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34話
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指を見て「頑張ったんだね」と褒められたのがとても嬉しかった。だが梓に無防備だと言われたことに関して、灯としてはどうすればいいのかと少々困惑する。
無防備、とは。いくら灯でも、梓が恋愛的な意味で言ったのであろうことはわかる。わからないのは、何を指してそう言ったのかだ。別に肌を露出したわけではないし、そもそも灯は男だ。露出もへったくれもない。梓にやたらベタベタとくっついた覚えもない。
とはいえ「何がどう無防備なんですか?」とストレートに聞けるわけもない。
ひたすら戸惑っていると、だが梓は困るというより楽しそうな顔をしてきて灯をさらに困惑させてきた。つい先ほどまでは「うーん」と困った様子だったというのに、一体何が梓を楽しくさせたのか。
「……アズさん?」
「あまり無防備になっちゃ駄目だよ」
「は、はい」
でも、何が無防備なのかわからないんです。
そんな気持ちが出ていたのだろうか、梓が「どうしたの?」と聞いてくる。やはりどこか楽しそうだ。
「いえ……」
「例えばね、もっと警戒心持ってもいいかも」
「え?」
梓の言葉はまるで灯の心の声を聞いたかのように聞こえる。
「ほら、じゃないと……」
ポカンとしている灯の手を、梓はニコニコしながらスッと自分の手で持ち上げる。
「簡単にこんな風に」
そして口元へ近づけると、少しだけ硬くなってきた、水ぶくれを繰り返したみすぼらしい指先にキスしてきた。硬くなってきている指先は、だと言うのにとても敏感に唇の感触を灯に伝えてきた。と同時にぞくりとした何とも言えない感覚が灯の中を走る。くすぐったいとかではない。もちろん嫌悪感でもない。
その妙な感覚と、梓に唇同士ではないといえまたキスをされたという事実に灯は一気にかあっと熱くなった。
梓はニコニコして唇を離した後に灯を見ると、何故かまた困惑したような顔で苦笑してきた。
「ほら、言ってるそばからもうそんなだ」
「……え?」
「ほんと、無防備」
梓は灯の頭を撫でてきた。
結局どう無防備なのかわからないまま、もうしばらく練習すると帰ることにした。
「……そういえばアズさん」
途中までは同じ方向なので一緒に歩いており、ふと思い出して灯は梓を見上げた。
「ん?」
「シュウとは仲よくなったんですか?」
「灯ちゃん、恋愛絡みのことじゃなければ結構ズバリと聞いてくるね」
梓があはは、と笑ってくる。
「す、すみません……」
「謝らなくていいよ。むしろどんなことでも遠慮なく口にして欲しいし」
「は、はぁ……ありがとうございます……」
「仲よく、ねぇ。どうだろうな。柊はツンデレだからなぁ」
「つんでれ?」
「まぁ、俺は柊のこと、大好きだよ」
「……はい!」
梓の言葉にはどこかゆったりとした気持ちが感じられ、灯はなんとなくホッとするものがあった。柊も何だかんだ言って、梓のことを凄く好きなのだと灯は思っている。
結局お互いが大好きなんじゃないか。
そう思うとそっと嬉しくなった。だが顔に出ていたらしく「何か嬉しそうだね」と笑われてしまった。
「シュウはさ、実はアズさんのこと大好きだよな」
週末、アルバイトを終えた午後に柊が遊びに来た時、灯はニコニコしながら口にした。途端、灯と一緒にリビングでテレビを観ていた柊がとてつもなくムッとしたような表情になる。
「な、っ誰があんな馬鹿。ヘラヘラしてるくせに肝心なこと家族に黙ってて言ってもくれないし、あんなのが俺の兄貴だと思うとムカつくわ!」
むしろ饒舌かという勢いに、灯はさらに顔を綻ばせた。
「ほら、そんな風に文句言いつつも、兄だと思ってるみたいだし」
兄貴、と柊が言った言葉を繰り返すと柊が「ぐっ……!」と声を詰まらせてくる。
「ほんっとかわいいな! お前!」
何ともある意味わかりやすい柊を灯が微笑ましい気持ちで見ていると、突然梓が両手を広げながら楽しげに入ってきた。
「っ? 聞いてたのかよ! つかお前なんなの? 人ん家でもいきなり現れるとかなんなの? どこでも現れてゴキブリかよ!」
一瞬ポカンとしていた柊がハッとなり、つける限りの悪態をついている。そんな柊は楽しいが、恋には聞かせたくないと苦笑しながら「おかえりなさい」と灯は梓を見る。
「恋ちゃんは今、手を洗ってるよ」
梓は灯の様子に気づいて優しげに微笑んできた。
「どーなってんだよ」
「アズさん、恋とデートしてたんだよ」
「は?」
母親が休日出勤することになってしまい、灯はアルバイトを休もうと思っていた。だがそれを知った梓が「予定何もないから」と恋の面倒を見ることを引き受けてくれたのだ。アルバイトは午前中だけだが、一応梓には家の鍵を預けておいた。
「は? 何だよそれ。それなら俺がレンちゃんの面倒見たのに!」
「シュウに言う前にアズさんからたまたま連絡あって」
「悪いな、柊。でも安心しろ。恋ちゃんはちゃんとエスコートしてきたぞ」
「お前の言い方はいちいち腹立たしいんだよ……!」
ムッとしている柊に対して、梓はひたすら楽しそうだ。
……これは口喧嘩とでも言うんだろうかな。でも、やっぱり何か仲よく見える。
