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10話
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授業が終わると教師がやって来て「お前またぼんやりしてただろ。気をつけろよ」と煌の頭をくしゃくしゃにしていった。
「ちょっとせんせぇ! もー」
確かにおしゃれでも何でもない髪型かもしれないし、はたから見たらぼさぼさなのかもしれないが、これでも一応多少は気をつかっている。手櫛で整えようとしたら倭が立ち上がって「災難だな」と笑いながら髪を整えてくれた。
「ありがとう草壁くん」
「いえいえ」
そういや髪を触るのって案外深い関係にあるとかそういうの、なかったっけ? 俺と草壁くんはまあ当然当てはまらないけど、これがサネと草壁くんだったら……いいよな、うん、いい。
また妄想の世界に入り込もうとしていると「新垣ってちっちゃいよな」とまだ髪を撫でながら倭が言ってきた。
「……俺はそんなちっちゃくないから。草壁くんがでかすぎるんだよ」
確かに中の下の身長かもしれないが、決して小さいわけではない。多分この歳だと普通サイズ範疇だし、成長期限にはまだ余裕で猶予がある。倭やついでに実邦がでかいだけだ。
そういえば多分、ちょこっとだけサネより草壁くんのがでかい、んだろかな? 二人とも俺より十センチは少なくともでかいから、近くで見たらあんま違いわかんねーけど、多分草壁くんのが大きい、はず。
「……何してるんだ?」
座っていた煌は椅子から離れると倭の隣にくっつくようにして立っていた。実邦とは昔から一緒だから隣に立った時の感覚とかも覚えている。なので倭の隣に立てば実邦との違いもわかるのではと思った。
「え? あーちょっと確認?」
「何の?」
倭の困惑したような声に、煌はハッとなった。友だちだからとはいえ近すぎたのだろうか。男同士でこれは気持ち悪い行動だっただろうか。とはいえくっつくほど近いものの並んでいるだけだ。中学生の頃を思い返せばこれよりもっと近いというか、羽交い絞めにしたりされたりして馬鹿やっていた気がする。別にそれで普通だったし違和感など全くなかった。
今も煌は全く違和感がなかったが、もしかしたら男子校では控えるべきなのだろうか。そう考えが至ったところで思わずニヤニヤしそうになった。男子校だからあえて友だちでもわちゃわちゃとした馬鹿なやり取りを控えるなどと、むしろ「男子校だからそういう恋愛もあり得るため気をつけなければいけない」という暗黙の了解のようで堪らない。
「……新垣、何だか嬉しそうに見えるけど」
ニヤニヤしそうになったのではなく、もうしていたらしい。
つかそりゃそうですね、嬉しいっていうかさ、男子校だからという理由が本当にあればいいなと今妄想してたところだからね!
「まぁ」
「……何で?」
「そりゃ……」
男子校やはりいいなと思ったからなどとは言わないほうがいいと途中で気づく。倭には同じ腐男子疑惑があるものの、決定しているわけではない。危険を冒してはならない。
「草壁くんのこと好きだしな」
なので爽やかな風を装って友情の守りに入っておいた。だが倭は何とも言い難い表情をしてきた。
待って、やっぱり男子校あるあるは存在するの? 草壁くんはそれを警戒してるの? それとも同じ腐男子だからそういう発想になって困ってるの?
どれであっても煌としては歓迎だがそれを直接聞けないジレンマに陥りそうだ。
いや、もしかしたら俺に好きと言われるのはさすがに引く、とか思ってる可能性だってあるよな。草壁くん思ってた以上に優しいから口には出さないだけで。つか友だちだとは思ってくれてるよな? まさか、こいつよく絡んでくるから仕方なく相手してるけど友だち面されて困るわとか思われてないよな? いやいや、うん、さすがにそれはないわ。
一瞬切ない発想に陥りそうになったが気を取り直す。
いっそさあ、何ならここでサネがやってきて、俺と草壁くんとの間柄を勘違いして、いつも喧嘩ばかりしている草壁くんに対してモヤったりしてとうとう自覚しちゃうとか、そういう展開もありじゃね? あり。
うんうんと頷いていると、隣に立っている倭がまた煌の髪を、というか頭を撫でてきた。手つきが優しい。
……何つーか愛情深いというか、まるで同情されてるような気がするんだけど、俺、今の妄想とか口にしちゃってないよな? 痛いやつだな、同情するわ的な感じじゃねえよな?
「今、新垣色んな表情してた」
「そ、そう?」
プラスからマイナス的発想まで一気に押し寄せてきていたからかな。
「何かかわ……」
「かわ?」
「ああいや。今川口が教室に戻ってきたなぁって。そろそろ休み時間終わりかな」
「ああ、そうかも」
「……にしても新垣の髪、柔らかいな」
「そう? すぐぼさぼさになんだよね。やらかいからなんかな。俺は草壁くんみたいにカッコよく決まる髪が羨ましい」
ただでさえイケメンなのに髪までイケメンとかずるくない? いや、目と心の保養だからいいんだけどね。
そう思いながらようやく倭を見上げると、顔を赤らめていた。さすがにさっきからずっとではないだろう、多分髪を褒めたからだろうか。
イケメンなのにほんと控えめだな。髪褒めただけで赤くなる?
