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41話
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途中まで灯と一緒に帰り、アルバイトへ向かう灯を見送った後で、柊は本屋へ立ち寄った。そこで参考書や問題集を見てみるが、どれがいいのかさっぱりわからない。そのくせ一冊一冊が結構高い。アルバイトしていない身としては、適当に買うには少々痛い。
灯は当たっている。高校受験の勉強も柊はわりと適当だった。それでも不安はなかったし、私立も公立も危なげなく受かった。大学受験も、中学の時に比べればそれなりに勉強しないとと思ってはいるが、やはりあまり心配していない。
「アカリ攻略のが断然難しいし、結局攻略できてねーし……」
ボソリと呟いていると、少し離れた場所に料理の本を見つけた。柊は参考書を元に戻してそちらへ向かう。
もちろん料理に関してまだまだ全然わかってない。だが邪な理由だったとはいえ灯に少しずつ料理を教わっていると、その度にじわじわ楽しくなってきていた。参考書と同様さっぱりわからないながらも、料理本を見ているとまだ「こっちの方が俺、やりやすそう」「こっちのがわかりやすい」といったことがわかる。
結構、買ったのは一冊で、それも料理本だった。
……まぁ、勉強はどうせアイツらの勉強会とやらに割って入るつもりだしな、大丈夫だろ。
邪魔する気しかない。にしても、と柊はため息ついた。灯を見ていると、梓のことが好きなようにしか見えない。
「……ヤベェ。マジで俺、アカリ離れしねーとな時期来てんのかよ?」
正直、まだ離れたくない。灯のすぐ隣という位置からも、そして梓の弟として二人の間に当たり前のようにいる位置からも。
大人にならないとと、あの泣き倒した時に思ったはずだというのに、まだ覚悟しきれていなかった。
家へ帰ってくると、誰かがいようがいまいが「ただいま……」とよく口にしてしまうのだが、今も無意識にしていたようだ。
「お帰り」
返事があって気づいた。そしてその声にハッとなる。
「……何だ、いたのかよ……」
「いたよー。えー、酷いなぁ。いたら悪いみたいに」
丁度梓のことを考えていてハッとなった。覚悟しきれていないのは、まだ梓にちゃんと聞けていないからじゃないだろうかと、考えていたところだった。
「キモい話し方すんな。バイトだと思ってたんだよ」
玄関を覗き込んでいる梓がいるリビングへ向かいながら言い返せば「キモいも酷いな」と苦笑された。
「るせー。……なぁ、……、……」
「ん? どした?」
目の前に立っている柊に、梓は少し怪訝そうにしながらも笑いかけてくる。
「……ッチ」
「そこで舌打ちなのか」
「るせぇ。……話! ……ある、から俺の部屋、来い」
「……いいよぉ」
一瞬黙った後に、梓はまたニッコリしてきた。柊は妙な緊張のせいか顔が熱くなりながら「だからキモいんだよ!」と梓を睨みつけながら自分の部屋へ向かう。梓はそれでも笑みを浮かべながらついてきた。
部屋に入ると、柊はどう切り出していいかわからず立ち往生する。
「まぁ、とりあえず制服着替えれば」
「わ、わかってるよ!」
そう言いながらも、言われた通り着替えるのが何となく癪だったので、柊は制服のまま勉強机の椅子に座った。梓も何も言わずにベッドに座る。
「勝手に俺のベッドに座んじゃねえ」
「じゃあ立ってようか?」
気にした様子もなく立ち上がって腕を組む梓が落ち着かなく、結局もう一度ベッドに座ってもらった。何となく笑われているのがわかる。少々居たたまれない。
「で、話って何」
やはり切り出し難くて柊が少し黙っていると、梓のほうから振ってくれた。
「……お前……大学卒業したら……どーすんの。家……」
やんわり聞こうと思っていたのだが、柊には無理だった。結局直球になる。
「ああ。出るよ」
そして梓も予想外なほどあっさり返してきた。
「っな、何でだよ! 何か不満でもあんのか? 何で出る必要あんだよ。か、家族から離れる必要あんのかっ?」
家族じゃなくなるかもしれないだろという不安はだが、口にできない。
するとベッドに座っていた梓がまた立ち上がり、柊のそばへ近づいてきた。そしてしゃがみ込んで膝をつき、柊を見上げてくる。
「……なぁ、柊」
見つめられているのはわかっていたが、柊は顔を合わせられないでいた。ちゃんと向き合って話しようと思ったのは自分だというのに、やはり大人になりきれなくて情けないと思う。
「柊ー?」
「る、せぇ」
梓のため息が聞こえる。こんなでは駄目だと柊が思っていると柔らかい口調で梓が話してきた。
「俺とお前は、どうしようが兄弟だろ。そして父さんと母さんは俺が社会人になろうがおっさんになろうがずっと親だ……」
「……」
「一人暮らし、するよ。でもだからといって家族じゃなくなるわけじゃない。以前はもしかしたら、自分では気づいてない変な遠慮があったのかもしれない。でもな、今は絶対違う。むしろ何があっても家族だと思えるから、俺は安心して家を出られるよ」
気づけば柊はじっと梓を見おろしていた。そんな柊に梓は満面の笑みを浮かべてくる。
「柊が頼むから兄、止めてくれって言ってきてもな、俺はお前と縁、切ってやらないよ」
駄目だ。
