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2話
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実は煌が密かに狙っている男子がいる。狙っていると言っても、もちろん自分がそういう意味で狙っているのではなく、実邦の相手にどうかという意味でだ。
煌と同じクラスの男子で、こちらも神様は実際公平じゃないなと実感させてくれる、外見も中身も出来のいいイケメン男だと煌は思っている。残念ながら実邦とはクラスが違うので今のところ接触がないのだが、最近気づいたことがある。煌がまずその男子と仲良くなればいいのではないだろうか。そうすると否応なしに煌と登下校を一緒にしている実邦とも接触する機会ができるだろう。そうすれば現実的にそういう流れにならなくとも二人が接するくらいはある。あの二人なら並んでいるだけで煌の萌えを満たしてくれそうだ。
二人とも高身長でスタイルもいい。もちろん顔もいい。性格はおっとりして柔らかい感じの実邦に対して草壁 倭(くさかべ やまと)は一見はっきりしている。一見というのは今のところまだそんなに話したことがないので一概には言えないためだ。そんな二人は、どちらも煌からすれば「攻め」っぽい。だが別にどちらがどちらでもいけそうだ。何ならお互い何かに張り合って顔が合えば喧嘩になりがちな展開でもウェルカムだ。
俺別に地雷ないしな。ああいや、解釈違いとかならあるけど。
そんなことを考えていると丁度席替えがあった。今までは最初だからと名前順に並んでいたが、今回はくじ引きで決まった。そして倭は煌の後ろの席になった。これはもう、外見や中身を煌には与えてくれなかった神様が代わりに与えてくれたご褒美に違いないと煌は考えた。
とはいえいきなり「俺、今さらだけど新垣煌。草壁くんとすげー仲よくなりたいんだ。よろしくな」などと言えない。煌が誰かにいきなりそんなことを言われたら少し引く。わんこ系の元気なタイプがクールな男前に言うなら煌としては歓迎だが、煌はそういったタイプではないしそもそも自分はその辺に漂う塵芥でいたい。
困ったな。むしろ下心がない時なら自然にできただろう態度すら取れない。馬鹿か俺は。
プリントを回す時にでもさりげなく話しかけたりしてじわじわ仲よくなればいいのだと思うのだが、意識し過ぎて変に緊張してしまう。今も振り向こうにも振り向けず、かといって仲よくなりたいので素っ気なくもできずにちらりと中途半端に振り向きながらプリントを回し、手が触れそうになって思わず変な声が出そうだった。そのせいで耳が熱い。俯き加減でひたすら「俺の馬鹿」と心の中で自分を罵った。
実邦には心配そうに「何か悩みでもあるのか」と聞かれたりもした。
「ううん、そんなんじゃないんだ。でもちょっと仲よくなりたいなって思ってたやつと席替えでせっかく席が前後になったのに、俺変に意識しちゃって空回り中でさ」
「……そう。コウは何でそいつと仲よくなりたいの?」
最終的にお前といい意味で仲よくなってもらいたいからだよ、とはさすがに言えない。
「ちょ、ちょっとな」
「……ふーん」
その後も中々機会に恵まれなかった。そういった煌の微妙な態度はもしかしたら何度も気づかれていたのだろうか、ある日後ろの席からペン先で背中をつつかれた。
お、怒られる? 文句言われる?
はっきりしたタイプに一見感じるだけについ今も「お前の態度、何なんだよ」くらいは言われそうな気がしていた。とはいえ実際変な態度を取ってしまっているかもしれない。いや、取っているだろう。実邦と仲よくなってもらう作戦は多少なりとも進むどころか未だマイナスに振り切っているとしか思えなかった。
おずおずと振り返ると「新垣。俺、お前に何かした?」と怪訝そうに言われた。
「え?」
俺の名前知ってるのか。
そこかよといったことにまず驚いた後で、よく聞かずとも存外柔らかい感じで聞かれたことに煌は少しぽかんとなった。俺様タイプとまではいかずともそれなりに我の強いイメージを勝手に持っていた。
「だって何か俺を避けてないか?」
「そ、そんなこと」
全くもってないんですけど意識し過ぎてそうなっちゃってますね!
