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大聖は重体とはいえ、命に別状はなかった。医者が言うには、人間には刺されるとほぼ死を免れない部位があるのだという。首の頸動脈や鎖骨下動脈、みぞおち辺りにある下行大動脈、太ももの大腿動脈といったところを刺されるとものの数秒で失血死だそうだ。また臓器でも、心臓や脳だけでなく肝臓や腎臓も危険なのだという。
「たまたまでしょうが、そういった部分をあえて避けて刺しているといった風ではありましたね」
たまたまではない気がする。もちろん、他の場所でも運が悪ければ死んでいただろうが、即死ではなく運やタイミング任せといったところがあの忌々しい男らしいと秀真は舌打ちした。即死部位じゃなかったことを感謝など絶対にしたくない。むしろ今すぐにでも見つけ出して殺してやりたいくらいだった。
大聖はかなり危険な状態だったわりに、術後少し経ってからは元気そうだった。入院も一か月かかっていないかもしれない。退院して家にいるようになってもしばらくは、傷の痛みや体力の低下のせいか体を動かすのも困難そうだったが、それも数か月もすれば時折傷が痛む程度になっていった。
「その間、何で俺がテメェの家族かのように面倒見なきゃだったんだよ、クソが」
秀真の言葉に大聖はむしろ嬉しそうに笑みを浮かべている。
昌氏は結局捕まらなかった。あの後即救急車を呼んで車内で色々質問されつつ動揺が収まらなかった秀真だが、警察にだけは救急車が来るのを待つ間に連絡入れられた。もちろん動揺のせいで上手く説明できなかったため手間取ってしまい、その間に昌氏はすでに逃げおおせていたというわけだ。
昌氏が住んでいたと大聖が思っていた部屋は、確かにとある若い女性の名義だった。その女性は元々あまり実家へ連絡入れないタイプだったらしく、捜索願すら出されていなかった。そのためこうして発覚しなかったのかもしれない。そういった女性の状況も把握した上での犯行だったのか、それともスリルを味わうためあやふやな状況を楽しんでいたのかは本人以外知りようがない。女性は捜査の結果、かなり経ってからようやくとある高級マンションの一室で殺されたらしいと判明した。死体が見つかったわけではない。ただ、浴室や冷蔵庫といった一部の場所に痕跡が残っており、科学警察研究所の調べで何とかDNAが一致し判明した。
しかしその部屋を契約した者は確かに「柄本 昌氏」であったが、偽名、というか全くかけ離れた場所に実在している、全く年齢も見た目も異なる別人だった。もちろん本人はそんな契約すらしたことないと言う。賃貸契約に必要な身分証明書や収入証明などといった書類は確かにいくらでも偽造できる。
結局、昌氏は昌氏ですらないということしかつかめなかった。ただ、わかることがある。おそらくだが、昌氏は二度と秀真や大聖の前に現れないだろう。スリルを好んでも、捕まる可能性あることはしない。
「俺の面倒を何だかんだ言いつつ見てくれるくらい、俺を大切に思ってくれているのだな」
「ちげぇわ、うぬぼれんなボケ。……まあ、借りを返してもらわなきゃだからな」
「ああ、窓ガラス割ったり不法侵入した借り?」
