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クリスマスが始まる前に
5 Comet
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正直、トナカイの見た目は悪くない。普段から鍛えられた体はトナカイそのものの姿になろうが、人の姿になろうが損なうことなく現れているし、顔も整っている。いや、トナカイになった時の顔が整っているかどうかはさすがにトムテでもあまりわからないが、少なくとも人の姿になった時は整っていると思う。
トムテの容姿がある程度人の姿に近いからか、動物よりは人間の容姿のほうがわかりやすい。
まあ、人間は俺みたいに尖った耳や猫みたいな目、してないけどな。それに人間は指、五本あるしな。
言い伝えでは灰色のあごひげを生やしているとか、灰色や濃紺のぼろぼろ服を着ているとか、真っ赤な目立つ帽子をかぶっているとか、背丈は幼児くらいだとかを耳にするし、そういうヤツもいるにはいる。だがトムテはひげどころか体毛はあまり生えないタイプだし、ファッションにはこだわりがあるのでそんなちぐはぐな格好はしない。背もそこまで高くはないが低くもない。
人間も様々な人種がいたものの、時代が巡る間に交配やら何やらでそれぞれの人種の特徴は薄れたり変わったりしている。トムテたちも同じなのかもしれない。とはいえ人間に比べるとかなり長寿な分、あまり混ざりようもなく同じとも言い難いが。
トムテが用意した衣装を、トナカイは当たり前のように着こなした。やはり見た目がいいとファッションも決まりやすいし楽しい。ついでにベファーナに頼んで爪を塗ってもらおうと言うと「それはいい」と断られた。
「何で」
「マニキュアって何か爪に分厚い膜が張ったような感覚がして苦手なんだ。明日の仕事に支障が出るかもだし」
「だったら今日、パーティーの仕事終わってから俺が落としてやる。それならいいだろが」
「トムテが落としてくれるの? じゃあトムテの家に行っていい?」
「ああ」
鬱陶しいが仕方ない。綺麗な五本指の爪にマニキュアを施したら間違いなく完璧になる。そのためなら仕方ない。
「じゃあ、いいよ。やる」
一緒にベファーナの元へ行き、デザインをどうしようかベファーナと話していたら、トナカイが「これがいい」と見本を見せてきた。
「まあ。デフォルメされたサンタやトムテね。かわいいじゃない」
「うん」
トナカイが嬉しそうに微笑んでいる。せっかく夜の街や墓場ですら似合うような恰好をキメたというのに、爪だけやたらかわいくなってしまう。断固反対だと言おうと思ったが、嬉しそうに「出来上がり楽しみ」と言っているトナカイを見ていると言うのも面倒になって諦めた。
でも諦めてよかったかもしれない。ファッションのせいで一見怖そうな男にも見えそうだというのに、爪がやたらファンシーだというギャップは案外悪くなかった。
ベファーナのところを出ると、二人はそのままパーティー会場へ向かった。
「いいか、部屋に入る前からお前とは別行動だから」
「何で。それだともしトムテが危険な状態になってもすぐに対応できない」
「ならないし、例えなっても自分で対応するからいいんだよ。お前がサンタ様に言うとか脅迫してくるから仕方なく連れてきただけだ。別行動できないなら今すぐハウスだ」
「トナカイ相手に犬扱いしないで。それにずるい。今からだとサンタ様に報告もできないでしょ」
「わかってて言ってる」
「もう……ほんとずるい。でもわかったよ。回れ右するつもりないから、一応別行動、了解した」
「一応じゃないんだよ能無し。間違いなく、別行動。わかった?」
「…………わかった」
あからさまに不満そうだが、トムテは「よし」と頷いた。
会場の受付では招待状が必要のため仕方なく二人だと告げる。その後からトムテはトナカイを睨むことで念押ししてから一人で中へ入った。
中は結構な熱気だった。いっそもうバカ騒ぎと言ってもいい。さすがサトゥルナリア祭りのパーティーだ。間違いなく当時の乱痴気騒ぎを無駄に再現している。中には変な薬に手を出している者もいるようだが、トムテは別に警察でも何でもないのでその辺は無視する。ただ、自分は誘われてもやる気はない。
だいたい何故トリップしなければならないのか。気持ちいいことも痛めつけることも痛めつけられることも何もかも、自分で管理できないなら楽しくもなんともない。
それと同じ理由で酒も好まない。飲めないことはないし簡単に酔わないが、自制を失う可能性のあるものに興味はない。アルコール云々ではなく料理に合わせるのがいいのだという考えもない。そもそも甘いものを好むのであまり酒と合わせない。合う酒はもちろんあるが、別に合わせなくとも問題ない。
とはいえ薬に手を出さないのはいいにしても、この場で一切酒を口にしないということは不自然だろう。
「あなた、何だかかっこいいね! こっちで一緒に楽しも?」
何人かのおそらく妖精だろうか、が声をかけてきたがトムテは今飲みもしない酒をそちらに掲げて誤魔化した後、そのままその場を離れた。
あからさまに誰とも喋らず目的の者を探すことは避けたいが、乱痴気騒ぎも避けたい。
その後何人かと一対一でそれこそ酒を飲み、軽い食事を立ったままとりながら、トムテは目標の人物がいないか探していた。
トムテの容姿がある程度人の姿に近いからか、動物よりは人間の容姿のほうがわかりやすい。
まあ、人間は俺みたいに尖った耳や猫みたいな目、してないけどな。それに人間は指、五本あるしな。
言い伝えでは灰色のあごひげを生やしているとか、灰色や濃紺のぼろぼろ服を着ているとか、真っ赤な目立つ帽子をかぶっているとか、背丈は幼児くらいだとかを耳にするし、そういうヤツもいるにはいる。だがトムテはひげどころか体毛はあまり生えないタイプだし、ファッションにはこだわりがあるのでそんなちぐはぐな格好はしない。背もそこまで高くはないが低くもない。
人間も様々な人種がいたものの、時代が巡る間に交配やら何やらでそれぞれの人種の特徴は薄れたり変わったりしている。トムテたちも同じなのかもしれない。とはいえ人間に比べるとかなり長寿な分、あまり混ざりようもなく同じとも言い難いが。
トムテが用意した衣装を、トナカイは当たり前のように着こなした。やはり見た目がいいとファッションも決まりやすいし楽しい。ついでにベファーナに頼んで爪を塗ってもらおうと言うと「それはいい」と断られた。
「何で」
「マニキュアって何か爪に分厚い膜が張ったような感覚がして苦手なんだ。明日の仕事に支障が出るかもだし」
「だったら今日、パーティーの仕事終わってから俺が落としてやる。それならいいだろが」
「トムテが落としてくれるの? じゃあトムテの家に行っていい?」
「ああ」
鬱陶しいが仕方ない。綺麗な五本指の爪にマニキュアを施したら間違いなく完璧になる。そのためなら仕方ない。
「じゃあ、いいよ。やる」
一緒にベファーナの元へ行き、デザインをどうしようかベファーナと話していたら、トナカイが「これがいい」と見本を見せてきた。
「まあ。デフォルメされたサンタやトムテね。かわいいじゃない」
「うん」
トナカイが嬉しそうに微笑んでいる。せっかく夜の街や墓場ですら似合うような恰好をキメたというのに、爪だけやたらかわいくなってしまう。断固反対だと言おうと思ったが、嬉しそうに「出来上がり楽しみ」と言っているトナカイを見ていると言うのも面倒になって諦めた。
でも諦めてよかったかもしれない。ファッションのせいで一見怖そうな男にも見えそうだというのに、爪がやたらファンシーだというギャップは案外悪くなかった。
ベファーナのところを出ると、二人はそのままパーティー会場へ向かった。
「いいか、部屋に入る前からお前とは別行動だから」
「何で。それだともしトムテが危険な状態になってもすぐに対応できない」
「ならないし、例えなっても自分で対応するからいいんだよ。お前がサンタ様に言うとか脅迫してくるから仕方なく連れてきただけだ。別行動できないなら今すぐハウスだ」
「トナカイ相手に犬扱いしないで。それにずるい。今からだとサンタ様に報告もできないでしょ」
「わかってて言ってる」
「もう……ほんとずるい。でもわかったよ。回れ右するつもりないから、一応別行動、了解した」
「一応じゃないんだよ能無し。間違いなく、別行動。わかった?」
「…………わかった」
あからさまに不満そうだが、トムテは「よし」と頷いた。
会場の受付では招待状が必要のため仕方なく二人だと告げる。その後からトムテはトナカイを睨むことで念押ししてから一人で中へ入った。
中は結構な熱気だった。いっそもうバカ騒ぎと言ってもいい。さすがサトゥルナリア祭りのパーティーだ。間違いなく当時の乱痴気騒ぎを無駄に再現している。中には変な薬に手を出している者もいるようだが、トムテは別に警察でも何でもないのでその辺は無視する。ただ、自分は誘われてもやる気はない。
だいたい何故トリップしなければならないのか。気持ちいいことも痛めつけることも痛めつけられることも何もかも、自分で管理できないなら楽しくもなんともない。
それと同じ理由で酒も好まない。飲めないことはないし簡単に酔わないが、自制を失う可能性のあるものに興味はない。アルコール云々ではなく料理に合わせるのがいいのだという考えもない。そもそも甘いものを好むのであまり酒と合わせない。合う酒はもちろんあるが、別に合わせなくとも問題ない。
とはいえ薬に手を出さないのはいいにしても、この場で一切酒を口にしないということは不自然だろう。
「あなた、何だかかっこいいね! こっちで一緒に楽しも?」
何人かのおそらく妖精だろうか、が声をかけてきたがトムテは今飲みもしない酒をそちらに掲げて誤魔化した後、そのままその場を離れた。
あからさまに誰とも喋らず目的の者を探すことは避けたいが、乱痴気騒ぎも避けたい。
その後何人かと一対一でそれこそ酒を飲み、軽い食事を立ったままとりながら、トムテは目標の人物がいないか探していた。
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