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16話
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「何であんなこと言っちゃったんだよ」
昼休みに何故か実邦が煌の教室までやって来たので、姿を見た瞬間に煌は弁当箱を持って実邦を凄まじい勢いである意味拉致していた。そして中庭の人気がなさそうなところまで来るとつかんでいた腕を離し、見上げながら早速文句を告げた。
屋上が解放されているならここは是非屋上へ行きたかったが、現実の屋上はいつだって出入り口が施錠されている立ち入り禁止区域だ。あれほどBL本ではカップルやこれからカップルになる予定の二人がやたらめったら屋上に集合しているというのに非常に残念だと煌は常々思っている。もし解放されていたら現実でもひょっとしたらレミングの集団のようにカップルの一組や二組、五組や十組が屋上へはせ参じていたかもしれないし、煌はその様子をこっそり堪能できていたかもしれない。
って、待て。その法則で考えるなら俺とサネもこれからカップルになる予定の二人ってことになっちゃうだろ馬鹿。屋上になんか開いてても今行くべきとこじゃねえからな俺。中庭で十分。
「コウ? また変な世界に行ってるの?」
「っ、行きかけてたけどいつもの世界じゃねえし!」
慌てて言い返すと「他にも世界が……?」などと怪訝な顔をされた。
「そんなにたくさんの世界がコウの中にはあるんだね。楽しそうで何よりだけど」
「煩い。とにかく答えて。何であんなこと、草壁くんに言っちゃうの」
「何でって、事実でしょ?」
「事実じゃ……」
ねえ、と言いかけて煌は口を開けたまま留まった。事実ではないが実邦が嘘を言ったわけでもない。いや、本当に付き合ってはいないが実邦の中では煌のためか実際に付き合うことになっているらしいから、いちおうは振りながらも本当に付き合って──
「ああもうややこしい……!」
「? コウが何をこんがらがらせているのかわからないけど、単純なことでしょ? 俺とコウは付き合ってる。俺がヤキモチをやくからコウはあまりあれと二人でいないで欲しい。それもあってあれには付き合ってるから気をつけてとくぎを刺しておいた。それだけの話だよ」
「そうかもしれないけどそうじゃない……!」
バッと手で顔を覆い嘆いた拍子に脇腹と腕で支えていた弁当の包みが落ちそうになった。慌ててつかみなおそうとする前に実邦が弁当箱を持ってくれる。
「とにかくお昼だし、ご飯食べよう」
「それは反対しないけど……サネ、持ってきてねーじゃん」
「コウに拉致されたからね」
「ぅ。なら購買か学食に行けよ。話はあとでもいい」
「まだ何かあるの?」
「大ありだわ」
「じゃあここでとりあえずコウのお弁当、半分こしよ。ついでに話せばいいでしょ」
「半分とか足りるわけないだろ」
「食べ終えて話も終わったら後で学食行けばいいでしょ。俺がおごるよ」
「マジ? え、やった!」
だいたい母親が普段弁当を用意してくれているので学食にはあまり縁がない。おまけにもし事情があって弁当がない日があったとしても、いつも本などにつぎ込んでしまう煌の有り金はあまりに少ないので買えてもコンビニエンスストアか購買の安いパンだ。本に小遣いをつぎ込んでいることをあえて口にしたくないがために、母親にも「パンもほぼ買えないから弁当ないと飢える」などとも言えない。
とはいえ何の理由もなく実邦におごられるのは嫌だったりする。いくら幼馴染でも最低限の遠慮くらいは煌も一応かろうじて、したい。だが今は別だ。弁当を半分こするからという理由がある。
久しぶりの学食を思ってニコニコしていると実邦も珍しく微笑んできた。もちろん普段も笑ったり一応しているのだが、普通に微笑むところはあまり見た記憶がないので思わず煌はまた手で顔を覆う。
「今度は何?」
「おま、いきなり貴重なシーン見せてくるなよ」
「ちょっとコウが何言ってるのかわからないんだけど」
「俺がお前の顔好きなの知ってるだろ。不意打ち禁止。いや、ご馳走様ですなんだけど心臓に悪いから!」
「……ふぅん?」
ようやく落ち着いて顔を上げると、実邦がまたニッコリと煌を見てきた。さすがに少々わざとらしい笑みだけに先ほどのような衝撃はないものの眼福には違いない。
「……お前、わざとだろ」
「喜んでくれるかなと思って」
「……はぁ。とりあえず飯食おーぜ」
「そうだね。じゃあ俺が食べさせてあげる。それとも煌が食べさせてくれる?」
「はい?」
耳掃除はあまりやりすぎると逆効果らしい。とはいえずっとやらないのもどうかと思う。
こないだやったけど、もしかして耳掃除すべきかな。
思わずそんな風に思う。
「何か耳つまってんのか聞き間違えたわ。何て?」
「食べさせ合おうねって」
「いや、聞き間違えてなかったわ……お前何言ってんの? そんなこと、するわけねーだろ」
ドン引きしながら言えば実邦は淡々とした様子で弁当の袋を開けながら箸を出してきた。
「箸。一つしかないでしょ」
「俺、手で食うわ……!」
それこそ食い気味で言えば「コウこそ何言ってんの。そんな野蛮なことさせられないよ。それなら俺、お昼いいからコウ一人で食べて」と弁当を渡そうとしてくる。
「そんなことさせられるわけないだろ……! お前が腹空かしてる横で一人、弁当食うようなやつだと思うか? つかどっちかが先に半分食って次に残りをってすればいいだろ」
「待ってる間お預け状態で? いいよ、俺はいらないから煌一人で食べて」
「ああクソ……!」
