13 / 20
13話
しおりを挟む
何だろうこの流されている感じ、と煌は首を傾げた。何故傾げたかというと流されているようにしか思えないものの、いまいちよくわからないからだ。
例えば付き合うのはいらないといった話をしても気づけば別の話になっている。そしてうやむやになっている。それは間違いない。ただ煌がその流れを自覚できていない。自ら「ああ、話題が変わったがまあいい、新しい話題に乗ろう」と思っているのではなく、ただひたすら実邦とやり取りをしていて気づけばうやむやになっていた、が気づいた時にはもう実邦はここにいない的な状況というのだろうか。
だから流されているとしか思えないものの、煌としては明確にわかっていない。もちろん話題が変わったと気づく時もあるが、そういう時も流れ的にそのまま会話を続けることに煌も異論ない場合だったりする。
どうすりゃいいんだろな。サネが何言おうがひたすら「付き合わない」「俺はBLの登場人物にならない、なっても空気か埃」とだけひたすら言う? でもそれしか言わないとか、アレな付き合いどころか友だちすらやめたくなる案件だよな、俺ならそんなやつヤだ。
ただでさえ煌に親しい友人は多くない。全然いないわけではないが、多くはない。なので皆貴重な存在だと思う。おまけに実邦のことは幼馴染だし昔からずっと一緒なだけに、友人としての付き合いすらなくなるなどつらすぎる。はっきり言って好きは好きなのだ。ただそういう付き合いができないだけで。
実邦のいない生活が想像できない程度には実邦の存在は当たり前すぎるくらい煌の一部となっている。もはや風景や空気とさえ言えるかもしれない。当たり前すぎて普段は気にしなくとも、なくてはならないものだ。
でも、だからといって付き合うとかは違うだろぉ……!
「ほら、また遠いとこに行ってる。危ないから気をつけて」
「あ、悪い」
実邦に引き寄せられ、煌は即謝る。二人の横を、あまり広くはない住宅街の道を、車が通っていった。学校へ行くまでのいつもの光景でもある。前に「コウはすぐ遠いとこ行ってハラハラするから俺がそっち側歩きたいんだけど」と言われたことがあるのだが、それは断らせてもらっていた。何故なら立ち位置があるからなのだが、それを実邦に言えば「そう。わかった。じゃあ仕方ない」と全然わかってなさそうな顔で言われた。それを他の数少ない友だちに言っても「漫才かよ」「なん、立ち位置って」と言われる。煌としては歩いたり二人で並んだりする時に自分は絶対左側が落ち着くのだが、あまりわかってもらえないようだ。もちろんBLの左右のことでは決してないし、むしろそうだとしたら口にできない。
悪い、と言ってからタイムラグが発生した後、煌はじわじわと変な意識をしつつさりげに実邦から少し離れる。それに気づいているだろうに、実邦は特に何の反応もなかった。
……何か俺ばっか意識してて、これじゃあ俺が付き合おうって言った側みたい。
実際、やはり実邦は特に変わらない。キスの時以外は、という注釈つきだが、昔からの実邦だ。車に気をつけろと煌を引き寄せることも特別なことではなく日常茶飯事だ。
それならいっそ付き合ってみても、と思った後でキスされた時のことが浮かぶ。
あれは駄目だ。あれは馬鹿になるやつだ。わけがわからなくなってもうどうでもよくなるやつだ。
第三者の目でそれを堪能するのはいい。むしろ歓迎するが、自分はごめんこうむりたい。
「どうして?」
「どうしてってお前……、……え、何、何だよ、何で? サネは俺の考え読めるの?」
それはなと言いかけたところでハッとなり、引いたような顔で実邦を見上げた。
「現実でそれがあり得ると思う? あり得るなら俺ももう少し楽なんだけど。ああいや、でもコウはわかりやすいから意味ないかな」
「どういう意味だよ、っていや、そうじゃなくて、どうしてってどういうこと」
「コウ、考え漏れてたよ」
「え」
「口にしてた」
誰か穴掘って……! 俺が埋まれるくらいの……!
