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もうつき合って長いのかと聞かれ、大聖は「わりと最近かも」と答えた。
「ふーん。そうなんだ。どういうところが好きなの?」
「え?」
「大聖くん、その相手のこと、好きなんでしょう?」
「ああ、えっと」
それならちょうどこの間、修と話した時に理解したばかりだ。
「確か……」
「確か?」
「いや、そうだね、相手のことが気になって仕方なくて。そんでえっと、健康でいて欲しくなるとこ、とかどんな表情でも安心するようになったとことか、あとそう、楽しいし落ち着くとこ、かな」
何とか思い出しつつ答えると、昌氏が少し怪訝な顔をしてきた。
「柄本さん? どうかした?」
「いや……何かこう、変わった答えだなあと」
「え、そうなの?」
「でもそういうのも大聖くんらしいよ。いいんじゃないかな」
「ほんと? よかった」
「僕はそんな大聖くんが好きだと思うよ」
「ほんと? ありがとう」
すごい人に好いてもらえるのは純粋に嬉しい。友人と思ってもらえているのだろうなと嬉しい。
店から出た後、二人とも同じアパートなのでそのまま一緒に帰った。道中は大聖の取っている教科についての話や料理の話をした。
「柄本さんも料理するの?」
「……ああ、たまに、ね。たまに……」
「そうなんだ。料理って奥深いよね。実家にいる頃はそこまででもなかったんだけどさ。生活の一部って感じで家族の分、作ったりしてた。それも別に苦じゃなかったけど、最近は家族以外の美味しいって言ってくれる人がいるからか、何かこう、張り合いがあるっていうかね」
自分の知っている分野はやはり会話もしやすい。秀真といるともちろん落ち着くし楽しいとは思うが、得意分野だけでなく趣味も全く合わなさそうだ。とはいえ実家の兄と彼女も趣味は全然違うらしい。兄は「趣味が合わないと無理って人もいるかもだけど、根本的なことが合うならむしろ違うのもおもしいし、それぞれの時間も持てるからいいと思ってる」と言っていた。その時はよくわからないがそういうものかと聞いていたが、秀真と一緒にいるようになって何となくわかるようになった気がする。多分。
ただ、やはり好きなことを話題にするのは楽しい。
「大聖くんは料理が好きなんだね」
「特に好きだと思ってなかったけどね、好きかもしれない」
「僕も楽しいと思うよ。そういえば君の実家は農家だったっけ」
「そうだよ」
「うん、そういうのも楽しいよね。とても欲しい食材を大切に育ててそして手に入れて……それを味わう。とても素敵だと思うよ」
基本さらりとした印象の昌氏だが、ちょっとした情熱を今の言葉に感じ、大聖は何だか微笑ましく思った。よほど食べることとか好きなのだろうなと思う。
ふと、どこからか名前を呼ばれた気がしたが、振り返る前に昌氏に「今度は別のお店に連れていきたいな。そこもとても美味しいんだ」と言われて意識をそちらへ持って行った。
「美味しいものは気になるけど……柄本さんにおごってもらってばかりだとそれが気になって楽しめなくなりそうだから、今度は俺でも払える店にしようよ」
「気にしなくていいのに」
「そういうわけにはいかないよ」
首を振りながらついでに振り向いてみたが、人混みの中見知った顔は特に見当たらなかった。
ようや着くと、そのまま別れた。家に帰り、時間はまだ全然あるので何か作ろうと食材を出していった。するとインターフォンが鳴り、ドアを叩く音がする。
夜のこんな時間に誰もやって来る予定などないのにと怪訝に思いながらも、それ大聖は持っていたキャベツをまな板に置き、玄関のドアを開けに向かった。
都会では一戸建てやマンションに関わらず録画機能すらついたモニターがインターフォンについているらしい。それで訪問客の顔などを窺い実際に出たりインターフォンの応対だけで済ませたりするようだ。居留守を使うこともあるという。それだけ物騒なのだろう。実家周辺ではそんなものを見たことがなかったし、このアパートも古いからかそもそもピンポンと音が鳴る装置しかついていない。応対するにはドアを開けるしかない。
「はい」
都会は怖いところとずっと聞いてきたし警戒を怠らないようにしてはいるものの、玄関を開けることに躊躇がない大聖は誰かを確認することなくドアを開けた。そしてギョッとする。
そこにはなぜか青ざめたような呆れたような怒ったような何とも言えない表情の秀真が立っていた。
「ど、どうしたんだ。珍しいな」
「お前さぁ、もうちょっと玄関開けるのに警戒とかしねぇの? 都会怖いんじゃなかったのかよ」
「え、わざわざそれを言うために来たの? それも普通なら今の時間まだ仕事中だよね?」
「ちげぇわ……! 俺を何だと思ってやがる」
「そう言われても……。とりあえず上がって」
本当に何だろうと戸惑いつつも大聖は上がるよう秀真を促した。秀真はじろりと大聖を睨んできたが、断ることなく玄関を閉め、靴を脱いでいる。
「ちょうどあんたのご飯を作ろうと思っていたんだ。何食べたい? リクエストをリアルで聞くなんて初めてだよな」
「え、じゃあキャベツとか玉ねぎとかベーコンとか煮込んだやつ! ……じゃねぇんだよ!」
そわそわ即答してきた後でハッとなり、また噛みつくように文句を言っている。これも照れ隠しなのだろうと判断し、大聖はほのぼのした顔で秀真を見た。
「んだその顔は」
「いや、だって。にしてもいい加減名前覚えなよ。ポトフだろ、それ」
「るせぇ。名前覚えんの苦手なんだよ」
舌打ちしながら言い返し、秀真はきょろきょろ部屋を見渡している。