「俺、何かしたかなとか、それともそういう性格のやつなのかなって気になってお前見てたら、他のやつには全然普通に接してるし」
「そうかな、えっと、ごめん」
チャンスだろ、しっかりしろ俺。
意気込み過ぎて頬が少し熱くなるが、体を後ろへ向けて何とか倭の顔をちゃんと見上げた。
「避けてない。ちょっと変に意識しちゃってて。でもこうして草壁くんと喋れて俺、嬉しいよ」
よし、及第点。
ほっとして顔の表情も緩む。
「そ、そうか」
倭も避けられていないとわかって安心したのか少し妙な表情をした後に笑いかけてきた。イケメンの笑顔はやはり目の保養だし心の栄養だとしみじみ思う。
「俺も新垣と仲よくしたいと思うよ」
「マジ? やった!」
神様ありがとう。
これで実邦と仲よくなってもらう作戦に一歩近づいたと煌はほくほくした。そんな下心だけでは失礼だろうが、思ってたイメージと違っていい人そうな倭と、煌自身純粋に親しくなれるのは嬉しい。
その日の帰りに「草壁くんと仲よくなれた」と実邦に報告すると「そう」とだけ返ってきた。素っ気ないかもしれないが、実邦が煌の全く知らない実邦のクラスメイトと仲よくなったと報告してきても「へえ」としか言えない気がする。何にせよ、これから実邦にも親しくなってもらうためにも度々倭の話をしようと煌は思った。
煌と同じクラスの男子で、こちらも神様は実際公平じゃないなと実感させてくれる、外見も中身も出来のいいイケメン男だと煌は思っている。残念ながら実邦とはクラスが違うので今のところ接触がないのだが、最近気づいたことがある。煌がまずその男子と仲良くなればいいのではないだろうか。そうすると否応なしに煌と登下校を一緒にしている実邦とも接触する機会ができるだろう。そうすれば現実的にそういう流れにならなくとも二人が接するくらいはある。あの二人なら並んでいるだけで煌の萌えを満たしてくれそうだ。
二人とも高身長でスタイルもいい。もちろん顔もいい。性格はおっとりして柔らかい感じの実邦に対して草壁 倭(くさかべ やまと)は一見はっきりしている。一見というのは今のところまだそんなに話したことがないので一概には言えないためだ。そんな二人は、どちらも煌からすれば「攻め」っぽい。だが別にどちらがどちらでもいけそうだ。何ならお互い何かに張り合って顔が合えば喧嘩になりがちな展開でもウェルカムだ。
俺別に地雷ないしな。ああいや、解釈違いとかならあるけど。
そんなことを考えていると丁度席替えがあった。今までは最初だからと名前順に並んでいたが、今回はくじ引きで決まった。そして倭は煌の後ろの席になった。これはもう、外見や中身を煌には与えてくれなかった神様が代わりに与えてくれたご褒美に違いないと煌は考えた。
とはいえいきなり「俺、今さらだけど新垣煌。草壁くんとすげー仲よくなりたいんだ。よろしくな」などと言えない。煌が誰かにいきなりそんなことを言われたら少し引く。わんこ系の元気なタイプがクールな男前に言うなら煌としては歓迎だが、煌はそういったタイプではないしそもそも自分はその辺に漂う塵芥でいたい。
困ったな。むしろ下心がない時なら自然にできただろう態度すら取れない。馬鹿か俺は。
プリントを回す時にでもさりげなく話しかけたりしてじわじわ仲よくなればいいのだと思うのだが、意識し過ぎて変に緊張してしまう。今も振り向こうにも振り向けず、かといって仲よくなりたいので素っ気なくもできずにちらりと中途半端に振り向きながらプリントを回し、手が触れそうになって思わず変な声が出そうだった。そのせいで耳が熱い。俯き加減でひたすら「俺の馬鹿」と心の中で自分を罵った。
実邦には心配そうに「何か悩みでもあるのか」と聞かれたりもした。
「ううん、そんなんじゃないんだ。でもちょっと仲よくなりたいなって思ってたやつと席替えでせっかく席が前後になったのに、俺変に意識しちゃって空回り中でさ」
「……そう。コウは何でそいつと仲よくなりたいの?」
最終的にお前といい意味で仲よくなってもらいたいからだよ、とはさすがに言えない。
「ちょ、ちょっとな」
「……ふーん」
その後も中々機会に恵まれなかった。そういった煌の微妙な態度はもしかしたら何度も気づかれていたのだろうか、ある日後ろの席からペン先で背中をつつかれた。
お、怒られる? 文句言われる?
はっきりしたタイプに一見感じるだけについ今も「お前の態度、何なんだよ」くらいは言われそうな気がしていた。とはいえ実際変な態度を取ってしまっているかもしれない。いや、取っているだろう。実邦と仲よくなってもらう作戦は多少なりとも進むどころか未だマイナスに振り切っているとしか思えなかった。
おずおずと振り返ると「新垣。俺、お前に何かした?」と怪訝そうに言われた。
「え?」
俺の名前知ってるのか。
そこかよといったことにまず驚いた後で、よく聞かずとも存外柔らかい感じで聞かれたことに煌は少しぽかんとなった。俺様タイプとまではいかずともそれなりに我の強いイメージを勝手に持っていた。
「だって何か俺を避けてないか?」
「そ、そんなこと」
全くもってないんですけど意識し過ぎてそうなっちゃってますね!
「俺、何かしたかなとか、それともそういう性格のやつなのかなって気になってお前見てたら、他のやつには全然普通に接してるし」
「そうかな、えっと、ごめん」
チャンスだろ、しっかりしろ俺。
意気込み過ぎて頬が少し熱くなるが、体を後ろへ向けて何とか倭の顔をちゃんと見上げた。
「避けてない。ちょっと変に意識しちゃってて。でもこうして草壁くんと喋れて俺、嬉しいよ」
よし、及第点。
ほっとして顔の表情も緩む。
「そ、そうか」
倭も避けられていないとわかって安心したのか少し妙な表情をした後に笑いかけてきた。イケメンの笑顔はやはり目の保養だし心の栄養だとしみじみ思う。
「俺も新垣と仲よくしたいと思うよ」
「マジ? やった!」
神様ありがとう。
これで実邦と仲よくなってもらう作戦に一歩近づいたと煌はほくほくした。そんな下心だけでは失礼だろうが、思ってたイメージと違っていい人そうな倭と、煌自身純粋に親しくなれるのは嬉しい。
その日の帰りに「草壁くんと仲よくなれた」と実邦に報告すると「そう」とだけ返ってきた。素っ気ないかもしれないが、実邦が煌の全く知らない実邦のクラスメイトと仲よくなったと報告してきても「へえ」としか言えない気がする。何にせよ、これから実邦にも親しくなってもらうためにも度々倭の話をしようと煌は思った。
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