月と太陽

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9話

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 昼休みのあれは本当に驚いた。突然ああいったことをされるのは心臓に悪い。思い出すとまだ少し心臓がトクトクと鼓動を速める。
 日陽は小さくため息ついた。そもそも友人から恋人になったのは昨日今日のことだ。そんなに経っていない。それもあって日陽は余計に戸惑っていた。
 ついこの間まで那月は日陽の友人だった。もちろん一度寝たことはあるものの、全然そういう関係ではなかった。那月はずっと好きでいてくれていたようだし、日陽もあの出来事から気づけばずっと気になっていて好きになっていた。それでも関係はただの友人だったのだ。
 だからこのギャップというのだろうか、急に変わった関係性に日陽はどう対応していいのかわからない。好き云々関係なくずっと友人だっただけに、恋人の顔をしている那月はまるで知らない人であるかのように戸惑う。
 こんな風に考えている日陽も、今まで誰かとつき合ったことはある。童貞でもない。エキスパートとはさすがに言わないが、恋愛にさほど慣れていないわけではない。

 それでも男同士では何か、違うだろ……。

 好きになった相手だしいまさら男どうこうと言うつもりは全くないが、つき合い方に戸惑う。女子とのつき合いだと自分がリードしていたが、那月も日陽も女ではなく、かといって友人でなく恋人で。普通にすればいいのだと内面の自分が言うが、普通にしていたら友人の感覚についなってしまい、でも好きなのは間違いないので今までと変わらないのでもない。そして不意打ち的なことにいちいち動揺する。
 関係性に戸惑っていても、那月のことを恋愛として好きなのは間違いない。キスするのもされるのも嬉しいし、できるのであればいつだって那月としたいとは日陽も男なので思う。ただ、今はまだ戸惑いのほうが強いだけだ。
 放課後、那月は部活へ向かおうとしていた。それを日陽が見ているとニッコリ微笑まれる。

「日陽、部活終わったら連絡送るな」

 見ていた日陽に、那月はそう声をかけた。お互い部活が違うので時間がずれたり休みが合わなかったりする。日陽は笑って手を上げながら、自分が女だったら那月の部活が終わるまで待ってるものなのだろうかなと思ったりしてみた。
 実際、つき合っていた女子が待ってくれていたこともある。日陽としては嬉しいことは嬉しいが、健気に待ってくれている間が申し訳ない上に待たせているという気持ちが少し落ち着かなかったので「待たなくていいから」というのをどう伝えたものかと困ったこともある。
 そしていざ自分が男とつき合ってみて自分の部活が休みである今、日陽の中では「待つ」という選択肢はゼロだった。結局のところ女ではない日陽としては同じような立場になっても健気な気持ちにはなれないようだ。ただ女云々というより、性格かもしれない。用事があるわけじゃないし、第一面倒くさい。
 こういうところも、つき合うのならまた違ってくるべきものなのだろうか。男同士であっても待つのが恋人なのだろうか。

 ……もしそうなのだとしたら、何だろう、あまり、楽しくないなあ。

 そんな風に思ってみたりする。今まで友人だった同性と付き合うということは、何が変わるのだろう。日陽は少し首を傾げた。
 厳密に言えば気の持ち方が違う、体の関係が発生するといったことだろうか。ただつき合っていなかった時も那月は日陽のことが好きだったようであるし、日陽も途中からとはいえ那月のことが好きだった。それでも友人だった。体の関係も、日陽は全くなんとも思っていなかったはずである状態で、那月と最後までしている。日陽は那月の気持ちなど知らなかったし、友人として、冗談や遊び感覚だった。
 今はお互い好きだと知った上で恋人となっている。もちろん恋人としてのセックスは、最初の時よりも少し慣れたからか痛みもそれなりに薄れたのもあったが、気持ちよかった。とはいえ、最初の時のような気軽さは日陽にはなく、男だというのにやたら恥ずかしさが湧いてきて、どうしたものかとは思った。

 ……ってことはあれか、友だちと恋人の違いは、羞恥心?

 目を細めながら思い至った考えは恐らくというか間違いなく、違う気がする。違う気はするが、先ほどキスされた時も、もし友人という関係だったならすぐに冗談と受け止めてむしろ笑っていたかもしれない。馬鹿野郎と言いながらも引いてみたりノってみたりしていたかもしれない。

 やっぱ羞恥心……。

 そう思ったところで生ぬるい気持ちになる。元々あまり考える性格ではないというのに考え込んでも大した結果が出るわけではないなと実感した。考えても多分仕方ないことなのだろう。
 関係性とかつき合い方とか考え方、そういった諸々を恋人として新たにつき合うことでゆっくり知っていけばいいか、と日陽は思った。

 まぁ、ゆっくり知るどころじゃなく突然キスとかされて動揺したわけなんだけどな。

 すでに部活へ向かっていなくなった那月の方向をぼんやりと見た後に日陽は帰る準備をする。教室を出て下駄箱へ向かいながら、那月は戸惑いとかはないのだろうかとふと思った。もしかしたら日陽を思ってくれている期間が長かった分、適応力も高いのかもしれない。

 ……二人きりだとしたら俺もキスやら何やらしたくはなるけどな。

 そんなふうに考え、一人で勝手に照れていると「はる、どうかしたんか?」と智充が声をかけてきた。

「な、何でもない。っていうか智充、まだいたのか」
「んだよーいちゃ悪いみたいに。ほら、あいつらと喋っててさー、あ、そんで今からカラオケ行くかって話になってたんだけど、日陽も行かね?」
「あーうん、そうだな」

 靴を履き替えながら日陽は別に寄るところもないしと同意した。

「おー。んじゃ行きますか!」

 智充がニッコリ笑いながら、屈んでいる日陽の首に腕を回してくる。

「おい、バランス崩すだろ」
「足腰鍛える自主練」
「そんな自主練聞いたことあるか。つか重いからどけよな」

 外に出ると待ち合わせしていたようで、他の友人とも合流した。校門へ向かって歩いていると、右手にテニスコートがある。日陽は歩きながらちらりとそちらを見た。丁度その時、那月が練習試合をしているのか、コートで誰かと打ち合っているのが見えた。
 見た目は優しささえ感じるふわりとした雰囲気でそういうところも女子に人気があるようだが、那月はスポーツ全般得意なようだ。体育の授業でもそつなくなんでもこなす。
 日陽も苦手ではないし体を動かすことは好きだが、テニスは正直得意ではない。卓球やバドミントンなら当てるとそれなりにちゃんと飛ぶというのに、テニスに至ってはちゃんと当てているはずなのにボールが言うことを聞いてくれないのが楽しくない。それもあって、那月が颯爽とプレイしている姿は恰好いいと思う。
 ふと一瞬目が合った気がしたが、那月はすぐに試合に集中したのか、それとも目が合ったと思ったのが勘違いか、来たボールを綺麗に打ち返していた。
 カラオケ店で皆と散々歌い合い、途中那月とSNSでやりとりしつつ、ついでにポテトフライや何やらと注文したものを食べて満足した日陽が帰宅したのは、さほど遅い時間ではない。それでも辺りは暗くなっていたのもあり、自宅の門の傍で蹲っているような人影を見た時は一瞬ぎょっとした。
 変な輩だったら嫌だなと思いながらも帰らないわけにはいかないのでそのまま近づくと、そこにいたのは那月だった。
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