苦笑しながらも灯がひたすら微笑ましく思っていると、手を洗い終えたらしい恋もリビングに入ってきた。
「あ! ひーちゃんだ!」
そして目ざとく柊を見つけ、嬉しそうに駆けつけてきた。
無防備、とは。いくら灯でも、梓が恋愛的な意味で言ったのであろうことはわかる。わからないのは、何を指してそう言ったのかだ。別に肌を露出したわけではないし、そもそも灯は男だ。露出もへったくれもない。梓にやたらベタベタとくっついた覚えもない。
とはいえ「何がどう無防備なんですか?」とストレートに聞けるわけもない。
ひたすら戸惑っていると、だが梓は困るというより楽しそうな顔をしてきて灯をさらに困惑させてきた。つい先ほどまでは「うーん」と困った様子だったというのに、一体何が梓を楽しくさせたのか。
「……アズさん?」
「あまり無防備になっちゃ駄目だよ」
「は、はい」
でも、何が無防備なのかわからないんです。
そんな気持ちが出ていたのだろうか、梓が「どうしたの?」と聞いてくる。やはりどこか楽しそうだ。
「いえ……」
「例えばね、もっと警戒心持ってもいいかも」
「え?」
梓の言葉はまるで灯の心の声を聞いたかのように聞こえる。
「ほら、じゃないと……」
ポカンとしている灯の手を、梓はニコニコしながらスッと自分の手で持ち上げる。
「簡単にこんな風に」
そして口元へ近づけると、少しだけ硬くなってきた、水ぶくれを繰り返したみすぼらしい指先にキスしてきた。硬くなってきている指先は、だと言うのにとても敏感に唇の感触を灯に伝えてきた。と同時にぞくりとした何とも言えない感覚が灯の中を走る。くすぐったいとかではない。もちろん嫌悪感でもない。
その妙な感覚と、梓に唇同士ではないといえまたキスをされたという事実に灯は一気にかあっと熱くなった。
梓はニコニコして唇を離した後に灯を見ると、何故かまた困惑したような顔で苦笑してきた。
「ほら、言ってるそばからもうそんなだ」
「……え?」
「ほんと、無防備」
梓は灯の頭を撫でてきた。
結局どう無防備なのかわからないまま、もうしばらく練習すると帰ることにした。
「……そういえばアズさん」
途中までは同じ方向なので一緒に歩いており、ふと思い出して灯は梓を見上げた。
「ん?」
「シュウとは仲よくなったんですか?」
「灯ちゃん、恋愛絡みのことじゃなければ結構ズバリと聞いてくるね」
梓があはは、と笑ってくる。
「す、すみません……」
「謝らなくていいよ。むしろどんなことでも遠慮なく口にして欲しいし」
「は、はぁ……ありがとうございます……」
「仲よく、ねぇ。どうだろうな。柊はツンデレだからなぁ」
「つんでれ?」
「まぁ、俺は柊のこと、大好きだよ」
「……はい!」
梓の言葉にはどこかゆったりとした気持ちが感じられ、灯はなんとなくホッとするものがあった。柊も何だかんだ言って、梓のことを凄く好きなのだと灯は思っている。
結局お互いが大好きなんじゃないか。
そう思うとそっと嬉しくなった。だが顔に出ていたらしく「何か嬉しそうだね」と笑われてしまった。
「シュウはさ、実はアズさんのこと大好きだよな」
週末、アルバイトを終えた午後に柊が遊びに来た時、灯はニコニコしながら口にした。途端、灯と一緒にリビングでテレビを観ていた柊がとてつもなくムッとしたような表情になる。
「な、っ誰があんな馬鹿。ヘラヘラしてるくせに肝心なこと家族に黙ってて言ってもくれないし、あんなのが俺の兄貴だと思うとムカつくわ!」
むしろ饒舌かという勢いに、灯はさらに顔を綻ばせた。
「ほら、そんな風に文句言いつつも、兄だと思ってるみたいだし」
兄貴、と柊が言った言葉を繰り返すと柊が「ぐっ……!」と声を詰まらせてくる。
「ほんっとかわいいな! お前!」
何ともある意味わかりやすい柊を灯が微笑ましい気持ちで見ていると、突然梓が両手を広げながら楽しげに入ってきた。
「っ? 聞いてたのかよ! つかお前なんなの? 人ん家でもいきなり現れるとかなんなの? どこでも現れてゴキブリかよ!」
一瞬ポカンとしていた柊がハッとなり、つける限りの悪態をついている。そんな柊は楽しいが、恋には聞かせたくないと苦笑しながら「おかえりなさい」と灯は梓を見る。
「恋ちゃんは今、手を洗ってるよ」
梓は灯の様子に気づいて優しげに微笑んできた。
「どーなってんだよ」
「アズさん、恋とデートしてたんだよ」
「は?」
母親が休日出勤することになってしまい、灯はアルバイトを休もうと思っていた。だがそれを知った梓が「予定何もないから」と恋の面倒を見ることを引き受けてくれたのだ。アルバイトは午前中だけだが、一応梓には家の鍵を預けておいた。
「は? 何だよそれ。それなら俺がレンちゃんの面倒見たのに!」
「シュウに言う前にアズさんからたまたま連絡あって」
「悪いな、柊。でも安心しろ。恋ちゃんはちゃんとエスコートしてきたぞ」
「お前の言い方はいちいち腹立たしいんだよ……!」
ムッとしている柊に対して、梓はひたすら楽しそうだ。
……これは口喧嘩とでも言うんだろうかな。でも、やっぱり何か仲よく見える。
苦笑しながらも灯がひたすら微笑ましく思っていると、手を洗い終えたらしい恋もリビングに入ってきた。
「あ! ひーちゃんだ!」
そして目ざとく柊を見つけ、嬉しそうに駆けつけてきた。
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