状況が状況だったため警察で書類などは書かされたものの、罪扱いにはならなかった。とはいえ、もちろん弁償はさせられた。大聖が払うと後で言ってきたが、貧乏学生は入院費だけでアップアップだろう。幸い、アルバイトとはいえホストをしていたので奨学金を払ってもまだ余裕で釣りはくる蓄えくらいある。だから問題はないのだが、大聖には「まじすげぇデカい借りだからな、デカい借りだからな」と何度も言っている。
「どうやって返せばいい? もちろんお金はがんばって働いて返すけど」
「金なんかいらねぇわ。ホスト様だぞ、俺は」
もうそろそろ辞めるけれども。
「じゃあ何。ああ、体か」
「ちっ、げぇわ! 何、当然のように俺がお前のこと好きとか寝たいとか思ってるって決めつけてんだクソが」
「……でも俺は好きだよ」
「……あ?」
「柄本さん……って言っていいのか。あの人に殺されそうだった時、俺はあんたにちゃんと伝えたいと思ってた。それが一番の心残りだった。……いや、違うかな」
「違うのかよ」
何だか妙に落ち着かない。
「一番はあんたに責任取れないことかな。将来、結婚するっていう」
「お前マジで馬鹿だろ……」
「馬鹿じゃないと思うけどな。……秀真、好きだ。俺はあんたがとても好きだよ。愛してる」
「……う、るさい!」
「ああ、もう一つ心残りがあった。流されるんじゃなくて、俺の意志であんたを抱きたいと思ってた。死にそうだったからずっとそれは叶えられないままだったけど、もう叶えられるよ」
「は……? お前、何」
思い切り言い返してやろうとしたが、それはできなかった。唇がキスにより塞がれる。
もちろん、その後いくらでも大聖を退けたり突き飛ばしたりできたはずだ。しなかったのはあれだ。もしかしたらまだ傷が完全に塞がっていないかもしれないからだ。秀真は後で自分に言い聞かせた。
何度も何度もキスされ、脱がされ、体に触れられても抵抗しなかったのは、それが気がかりだからだ。大聖のものがゆっくり自分の中へ入ってきた時もそうだ。そのせいだ。
風俗で味わった快楽など比べものにならないほど圧迫され苦しくも、耐え難いほどの快楽を寄越してきた硬い熱とともに、大聖が激しく動き突き上げてきたこと、そしてそれに合わせ自分もその激しい快楽の果てを追うようにひたすら動いていたことに関しては考えない。知らない。
「もう一回……」
「おま……馬鹿か……俺のケツが割れる……」
「大丈夫、もう最初から割れてる部位だよ」
死にかけた怪我とは、と頭に過ったことに関しても考えない。思い切り深く、みちみち音がしそうなほど密着して中を満たしつつ、そこが捲り上がりそうなほど何度も擦ってくるそれだけでなく「今度は忘れないから」などと言いながら秀真のものを手で擦られた。挙句、秀真は何度目かわからない絶頂に意識を一瞬手放しかけた。
「もっかい……」
「待て……限度を知れや絶倫ボケが……第一俺はもう……勃たね、ぇから……な」
それこそ瀕死な状態で呟けば「そうかなあ。あんたなら立つよ、大丈夫」などと言いながら覆いかぶさり、後ろから首筋にキスしながら乳首を指の腹ですりすり擦ってくる。
「ん……ぁ」
何度も擦られたりキュッと優しくつままれたりしている内に、きっと頭がおかしくなったのだと思う。すでに勃起していた秀真のそれから白濁がほんの少し飛び出した。
「わ……。あんたって尻だけじゃなく胸でも射精できるんだな」
嘘だろ?