顔が熱くなるのを感じながら「気にするな……」とだけ何とか口にした。キスごときでわけがわからなくなると自ら実邦に伝えたようなものだ。居たたまれないしつらい。
「それは無理でしょ。だって俺も当事者だし」
「当事者って何だよ……」
「俺とキスしたら馬鹿になるの? わけがわからなくなってどうでもよくなるの?」
「今すぐ俺にひどく殴られて記憶飛ばすのと車道に突っ込んで記憶飛ばすのどっちがいい」
「どっちも嫌かな。どうでもよくなるくらい気持ちがいいってことでしょ。なのに何でごめんこうむりたいの?」
「そろそろ黙らない?」
「コウは何でそんなに嫌がるの? 他の人だと歓迎するくせに」
「あ、当たり前だろ」
「何が当たり前なの? 誰かを好きになるのに性別は関係ないんじゃないの? 前にそれがまたモエルって言ってなかった?」
「そ、れとこれとは別なの」
「何故?」
「何故ってお前……」
それは、と説明しかけて煌は口をつぐんだ。上手い説明がない。いや、「俺は男に興味がないから」と言えばいいだけの話なのだが、本気で首を傾げている実邦相手にそう言ってもまた「何故」と言われそうな気がする。
つい「そもそも何で俺は男が駄目なんだっけ」と考えそうになり、首を振った。
アイデンティティだよ……!
何となくまた流されているような気がしてならない。
例えば付き合うのはいらないといった話をしても気づけば別の話になっている。そしてうやむやになっている。それは間違いない。ただ煌がその流れを自覚できていない。自ら「ああ、話題が変わったがまあいい、新しい話題に乗ろう」と思っているのではなく、ただひたすら実邦とやり取りをしていて気づけばうやむやになっていた、が気づいた時にはもう実邦はここにいない的な状況というのだろうか。
だから流されているとしか思えないものの、煌としては明確にわかっていない。もちろん話題が変わったと気づく時もあるが、そういう時も流れ的にそのまま会話を続けることに煌も異論ない場合だったりする。
どうすりゃいいんだろな。サネが何言おうがひたすら「付き合わない」「俺はBLの登場人物にならない、なっても空気か埃」とだけひたすら言う? でもそれしか言わないとか、アレな付き合いどころか友だちすらやめたくなる案件だよな、俺ならそんなやつヤだ。
ただでさえ煌に親しい友人は多くない。全然いないわけではないが、多くはない。なので皆貴重な存在だと思う。おまけに実邦のことは幼馴染だし昔からずっと一緒なだけに、友人としての付き合いすらなくなるなどつらすぎる。はっきり言って好きは好きなのだ。ただそういう付き合いができないだけで。
実邦のいない生活が想像できない程度には実邦の存在は当たり前すぎるくらい煌の一部となっている。もはや風景や空気とさえ言えるかもしれない。当たり前すぎて普段は気にしなくとも、なくてはならないものだ。
でも、だからといって付き合うとかは違うだろぉ……!
