月と太陽

Guidepost

文字の大きさ
上 下
13 / 45

13話

しおりを挟む
 同じ陸上部とはいえ、自分がどの走者であるかによって鍛え方は違う。例えば短距離走だとスピードや瞬発力が勝負の分かれ目になる。そしてそのスピードは筋肉によって引き出される。そのため、短距離走者はスピードを出すための筋肉を増やす必要があり、多くの走者が比較的がっちりとしている。走るトレーニング以外にもしっかりした筋トレが欠かせない。
 とはいえ持久力を必要とする長距離走者も、走るのにあまり必要でない筋肉をつけると負荷がかかってしまうとはいえ、筋肉をつけること自体は有効とされているので短距離走者程ではないが鍛えはする。
 そして持久力と瞬発力の両方が必要となる中距離走はかなり過酷であり、精神力も必要となってくる。そのため短距離や長距離走者よりも一番心拍トレーニングに力を入れているかもしれない。
 心拍トレーニングは心拍数を管理しながら行うトレーングで、自分の心拍数を管理することで負荷調整を行っている。
 日陽がこの中距離走者で、ハートレートモニターでチェックしつつのメニューをこなしている。

「つかさ、このモニターは腕につけるやつだからいいけどさ、胸につけるやつもあるらしーぞ」

 同じく中距離走者の智充が笑いながら言ってくる。丁度休憩を取っていて、自動販売機まで飲み物を買いにきていた。

「胸? どやってつけんの」
「バンド」
「マジで。なんか苦しそうだろそれ」
「しかもさーブラつけてるみたいにも見えるらしーからヤベーよな」
「腕でよかった……」

 日陽は心底しみじみ思った。倒錯趣味は自分にはない。

「つか管理とか面倒だよな!」
「智充は短距離のがそれっぽいのになんで中距離やってんだよ。改めて思うわ」
「だって短距離だとタイム伸び悩むもん」
「もん、言うなよ」
「あと日陽とお揃いだし」
「語尾にハートつけてくるような言い方してくんなよ」

 小さな頃からの幼馴染だけに、気軽さは半端ない。そんなやりとりをしながら飲み物を買い、戻ろうとしたらテニスコートの方から掛け声が聞こえてきた。

「そいやテニス部って結構掛け声デカイよなー」

 ペットボトルを既に口にしつつ、智充が言ってきた。日陽は頷きながら自転車置き場の方へ向かった。

「ちょっと覗いてくる」
「え、じゃあ俺も」
「何で」
「何だよー別にいーだろ」

 グラウンドから見ると正面に校舎があり、右手にテニス部や陸上、野球部など主に外で部活をしているクラブの部室がある。そこの自動販売機を利用していたのだが、さらに進んで自転車置き場がある辺りからかなり広い範囲で右手にテニスコートがあった。日陽はその自転車置き場の影になっている辺りで涼みながらテニスコートを見る。
 丁度「ラストー!」という掛け声が上がったところで、練習をしていた皆が一斉にボールをアップし集合を始めているところだった。

「何かきびきびしてんなー」

 智充が感心したように言う。テニス部は特に強い選手を集めているのではないが、毎年それなりの成績を大会で収めているらしい。こういう動きにも反映しているのだろうかと日陽が思っていると、テニス部員はすぐに次のメニューに取り掛かっていた。
 ふと那月の姿が見える。普段は柔らかい印象でニコニコしているが、部活中は比較的引き締めたような表情をしていた。正直、恰好いいなと日陽は思ってしまい、そんな自分が乙女のようで微妙になりながらも嫌いではない。

「那月、普段明るくてほわほわした感じなのにテニスしてるとイケメン臭強くなるよな」

 ペットボトルの中身を飲み切ったらしい智充がニッと笑いながら言ってくる。

「イケメン臭ってなんだよ……いい意味なのになんかヤバイ匂いって感じしかしないんだけど」
「突き詰めんなよ。褒めてんだってば」
「……。なあ、智充から見ても那月って明るい印象?」
「へ? むしろちげーの? お前からしたら」
「いや……」