さすが爽やか系、と煌は微笑ましく思った。
「ちょっとせんせぇ! もー」
確かにおしゃれでも何でもない髪型かもしれないし、はたから見たらぼさぼさなのかもしれないが、これでも一応多少は気をつかっている。手櫛で整えようとしたら倭が立ち上がって「災難だな」と笑いながら髪を整えてくれた。
「ありがとう草壁くん」
「いえいえ」
そういや髪を触るのって案外深い関係にあるとかそういうの、なかったっけ? 俺と草壁くんはまあ当然当てはまらないけど、これがサネと草壁くんだったら……いいよな、うん、いい。
また妄想の世界に入り込もうとしていると「新垣ってちっちゃいよな」とまだ髪を撫でながら倭が言ってきた。
「……俺はそんなちっちゃくないから。草壁くんがでかすぎるんだよ」
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そういえば多分、ちょこっとだけサネより草壁くんのがでかい、んだろかな? 二人とも俺より十センチは少なくともでかいから、近くで見たらあんま違いわかんねーけど、多分草壁くんのが大きい、はず。
「……何してるんだ?」
座っていた煌は椅子から離れると倭の隣にくっつくようにして立っていた。実邦とは昔から一緒だから隣に立った時の感覚とかも覚えている。なので倭の隣に立てば実邦との違いもわかるのではと思った。
「え? あーちょっと確認?」
「何の?」
倭の困惑したような声に、煌はハッとなった。友だちだからとはいえ近すぎたのだろうか。男同士でこれは気持ち悪い行動だっただろうか。とはいえくっつくほど近いものの並んでいるだけだ。中学生の頃を思い返せばこれよりもっと近いというか、羽交い絞めにしたりされたりして馬鹿やっていた気がする。別にそれで普通だったし違和感など全くなかった。
今も煌は全く違和感がなかったが、もしかしたら男子校では控えるべきなのだろうか。そう考えが至ったところで思わずニヤニヤしそうになった。男子校だからあえて友だちでもわちゃわちゃとした馬鹿なやり取りを控えるなどと、むしろ「男子校だからそういう恋愛もあり得るため気をつけなければいけない」という暗黙の了解のようで堪らない。
「……新垣、何だか嬉しそうに見えるけど」
ニヤニヤしそうになったのではなく、もうしていたらしい。
つかそりゃそうですね、嬉しいっていうかさ、男子校だからという理由が本当にあればいいなと今妄想してたところだからね!
「まぁ」
「……何で?」
「そりゃ……」
男子校やはりいいなと思ったからなどとは言わないほうがいいと途中で気づく。倭には同じ腐男子疑惑があるものの、決定しているわけではない。危険を冒してはならない。
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待って、やっぱり男子校あるあるは存在するの? 草壁くんはそれを警戒してるの? それとも同じ腐男子だからそういう発想になって困ってるの?
どれであっても煌としては歓迎だがそれを直接聞けないジレンマに陥りそうだ。
いや、もしかしたら俺に好きと言われるのはさすがに引く、とか思ってる可能性だってあるよな。草壁くん思ってた以上に優しいから口には出さないだけで。つか友だちだとは思ってくれてるよな? まさか、こいつよく絡んでくるから仕方なく相手してるけど友だち面されて困るわとか思われてないよな? いやいや、うん、さすがにそれはないわ。
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いっそさあ、何ならここでサネがやってきて、俺と草壁くんとの間柄を勘違いして、いつも喧嘩ばかりしている草壁くんに対してモヤったりしてとうとう自覚しちゃうとか、そういう展開もありじゃね? あり。
うんうんと頷いていると、隣に立っている倭がまた煌の髪を、というか頭を撫でてきた。手つきが優しい。
……何つーか愛情深いというか、まるで同情されてるような気がするんだけど、俺、今の妄想とか口にしちゃってないよな? 痛いやつだな、同情するわ的な感じじゃねえよな?
「今、新垣色んな表情してた」
「そ、そう?」
プラスからマイナス的発想まで一気に押し寄せてきていたからかな。
「何かかわ……」
「かわ?」
「ああいや。今川口が教室に戻ってきたなぁって。そろそろ休み時間終わりかな」
「ああ、そうかも」
「……にしても新垣の髪、柔らかいな」
「そう? すぐぼさぼさになんだよね。やらかいからなんかな。俺は草壁くんみたいにカッコよく決まる髪が羨ましい」
ただでさえイケメンなのに髪までイケメンとかずるくない? いや、目と心の保養だからいいんだけどね。
そう思いながらようやく倭を見上げると、顔を赤らめていた。さすがにさっきからずっとではないだろう、多分髪を褒めたからだろうか。
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