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11話
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そこにいるのが那月だとわかり、日陽は少しホッとしながらさらに近づいた。那月は足を抱えるようにして座り込んでいる。
「那月。何やってるんだよ」
「……おかえり。えっと、待ってた」
「は? えっと、そういう約束してたっけ」
ポカンとして聞くと那月はふるふると頭を振ってくる。日陽は思わず、家の前で待つ犬を連想してしまい、思わず吹き出しそうになった。
「全く。外で待ってないで、家にあがってればよかっただろ? こんな時間、うちは誰かしらいるんだしさ。お前面識あるし」
「うん」
素直に頷いた後で那月が立ち上がり、パンパンと尻をはたいている。
「飯、どうする? 食ってく?」
「ううん。いい。ありがとう」
「まあ、せっかくだからちょっと上がってけよ」
少し呆れつつも那月を促し、日陽は家へ入った。そして母親に「那月と二階にいるから。飯、俺後ででもいい?」と声をかけた。
「あら、那月くんも食べてく?」
「いや、いらない」
「だったら用意だけしとくから後で自分で準備しなさいね」
「わかった」
部屋へ入ると那月が「ごめん」と謝ってきた。
「何が? 門の前で俺を驚かせたこと?」
「ううん。つか驚いたんだ、じゃあそれもごめん」
今ので少し笑ってくると「日陽のおばさんにも迷惑かけちゃった感じだし」とつけ加えてきた。
「え? ああ。別に普段もそういうことあるし気にすんなよ」
「うん」
うん、と言うが、何となく那月は元気がないような気がした。
「にしても、何で待ってたんだ? 急用でもあった?」
日陽が制服を着替えながら那月を見ると、那月は座って俯いている。その様子はまるで叱られた子どものように見えた。
「那月?」
「日陽の顔が見たくて」
俯いていた那月が顔を上げ、日陽を見てきた。
「は? あ、明日になれば俺の顔なんて嫌でも見られるだろ」
何言っているんだと日陽は思わず顔が熱くなった。落ち着かなさもあり、慌てて着替え終えて那月のそばへ行くと、那月が日陽をじっと見つめてくる。そして腕を引っ張り引き寄せると、日陽を抱きしめてきた。
「お、おい」
「一分一秒でも見ていたくて……好きだから」
囁くように言ってくる那月に、日陽は何も言えなくなる。
何でこう、恥ずかしいことを戸惑いもなく言えるんだ?
そんなことを思いながらも顔がとてつもなく熱くなる。抱きしめられ、肩に那月の重みを感じながら日陽は那月をチラリと見た。日陽は友人から恋人への関係性についてどうこう悩んでいるというのに、那月はごく自然に恋人という状態に慣れている。
ただふと思うのは、友だちの頃の那月はいつもニコニコしていて、もっと無邪気な感じだったということだろうか。恋人になった那月はどこか元気がないというか。また、甘えてくるような、どこか子どもになったかのような印象も少し受ける。そして強引な部分も増えた気もする。
気づくと日陽は押し倒されていた。
「ま、て。下では親が飯食ってんだぞ」
「テレビ観ながら食べたりしないの?」
「するけど」
「じゃあ、大丈夫じゃないかな」
「だ、大丈夫じゃ――」
言いかけた日陽の口を、那月の口が塞いでくる。ゆっくり蕩かせるようなキスに、日陽は何も言えなくなる。
「っ、は……」
那月の手が、日陽の部屋着を乱しながら弄ってきた。その手にいちいち日陽は翻弄されていく。
「日陽が……俺だけのものになればいいのに」
小さく呟く那月の言葉は耳に届いたものの、ちゃんと言葉として日陽の中へ入ってこない。
「ぁ」
改めて体を起こされ、那月の上に乗せられるようにしてぎゅっと抱きしめられながら背中を這う指のせいかもしれない。ゆっくり伝わせていく指は日陽の芯を蕩かせてきて、脳が上手く働かないのかもしれない。
俺は……那月と、つき合ってて……だから、俺は那月のだし、那月は、俺の、何じゃないのか……?
