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クリスマスが始まる前に

4 Vixen

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 クランプスのパーティーは滞りなく終わった。妨害の先導者的な者はおそらくだがいなさそうだった。

 俺が見漏れてない限り、だけど。

 クランプス役の何人かの男がパーティーの間、誰彼ともなく追いかけたり「悪い子はいないか」と声をかけたりしていた。演出や遊びとわかっているが鬱陶しい。
 トムテも声かけられて、最初無視していたら「さては悪い子だな」と言われてしまった。

「悪い子ならどうなるんだ」

 純粋に気になって聞くと、そのクランプ役の男は仮面越しにじろじろとトムテを見てくる。

「……そうだな。悪い子は地獄へ引きずり落さないといけない。俺がゆっくり調べてあげよう。仮面の中や手袋の中も」

 一瞬、正体がばれたのかと思った。

 いや、違うな……こいつ、ゲイか。

 トムテは正直男も女も特にどちらであっても気にしないのであえて言うならばバイかもしれない。ただ、ゲイにモテる。
 トムテの印象だとGMPDという、ガチムチ、むっちり、ぽっちゃり、デブがゲイにモテるイメージだったりする。ブルやチャブ、ベア、カブといった体型の人たちだ。
 だがトムテは一見、パップやトゥインクに見えるのだろう。いわゆる経験値の浅いノンケっぽい若者や細身で体毛のない世間知らずでわがままタイプのゲイがこれにあたり、そういったタイプが好きな人もいるらしい。

 正直、俺はどっちでもないしそもそもゲイでもないけどな。

 とはいえここで騒いで目立つことは避けたい。トムテだとバレたくもない。ここにはターゲットはいなかったものの、まだサトゥルナリアのパーティーが残っている。

「ここじゃ困る。別室で調べてくれる?」

 心の中では続けて「クソ野郎」と呟きつつトムテが言えば、クランプス役の男は「もちろんだ」と仮面越しに鼻息を荒げながら頷いてきた。
 もちろん、仮面を取ってお楽しみの時間を食べさせてあげる代わりに拳と蹴りを食らわせてやった。仮面の取れた男の顔はだがいい感じに昇天した風だったのでベッドに横たわらせてあげたし、自分では優しい対応だと思う。

 トムテは優しいって言い伝えもあるしな。

 鼻で笑いながらその会場を後にした。

「どこが滞りなく終わったって?」

 トムテの話を聞いて、トナカイが目を真ん丸にしている。

「滞りなくじゃなきゃどうだって言うんだ」
「とてつもなく滞ってるでしょ……襲われるとこだったんだよ?」
「俺の話聞いてた? いつどこで俺が襲われそうだったって?」
「だって狙われた! そのゲイの人に」
「あー。でも襲われてないし襲われそうにもなってない」
「たまたまなだけじゃないか。もし万が一相手も強かったらどうすんの? トムテは確かにゴリラみたいに強いけど」
「ゴリラは余計なんだよ」
「痛い。とにかく他にも強いやついるかもでしょ。そいつはたまたまそうじゃなかっただけで」

 思いきり耳を叩いてやったというのに、トナカイはちっとも痛そうな様子でなく口だけで「痛い」と言った後続けてきた。

「サンタ様に報告しなきゃ」
「は? いちいちこんなことであの人の時間煩わせるな、能無し。今の時期、あの人に報告するのは荷物かスケジュール関連だけでいいんだよ」
「……じゃあ、次のサトゥルナリア祭はオレもついてく」
「能無しだから来なくていいよ」
「行く。じゃなきゃサンタ様に報告するから」
「はぁ? 能無しのくせにいっちょ前に俺を脅迫してんのか?」
「してない。心配してんの!」
「ッチ。言うんじゃなかった。適当にサバトにでも行ってたって言えばよかった」
「いや、それはそれでめちゃくちゃ心配だからね!」

 トナカイを連れて行くなど、面倒でしかない。だが柚右の手間を少しでも煩わせるのはとてつもなく嫌だ。トムテはため息ついた。

「じゃあ、間を取ってお前は二十三日の半休の時間は翌日の仕事の準備をしておく。そうすりゃ二十四日は一緒に働く時間、減らせるからな。うん、いい案だ」
「どこの間を取ったの……っ? 全然取れてない! あと二十四日は朝から積み荷のチェックから始まってことごとく一緒だから」
「はぁ……ダル……」
「何でそんなに嫌がんの」
「だから言ってるだろ。お前が能無しだから」
「ひどい。でも話、そらさせないからね。二十三日はオレも行く」
「ッチ」
「舌打ちしないの」
「……じゃあ、一つ条件出させろ。お前のその角、俺は悪くないと思ってるよ。思ってるけど、パーティー当日は、なくせ。消せ。じゃないと仮面の意味ないからな」
「……、………………わかった」

 どんだけ角にプライド詰め込んでんだよ、とトムテは内心突っ込んだ。

「あとな」
「条件一つだけって言った」
「追加だ」
「適当すぎる」
「煩い。俺にファッション考えさせろ。絶対お前に似合う恰好させてやるから」
「そ、んなことなら、うん。全然いいよ」
「何故顔を赤らめてんだよ」

 実際頬を赤らめながらニコニコしているトナカイを、トムテは引いたように見る。

「だって大好きな人にコーデ考えてもらえるなんて、最高だし」
「ウザい。お前はもう、鼻だけ赤くしとけ」
「どっかの誰かが勝手に作った歌をオレに当てはめないで!」
「煩い。お前はサンタ様に好き好き言ってたらいいだろが」
「そりゃもちろん言うよ! だってオレの大切な主だもの。オレはサンタ様の忠実なトナカイだもの。でもサンタ様への好きとトムテへの好きは違うでしょ」
「知らん」
「知らないわけないでしょ!」
「煩い赤鼻」
「だからそれ、オレじゃないし!」
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