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7話
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「何で」
肩をつかまれたまま、煌は怪訝な顔で実邦を見た。
「いや、実際俺をあんなやつとそういう対象にして見るのはやめて欲しいけど、別にコウの趣味を否定したいわけじゃないんだ。だから不快だとか、そんな気持ちをコウには持ってないよ。だから謝らないで」
実邦が少し悲しげに言う。申し訳ないが美形のそんな表情は煌にとってわりとご褒美ではある。思わずじっと見ているとそれに気づいた実邦が苦笑してきた。そしてため息をつきながら「ねえ、俺が誰か男を好きになると嬉しいの?」などと聞いてくる。
とてつもなく嬉しいに決まってんだろ。
「べ、別にそういうわけじゃ……」
「……コウ、顔に出てるよ」
「はは。……で、でもあくまでも俺の妄想というか、その、サネが本当にそうなればいいと心底思ってるわけじゃねえぞ」
「何故?」
「は?」
「何でそうなればいいと思ってはいないの?」
「そ、そりゃあお前は俺の大事な幼馴染だから、ちゃんと本当に好きなやつと恋愛して欲しいと思ってるし」
これは本当だ。もちろん実邦が男と恋愛してくれたらと願ったりもするが、是が非でもくっついて欲しいのではない。あくまでもそうだったらいいなという願望であり、実邦が誰か女を好きになり付き合うというのならそれはそれで嬉しいと思う。誰かと付き合ったことはもしかしたらあるかもしれないが、ただでさえ今までやたらモテるくせに煌の知る限りでは誰かを好きになったと聞いたことは間違いなく、ない。好きな相手ができるのなら煌としてはちゃんと祝福したい。
「ふーん。……だったらいい方法がある」
「いい方法?」
「俺が男とくっついて、しかもコウが間近で見られる方法」
「ま、マジで?」
もしかして本当に実邦は男を好きになれるのだろうかと煌は少しドキドキした。実邦は小さく笑みを浮かべるとつかんだままだった煌の肩から手を滑らせてそのまま煌の手を取ってきた。そして両手で持ち上げてくる。
何だこの構図。
怪訝に思っていると実邦がさらに穏やかな表情で笑いかけてきた。改めて目の保養であり心の栄養だ。
「俺とコウがくっついたらいいんじゃない?」
「……は……、……え? い、いやいや何言ってんの? それもう俺間近で見るどころか当事者じゃねえか」
「間近すぎるくらいだから堪能しまくれるでしょ」
「ち、違う。違うんだって。前にも言ったと思うけど、俺はあくまでもそういうの見たりして楽しんでるだけ! そういう話好きでも実際そういう恋愛したいとは思わねえの、全く別物なの」
「でも俺はコウ以外の男とはさすがに無理だよ。コウなら昔から知ってるし好きだからいいけど、ね。コウも妄想たくましいんだから、当事者ながらに俯瞰して第三者的な楽しみ方できるんじゃない?」
きっと俺のこと思ってそう提案してくれてんだろけど、犠牲精神半端ねえな……いや、犠牲なら他の男とくっついて欲しいけどな! 俺じゃ意味なさすぎ。
「俺思って言ってくれたんだろしそれは嬉しいけど、それに俺だってお前のことは昔から仲いいし好きだけど、そうじゃねえだろ……。それにいくら俺でもそんな器用なことできるかい」
何だその無茶ぶりは、と煌はさすがに微妙な顔で実邦を見た。ついでに手を振りほどこうとしたが、さりげに持たれている感じだというのに振りほどけない。
「おい、離してくれ」
「……コウがちゃんと俺の話聞いて考えてくれたら離すよ」
「聞いてるだろ。聞いた上で、ないわっつってんの」
「でも、だったら俺は草壁どころかどの男ともくっつくつもりは今後も一切ないし、多分学校でも中々男同士イチャイチャしてるとこなんて見られないだろうね、コウは」
「そ、れならそうで仕方ないし」
「それが目的であの高校行ったんでしょ?」
「そうだけど……、あ、でも! でもこないだ俺、見たんだ。男同士で多分告白してるとこ! そんでその後そっと指つなぎなんてやっててさ、もー俺昇天しそうだった」
その時のことを思い出し、今のよくわからない状況も忘れて目を輝かせていると実邦がまた笑みを見せてきた。何度見てもイケメンだと煌は思う。
「指つなぎだけでそんなに? だったら俺が男とキスしてるとこなんて見たらどうなっちゃうんだろうね」
そんなの絶対死んじゃう。
即思った後に「俺の人生に一片の悔いなしって思うから死んでもいい」と口に出していた。
「それはダメだよ……死んじゃ、ダメ……」
優しい声で囁きながら、手をつかんだまま実邦が顔を煌に近づけてきた。息がかかる、と思った次の瞬間には実邦の唇がふわりと煌の唇に重なる。それはだがすぐに離れていった。
「……、は……」
「よかった、死んでないね」
「……、……は、はぁ……っ? おま、いきなり何してくれて……」
思わず顔を熱くしながら煌は手の甲で唇をぬぐった。こちとらファーストキスだってのに何してくれてんだと実邦をじろりと見る。
そりゃサネはもしかしたらキスくらいいくらでもしたことあるかもしんねーよ? だから軽く男とするくらいなんでもねえかもだけどさ! 俺はファーストキス……!
