BLに俺を登場させないで

１１話

「コウは何でそうなんだろうな」

　学校からの帰り道に実邦がぼそりと呟いてきた。

「そう、って？　ああ、妄想たくましいってこと？」
「別にそれはいいよ。好きに妄想してて」
「いいの？　じゃあ何だよ」
「鈍いし無防備」
「は？　何そのBLの受けが攻めに言われるあるあるセリフ」
「それはごめん、知らないけど、でも実際そうだから」
「心当たりないんだけど」

　むしろ色々察知してて敏感だと思うぞと煌は内心自分に頷く。

「あとむやみにあいつに髪、触らせないで」
「え？　ああ、あれ……っていうか何でサネが知ってんの？」
「俺が何を知ってようが今はそんなこと言ってない」

　待って、まさか本当にモヤってたりヤキモチを……？　俺の妄想が現実に……？

「……コウ。言っておくけどあいつがコウ以外の誰とどうしようが全く興味ないからね？」
「ですよね……！　あ、じゃあ何で」

　怪訝な顔を向けると、実邦は真顔で「だって俺とコウ、付き合ってるでしょ」と返してきた。思わず煌も真顔になる。

「どうかした？」
「は？　あ、え、いや、えっと、た、確かにそういう流れになった、んかも、だけど」
「俺、大切だと思っている人との付き合いではね、いい加減なのってあまり好きじゃないんだ」

　いつもふわりとぼんやりしているか、適当に受け流しているかといった実邦が言ってきた言葉があまりにも実邦から出た言葉として耳慣れなさ過ぎて煌は固まった。

「コウ？　聞いてる？」
「え、あ、はい」
「なら相手に誠実になるべきだと思うんだけど、どうかな？　俺はね、コウに誠実だって断言できるよ」
「え、いや、でも、だって、ああ、そうそう、だって別に本気で付き合ってるんじゃ……？」
「本気かどうかとか付き合ってる云々さておいても昔から一緒にいるような相手にはきちんと向き合うものだと俺は思ってるけど。ちょっと悲しいね、コウが俺に対していい加減なのって。確かにあの流れなら仕方ないけど、でもやっぱり悲しいな。昔からずっと一緒だったと思ってたし」
「そ、そんなんじゃないし、俺はお前に対していい加減なこととかしねぇし！」
「そう。よかった。ホッとしたよコウ」
「うん」

　本当にホッとしたように嬉しそうな顔を見せてくる実邦に、煌もつい嬉しくなって顔がほころんだ。そもそもイケメンの笑顔、ご褒美でしかない。
　とりあえず一件落着かとすっきりした、つもりだったが何だか妙に引っかかるというかすっきりしないというか、違和感がある。おかしいなと首をかしげていると「とにかく、俺とコウは何であれ付き合ってるんだからね、そういうところはちゃんとしなきゃ」と言われた。実邦の「いい加減なのはあまり好きじゃない」という言葉が思い出され、煌は「いい加減なことはしない」と即答する。
　だがその後でまた変な違和感というか引っかかりを感じた。何だろうとまた考えようとしたところで「コウ、今日は家に来る？」と聞かれた。

「ん？」
「この間途中までやってたとこ、攻略の仕方わかったんだけど」
「行く」

　もちろんまた即答した。どうやっても進めなかったところがこれで進むし楽しみでしかない。ほくほくと実邦の家へ向かった。
　ゲームは満足の結果だった。難しかったりわからなかったところがスムーズに進むって何でこんなに楽しいんだろうと思いながらずいぶん先へ進めたような気がする。かなり夢中になったのもあるが、昨夜は中々眠れなかったのもありいつも以上に襲ってきた眠気がひどかった。

「寝てていいよ」
「……うん」

　制服のズボンを脱ぐと実邦がそれをたたみながら「制服だしシャツも脱いでおきなよ。そのまま寝たらシワになるだけでしょ」と言ってくる。もっともだし眠くて考えるのも面倒だしと煌は無言のままシャツのボタンを外し、それも脱いだ。Tシャツと下着だけになってベッドの中に潜り込む。手足が直接布団にあたって気持ちがいい。おかげで即眠れそうだった。
　眠りに陥る前にまたふと何か引っかかりのようなものが頭の片隅に浮かんだが起きてから考えればいいかと意識を手放した。
　おかげでぐっすりと眠れた。起きた時はいつものように妙にすっきりとした気持ちになっている。ただトイレへ行く夢を見たからだろうか、なんとなく大便をした後のような感覚に、煌は微妙な顔でそっと自分の尻に手を回した。

「どうしたの？」
「いや、うんこ漏らしてないかなって……」
「何言ってんの」

　実邦が苦笑しながらコーヒーのカップを差し出してきた。それをありがたく受け取り口にする。相変わらず実邦の淹れたコーヒーが美味しくてホッとする。だからだろうか、頭の中もすっきりしてかずっと感じていた引っかかりが何かわかった。

　だからそもそも付き合ってねえし……！　大切な相手ではそりゃあるけど、俺ら別に本当に付き合うことになったわけじゃなくね？

　確かに実邦は煌のためか「俺が男とくっついて、しかもコウが間近で見られる方法」「俺とコウがくっついたらいいんじゃない？」などと言ってきた。ファーストキスまでその時に奪われた。だがそれだけだった。いや、それだけと言っていいのかわからないが、とにかくそれだけだった。くっつけばいいと言われキスはされたが「付き合おう」「はい」なんてやり取りはしていない。

「サネ」
「何」
「俺らって別に付き合ってなくね？　だってサネはくっついたらいいんじゃないかって提案してきたけど、じゃあそうしよう、わかりましたなんてやり取りはしてなくね？」