秀真はうつ伏せながら体を震わせた。以前酔っぱらって醜態をさらしてしまった時は「まさかこの俺が尻で気持ちよくなるだと?」などと悩んだはずが、今やそれの比ではない。
「ち、ちげぇ。お前がヤりすぎるから、感覚が狂ってただけだ!」
「じゃあ、また次にする時は、まず胸だけたくさん愛してみよう」
「死ねや……!」
「もう死にかけたよ」
「うるせぇ! もっかい死ね!」
「無理だよ。だいたいあんたが俺を救ってくれたのに。俺はあんたに責任を取らなければな上に、あんたに助けられた。あんたは俺の英雄だな。最初は犯罪者かもしれないなんて思ってごめん。それに柄本さんのこともちゃんと警告してくれていたのに。ほんと俺はあんたに頭が上がらないよ。絶対俺は将来、あんたと結婚しないとな」
「うるせぇ、このストーカー野郎! 第一頭上がらないとか言いながら俺に何度も何度も突っ込むな! 性欲なんてありませんみたいな顔してるくせに!」
「顔はわからないけど、あんたがものすごく好きだとわかると、心だけじゃなく俺の体もあんたを求めて止まないみたいだ」
顔が熱い。燃えて火傷でもしそうだ。それもきっと、尻で何度も達するどころか乳首で射精したからだ。それだけだ。
秀真はまた自分に言い聞かせた。
「たまたまでしょうが、そういった部分をあえて避けて刺しているといった風ではありましたね」
たまたまではない気がする。もちろん、他の場所でも運が悪ければ死んでいただろうが、即死ではなく運やタイミング任せといったところがあの忌々しい男らしいと秀真は舌打ちした。即死部位じゃなかったことを感謝など絶対にしたくない。むしろ今すぐにでも見つけ出して殺してやりたいくらいだった。
大聖はかなり危険な状態だったわりに、術後少し経ってからは元気そうだった。入院も一か月かかっていないかもしれない。退院して家にいるようになってもしばらくは、傷の痛みや体力の低下のせいか体を動かすのも困難そうだったが、それも数か月もすれば時折傷が痛む程度になっていった。
「その間、何で俺がテメェの家族かのように面倒見なきゃだったんだよ、クソが」
秀真の言葉に大聖はむしろ嬉しそうに笑みを浮かべている。
昌氏は結局捕まらなかった。あの後即救急車を呼んで車内で色々質問されつつ動揺が収まらなかった秀真だが、警察にだけは救急車が来るのを待つ間に連絡入れられた。もちろん動揺のせいで上手く説明できなかったため手間取ってしまい、その間に昌氏はすでに逃げおおせていたというわけだ。
昌氏が住んでいたと大聖が思っていた部屋は、確かにとある若い女性の名義だった。その女性は元々あまり実家へ連絡入れないタイプだったらしく、捜索願すら出されていなかった。そのためこうして発覚しなかったのかもしれない。そういった女性の状況も把握した上での犯行だったのか、それともスリルを味わうためあやふやな状況を楽しんでいたのかは本人以外知りようがない。女性は捜査の結果、かなり経ってからようやくとある高級マンションの一室で殺されたらしいと判明した。死体が見つかったわけではない。ただ、浴室や冷蔵庫といった一部の場所に痕跡が残っており、科学警察研究所の調べで何とかDNAが一致し判明した。
しかしその部屋を契約した者は確かに「柄本 昌氏」であったが、偽名、というか全くかけ離れた場所に実在している、全く年齢も見た目も異なる別人だった。もちろん本人はそんな契約すらしたことないと言う。賃貸契約に必要な身分証明書や収入証明などといった書類は確かにいくらでも偽造できる。
結局、昌氏は昌氏ですらないということしかつかめなかった。ただ、わかることがある。おそらくだが、昌氏は二度と秀真や大聖の前に現れないだろう。スリルを好んでも、捕まる可能性あることはしない。
「俺の面倒を何だかんだ言いつつ見てくれるくらい、俺を大切に思ってくれているのだな」
「ちげぇわ、うぬぼれんなボケ。……まあ、借りを返してもらわなきゃだからな」
「ああ、窓ガラス割ったり不法侵入した借り?」
状況が状況だったため警察で書類などは書かされたものの、罪扱いにはならなかった。とはいえ、もちろん弁償はさせられた。大聖が払うと後で言ってきたが、貧乏学生は入院費だけでアップアップだろう。幸い、アルバイトとはいえホストをしていたので奨学金を払ってもまだ余裕で釣りはくる蓄えくらいある。だから問題はないのだが、大聖には「まじすげぇデカい借りだからな、デカい借りだからな」と何度も言っている。
「どうやって返せばいい? もちろんお金はがんばって働いて返すけど」
「金なんかいらねぇわ。ホスト様だぞ、俺は」
もうそろそろ辞めるけれども。
「じゃあ何。ああ、体か」
「ちっ、げぇわ! 何、当然のように俺がお前のこと好きとか寝たいとか思ってるって決めつけてんだクソが」
「……でも俺は好きだよ」
「……あ?」
「柄本さん……って言っていいのか。あの人に殺されそうだった時、俺はあんたにちゃんと伝えたいと思ってた。それが一番の心残りだった。……いや、違うかな」
「違うのかよ」
何だか妙に落ち着かない。
「一番はあんたに責任取れないことかな。将来、結婚するっていう」
「お前マジで馬鹿だろ……」
「馬鹿じゃないと思うけどな。……秀真、好きだ。俺はあんたがとても好きだよ。愛してる」
「……う、るさい!」
「ああ、もう一つ心残りがあった。流されるんじゃなくて、俺の意志であんたを抱きたいと思ってた。死にそうだったからずっとそれは叶えられないままだったけど、もう叶えられるよ」
「は……? お前、何」
思い切り言い返してやろうとしたが、それはできなかった。唇がキスにより塞がれる。
もちろん、その後いくらでも大聖を退けたり突き飛ばしたりできたはずだ。しなかったのはあれだ。もしかしたらまだ傷が完全に塞がっていないかもしれないからだ。秀真は後で自分に言い聞かせた。
何度も何度もキスされ、脱がされ、体に触れられても抵抗しなかったのは、それが気がかりだからだ。大聖のものがゆっくり自分の中へ入ってきた時もそうだ。そのせいだ。
風俗で味わった快楽など比べものにならないほど圧迫され苦しくも、耐え難いほどの快楽を寄越してきた硬い熱とともに、大聖が激しく動き突き上げてきたこと、そしてそれに合わせ自分もその激しい快楽の果てを追うようにひたすら動いていたことに関しては考えない。知らない。
「もう一回……」
「おま……馬鹿か……俺のケツが割れる……」
「大丈夫、もう最初から割れてる部位だよ」
死にかけた怪我とは、と頭に過ったことに関しても考えない。思い切り深く、みちみち音がしそうなほど密着して中を満たしつつ、そこが捲り上がりそうなほど何度も擦ってくるそれだけでなく「今度は忘れないから」などと言いながら秀真のものを手で擦られた。挙句、秀真は何度目かわからない絶頂に意識を一瞬手放しかけた。
「もっかい……」
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それこそ瀕死な状態で呟けば「そうかなあ。あんたなら立つよ、大丈夫」などと言いながら覆いかぶさり、後ろから首筋にキスしながら乳首を指の腹ですりすり擦ってくる。
「ん……ぁ」
何度も擦られたりキュッと優しくつままれたりしている内に、きっと頭がおかしくなったのだと思う。すでに勃起していた秀真のそれから白濁がほんの少し飛び出した。
「わ……。あんたって尻だけじゃなく胸でも射精できるんだな」
嘘だろ?
秀真はうつ伏せながら体を震わせた。以前酔っぱらって醜態をさらしてしまった時は「まさかこの俺が尻で気持ちよくなるだと?」などと悩んだはずが、今やそれの比ではない。
「ち、ちげぇ。お前がヤりすぎるから、感覚が狂ってただけだ!」
「じゃあ、また次にする時は、まず胸だけたくさん愛してみよう」
「死ねや……!」
「もう死にかけたよ」
「うるせぇ! もっかい死ね!」
「無理だよ。だいたいあんたが俺を救ってくれたのに。俺はあんたに責任を取らなければな上に、あんたに助けられた。あんたは俺の英雄だな。最初は犯罪者かもしれないなんて思ってごめん。それに柄本さんのこともちゃんと警告してくれていたのに。ほんと俺はあんたに頭が上がらないよ。絶対俺は将来、あんたと結婚しないとな」
「うるせぇ、このストーカー野郎! 第一頭上がらないとか言いながら俺に何度も何度も突っ込むな! 性欲なんてありませんみたいな顔してるくせに!」
「顔はわからないけど、あんたがものすごく好きだとわかると、心だけじゃなく俺の体もあんたを求めて止まないみたいだ」
顔が熱い。燃えて火傷でもしそうだ。それもきっと、尻で何度も達するどころか乳首で射精したからだ。それだけだ。
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