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37話
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「うん、いいね。すごくいい感じだと思う」
いつもの楽器の店で灯の書いた詩を読んでいた梓が、ニッコリ灯に笑いかけてきた。褒めてもらえるのは本当に嬉しいが、読まれることは灯にとって未だに少々慣れない。
「あ、ありがとうございます……」
「曲はこの間のに合わせたの?」
「はい、一応……」
灯が頷くと、梓はノートをめくって楽譜の部分を開ける。そして探している曲を見つけると指で辿っていく。頷くと、今度はゆっくりとその曲をギターで奏で出した。それを心踊らせながら聴いていると、梓がまた笑いかけてきた。だがその笑みには少々不穏なものを灯は感じ取り、思わず後退さった。
「灯ちゃん、何で今少し下がったの?」
「あ、いえ……」
「俺、変な顔でもしたかな?」
「そ、そんなことは……! その、何か企まれてるような気が……っじゃなくてえっと」
さらにニコニコした顔を向けられ、灯はつい、本音を漏らしかけて慌てる。そんな灯に対し楽しそうに笑いながら、梓は頷いてきた。
「まぁ、間違ってはないかも?」
「は……」
「あのね、灯ちゃん。俺のギターに合わせて歌ってよ」
「い、嫌ですよ……!」
「即答だね」
気を悪くするどころか、益々梓は楽しそうに笑う。
「アズさん……からかうの、止めてください」
「からかってなんかないよ? そういえば前に文化祭で歌ったんだってね。うーん……俺も聞きたかったなぁ……」
何故それを知っているのだと思ったが、すぐ灯の脳裡に柊が浮かんだ。
……もう。仲よくないとか言いながらそういう話はしてるんだ。
少し唇を尖らせていると、また笑われた。
「やっぱりからかってる……」
「からかってないよ。本当にかわいいなぁって思って」
「……っ」
ああもう、と灯は何も言うこともできず唇を噛みしめ、梓をジロリと見上げた。耳が熱い。
「ほら、かわいい」
「止めてください、アズさん。俺、男ですしかわいいこと何も言ってません」
「オーケー、じゃあ止めるから歌ってね」
「嫌です」
「いいよ、それじゃあかわいいって言う。本当に思ってるしね。元々そういうの、言いたいタイプなんだよね、俺。普段は控えてるだけで。灯ちゃんはね、男とか女とか関係なく俺にとっては見た目も、健気で真面目なとこも凄くかわいいし言ってることも仕草も――」
「分かりました歌います!」
それ以上口にされたら多分居たたまれなくて死んでしまう。灯はとてつもなく微妙な顔で梓の言葉を遮った。梓はと言えば「ありがとう、楽しみだな」と嬉しそうに微笑んでいる。
梓が優しいのは間違いないし今でも憧れていると灯は思っている。
だけどアズさん、ちょっと意地悪だ……!
灯はまたジロリと見上げるが、梓は本当に嬉しそうだ。灯はため息ついた。
ああもう、……まぁ、いいか……。
恥ずかしいのは恥ずかしいが、文化祭で演奏し歌った時はとても楽しくもあった。歌を作ったり書いたりするだけじゃなく、演奏したり歌ったりするのもやっぱり好きだと思った。
声、出るかな……。
普段歌うことがないので少し咳払いしたところで「スピードはこれで合ってる?」と梓がギターを弾きながら聞いてきた。
「はい、大丈夫です」
「よかった。じゃあ、いくよ」
そもそも梓の演奏に合わせて歌うなど贅沢なことだと灯はそっと思った。灯とは比べものにならない位、ギターを奏でるのも上手い。演奏してくれている時はいつも音に聞き惚れながら、梓の指の動きから目が離せなかった。
今はそれに気を取られないようにしないとな。
ドキドキしながら音に合わせて歌い出すと、結局恥ずかしさも忘れて灯はひたすら夢中になった。自分の作った音を奏でてもらいながら、自分の作った詞を歌っている。それが凄く嬉しくて楽しくて気持ちよかった。
「……灯ちゃんの声、歌に凄く合ってる。それに凄く好きだ」
演奏が終わってから梓が言ってくれた言葉にはとても気持ちがこもっていた。
「あ、ありがとうございます……!」
「今度は弾きながら歌ってみて」
だがまたそんなことを言ってくる。
「……。無理です」
「そう? 俺にそんなに愛を語って欲しいんだ?」
「……アズさんは意地悪です」
「隠してたのに、バレちゃったかぁ」
「……隠し……どこが……? ……わかりました、やります。でも、あの……下手くそでも……いいですか……?」
詞や曲を見られることだけでも元々恥ずかしいのだ。その上歌うことに慣れていないだけでなく演奏もまだまだ上手くない。だというのにそれを一度に披露するという荒行。下手くそでも構わないかと、自分でも情けないとは思うが口にしないとできそうになかった。
少し俯いていたことに気づいてとりあえず改めて梓を見上げながら聞けば、梓は少し困ったように笑ってきた。
呆れられたのかな。下手くそとか後ろ向きなこと言ったもんな……でも本当のことだし……。
「……本当に無防備だからなぁ」
「え?」
何の話だと灯がまた梓を見ると、頭をくしゃりと撫でられた。
「少なくとも俺は灯ちゃんのギター、下手だなんて思ったことないよ。一生懸命なとこも好きだし、聴きたいな」
こういうところは本当に優しいと灯はしみじみ思う。あと、何とも格好がよくて落ち着かない。灯はまた耳が熱くなるのを感じながらコクリと頷いた。