 確かに明るいしほわほわしている。友人も多い。なのに何故違和感があるのだろうなと日陽は自分に対して首を傾げた。前からほんのりあった違和感は、つき合うようになってからまた少しだけ大きくなった気がする。

「あ、いる! いるよ」
「マジ? ほんとだ。黒江くんヤバい」

 ふとそんな声が聞こえてきた。日陽が声のしたほうを見ると、知らない女子二人がフェンスの先をじっと見ながら楽しげに騒いでいる。それがまた結構かわいらしい子なだけに日陽は少しムッとした。

「はる、何変な顔してんだよ」
「してねーよ、失礼な」
「つか今の聞いた? チキショウ、那月の野郎、おモテになりますよね! つかお前もわりと好かれるタイプだったよな、あーヤダヤダ」

 両手のひらを上に掲げるような大袈裟なポーズを取りながら言ってくる智充に、日陽はニッコリ笑いかけた。

「お前もモテてただろ」
「えっ、いつっ?」
「こないだ、別の学校の子に声かけられてただろ」
「っちげー……! あれおかしい。納得いかない。意味わからない」

 日陽の言葉を聞いた途端、智充がとてつもなく微妙な顔をしてきた。
 この間、智充に声をかけてきたのは他校の男子生徒だった。確かに煩いのを抜いたら智充はわりとかわいらしい顔をしているのかもしれない。それにしても災難だなと言いながらも友人皆で笑っていたのだが、考えなくとも日陽は笑える立場ではない。

「なぁ、お前ってやっぱ男同士とか無理?」
「ねえ、何聞いてくれてんの? 俺、そんなつもりないからねっ?」
「ああいや、別にお前にあの男子とつき合えよとか言ってないし。そーじゃなくて例えば俺がさ、男とつき合ったらどう思う?」
「……? ネタ? マジなやつ?」

 マジなやつ、と言おうとして日陽はやめた。

「どっちでもいーけど」
「何だよそれ。でも女子におモテになられてる日陽が男とつき合うとか、俺すげー応援するわ」
「嫌な意味にしか聞こえねーんだけど」
「そんなことないって! 男の敵が減ることは喜ばしいだろ」
「何だそれ。全然そんなことなくないだろ」

 やめたせいで、智充は冗談と受け取ったようだった。まあいいやと日陽も智充と一緒になって笑った。

「そろそろ戻ろーぜ」

 智充がペットボトル用のゴミ箱に捨てながら言う。日陽も全部飲み切ると同じように捨て、グラウンドへ向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ハルとアキ

花町 シュガー
BL
『嗚呼、秘密よ。どうかもう少しだけ一緒に居させて……』 双子の兄、ハルの婚約者がどんな奴かを探るため、ハルのふりをして学園に入学するアキ。 しかし、その婚約者はとんでもない奴だった!? 「あんたにならハルをまかせてもいいかなって、そう思えたんだ。 だから、さよならが来るその時までは……偽りでいい。 〝俺〟を愛してーー どうか気づいて。お願い、気づかないで」 ---------------------------------------- 【目次】 ・本編(アキ編)〈俺様 × 訳あり〉 ・各キャラクターの今後について ・中編(イロハ編)〈包容力 × 元気〉 ・リクエスト編 ・番外編 ・中編(ハル編)〈ヤンデレ × ツンデレ〉 ・番外編 ---------------------------------------- *表紙絵:たまみたま様(@l0x0lm69) * ※ 笑いあり友情あり甘々ありの、切なめです。 ※心理描写を大切に書いてます。 ※イラスト・コメントお気軽にどうぞ♪

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。【番外編あります】

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※番外編を公開しました(10/21) 生活に追われて恋とは無縁の極貧イケメンの涼と、何もかもに恵まれた晄矢のラブコメBL。二人の気持ちはどっちに向いていくのか。 ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。 ※4月18日、完結しました。ありがとうございました。

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

処理中です...