「いきなりだったから目を閉じる暇もなかったでしょ。どうだった? キスしてる俺」
「そ、れは最高だったけど相手ェェェ!」
「コウお得意の妄想で楽しめばいいでしょ」
「自分の体張ってまで楽しむ余裕はねえんだよ……!」
肩をつかまれたまま、煌は怪訝な顔で実邦を見た。
「いや、実際俺をあんなやつとそういう対象にして見るのはやめて欲しいけど、別にコウの趣味を否定したいわけじゃないんだ。だから不快だとか、そんな気持ちをコウには持ってないよ。だから謝らないで」
実邦が少し悲しげに言う。申し訳ないが美形のそんな表情は煌にとってわりとご褒美ではある。思わずじっと見ているとそれに気づいた実邦が苦笑してきた。そしてため息をつきながら「ねえ、俺が誰か男を好きになると嬉しいの?」などと聞いてくる。
とてつもなく嬉しいに決まってんだろ。
「べ、別にそういうわけじゃ……」
「……コウ、顔に出てるよ」
「はは。……で、でもあくまでも俺の妄想というか、その、サネが本当にそうなればいいと心底思ってるわけじゃねえぞ」
「何故?」
「は?」
「何でそうなればいいと思ってはいないの?」
「そ、そりゃあお前は俺の大事な幼馴染だから、ちゃんと本当に好きなやつと恋愛して欲しいと思ってるし」
これは本当だ。もちろん実邦が男と恋愛してくれたらと願ったりもするが、是が非でもくっついて欲しいのではない。あくまでもそうだったらいいなという願望であり、実邦が誰か女を好きになり付き合うというのならそれはそれで嬉しいと思う。誰かと付き合ったことはもしかしたらあるかもしれないが、ただでさえ今までやたらモテるくせに煌の知る限りでは誰かを好きになったと聞いたことは間違いなく、ない。好きな相手ができるのなら煌としてはちゃんと祝福したい。
「ふーん。……だったらいい方法がある」
「いい方法?」
「俺が男とくっついて、しかもコウが間近で見られる方法」
「ま、マジで?」
もしかして本当に実邦は男を好きになれるのだろうかと煌は少しドキドキした。実邦は小さく笑みを浮かべるとつかんだままだった煌の肩から手を滑らせてそのまま煌の手を取ってきた。そして両手で持ち上げてくる。
何だこの構図。
怪訝に思っていると実邦がさらに穏やかな表情で笑いかけてきた。改めて目の保養であり心の栄養だ。
「俺とコウがくっついたらいいんじゃない?」
「……は……、……え? い、いやいや何言ってんの? それもう俺間近で見るどころか当事者じゃねえか」
「間近すぎるくらいだから堪能しまくれるでしょ」
「ち、違う。違うんだって。前にも言ったと思うけど、俺はあくまでもそういうの見たりして楽しんでるだけ! そういう話好きでも実際そういう恋愛したいとは思わねえの、全く別物なの」
「でも俺はコウ以外の男とはさすがに無理だよ。コウなら昔から知ってるし好きだからいいけど、ね。コウも妄想たくましいんだから、当事者ながらに俯瞰して第三者的な楽しみ方できるんじゃない?」
きっと俺のこと思ってそう提案してくれてんだろけど、犠牲精神半端ねえな……いや、犠牲なら他の男とくっついて欲しいけどな! 俺じゃ意味なさすぎ。
「俺思って言ってくれたんだろしそれは嬉しいけど、それに俺だってお前のことは昔から仲いいし好きだけど、そうじゃねえだろ……。それにいくら俺でもそんな器用なことできるかい」
何だその無茶ぶりは、と煌はさすがに微妙な顔で実邦を見た。ついでに手を振りほどこうとしたが、さりげに持たれている感じだというのに振りほどけない。
「おい、離してくれ」
「……コウがちゃんと俺の話聞いて考えてくれたら離すよ」
「聞いてるだろ。聞いた上で、ないわっつってんの」
「でも、だったら俺は草壁どころかどの男ともくっつくつもりは今後も一切ないし、多分学校でも中々男同士イチャイチャしてるとこなんて見られないだろうね、コウは」
「そ、れならそうで仕方ないし」
「それが目的であの高校行ったんでしょ?」
「そうだけど……、あ、でも! でもこないだ俺、見たんだ。男同士で多分告白してるとこ! そんでその後そっと指つなぎなんてやっててさ、もー俺昇天しそうだった」
その時のことを思い出し、今のよくわからない状況も忘れて目を輝かせていると実邦がまた笑みを見せてきた。何度見てもイケメンだと煌は思う。
「指つなぎだけでそんなに? だったら俺が男とキスしてるとこなんて見たらどうなっちゃうんだろうね」
そんなの絶対死んじゃう。
即思った後に「俺の人生に一片の悔いなしって思うから死んでもいい」と口に出していた。
「それはダメだよ……死んじゃ、ダメ……」
優しい声で囁きながら、手をつかんだまま実邦が顔を煌に近づけてきた。息がかかる、と思った次の瞬間には実邦の唇がふわりと煌の唇に重なる。それはだがすぐに離れていった。
「……、は……」
「よかった、死んでないね」
「……、……は、はぁ……っ? おま、いきなり何してくれて……」
思わず顔を熱くしながら煌は手の甲で唇をぬぐった。こちとらファーストキスだってのに何してくれてんだと実邦をじろりと見る。
そりゃサネはもしかしたらキスくらいいくらでもしたことあるかもしんねーよ? だから軽く男とするくらいなんでもねえかもだけどさ! 俺はファーストキス……!
「いきなりだったから目を閉じる暇もなかったでしょ。どうだった? キスしてる俺」
「そ、れは最高だったけど相手ェェェ!」
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