「どうしたの、ほんとに。とりあえず座ったら」
「ああ……」
珍しく秀真は言われた通りに座布団の上へ座った。
「ふーん。そうなんだ。どういうところが好きなの?」
「え?」
「大聖くん、その相手のこと、好きなんでしょう?」
「ああ、えっと」
それならちょうどこの間、修と話した時に理解したばかりだ。
「確か……」
「確か?」
「いや、そうだね、相手のことが気になって仕方なくて。そんでえっと、健康でいて欲しくなるとこ、とかどんな表情でも安心するようになったとことか、あとそう、楽しいし落ち着くとこ、かな」
何とか思い出しつつ答えると、昌氏が少し怪訝な顔をしてきた。
「柄本さん? どうかした?」
「いや……何かこう、変わった答えだなあと」
「え、そうなの?」
「でもそういうのも大聖くんらしいよ。いいんじゃないかな」
「ほんと? よかった」
「僕はそんな大聖くんが好きだと思うよ」
「ほんと? ありがとう」
すごい人に好いてもらえるのは純粋に嬉しい。友人と思ってもらえているのだろうなと嬉しい。
店から出た後、二人とも同じアパートなのでそのまま一緒に帰った。道中は大聖の取っている教科についての話や料理の話をした。
「柄本さんも料理するの?」
「……ああ、たまに、ね。たまに……」
「そうなんだ。料理って奥深いよね。実家にいる頃はそこまででもなかったんだけどさ。生活の一部って感じで家族の分、作ったりしてた。それも別に苦じゃなかったけど、最近は家族以外の美味しいって言ってくれる人がいるからか、何かこう、張り合いがあるっていうかね」
自分の知っている分野はやはり会話もしやすい。秀真といるともちろん落ち着くし楽しいとは思うが、得意分野だけでなく趣味も全く合わなさそうだ。とはいえ実家の兄と彼女も趣味は全然違うらしい。兄は「趣味が合わないと無理って人もいるかもだけど、根本的なことが合うならむしろ違うのもおもしいし、それぞれの時間も持てるからいいと思ってる」と言っていた。その時はよくわからないがそういうものかと聞いていたが、秀真と一緒にいるようになって何となくわかるようになった気がする。多分。
ただ、やはり好きなことを話題にするのは楽しい。
「大聖くんは料理が好きなんだね」
「特に好きだと思ってなかったけどね、好きかもしれない」
「僕も楽しいと思うよ。そういえば君の実家は農家だったっけ」
「そうだよ」
「うん、そういうのも楽しいよね。とても欲しい食材を大切に育ててそして手に入れて……それを味わう。とても素敵だと思うよ」
基本さらりとした印象の昌氏だが、ちょっとした情熱を今の言葉に感じ、大聖は何だか微笑ましく思った。よほど食べることとか好きなのだろうなと思う。
ふと、どこからか名前を呼ばれた気がしたが、振り返る前に昌氏に「今度は別のお店に連れていきたいな。そこもとても美味しいんだ」と言われて意識をそちらへ持って行った。
「美味しいものは気になるけど……柄本さんにおごってもらってばかりだとそれが気になって楽しめなくなりそうだから、今度は俺でも払える店にしようよ」
「気にしなくていいのに」
「そういうわけにはいかないよ」
首を振りながらついでに振り向いてみたが、人混みの中見知った顔は特に見当たらなかった。
ようや着くと、そのまま別れた。家に帰り、時間はまだ全然あるので何か作ろうと食材を出していった。するとインターフォンが鳴り、ドアを叩く音がする。
夜のこんな時間に誰もやって来る予定などないのにと怪訝に思いながらも、それ大聖は持っていたキャベツをまな板に置き、玄関のドアを開けに向かった。
都会では一戸建てやマンションに関わらず録画機能すらついたモニターがインターフォンについているらしい。それで訪問客の顔などを窺い実際に出たりインターフォンの応対だけで済ませたりするようだ。居留守を使うこともあるという。それだけ物騒なのだろう。実家周辺ではそんなものを見たことがなかったし、このアパートも古いからかそもそもピンポンと音が鳴る装置しかついていない。応対するにはドアを開けるしかない。
「はい」
都会は怖いところとずっと聞いてきたし警戒を怠らないようにしてはいるものの、玄関を開けることに躊躇がない大聖は誰かを確認することなくドアを開けた。そしてギョッとする。
そこにはなぜか青ざめたような呆れたような怒ったような何とも言えない表情の秀真が立っていた。
「ど、どうしたんだ。珍しいな」
「お前さぁ、もうちょっと玄関開けるのに警戒とかしねぇの? 都会怖いんじゃなかったのかよ」
「え、わざわざそれを言うために来たの? それも普通なら今の時間まだ仕事中だよね?」
「ちげぇわ……! 俺を何だと思ってやがる」
「そう言われても……。とりあえず上がって」
本当に何だろうと戸惑いつつも大聖は上がるよう秀真を促した。秀真はじろりと大聖を睨んできたが、断ることなく玄関を閉め、靴を脱いでいる。
「ちょうどあんたのご飯を作ろうと思っていたんだ。何食べたい? リクエストをリアルで聞くなんて初めてだよな」
「え、じゃあキャベツとか玉ねぎとかベーコンとか煮込んだやつ! ……じゃねぇんだよ!」
そわそわ即答してきた後でハッとなり、また噛みつくように文句を言っている。これも照れ隠しなのだろうと判断し、大聖はほのぼのした顔で秀真を見た。
「んだその顔は」
「いや、だって。にしてもいい加減名前覚えなよ。ポトフだろ、それ」
「るせぇ。名前覚えんの苦手なんだよ」
舌打ちしながら言い返し、秀真はきょろきょろ部屋を見渡している。
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