陽が欲しい。ただひたすら欲しい。
那月の欲求は日増しに強くなっていく。
「那月……っ」
日陽が抵抗を見せてもやめない。
「日陽、好き」
「わ、かったから。わかってる、から! なあ、那月。ここ学校なんだ。だからやめよう」
「やだ」
「何でだよ……、い、家で……二人で会ってる時、俺かお前の家ですればいいだろ……? 俺、別にお前とするのが嫌とか言ってんじゃない」
日陽が話す言葉は、ただひたすら掠れている声のせいで那月の気持ちを余計に高ぶらせてくるだけだった。
「今……欲しい」
「っ那月、やめ……っ」
いくら抵抗されても那月が日陽を欲しいのは変わらない。そして結局日陽は流されてくれる。嫌だ、駄目だと言う口が熱い吐息を漏らすようになり、最終的に那月を丸ごと受け入れてくれる。
それが那月にとってとても嬉しくもあり、切なくもある。嬉しいのは言わずもがな、切なくなるのは自分の考えすぎだとわかっていてもどうしようもない。
ねえ日陽、俺に遠慮とかしてるから許してくれるの? 前はもっと遠慮なく怒ったり何でも言ってくれてなかった? 俺の気のせい?
きっと実際に聞けば「何だそれ。気のせい過ぎるだろ」と呆れたように笑ってくれる気がする。だいたい遠慮される理由がない。
「そんなのつき合ってみてやっぱりお前とやってくのが微妙になってきてるからだろ」
那月の中でまたそんな声がする。
違う。日陽はそんな人じゃない。もしつき合えないとなったらむしろハッキリ言ってくれる。遠慮したり変な気なんて使わない。
「一応友だちづき合いしてただけに言いにくいだけだろ」
違う。
違う。
「那月……?」
日陽が那月を呼ぶ声がして、ハッとなる。
「どうか、したのか?」
行為が終わってまだ少し荒い息のまま、日陽が心配そうに聞いてくる。
「ううん。何でもない。どうもしない」
「なら、いいけど……、っていうか終わったんだし、下ろせ」
「やだ」
「は?」
「もうちょっとだけこのままがいい」
「……お前なー……。せめて抜け」
甘えるように抱きしめれば、日陽が呆れたようにそんなことを言ってきた。
それに実際繋がっていると、あの黒い感情が湧くどころかひたすら夢中になって日陽を味わえ、とても満たされた気になった。
ただそれはその時だけで、しばらくするとまたあの感情にとらわれる。夜、日陽のことを考えながらひたすら寝返りを打つことが増えた。今も日陽を思い、また寝返りを打つ。
これが誰にでもよくあることだとは思わない。那月自身も、今までつき合ってきた相手に対してここまで焦燥感や渇望、そして求不得苦を感じることなどなかった。智充のことで躍起になっているだけなのだろうかとも思ってみたが、日陽を抱けば抱くほどそうではないと気づかされる。
いつの間にか好きで堪らなくて、そして好きだからこそ不安になり、それを拭い去りたくて日陽を抱いて満たされ、そしてますます好きになり、その分同じだけ不安になる。
何がそんなに不安なのだともし誰かに聞かれても相変わらず答えられない。というか、説明できるほど明確なら、那月自身で自分の感情をもう少しどうこうできる気もする。
自分が求められるに足る存在だとどこかで思えないのだろうか。ただ那月は自分に自信がないわけでもない。それを証明するかのように、昔から勉強もスポーツも頑張ってきた。人とのつき合いにも心を配ってきた。
「……だから自信は、ちゃんと、ある」
呟いてみる。
では何故不安なのだろうか。日陽はきちんと「好きだ」と言ってくれるし態度にも出してくれる。そして怒ったりもするが優しい。
でも気を使われているのかもしれないじゃないか、と那月の中の那月が呟く。
本当に日陽が気も使わないで楽しく心地よくいられる相手は智充じゃないのか?
「……煩い……違う」
だって見てみろよ。あいつらいつも楽しそうだろ? それに二人でいることが凄く自然だろ?