梓にいつも教えてもらっていることを念頭に置きながら、座ってギターを持つ。そして深呼吸した後にギターを弾き、歌い始めた。
いつもの楽器の店で灯の書いた詩を読んでいた梓が、ニッコリ灯に笑いかけてきた。褒めてもらえるのは本当に嬉しいが、読まれることは灯にとって未だに少々慣れない。
「あ、ありがとうございます……」
「曲はこの間のに合わせたの?」
「はい、一応……」
灯が頷くと、梓はノートをめくって楽譜の部分を開ける。そして探している曲を見つけると指で辿っていく。頷くと、今度はゆっくりとその曲をギターで奏で出した。それを心踊らせながら聴いていると、梓がまた笑いかけてきた。だがその笑みには少々不穏なものを灯は感じ取り、思わず後退さった。
「灯ちゃん、何で今少し下がったの?」
「あ、いえ……」
「俺、変な顔でもしたかな?」
「そ、そんなことは……! その、何か企まれてるような気が……っじゃなくてえっと」
さらにニコニコした顔を向けられ、灯はつい、本音を漏らしかけて慌てる。そんな灯に対し楽しそうに笑いながら、梓は頷いてきた。
「まぁ、間違ってはないかも?」
「は……」
「あのね、灯ちゃん。俺のギターに合わせて歌ってよ」
「い、嫌ですよ……!」
「即答だね」
気を悪くするどころか、益々梓は楽しそうに笑う。
「アズさん……からかうの、止めてください」
「からかってなんかないよ? そういえば前に文化祭で歌ったんだってね。うーん……俺も聞きたかったなぁ……」
何故それを知っているのだと思ったが、すぐ灯の脳裡に柊が浮かんだ。
……もう。仲よくないとか言いながらそういう話はしてるんだ。
少し唇を尖らせていると、また笑われた。
「やっぱりからかってる……」
「からかってないよ。本当にかわいいなぁって思って」
「……っ」
ああもう、と灯は何も言うこともできず唇を噛みしめ、梓をジロリと見上げた。耳が熱い。
「ほら、かわいい」
「止めてください、アズさん。俺、男ですしかわいいこと何も言ってません」
「オーケー、じゃあ止めるから歌ってね」
「嫌です」
「いいよ、それじゃあかわいいって言う。本当に思ってるしね。元々そういうの、言いたいタイプなんだよね、俺。普段は控えてるだけで。灯ちゃんはね、男とか女とか関係なく俺にとっては見た目も、健気で真面目なとこも凄くかわいいし言ってることも仕草も――」
「分かりました歌います!」
それ以上口にされたら多分居たたまれなくて死んでしまう。灯はとてつもなく微妙な顔で梓の言葉を遮った。梓はと言えば「ありがとう、楽しみだな」と嬉しそうに微笑んでいる。
梓が優しいのは間違いないし今でも憧れていると灯は思っている。
だけどアズさん、ちょっと意地悪だ……!
灯はまたジロリと見上げるが、梓は本当に嬉しそうだ。灯はため息ついた。
ああもう、……まぁ、いいか……。
恥ずかしいのは恥ずかしいが、文化祭で演奏し歌った時はとても楽しくもあった。歌を作ったり書いたりするだけじゃなく、演奏したり歌ったりするのもやっぱり好きだと思った。
声、出るかな……。
普段歌うことがないので少し咳払いしたところで「スピードはこれで合ってる?」と梓がギターを弾きながら聞いてきた。
「はい、大丈夫です」
「よかった。じゃあ、いくよ」
そもそも梓の演奏に合わせて歌うなど贅沢なことだと灯はそっと思った。灯とは比べものにならない位、ギターを奏でるのも上手い。演奏してくれている時はいつも音に聞き惚れながら、梓の指の動きから目が離せなかった。
今はそれに気を取られないようにしないとな。
ドキドキしながら音に合わせて歌い出すと、結局恥ずかしさも忘れて灯はひたすら夢中になった。自分の作った音を奏でてもらいながら、自分の作った詞を歌っている。それが凄く嬉しくて楽しくて気持ちよかった。
「……灯ちゃんの声、歌に凄く合ってる。それに凄く好きだ」
演奏が終わってから梓が言ってくれた言葉にはとても気持ちがこもっていた。
「あ、ありがとうございます……!」
「今度は弾きながら歌ってみて」
だがまたそんなことを言ってくる。
「……。無理です」
「そう? 俺にそんなに愛を語って欲しいんだ?」
「……アズさんは意地悪です」
「隠してたのに、バレちゃったかぁ」
「……隠し……どこが……? ……わかりました、やります。でも、あの……下手くそでも……いいですか……?」
詞や曲を見られることだけでも元々恥ずかしいのだ。その上歌うことに慣れていないだけでなく演奏もまだまだ上手くない。だというのにそれを一度に披露するという荒行。下手くそでも構わないかと、自分でも情けないとは思うが口にしないとできそうになかった。
少し俯いていたことに気づいてとりあえず改めて梓を見上げながら聞けば、梓は少し困ったように笑ってきた。
呆れられたのかな。下手くそとか後ろ向きなこと言ったもんな……でも本当のことだし……。
「……本当に無防備だからなぁ」
「え?」
何の話だと灯がまた梓を見ると、頭をくしゃりと撫でられた。
「少なくとも俺は灯ちゃんのギター、下手だなんて思ったことないよ。一生懸命なとこも好きだし、聴きたいな」
こういうところは本当に優しいと灯はしみじみ思う。あと、何とも格好がよくて落ち着かない。灯はまた耳が熱くなるのを感じながらコクリと頷いた。
梓にいつも教えてもらっていることを念頭に置きながら、座ってギターを持つ。そして深呼吸した後にギターを弾き、歌い始めた。
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