クリスマスが終わるまで……

Guidepost

文字の大きさ
上 下
12 / 16
クリスマスが始まる前に

5 Comet

しおりを挟む
 正直、トナカイの見た目は悪くない。普段から鍛えられた体はトナカイそのものの姿になろうが、人の姿になろうが損なうことなく現れているし、顔も整っている。いや、トナカイになった時の顔が整っているかどうかはさすがにトムテでもあまりわからないが、少なくとも人の姿になった時は整っていると思う。
 トムテの容姿がある程度人の姿に近いからか、動物よりは人間の容姿のほうがわかりやすい。

 まあ、人間は俺みたいに尖った耳や猫みたいな目、してないけどな。それに人間は指、五本あるしな。

 言い伝えでは灰色のあごひげを生やしているとか、灰色や濃紺のぼろぼろ服を着ているとか、真っ赤な目立つ帽子をかぶっているとか、背丈は幼児くらいだとかを耳にするし、そういうヤツもいるにはいる。だがトムテはひげどころか体毛はあまり生えないタイプだし、ファッションにはこだわりがあるのでそんなちぐはぐな格好はしない。背もそこまで高くはないが低くもない。
 人間も様々な人種がいたものの、時代が巡る間に交配やら何やらでそれぞれの人種の特徴は薄れたり変わったりしている。トムテたちも同じなのかもしれない。とはいえ人間に比べるとかなり長寿な分、あまり混ざりようもなく同じとも言い難いが。
 トムテが用意した衣装を、トナカイは当たり前のように着こなした。やはり見た目がいいとファッションも決まりやすいし楽しい。ついでにベファーナに頼んで爪を塗ってもらおうと言うと「それはいい」と断られた。

「何で」
「マニキュアって何か爪に分厚い膜が張ったような感覚がして苦手なんだ。明日の仕事に支障が出るかもだし」
「だったら今日、パーティーの仕事終わってから俺が落としてやる。それならいいだろが」
「トムテが落としてくれるの? じゃあトムテの家に行っていい?」
「ああ」

 鬱陶しいが仕方ない。綺麗な五本指の爪にマニキュアを施したら間違いなく完璧になる。そのためなら仕方ない。

「じゃあ、いいよ。やる」

 一緒にベファーナの元へ行き、デザインをどうしようかベファーナと話していたら、トナカイが「これがいい」と見本を見せてきた。

「まあ。デフォルメされたサンタやトムテね。かわいいじゃない」
「うん」

 トナカイが嬉しそうに微笑んでいる。せっかく夜の街や墓場ですら似合うような恰好をキメたというのに、爪だけやたらかわいくなってしまう。断固反対だと言おうと思ったが、嬉しそうに「出来上がり楽しみ」と言っているトナカイを見ていると言うのも面倒になって諦めた。
 でも諦めてよかったかもしれない。ファッションのせいで一見怖そうな男にも見えそうだというのに、爪がやたらファンシーだというギャップは案外悪くなかった。
 ベファーナのところを出ると、二人はそのままパーティー会場へ向かった。

「いいか、部屋に入る前からお前とは別行動だから」
「何で。それだともしトムテが危険な状態になってもすぐに対応できない」
「ならないし、例えなっても自分で対応するからいいんだよ。お前がサンタ様に言うとか脅迫してくるから仕方なく連れてきただけだ。別行動できないなら今すぐハウスだ」
「トナカイ相手に犬扱いしないで。それにずるい。今からだとサンタ様に報告もできないでしょ」
「わかってて言ってる」
「もう……ほんとずるい。でもわかったよ。回れ右するつもりないから、一応別行動、了解した」
「一応じゃないんだよ能無し。間違いなく、別行動。わかった?」
「…………わかった」