「違う……俺といても楽しそうだ」
でも気を使ってる。
「使われてない」
だったら、あんなに学校でするのを嫌がってたのに無理やりしたお前を何であまり怒らないんだ?
「……」
つき合いたての時ついキスしたら実力行使でやめさせてきたくらいなのにと何故と思わないか?
「そ、れは好き、だから……」
お前を? こんなドロドロしたもん抱えてるお前を?
「煩い……!」
おかしくなる。
那月はシーツへ顔を埋める。自分で勝手に悪い方へ考え、その感情にとらわれ、そして否定し、まるで体が分断されるような気持ちになる。
いっそ、日陽を好きじゃなければよかったのだろうか。それだったらきっとこんな苦しくて辛い思いは抱えていない。他の人と接するのと同じで、適度に好意を持ち、適度にやりとりを楽しむ。
そういえば今までつき合った人ともそうだったなと那月は思った。気持ちを打ち明けられ、那月も嫌じゃなかったのでつき合った。もちろんつき合っている間、きちんと相手に好意を持っていた。だが恐らくその好意も適度なものだったのだろう。それで那月としては支障はなかった。つき合いが長く続いたことはないが、今まで別にごたごたした関係を誰かと作ったこともないし上手くやってきていたと思う。
日陽ともそんな関係だったら楽だったのではないだろうか。
「……違う」
顔を埋めたまま、那月は呟いた。
違う。日陽ほど大好きな人はいない。その気持ちがまるで間違いだったかのようになんて、ほんの少しでも思いたくない。
むしろ日陽以外何もいらない勢いで好きで大事で、大切だった。
結局、気づけば日陽に触れることで安心感を得ようとしてしまう。初めて空き教室へ連れ込んだ日以来、那月は隙あらば日陽を連れ出していた。とまらなかった。少しでも多く日陽に触れていたかった。日陽を自分のものだと感じていたかった。そして日陽をひたすら独占していたかった。
欲しい。日陽が欲しい。ただひたすら欲しい。
那月の欲求は日増しに強くなっていく。
「那月……っ」
日陽が抵抗を見せてもやめない。
「日陽、好き」
「わ、かったから。わかってる、から! なあ、那月。ここ学校なんだ。だからやめよう」
「やだ」
「何でだよ……、い、家で……二人で会ってる時、俺かお前の家ですればいいだろ……? 俺、別にお前とするのが嫌とか言ってんじゃない」
日陽が話す言葉は、ただひたすら掠れている声のせいで那月の気持ちを余計に高ぶらせてくるだけだった。
「今……欲しい」
「っ那月、やめ……っ」
いくら抵抗されても那月が日陽を欲しいのは変わらない。そして結局日陽は流されてくれる。嫌だ、駄目だと言う口が熱い吐息を漏らすようになり、最終的に那月を丸ごと受け入れてくれる。
それが那月にとってとても嬉しくもあり、切なくもある。嬉しいのは言わずもがな、切なくなるのは自分の考えすぎだとわかっていてもどうしようもない。
ねえ日陽、俺に遠慮とかしてるから許してくれるの? 前はもっと遠慮なく怒ったり何でも言ってくれてなかった? 俺の気のせい?
きっと実際に聞けば「何だそれ。気のせい過ぎるだろ」と呆れたように笑ってくれる気がする。だいたい遠慮される理由がない。
「そんなのつき合ってみてやっぱりお前とやってくのが微妙になってきてるからだろ」
那月の中でまたそんな声がする。
違う。日陽はそんな人じゃない。もしつき合えないとなったらむしろハッキリ言ってくれる。遠慮したり変な気なんて使わない。
「一応友だちづき合いしてただけに言いにくいだけだろ」
違う。
違う。
「那月……?」
日陽が那月を呼ぶ声がして、ハッとなる。
「どうか、したのか?」
行為が終わってまだ少し荒い息のまま、日陽が心配そうに聞いてくる。
「ううん。何でもない。どうもしない」
「なら、いいけど……、っていうか終わったんだし、下ろせ」
「やだ」
「は?」
「もうちょっとだけこのままがいい」
「……お前なー……。せめて抜け」
甘えるように抱きしめれば、日陽が呆れたようにそんなことを言ってきた。
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