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クリスマスが始まる前に
3 Prancer
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仕事を終えての夕食となると合わせて酒も飲むものかもしれない。だがトムテは酒をあまり飲まない。プラムの蒸留酒は健康にもいいと言われているそうだが、度数を考えると本当にいいのだろうかと疑問でしかない上に、そもそもトムテたちが酒ごときで健康を左右されるわけもない。
食事も豚肉のハンバーグにレモンペーストソースを添えたものや、トウモロコシの粉を粘り気が出るまで煮込んでバターやサワークリームをつけたりといった一般的な食事よりも何よりも、トムテはコリヴァやグロットを好む。あまり酒と合わないだろう。
コリヴァは麦を煮込み、途中砂糖を加えて最後にレモンの皮や砕いたクルミ、バニラエッセンスを入れたものだ。
基本的なグロットは米と塩少し、バター、シナモンを少量の水で少し煮てからミルクを加えてさらに煮込む。食べる時は砂糖を加えたりクリームやチェリーソースをかけたりする。米ではなくオートミールで煮る場合もあるし、りんごを煮たエーブルグロットというものもある。
トムテはグロットを食べながら、もう一つ見つけた手紙を読んでため息ついた。正直とても面倒だ。
手紙にはどちらかのパーティーに、以前からサンタ業務の妨害目的である先導者が出席しているという情報を得たとあった。おそらくはこういったパーティーで、さらに引き入れられる者を見つけるつもりだろう。
サンタの仕事妨害となるならトムテとて、もちろん率先して捕まえてやりたいと思うし、何なら拷問して情報を吐かせてもいい。むしろそうしたい。だがこういったお祭り騒ぎのパーティーに出席するのが面倒だ。例えトムテが派手な格好をしたり今時風の恰好をするのを楽しんでいても、あまり騒がしいところは好きではない。
「とはいえ、仕方ない」
自分が面倒云々は結局のところどうでもいい。何より優先しなくてはいけないのはサンタ業務が滞りなく行われることだ。また、実際繁盛期のサンタ業務で主に動くのはサンタとトナカイだ。トムテはどちらかといえば助手的な存在であり、だからこそこういった仕事も行う。
食べ終えると、トムテは渋々招待状に出席する旨記して返信しておいた。
最初に出るのはクランプス祭りだ。よくある祭りでも十二月の五日か六日あたりに行われるし、パーティーも時期を重ねてきている。サトゥルナリア祭はクリスマスの起源とも言われているが、開催されていたのはだいたい十七日から二十三日の一週間だろうか。パーティーは二十三日の午後からだった。もっとも忙しい週でありながらその日は丁度半休だ。
このパーティーに出た翌日にトナカイと二人で大仕事か。
面倒だと、ますますため息つきたくなるがこれも仕事なら仕方ない。
詳細を確認していると、どちらも仮面をつけてのパーティーらしい。どうせならそれらを楽しむほうがやりがいもあるし、仮面をつけるといった装いは嫌いじゃない。
クランプスなら、鬼の仮面だな、断然。サトゥルナリアは……浮かぶのはニムロドだよな。バベルの塔の。ダンテの神曲なら巨人って感じだろけどニムロドはウルクの初代王とも言われてる。何かこう、厳かな感じの仮面がいいな。
騒がしいところは好きではないが、こういうことを考えるのは好きだ。トムテは少しニマニマした後にふとトナカイの姿を浮かべた。
トナカイは人間の姿を普段は保ちつつ、柚右曰く「役に立たないプライドが全て角に集まってしまっている」という角が、いつ見ても生やされている。とはいえ人間の姿で生活をするにあたってトナカイの角そのままだと色々不便らしく、それなりにカスタマイズしてあるようだ。確かに馬鹿だとは思うが、カスタマイズされた角のデザインは悪くない。
あいつならクランプスの仮面、似合いそう。つっても角が主張しすぎてて仮面の意味ないけどな。
とはいえ、それを言うならトムテの指もそうかもしれない。柚右はもちろんのこと、トナカイも人間の姿だけあって蹄ではなく人の手の形をしている。むしろ蹄でも禍々しそうで悪くないのではと思うが、とにかく動物やその他の形をしているのではなく人の形をしている大抵の者は五本指だ。他のチームにもトムテと同じ存在はいるにはいるので特定とまではいかないだろうが、ほぼ正体をばらしているようなものだろう。
俺の指、人間で言うと欠損してるのはどの指なんだろうな。
トムテはまた自分の指をじっと見た。人間の手は知っているし見たこともあるが、自分と見比べてどの指が足りないのかはわからない。そもそも形が少々違う。
少なくとも人間で言う、親指じゃないな。それに親指にあたる指がなければ俺だって手指の機能の半分近くは果たせないだろうし。
かといって人間の指であまり使われないイメージのある小指や薬指も、実はパワーグリップの主役をなす指だと言われている。この指がないとものを強く握れなくなる。
俺の力はかなり強いし、となると小指や薬指でもないのか?