「ほら、また遠いとこに行ってる。危ないから気をつけて」
「あ、悪い」
実邦に引き寄せられ、煌は即謝る。二人の横を、あまり広くはない住宅街の道を、車が通っていった。学校へ行くまでのいつもの光景でもある。前に「コウはすぐ遠いとこ行ってハラハラするから俺がそっち側歩きたいんだけど」と言われたことがあるのだが、それは断らせてもらっていた。何故なら立ち位置があるからなのだが、それを実邦に言えば「そう。わかった。じゃあ仕方ない」と全然わかってなさそうな顔で言われた。それを他の数少ない友だちに言っても「漫才かよ」「なん、立ち位置って」と言われる。煌としては歩いたり二人で並んだりする時に自分は絶対左側が落ち着くのだが、あまりわかってもらえないようだ。もちろんBLの左右のことでは決してないし、むしろそうだとしたら口にできない。
悪い、と言ってからタイムラグが発生した後、煌はじわじわと変な意識をしつつさりげに実邦から少し離れる。それに気づいているだろうに、実邦は特に何の反応もなかった。
……何か俺ばっか意識してて、これじゃあ俺が付き合おうって言った側みたい。
実際、やはり実邦は特に変わらない。キスの時以外は、という注釈つきだが、昔からの実邦だ。車に気をつけろと煌を引き寄せることも特別なことではなく日常茶飯事だ。
それならいっそ付き合ってみても、と思った後でキスされた時のことが浮かぶ。
あれは駄目だ。あれは馬鹿になるやつだ。わけがわからなくなってもうどうでもよくなるやつだ。
第三者の目でそれを堪能するのはいい。むしろ歓迎するが、自分はごめんこうむりたい。
「どうして?」
「どうしてってお前……、……え、何、何だよ、何で? サネは俺の考え読めるの?」
それはなと言いかけたところでハッとなり、引いたような顔で実邦を見上げた。
「現実でそれがあり得ると思う? あり得るなら俺ももう少し楽なんだけど。ああいや、でもコウはわかりやすいから意味ないかな」
「どういう意味だよ、っていや、そうじゃなくて、どうしてってどういうこと」
「コウ、考え漏れてたよ」
「え」
「口にしてた」
誰か穴掘って……! 俺が埋まれるくらいの……!
顔が熱くなるのを感じながら「気にするな……」とだけ何とか口にした。キスごときでわけがわからなくなると自ら実邦に伝えたようなものだ。居たたまれないしつらい。
「それは無理でしょ。だって俺も当事者だし」
「当事者って何だよ……」
「俺とキスしたら馬鹿になるの? わけがわからなくなってどうでもよくなるの?」
「今すぐ俺にひどく殴られて記憶飛ばすのと車道に突っ込んで記憶飛ばすのどっちがいい」
「どっちも嫌かな。どうでもよくなるくらい気持ちがいいってことでしょ。なのに何でごめんこうむりたいの?」
「そろそろ黙らない?」
「コウは何でそんなに嫌がるの? 他の人だと歓迎するくせに」
「あ、当たり前だろ」
「何が当たり前なの? 誰かを好きになるのに性別は関係ないんじゃないの? 前にそれがまたモエルって言ってなかった?」
「そ、れとこれとは別なの」
「何故?」
「何故ってお前……」
それは、と説明しかけて煌は口をつぐんだ。上手い説明がない。いや、「俺は男に興味がないから」と言えばいいだけの話なのだが、本気で首を傾げている実邦相手にそう言ってもまた「何故」と言われそうな気がする。
つい「そもそも何で俺は男が駄目なんだっけ」と考えそうになり、首を振った。
アイデンティティだよ……!
何となくまた流されているような気がしてならない。
0
お気に入りに追加
87
あなたにおすすめの小説
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)
夏目碧央
BL
兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。
ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?
一見くんと壱村くん。
雪 いつき
BL
高校三年の始業式。黒板が見えない……と困った壱村は、前の席の高身長イケメン、一見に席を替わって欲しいと頼む。
見た目よりも落ち着いた話し方をすると思っていたら、やたらとホストのような事を言う。いや、でも、実は気が弱い……? これは俺が守らなければ……? そう思っていたある日、突然一見に避けられるようになる。
勢いのままに問い詰める壱村に、一見は「もう限界だ……」と呟いた。一見には、他人には言えない秘密があって……?
185cm天然ホスト気弱イケメン×160cm黙っていれば美少女な男前男子の、ゆるふわ執着系なお話。
有能社長秘書のマンションでテレワークすることになった平社員の俺
高菜あやめ
BL
【マイペース美形社長秘書×平凡新人営業マン】会社の方針で社員全員リモートワークを義務付けられたが、中途入社二年目の営業・野宮は困っていた。なぜならアパートのインターネットは遅すぎて仕事にならないから。なんとか出社を許可して欲しいと上司に直談判したら、社長の呼び出しをくらってしまい、なりゆきで社長秘書・入江のマンションに居候することに。少し冷たそうでマイペースな入江と、ちょっとビビりな野宮はうまく同居できるだろうか? のんびりほのぼのテレワークしてるリーマンのラブコメディです
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である
理香は俺のカノジョじゃねえ
中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる