BLに俺を登場させないで

Guidepost

文字の大きさ
上 下
7 / 20

7話

しおりを挟む
「何で」

 肩をつかまれたまま、煌は怪訝な顔で実邦を見た。

「いや、実際俺をあんなやつとそういう対象にして見るのはやめて欲しいけど、別にコウの趣味を否定したいわけじゃないんだ。だから不快だとか、そんな気持ちをコウには持ってないよ。だから謝らないで」

 実邦が少し悲しげに言う。申し訳ないが美形のそんな表情は煌にとってわりとご褒美ではある。思わずじっと見ているとそれに気づいた実邦が苦笑してきた。そしてため息をつきながら「ねえ、俺が誰か男を好きになると嬉しいの?」などと聞いてくる。

 とてつもなく嬉しいに決まってんだろ。

「べ、別にそういうわけじゃ……」
「……コウ、顔に出てるよ」
「はは。……で、でもあくまでも俺の妄想というか、その、サネが本当にそうなればいいと心底思ってるわけじゃねえぞ」
「何故?」
「は?」
「何でそうなればいいと思ってはいないの?」
「そ、そりゃあお前は俺の大事な幼馴染だから、ちゃんと本当に好きなやつと恋愛して欲しいと思ってるし」

 これは本当だ。もちろん実邦が男と恋愛してくれたらと願ったりもするが、是が非でもくっついて欲しいのではない。あくまでもそうだったらいいなという願望であり、実邦が誰か女を好きになり付き合うというのならそれはそれで嬉しいと思う。誰かと付き合ったことはもしかしたらあるかもしれないが、ただでさえ今までやたらモテるくせに煌の知る限りでは誰かを好きになったと聞いたことは間違いなく、ない。好きな相手ができるのなら煌としてはちゃんと祝福したい。

「ふーん。……だったらいい方法がある」
「いい方法?」
「俺が男とくっついて、しかもコウが間近で見られる方法」
「ま、マジで?」

 もしかして本当に実邦は男を好きになれるのだろうかと煌は少しドキドキした。実邦は小さく笑みを浮かべるとつかんだままだった煌の肩から手を滑らせてそのまま煌の手を取ってきた。そして両手で持ち上げてくる。

 何だこの構図。

 怪訝に思っていると実邦がさらに穏やかな表情で笑いかけてきた。改めて目の保養であり心の栄養だ。

「俺とコウがくっついたらいいんじゃない?」
「……は……、……え? い、いやいや何言ってんの? それもう俺間近で見るどころか当事者じゃねえか」
「間近すぎるくらいだから堪能しまくれるでしょ」
「ち、違う。違うんだって。前にも言ったと思うけど、俺はあくまでもそういうの見たりして楽しんでるだけ! そういう話好きでも実際そういう恋愛したいとは思わねえの、全く別物なの」
「でも俺はコウ以外の男とはさすがに無理だよ。コウなら昔から知ってるし好きだからいいけど、ね。コウも妄想たくましいんだから、当事者ながらに俯瞰して第三者的な楽しみ方できるんじゃない?」

 きっと俺のこと思ってそう提案してくれてんだろけど、犠牲精神半端ねえな……いや、犠牲なら他の男とくっついて欲しいけどな! 俺じゃ意味なさすぎ。

「俺思って言ってくれたんだろしそれは嬉しいけど、それに俺だってお前のことは昔から仲いいし好きだけど、そうじゃねえだろ……。それにいくら俺でもそんな器用なことできるかい」

 何だその無茶ぶりは、と煌はさすがに微妙な顔で実邦を見た。ついでに手を振りほどこうとしたが、さりげに持たれている感じだというのに振りほどけない。

「おい、離してくれ」
「……コウがちゃんと俺の話聞いて考えてくれたら離すよ」
「聞いてるだろ。聞いた上で、ないわっつってんの」
「でも、だったら俺は草壁どころかどの男ともくっつくつもりは今後も一切ないし、多分学校でも中々男同士イチャイチャしてるとこなんて見られないだろうね、コウは」
「そ、れならそうで仕方ないし」
「それが目的であの高校行ったんでしょ?」
「そうだけど……、あ、でも! でもこないだ俺、見たんだ。男同士で多分告白してるとこ! そんでその後そっと指つなぎなんてやっててさ、もー俺昇天しそうだった」

 その時のことを思い出し、今のよくわからない状況も忘れて目を輝かせていると実邦がまた笑みを見せてきた。何度見てもイケメンだと煌は思う。

「指つなぎだけでそんなに? だったら俺が男とキスしてるとこなんて見たらどうなっちゃうんだろうね」

 そんなの絶対死んじゃう。

 即思った後に「俺の人生に一片の悔いなしって思うから死んでもいい」と口に出していた。

「それはダメだよ……死んじゃ、ダメ……」

 優しい声で囁きながら、手をつかんだまま実邦が顔を煌に近づけてきた。息がかかる、と思った次の瞬間には実邦の唇がふわりと煌の唇に重なる。それはだがすぐに離れていった。

「……、は……」
「よかった、死んでないね」
「……、……は、はぁ……っ? おま、いきなり何してくれて……」

 思わず顔を熱くしながら煌は手の甲で唇をぬぐった。こちとらファーストキスだってのに何してくれてんだと実邦をじろりと見る。

 そりゃサネはもしかしたらキスくらいいくらでもしたことあるかもしんねーよ? だから軽く男とするくらいなんでもねえかもだけどさ! 俺はファーストキス……!

「いきなりだったから目を閉じる暇もなかったでしょ。どうだった? キスしてる俺」
「そ、れは最高だったけど相手ェェェ!」
「コウお得意の妄想で楽しめばいいでしょ」
「自分の体張ってまで楽しむ余裕はねえんだよ……!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

一見くんと壱村くん。

雪 いつき
BL
高校三年の始業式。黒板が見えない……と困った壱村は、前の席の高身長イケメン、一見に席を替わって欲しいと頼む。 見た目よりも落ち着いた話し方をすると思っていたら、やたらとホストのような事を言う。いや、でも、実は気が弱い……? これは俺が守らなければ……? そう思っていたある日、突然一見に避けられるようになる。 勢いのままに問い詰める壱村に、一見は「もう限界だ……」と呟いた。一見には、他人には言えない秘密があって……? 185cm天然ホスト気弱イケメン×160cm黙っていれば美少女な男前男子の、ゆるふわ執着系なお話。

大学生はバックヤードで

リリーブルー
BL
大学生がクラブのバックヤードにつれこまれ初体験にあえぐ。

平凡でモブ顔の男子高校生が、イケメンヤンデレ彼氏に溺愛される話

ねねこ
BL
平凡でモブ顔の男子高校生が、変態ヤンデレイケメン彼氏に溺愛される話です。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

理香は俺のカノジョじゃねえ

中屋沙鳥
BL
篠原亮は料理が得意な高校3年生。受験生なのに卒業後に兄の周と結婚する予定の遠山理香に料理を教えてやらなければならなくなった。弁当を作ってやったり一緒に帰ったり…理香が18歳になるまではなぜか兄のカノジョだということはみんなに内緒にしなければならない。そのため友だちでイケメンの櫻井和樹やチャラ男の大宮司から亮が理香と付き合ってるんじゃないかと疑われてしまうことに。そうこうしているうちに和樹の様子がおかしくなって?口の悪い高校生男子の学生ライフ/男女CPあります。

処理中です...