よく把握していないままぼんやりと考えるが、その言葉も内容も、次第にどうでもよくなっていく。今脳の片隅に残っているのは、もし親が二階へ上がってきたらどうしようということだが、それすらどうでもいいような気がしてくる。
いや、どうでもいいというか、今までそんなことはなかったし、多分上がってこないだろうという適当な感じだろうか。実際上がってこられ、この部屋に来られたら多分日陽は死ねる。冗談抜きで終わった、となるだろう。だというのにどうでもいいような気持になるくらい、今、那月に触れられるのが心地よかった。
ゆっくり背中を這う指がズボンの、下着の中へ入っていく。尻の割れ目をなぞられ、日陽はびくりと腰を仰け反らせた。
「日陽、大丈夫。さすがに最後まではしないから……」
那月が耳元で囁いてきて、ホッとすると同時にぞくりとしたものが耳から背中に走る。
「でも、いっぱい感じてね。ローション持ってるから、前弄りながら後ろ沢山解してあげる」
いつもなら「そういう問題じゃねーだろ」「つかなんで持ってんの、持ち歩いてんのかお前は」などとツッコミの一つどころか二つや三つほど言っていただろう。別に解していらない、とも。
だが日陽はぎゅっと那月にしがみつくくらいしかできなかった。
「日陽、かわいい。かわいい」
ひたすらかわいいと言われ、ひたすら那月に翻弄されながらもできることと言えば、声を抑えることくらいだった。
「那月。何やってるんだよ」
「……おかえり。えっと、待ってた」
「は? えっと、そういう約束してたっけ」
ポカンとして聞くと那月はふるふると頭を振ってくる。日陽は思わず、家の前で待つ犬を連想してしまい、思わず吹き出しそうになった。
「全く。外で待ってないで、家にあがってればよかっただろ? こんな時間、うちは誰かしらいるんだしさ。お前面識あるし」
「うん」
素直に頷いた後で那月が立ち上がり、パンパンと尻をはたいている。
「飯、どうする? 食ってく?」
「ううん。いい。ありがとう」
「まあ、せっかくだからちょっと上がってけよ」
少し呆れつつも那月を促し、日陽は家へ入った。そして母親に「那月と二階にいるから。飯、俺後ででもいい?」と声をかけた。
「あら、那月くんも食べてく?」
「いや、いらない」
「だったら用意だけしとくから後で自分で準備しなさいね」
「わかった」
部屋へ入ると那月が「ごめん」と謝ってきた。
「何が? 門の前で俺を驚かせたこと?」
「ううん。つか驚いたんだ、じゃあそれもごめん」
今ので少し笑ってくると「日陽のおばさんにも迷惑かけちゃった感じだし」とつけ加えてきた。
「え? ああ。別に普段もそういうことあるし気にすんなよ」
「うん」
うん、と言うが、何となく那月は元気がないような気がした。
「にしても、何で待ってたんだ? 急用でもあった?」
日陽が制服を着替えながら那月を見ると、那月は座って俯いている。その様子はまるで叱られた子どものように見えた。
「那月?」
「日陽の顔が見たくて」
俯いていた那月が顔を上げ、日陽を見てきた。
「は? あ、明日になれば俺の顔なんて嫌でも見られるだろ」
何言っているんだと日陽は思わず顔が熱くなった。落ち着かなさもあり、慌てて着替え終えて那月のそばへ行くと、那月が日陽をじっと見つめてくる。そして腕を引っ張り引き寄せると、日陽を抱きしめてきた。
「お、おい」
「一分一秒でも見ていたくて……好きだから」
囁くように言ってくる那月に、日陽は何も言えなくなる。
何でこう、恥ずかしいことを戸惑いもなく言えるんだ?
そんなことを思いながらも顔がとてつもなく熱くなる。抱きしめられ、肩に那月の重みを感じながら日陽は那月をチラリと見た。日陽は友人から恋人への関係性についてどうこう悩んでいるというのに、那月はごく自然に恋人という状態に慣れている。
ただふと思うのは、友だちの頃の那月はいつもニコニコしていて、もっと無邪気な感じだったということだろうか。恋人になった那月はどこか元気がないというか。また、甘えてくるような、どこか子どもになったかのような印象も少し受ける。そして強引な部分も増えた気もする。
気づくと日陽は押し倒されていた。
「ま、て。下では親が飯食ってんだぞ」
「テレビ観ながら食べたりしないの?」
「するけど」
「じゃあ、大丈夫じゃないかな」
「だ、大丈夫じゃ――」
言いかけた日陽の口を、那月の口が塞いでくる。ゆっくり蕩かせるようなキスに、日陽は何も言えなくなる。
「っ、は……」
那月の手が、日陽の部屋着を乱しながら弄ってきた。その手にいちいち日陽は翻弄されていく。
「日陽が……俺だけのものになればいいのに」
小さく呟く那月の言葉は耳に届いたものの、ちゃんと言葉として日陽の中へ入ってこない。
「ぁ」
改めて体を起こされ、那月の上に乗せられるようにしてぎゅっと抱きしめられながら背中を這う指のせいかもしれない。ゆっくり伝わせていく指は日陽の芯を蕩かせてきて、脳が上手く働かないのかもしれない。
俺は……那月と、つき合ってて……だから、俺は那月のだし、那月は、俺の、何じゃないのか……?
よく把握していないままぼんやりと考えるが、その言葉も内容も、次第にどうでもよくなっていく。今脳の片隅に残っているのは、もし親が二階へ上がってきたらどうしようということだが、それすらどうでもいいような気がしてくる。
いや、どうでもいいというか、今までそんなことはなかったし、多分上がってこないだろうという適当な感じだろうか。実際上がってこられ、この部屋に来られたら多分日陽は死ねる。冗談抜きで終わった、となるだろう。だというのにどうでもいいような気持になるくらい、今、那月に触れられるのが心地よかった。
ゆっくり背中を這う指がズボンの、下着の中へ入っていく。尻の割れ目をなぞられ、日陽はびくりと腰を仰け反らせた。
「日陽、大丈夫。さすがに最後まではしないから……」
那月が耳元で囁いてきて、ホッとすると同時にぞくりとしたものが耳から背中に走る。
「でも、いっぱい感じてね。ローション持ってるから、前弄りながら後ろ沢山解してあげる」
いつもなら「そういう問題じゃねーだろ」「つかなんで持ってんの、持ち歩いてんのかお前は」などとツッコミの一つどころか二つや三つほど言っていただろう。別に解していらない、とも。
だが日陽はぎゅっと那月にしがみつくくらいしかできなかった。
「日陽、かわいい。かわいい」
ひたすらかわいいと言われ、ひたすら那月に翻弄されながらもできることと言えば、声を抑えることくらいだった。
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