月と太陽

Guidepost

文字の大きさ
上 下
19 / 45

19話

しおりを挟む
 午前中の休み時間、クラスメイトに話しかけられ何かを答え、そして笑い合っている那月を日陽はぼんやり見ていた。
 短い休み時間は昼休みよりも皆それぞれ好き勝手に過ごしている。女子は大抵ある程度のグループで集まっていることが多くて、日陽としてはいつもほんのり謎だったりする。彼女がいた時に聞いてみたら「上司に誘われて行く飲み会みたいなものよ」と言われて余計わからなくなった。

「そもそも俺もお前も社会人じゃなくて学生」
「本とかに出てくるじゃない」
「どんな本読んでんだよ」
「えー、それは秘密」

 そんなやり取りを思い出し、改めてよくわからないなとしみじみした。
 男子は統一性がない。どこかへふらりと出かける者もいれば睡眠に充てる者もいる。ただ睡眠の場合気をつけないと次の授業もそのままの可能性がある。大抵誰も起こさないからだ。
 女子にも多いが男子の中にも菓子を食べてほんわかと過ごしている者もいる。ちなみに菓子は基本的には持ち込み禁止だ。
 禁止といえば携帯型ゲーム機で遊ぶ者もわりといる。黒板に落書きをしている者もいれば、一応進学校ではあるので勉強をしている者もいる。これに関しては小テストが次の授業である場合割合は増える。
 智充は昨日遅かったとやらで寝ている。この調子だと恐らくこのまま授業が始まるだろうなと思いつつ、日陽は起こしてやる予定ではある。優しさというよりも起こさなかった場合、勝手に寝たくせに後で煩いからだ。
 日陽も机に顔を伏せてウトウトとしていたのだが、ふと那月の声が聞こえて何となく目が覚めた。そして声のしたほうをぼんやりと見ていたのだった。
 笑っている那月を見るとなんとなくホッとした。
 つき合う前から、周りが那月のことを凄く明るいタイプだと思っている中、どこか物静かで優しそうでいてほんの少し困った部分もあるヤツだとはぼんやりと思っていた。それでも日陽から見てもいつもニコニコして無邪気でもあった。
 ただ、日陽とつき合うようになってから笑みが減ったような気がして仕方ない。何か悩んでいるのだろうかと思い、それとなく聞いたりもするのだが「何もない」と言われる。むしろそういう時にニコニコ言われる。日陽としても明確な違いがあると断言できないので、何もないと言われると「そうか」と引き下がるしかない。
 実際日陽と二人でいる時はひたすら好きだと嬉しそうに言っている。それなら自分とつき合ったせいで元気がなくなったとか悩みができたというわけでもないのかなと思ったりはする。
 もしかしたらつき合っている日陽に対してだけ甘えて、普段見せない部分を見せてくれているのかもしれない、などと都合のいい風に考えてみたりもする。だがそれならむしろ二人きりの時に出してくるか……とも思う。
 那月は日陽と同じで一人っ子だ。だから甘えたい願望も多少はあるかもしれない。少なくとも日陽には少しある。
 一人っ子とはいえ、小さい頃から智充と一緒だった日陽はある意味少し兄気質でもある。今ではひたすら煩い智充も小さい時は少しだけ大人しかった。あと今以上に顔がかわいらしかったせいもあり、周りにからかわれたりして日陽が庇うこともよくあった。日陽も大人からはかわいがられていたが、同じ歳の子どもからすると智充のほうがいたぶりやすかったのかもしれない。
 庇った後はいつも「もっと言い返さないとだめだよ」「倍にして言い返してやればいいよ」などと日陽は言っていたのだが、今となっては大人しいままでよかったのにと思うくらい智充は煩い。
 途中智充は実際にお兄さんになったのも、大人しく言われてるだけじゃなくなった理由の一つではある。男女の双子が生まれ、一気に弟と妹ができてから特に今の智充が形成されたような気がするので、兄弟は凄いなとほんの少し羨ましく思ったこともある。
 またいつも智充と一緒だったため、日陽もよく智充の弟と妹の面倒を見ていたのもあり、一人っ子ではあっても日陽は少々兄気質なのかもしれない。
 那月の小さい頃の話を日陽はあまり知らない。中学から那月と同じ学校になったため、小学校は違うというのもあるが、本人がそもそもあまり昔の話をしない。
 とはいえ日陽も率先してはしないので同じではあるが、聞かれたら言う。那月もよく「小さい頃の日陽はどうだった?」と聞いてきたりする。ただ那月は日陽が聞いても「んー、普通だった」といった風にしか言わないのでどんな風だったかいまいちよくわからない。
 中学で同じクラスになり仲よくなった頃は、社交性の高い那月が一人っ子と聞いて意外に思った記憶がある。社交性というか、人との距離感に慣れているというのだろうか。兄弟がいれば昔から喧嘩をしたり物を取り合ったりして培っていくものを、一人っ子だとなかなか学びづらい。日陽はある意味智充たちのおかげで培ってきたが、多分那月は小さい頃からたくさん友だちがいたのだろうなと思ったりした。
 お人よしで大抵のことに「まあいいや」と思えるおおらかなところは、兄弟というライバルがいなかった一人っ子らしいなと自分のことを棚に上げて日陽は納得している。
 一人っ子の特徴でよくあると言われるものに孤独癖という特徴がある。日陽は智充とまるで兄弟のように育っているせいもあって常に誰かがいる状態ということに安心しがちだが、一人っ子だと大勢でわいわいするのも楽しめるものの、ずっと一人でいることに慣れているからかふと「一人になりたい」と思うこともあるらしい。兄弟喧嘩することなく、自分の主張を特にする場もなく、一人で一人の時間を使うことが多い。なので甘えたい願望が強いというのは特に一人っ子に限らない。日陽がそう思っていないだけで、兄弟がいる方が強いかもしれない。
 もちろん一人っ子でも親や周りからひたすらかわいがられて育つと、人に対して甘えるのも上手くなる。そのため一人にされるのを嫌う、甘えん坊なわがまま気質のタイプも多い。また、かわいがられ小さい頃から何でも先回りされ与えられてきていたら逆にわがままを言わなくなるタイプにもなるかもしれない。
 もしくは那月のように、決して嫌われたり虐待されたりはなく十分に愛されているものの、どうしても仕事優先になりいつも周りには本当に誰もいなかったという場合もある。
 ただ、日陽はそういった那月の子どもの頃のことは何も知らないので実際那月がどう思ってきたかわからないし、今も那月が一人っ子だということにピンときていなかったりもする。

