BLに俺を登場させないで

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13話

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 何だろうこの流されている感じ、と煌は首を傾げた。何故傾げたかというと流されているようにしか思えないものの、いまいちよくわからないからだ。
 例えば付き合うのはいらないといった話をしても気づけば別の話になっている。そしてうやむやになっている。それは間違いない。ただ煌がその流れを自覚できていない。自ら「ああ、話題が変わったがまあいい、新しい話題に乗ろう」と思っているのではなく、ただひたすら実邦とやり取りをしていて気づけばうやむやになっていた、が気づいた時にはもう実邦はここにいない的な状況というのだろうか。
 だから流されているとしか思えないものの、煌としては明確にわかっていない。もちろん話題が変わったと気づく時もあるが、そういう時も流れ的にそのまま会話を続けることに煌も異論ない場合だったりする。

 どうすりゃいいんだろな。サネが何言おうがひたすら「付き合わない」「俺はBLの登場人物にならない、なっても空気か埃」とだけひたすら言う? でもそれしか言わないとか、アレな付き合いどころか友だちすらやめたくなる案件だよな、俺ならそんなやつヤだ。

 ただでさえ煌に親しい友人は多くない。全然いないわけではないが、多くはない。なので皆貴重な存在だと思う。おまけに実邦のことは幼馴染だし昔からずっと一緒なだけに、友人としての付き合いすらなくなるなどつらすぎる。はっきり言って好きは好きなのだ。ただそういう付き合いができないだけで。
 実邦のいない生活が想像できない程度には実邦の存在は当たり前すぎるくらい煌の一部となっている。もはや風景や空気とさえ言えるかもしれない。当たり前すぎて普段は気にしなくとも、なくてはならないものだ。

 でも、だからといって付き合うとかは違うだろぉ……!

「ほら、また遠いとこに行ってる。危ないから気をつけて」
「あ、悪い」

 実邦に引き寄せられ、煌は即謝る。二人の横を、あまり広くはない住宅街の道を、車が通っていった。学校へ行くまでのいつもの光景でもある。前に「コウはすぐ遠いとこ行ってハラハラするから俺がそっち側歩きたいんだけど」と言われたことがあるのだが、それは断らせてもらっていた。何故なら立ち位置があるからなのだが、それを実邦に言えば「そう。わかった。じゃあ仕方ない」と全然わかってなさそうな顔で言われた。それを他の数少ない友だちに言っても「漫才かよ」「なん、立ち位置って」と言われる。煌としては歩いたり二人で並んだりする時に自分は絶対左側が落ち着くのだが、あまりわかってもらえないようだ。もちろんBLの左右のことでは決してないし、むしろそうだとしたら口にできない。
 悪い、と言ってからタイムラグが発生した後、煌はじわじわと変な意識をしつつさりげに実邦から少し離れる。それに気づいているだろうに、実邦は特に何の反応もなかった。

 ……何か俺ばっか意識してて、これじゃあ俺が付き合おうって言った側みたい。

 実際、やはり実邦は特に変わらない。キスの時以外は、という注釈つきだが、昔からの実邦だ。車に気をつけろと煌を引き寄せることも特別なことではなく日常茶飯事だ。
 それならいっそ付き合ってみても、と思った後でキスされた時のことが浮かぶ。

 あれは駄目だ。あれは馬鹿になるやつだ。わけがわからなくなってもうどうでもよくなるやつだ。

 第三者の目でそれを堪能するのはいい。むしろ歓迎するが、自分はごめんこうむりたい。

「どうして?」
「どうしてってお前……、……え、何、何だよ、何で? サネは俺の考え読めるの?」

 それはなと言いかけたところでハッとなり、引いたような顔で実邦を見上げた。

「現実でそれがあり得ると思う? あり得るなら俺ももう少し楽なんだけど。ああいや、でもコウはわかりやすいから意味ないかな」
「どういう意味だよ、っていや、そうじゃなくて、どうしてってどういうこと」
「コウ、考え漏れてたよ」
「え」
「口にしてた」

 誰か穴掘って……! 俺が埋まれるくらいの……!

 顔が熱くなるのを感じながら「気にするな……」とだけ何とか口にした。キスごときでわけがわからなくなると自ら実邦に伝えたようなものだ。居たたまれないしつらい。

「それは無理でしょ。だって俺も当事者だし」
「当事者って何だよ……」
「俺とキスしたら馬鹿になるの? わけがわからなくなってどうでもよくなるの?」
「今すぐ俺にひどく殴られて記憶飛ばすのと車道に突っ込んで記憶飛ばすのどっちがいい」
「どっちも嫌かな。どうでもよくなるくらい気持ちがいいってことでしょ。なのに何でごめんこうむりたいの?」
「そろそろ黙らない?」
「コウは何でそんなに嫌がるの? 他の人だと歓迎するくせに」
「あ、当たり前だろ」
「何が当たり前なの? 誰かを好きになるのに性別は関係ないんじゃないの? 前にそれがまたモエルって言ってなかった?」
「そ、れとこれとは別なの」
「何故?」
「何故ってお前……」

 それは、と説明しかけて煌は口をつぐんだ。上手い説明がない。いや、「俺は男に興味がないから」と言えばいいだけの話なのだが、本気で首を傾げている実邦相手にそう言ってもまた「何故」と言われそうな気がする。
 つい「そもそも何で俺は男が駄目なんだっけ」と考えそうになり、首を振った。

 アイデンティティだよ……!

 何となくまた流されているような気がしてならない。
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