 あからさまに不満そうだが、トムテは「よし」と頷いた。
 会場の受付では招待状が必要のため仕方なく二人だと告げる。その後からトムテはトナカイを睨むことで念押ししてから一人で中へ入った。
 中は結構な熱気だった。いっそもうバカ騒ぎと言ってもいい。さすがサトゥルナリア祭りのパーティーだ。間違いなく当時の乱痴気騒ぎを無駄に再現している。中には変な薬に手を出している者もいるようだが、トムテは別に警察でも何でもないのでその辺は無視する。ただ、自分は誘われてもやる気はない。
 だいたい何故トリップしなければならないのか。気持ちいいことも痛めつけることも痛めつけられることも何もかも、自分で管理できないなら楽しくもなんともない。
 それと同じ理由で酒も好まない。飲めないことはないし簡単に酔わないが、自制を失う可能性のあるものに興味はない。アルコール云々ではなく料理に合わせるのがいいのだという考えもない。そもそも甘いものを好むのであまり酒と合わせない。合う酒はもちろんあるが、別に合わせなくとも問題ない。
 とはいえ薬に手を出さないのはいいにしても、この場で一切酒を口にしないということは不自然だろう。

「あなた、何だかかっこいいね! こっちで一緒に楽しも?」

 何人かのおそらく妖精だろうか、が声をかけてきたがトムテは今飲みもしない酒をそちらに掲げて誤魔化した後、そのままその場を離れた。
 あからさまに誰とも喋らず目的の者を探すことは避けたいが、乱痴気騒ぎも避けたい。
 その後何人かと一対一でそれこそ酒を飲み、軽い食事を立ったままとりながら、トムテは目標の人物がいないか探していた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…

まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。 5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。 相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。 一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。 唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。 それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。 そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。 そこへ社会人となっていた澄と再会する。 果たして5年越しの恋は、動き出すのか? 表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。

真面目系委員長の同室は王道転校生⁉~王道受けの横で適度に巻き込まれて行きます~

シキ
BL
全寮制学園モノBL。 倉科誠は真面目で平凡な目立たない学級委員長だった。そう、だった。季節外れの王道転入生が来るまでは……。 倉科の通う私立藤咲学園は山奥に位置する全寮制男子高校だ。外界と隔絶されたそこでは美形生徒が信奉され、親衛隊が作られ、生徒会には俺様会長やクール系副会長が在籍する王道学園と呼ぶに相応しいであろう場所。そんな学園に一人の転入生がやってくる。破天荒な美少年の彼を中心に巻き起こる騒動に同室・同クラスな委員長も巻き込まれていき……? 真面目で平凡()な学級委員長が王道転入生くんに巻き込まれ何だかんだ総受けする青春系ラブストーリー。 一部固定CP(副会長×王道転入生)もいつつ、基本は主人公総受けです。 こちらは個人サイトで数年前に連載していて、途中だったお話です。 今度こそ完走させてあげたいと思いたってこちらで加筆修正して再連載させていただいています。 当時の企画で書いた番外編なども掲載させていただきますが、生暖かく見守ってください。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

この噛み痕は、無効。

ことわ子
BL
執着強めのαで高校一年生の茜トキ×αアレルギーのβで高校三年生の品野千秋 α、β、Ωの三つの性が存在する現代で、品野千秋(しなのちあき)は一番人口が多いとされる平凡なβで、これまた平凡な高校三年生として暮らしていた。 いや、正しくは"平凡に暮らしたい"高校生として、自らを『αアレルギー』と自称するほど日々αを憎みながら生活していた。 千秋がαアレルギーになったのは幼少期のトラウマが原因だった。その時から千秋はαに対し強い拒否反応を示すようになり、わざわざαのいない高校へ進学するなど、徹底してαを避け続けた。 そんなある日、千秋は体育の授業中に熱中症で倒れてしまう。保健室で目を覚ますと、そこには親友の向田翔(むこうだかける)ともう一人、初めて見る下級生の男がいた。 その男と、トラウマの原因となった人物の顔が重なり千秋は混乱するが、男は千秋の混乱をよそに急に距離を詰めてくる。 「やっと見つけた」 男は誰もが見惚れる顔でそう言った。

処理中です...