柊はまた顔を反らせた。でないと、この間は幼女に見せてしまった情けない姿をこの忌々しい兄に見られてしまう。止めようにも止まらない緩い涙腺を柊は恨んだ。
ひたすら顔を反らせていると、梓が立ち上がる。そして頭をぐしゃぐしゃと撫でてきた。
灯は当たっている。高校受験の勉強も柊はわりと適当だった。それでも不安はなかったし、私立も公立も危なげなく受かった。大学受験も、中学の時に比べればそれなりに勉強しないとと思ってはいるが、やはりあまり心配していない。
「アカリ攻略のが断然難しいし、結局攻略できてねーし……」
ボソリと呟いていると、少し離れた場所に料理の本を見つけた。柊は参考書を元に戻してそちらへ向かう。
もちろん料理に関してまだまだ全然わかってない。だが邪な理由だったとはいえ灯に少しずつ料理を教わっていると、その度にじわじわ楽しくなってきていた。参考書と同様さっぱりわからないながらも、料理本を見ているとまだ「こっちの方が俺、やりやすそう」「こっちのがわかりやすい」といったことがわかる。
結構、買ったのは一冊で、それも料理本だった。
……まぁ、勉強はどうせアイツらの勉強会とやらに割って入るつもりだしな、大丈夫だろ。
邪魔する気しかない。にしても、と柊はため息ついた。灯を見ていると、梓のことが好きなようにしか見えない。
「……ヤベェ。マジで俺、アカリ離れしねーとな時期来てんのかよ?」
正直、まだ離れたくない。灯のすぐ隣という位置からも、そして梓の弟として二人の間に当たり前のようにいる位置からも。
大人にならないとと、あの泣き倒した時に思ったはずだというのに、まだ覚悟しきれていなかった。
家へ帰ってくると、誰かがいようがいまいが「ただいま……」とよく口にしてしまうのだが、今も無意識にしていたようだ。
「お帰り」
返事があって気づいた。そしてその声にハッとなる。
「……何だ、いたのかよ……」
「いたよー。えー、酷いなぁ。いたら悪いみたいに」
丁度梓のことを考えていてハッとなった。覚悟しきれていないのは、まだ梓にちゃんと聞けていないからじゃないだろうかと、考えていたところだった。
「キモい話し方すんな。バイトだと思ってたんだよ」
玄関を覗き込んでいる梓がいるリビングへ向かいながら言い返せば「キモいも酷いな」と苦笑された。
「るせー。……なぁ、……、……」
「ん? どした?」
目の前に立っている柊に、梓は少し怪訝そうにしながらも笑いかけてくる。
「……ッチ」
「そこで舌打ちなのか」
「るせぇ。……話! ……ある、から俺の部屋、来い」
「……いいよぉ」
一瞬黙った後に、梓はまたニッコリしてきた。柊は妙な緊張のせいか顔が熱くなりながら「だからキモいんだよ!」と梓を睨みつけながら自分の部屋へ向かう。梓はそれでも笑みを浮かべながらついてきた。
部屋に入ると、柊はどう切り出していいかわからず立ち往生する。
「まぁ、とりあえず制服着替えれば」
「わ、わかってるよ!」
そう言いながらも、言われた通り着替えるのが何となく癪だったので、柊は制服のまま勉強机の椅子に座った。梓も何も言わずにベッドに座る。
「勝手に俺のベッドに座んじゃねえ」
「じゃあ立ってようか?」
気にした様子もなく立ち上がって腕を組む梓が落ち着かなく、結局もう一度ベッドに座ってもらった。何となく笑われているのがわかる。少々居たたまれない。
「で、話って何」
やはり切り出し難くて柊が少し黙っていると、梓のほうから振ってくれた。
「……お前……大学卒業したら……どーすんの。家……」
やんわり聞こうと思っていたのだが、柊には無理だった。結局直球になる。
「ああ。出るよ」
そして梓も予想外なほどあっさり返してきた。
「っな、何でだよ! 何か不満でもあんのか? 何で出る必要あんだよ。か、家族から離れる必要あんのかっ?」
家族じゃなくなるかもしれないだろという不安はだが、口にできない。
するとベッドに座っていた梓がまた立ち上がり、柊のそばへ近づいてきた。そしてしゃがみ込んで膝をつき、柊を見上げてくる。
「……なぁ、柊」
見つめられているのはわかっていたが、柊は顔を合わせられないでいた。ちゃんと向き合って話しようと思ったのは自分だというのに、やはり大人になりきれなくて情けないと思う。
「柊ー?」
「る、せぇ」
梓のため息が聞こえる。こんなでは駄目だと柊が思っていると柔らかい口調で梓が話してきた。
「俺とお前は、どうしようが兄弟だろ。そして父さんと母さんは俺が社会人になろうがおっさんになろうがずっと親だ……」
「……」
「一人暮らし、するよ。でもだからといって家族じゃなくなるわけじゃない。以前はもしかしたら、自分では気づいてない変な遠慮があったのかもしれない。でもな、今は絶対違う。むしろ何があっても家族だと思えるから、俺は安心して家を出られるよ」
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「柊が頼むから兄、止めてくれって言ってきてもな、俺はお前と縁、切ってやらないよ」
駄目だ。
柊はまた顔を反らせた。でないと、この間は幼女に見せてしまった情けない姿をこの忌々しい兄に見られてしまう。止めようにも止まらない緩い涙腺を柊は恨んだ。
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