結果、また笑みを浮かべた実邦に「コウ、アーン」などと言われながら今、唐揚げを口に放り込まれている。
昼休みに何故か実邦が煌の教室までやって来たので、姿を見た瞬間に煌は弁当箱を持って実邦を凄まじい勢いである意味拉致していた。そして中庭の人気がなさそうなところまで来るとつかんでいた腕を離し、見上げながら早速文句を告げた。
屋上が解放されているならここは是非屋上へ行きたかったが、現実の屋上はいつだって出入り口が施錠されている立ち入り禁止区域だ。あれほどBL本ではカップルやこれからカップルになる予定の二人がやたらめったら屋上に集合しているというのに非常に残念だと煌は常々思っている。もし解放されていたら現実でもひょっとしたらレミングの集団のようにカップルの一組や二組、五組や十組が屋上へはせ参じていたかもしれないし、煌はその様子をこっそり堪能できていたかもしれない。
って、待て。その法則で考えるなら俺とサネもこれからカップルになる予定の二人ってことになっちゃうだろ馬鹿。屋上になんか開いてても今行くべきとこじゃねえからな俺。中庭で十分。
「コウ? また変な世界に行ってるの?」
「っ、行きかけてたけどいつもの世界じゃねえし!」
慌てて言い返すと「他にも世界が……?」などと怪訝な顔をされた。
「そんなにたくさんの世界がコウの中にはあるんだね。楽しそうで何よりだけど」
「煩い。とにかく答えて。何であんなこと、草壁くんに言っちゃうの」
「何でって、事実でしょ?」
「事実じゃ……」
ねえ、と言いかけて煌は口を開けたまま留まった。事実ではないが実邦が嘘を言ったわけでもない。いや、本当に付き合ってはいないが実邦の中では煌のためか実際に付き合うことになっているらしいから、いちおうは振りながらも本当に付き合って──
「ああもうややこしい……!」
「? コウが何をこんがらがらせているのかわからないけど、単純なことでしょ? 俺とコウは付き合ってる。俺がヤキモチをやくからコウはあまりあれと二人でいないで欲しい。それもあってあれには付き合ってるから気をつけてとくぎを刺しておいた。それだけの話だよ」
「そうかもしれないけどそうじゃない……!」
バッと手で顔を覆い嘆いた拍子に脇腹と腕で支えていた弁当の包みが落ちそうになった。慌ててつかみなおそうとする前に実邦が弁当箱を持ってくれる。
「とにかくお昼だし、ご飯食べよう」
「それは反対しないけど……サネ、持ってきてねーじゃん」
「コウに拉致されたからね」
「ぅ。なら購買か学食に行けよ。話はあとでもいい」
「まだ何かあるの?」
「大ありだわ」
「じゃあここでとりあえずコウのお弁当、半分こしよ。ついでに話せばいいでしょ」
「半分とか足りるわけないだろ」
「食べ終えて話も終わったら後で学食行けばいいでしょ。俺がおごるよ」
「マジ? え、やった!」
だいたい母親が普段弁当を用意してくれているので学食にはあまり縁がない。おまけにもし事情があって弁当がない日があったとしても、いつも本などにつぎ込んでしまう煌の有り金はあまりに少ないので買えてもコンビニエンスストアか購買の安いパンだ。本に小遣いをつぎ込んでいることをあえて口にしたくないがために、母親にも「パンもほぼ買えないから弁当ないと飢える」などとも言えない。
とはいえ何の理由もなく実邦におごられるのは嫌だったりする。いくら幼馴染でも最低限の遠慮くらいは煌も一応かろうじて、したい。だが今は別だ。弁当を半分こするからという理由がある。
久しぶりの学食を思ってニコニコしていると実邦も珍しく微笑んできた。もちろん普段も笑ったり一応しているのだが、普通に微笑むところはあまり見た記憶がないので思わず煌はまた手で顔を覆う。
「今度は何?」
「おま、いきなり貴重なシーン見せてくるなよ」
「ちょっとコウが何言ってるのかわからないんだけど」
「俺がお前の顔好きなの知ってるだろ。不意打ち禁止。いや、ご馳走様ですなんだけど心臓に悪いから!」
「……ふぅん?」
ようやく落ち着いて顔を上げると、実邦がまたニッコリと煌を見てきた。さすがに少々わざとらしい笑みだけに先ほどのような衝撃はないものの眼福には違いない。
「……お前、わざとだろ」
「喜んでくれるかなと思って」
「……はぁ。とりあえず飯食おーぜ」
「そうだね。じゃあ俺が食べさせてあげる。それとも煌が食べさせてくれる?」
「はい?」
耳掃除はあまりやりすぎると逆効果らしい。とはいえずっとやらないのもどうかと思う。
こないだやったけど、もしかして耳掃除すべきかな。
思わずそんな風に思う。
「何か耳つまってんのか聞き間違えたわ。何て?」
「食べさせ合おうねって」
「いや、聞き間違えてなかったわ……お前何言ってんの? そんなこと、するわけねーだろ」
ドン引きしながら言えば実邦は淡々とした様子で弁当の袋を開けながら箸を出してきた。
「箸。一つしかないでしょ」
「俺、手で食うわ……!」
それこそ食い気味で言えば「コウこそ何言ってんの。そんな野蛮なことさせられないよ。それなら俺、お昼いいからコウ一人で食べて」と弁当を渡そうとしてくる。
「そんなことさせられるわけないだろ……! お前が腹空かしてる横で一人、弁当食うようなやつだと思うか? つかどっちかが先に半分食って次に残りをってすればいいだろ」
「待ってる間お預け状態で? いいよ、俺はいらないから煌一人で食べて」
「ああクソ……!」
結果、また笑みを浮かべた実邦に「コウ、アーン」などと言われながら今、唐揚げを口に放り込まれている。
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