「那月より智充のが一人っ子みたい」

 昼休みにまた屋上で三人一緒に昼ごはんを食べている時、ふと日陽は言った。智充はきょとんとした後に「何で」と変な顔している。

「だって空気読まないとことか、ぽくねえ? 煩いし」
「いや、何それっ? 百歩譲って空気読まないのが一人っ子っぽいとして、いや俺空気読むけどねっ? でも煩い関係なくね?」
「ほんと、いきなり何言ってんだろな、日陽」

 やっぱり煩い智充の横で、那月が苦笑している。

「んー、だって那月ってわがままじゃないしさらっとしてるし人当たりいいだろ」
「褒めてくれてありがと。でも俺、結構わがままだよ。あとうん、さらっとしてないよ」

 一瞬妙な顔をした後に、那月はおかしそうに言い返してきた。

「そうか?」
「そうか?」

 日陽と智充の声が被った。那月はまた笑いながら「うん」と頷く。

「わがままだよ」

 もう一度言ってきたその言葉が一瞬不穏な様子に聞こえ、日陽が「那月?」と窺うように呼ぶと、またニッコリと笑いかけてきた。

「だってほら、よく日陽の弁当のおかず、くれって言うでしょ」
「……あー、うん」

 弁当の、と言ってきた那月はいつものように無邪気だった。

「だからさ、その卵焼きちょうだい」

 そしてあーん、と口を開けてくる。

「またかよ。やるから自分で食え」

 日陽は何となくホッとしつつも、つき合ってからどうにも気恥ずかしさが出てしまうため最近やっているように箸を渡そうとした。

「たまには日陽もノッてよ、前みたいにさ」

 いつもなら「うん」と箸を受け取る那月は「わがままだよ」というのをまるで強調するかのように譲らない。

「まったく仲のよろしいことで。妬けるわー」

 つき合っているのを知らない智充は疑うことも知らず、単純に笑いながら自分の弁当をひたすら食べている。日陽はため息ついてから「特別サービスな」と卵焼きを箸でつかみ、那月の口へ放り込んだ。やはり少し気恥ずかしい。
 那月はといえば、とても嬉しそうに卵焼きを咀嚼している。本当に美味しそうに食べているのを見ると、日陽も嬉しくなった。
 那月の両親が共働きで忙しいのは知っている。いつ那月の家へ遊びに行っても親がいないから自然と知った。
 だからと言って那月が昼食をコンビニで賄うことに対して悲嘆していないのに自分がとやかく言うのもと思い、特に何も言ったことない。ただ、おかずを欲しがってくる時は快く分けていた。

 ……男とか関係ねーよな。俺、ちょっとくらいなら料理、勉強しよかな。

 咀嚼し終え「美味しかった」と嬉しそうに笑っている那月を見ているとつい、そんなことを考えてしまった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

美人に告白されたがまたいつもの嫌がらせかと思ったので適当にOKした

亜桜黄身
BL
俺の学校では俺に付き合ってほしいと言う罰ゲームが流行ってる。 カースト底辺の卑屈くんがカースト頂点の強気ド美人敬語攻めと付き合う話。 (悪役モブ♀が出てきます) (他サイトに2021年〜掲載済)

処理中です...