とはいえ以前人間の指が欠損した場合の障害等級について読んだことがあるが、等級序列として一番大切なのは親指、次に大事なのは人差し指、そして中指と薬指が同列で最後に小指らしい。
さすがに大事らしい人差し指的なものがないとかじゃないよな。なんか別にいいけど何となく切ないだろ。
かといって中指的なものがないと、人間がイラっとした時にその指を立てるらしいがそれができなさそうで面白くない。
……って、それは今どうでもいいんだよ俺。
とにかく、出席するまでに目ぼしい手袋か何かを用意しようとトムテは思った。
食事も豚肉のハンバーグにレモンペーストソースを添えたものや、トウモロコシの粉を粘り気が出るまで煮込んでバターやサワークリームをつけたりといった一般的な食事よりも何よりも、トムテはコリヴァやグロットを好む。あまり酒と合わないだろう。
コリヴァは麦を煮込み、途中砂糖を加えて最後にレモンの皮や砕いたクルミ、バニラエッセンスを入れたものだ。
基本的なグロットは米と塩少し、バター、シナモンを少量の水で少し煮てからミルクを加えてさらに煮込む。食べる時は砂糖を加えたりクリームやチェリーソースをかけたりする。米ではなくオートミールで煮る場合もあるし、りんごを煮たエーブルグロットというものもある。
トムテはグロットを食べながら、もう一つ見つけた手紙を読んでため息ついた。正直とても面倒だ。
手紙にはどちらかのパーティーに、以前からサンタ業務の妨害目的である先導者が出席しているという情報を得たとあった。おそらくはこういったパーティーで、さらに引き入れられる者を見つけるつもりだろう。
サンタの仕事妨害となるならトムテとて、もちろん率先して捕まえてやりたいと思うし、何なら拷問して情報を吐かせてもいい。むしろそうしたい。だがこういったお祭り騒ぎのパーティーに出席するのが面倒だ。例えトムテが派手な格好をしたり今時風の恰好をするのを楽しんでいても、あまり騒がしいところは好きではない。
「とはいえ、仕方ない」
自分が面倒云々は結局のところどうでもいい。何より優先しなくてはいけないのはサンタ業務が滞りなく行われることだ。また、実際繁盛期のサンタ業務で主に動くのはサンタとトナカイだ。トムテはどちらかといえば助手的な存在であり、だからこそこういった仕事も行う。
食べ終えると、トムテは渋々招待状に出席する旨記して返信しておいた。
最初に出るのはクランプス祭りだ。よくある祭りでも十二月の五日か六日あたりに行われるし、パーティーも時期を重ねてきている。サトゥルナリア祭はクリスマスの起源とも言われているが、開催されていたのはだいたい十七日から二十三日の一週間だろうか。パーティーは二十三日の午後からだった。もっとも忙しい週でありながらその日は丁度半休だ。
このパーティーに出た翌日にトナカイと二人で大仕事か。
面倒だと、ますますため息つきたくなるがこれも仕事なら仕方ない。
詳細を確認していると、どちらも仮面をつけてのパーティーらしい。どうせならそれらを楽しむほうがやりがいもあるし、仮面をつけるといった装いは嫌いじゃない。
クランプスなら、鬼の仮面だな、断然。サトゥルナリアは……浮かぶのはニムロドだよな。バベルの塔の。ダンテの神曲なら巨人って感じだろけどニムロドはウルクの初代王とも言われてる。何かこう、厳かな感じの仮面がいいな。
騒がしいところは好きではないが、こういうことを考えるのは好きだ。トムテは少しニマニマした後にふとトナカイの姿を浮かべた。
トナカイは人間の姿を普段は保ちつつ、柚右曰く「役に立たないプライドが全て角に集まってしまっている」という角が、いつ見ても生やされている。とはいえ人間の姿で生活をするにあたってトナカイの角そのままだと色々不便らしく、それなりにカスタマイズしてあるようだ。確かに馬鹿だとは思うが、カスタマイズされた角のデザインは悪くない。
あいつならクランプスの仮面、似合いそう。つっても角が主張しすぎてて仮面の意味ないけどな。
とはいえ、それを言うならトムテの指もそうかもしれない。柚右はもちろんのこと、トナカイも人間の姿だけあって蹄ではなく人の手の形をしている。むしろ蹄でも禍々しそうで悪くないのではと思うが、とにかく動物やその他の形をしているのではなく人の形をしている大抵の者は五本指だ。他のチームにもトムテと同じ存在はいるにはいるので特定とまではいかないだろうが、ほぼ正体をばらしているようなものだろう。
俺の指、人間で言うと欠損してるのはどの指なんだろうな。
トムテはまた自分の指をじっと見た。人間の手は知っているし見たこともあるが、自分と見比べてどの指が足りないのかはわからない。そもそも形が少々違う。
少なくとも人間で言う、親指じゃないな。それに親指にあたる指がなければ俺だって手指の機能の半分近くは果たせないだろうし。
かといって人間の指であまり使われないイメージのある小指や薬指も、実はパワーグリップの主役をなす指だと言われている。この指がないとものを強く握れなくなる。
俺の力はかなり強いし、となると小指や薬指でもないのか?
とはいえ以前人間の指が欠損した場合の障害等級について読んだことがあるが、等級序列として一番大切なのは親指、次に大事なのは人差し指、そして中指と薬指が同列で最後に小指らしい。
さすがに大事らしい人差し指的なものがないとかじゃないよな。なんか別にいいけど何となく切ないだろ。
かといって中指的なものがないと、人間がイラっとした時にその指を立てるらしいがそれができなさそうで面白くない。
……って、それは今どうでもいいんだよ俺。
とにかく、出席するまでに目ぼしい手袋か何かを用意しようとトムテは思った。
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