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「そうなんだ、下のおばあちゃん、引っ越しちゃったんだ」
学校とアルバイトを終え秀真の部屋へ向かうと、最初紙袋を差し出されたから何事かと大聖は思った。だが「……俺にプレゼント?」と聞けば「んなわけねぇだろ死ね」と返ってきたので、とりあえずこの間一瞬具合が悪そうだったのはもう完全に治っているようだとむしろ安心する。
説明を聞き、紙袋を開けるとどこかで買ってきたであろう煎餅と、自分で漬けたのであろう漬物が入っていた。
「美味しそう。漬物も煎餅も後で一緒に食べよう」
「つかそんなに親しくしてたんか?」
「おばあちゃんと? まあそれなりに」
「てめぇのそれなりはストーカーレベルの場合があるからな」
「相変わらずたまに言ってることがわからないな。でも急に引っ越しだなんて……何かあったのかな」
「ババァは娘と孫が急に同居しようと言ってきたっつってたけどな。ああでも何つったっけか……心配だのなんだのって言われたらしーわ」
「離婚して女手一つで孫を育てている娘がいるって話は聞いてたけど……」
「やっぱ聞いてんのか。さすがだな」
秀真が生温い目で見てきたが、何がさすがなのか大聖にはさっぱりわからない。首を傾げていると「まあでもババァ、引っ越すのも楽しそうではあったんじゃね」と言ってきた。
「そうか。うん、そうだよね。一緒に暮らすほうが俺も安心かな。おばあちゃん一人だとやっぱりちょっと心配だし、娘さんやお孫さんが心配するのもわかるよ」
「急に心配になった感じだったけどな」
「娘さんやお孫さんの周りで何か心配になるような出来事でもあったのかも。都会って老人がひっそり亡くなったりするんだろ? 怖いよな」
「あー」
今度は微妙な顔された。
「ああ、つかよぉ、ババァが何つったっけかな。きんぎょだっけか。俺にくれて」
「金魚を? 飼うの?」
「買う? いや、くれたんだよ。これな」
怪訝な顔しながら秀真がごそごそ、冷蔵庫から何やら出してきた。それを見て大聖は理解した。あと、改めて秀真はあまり覚える気がないものは覚えないよなとしみじみ思う。下手したら頭が悪い人なのかと思う勢いだが、在学している、大聖も入るために苦労した学校を思うとまずそうではないことだけはわかる。
「ああ、錦玉か。綺麗だな」
「そう、それ。お前と食え、だとよ」
「それで律儀にも俺が来るまで食べるの待ってたのか? 案外かわいい人だよな、あんたって」
「ああっ? ちっげーわ! 別に何も考えてねぇわ! たまたま忘れてたんだよ、それを今思い出しただけだわ、気持ち悪いこと言ってくんな」
「それに相変わらず照れ具合が半端ない」
「だからちげぇっつってんだろ!」
チッと舌打ちしながら、秀真は手づかみで錦玉を取るとそのまま食べだした。そして「クッソあめぇ!」などとぼやいている。
「待って。とりあえずお茶淹れるから。日本茶か中国茶と一緒のほうが合うよ」
「んな茶はここにねぇよ。ペットボトルの茶でいい」
「茶葉持ってくるけど」
「どうせ入れるもんがねぇわ」
あと手がベタベタする、と言いながら食べかけの和菓子を入っていた入れ物に一旦置き、秀真は立ち上がって先に手を洗いにいった。そして冷蔵庫からペットボトルの茶を取り出して持ってくる。
「一本だけ?」
「俺、そんな飲まねーし、後はお前が飲めばいいだろ」
「間接キスというやつか。照れ屋のくせに大胆だな」
真顔で言えば、ちょうど茶を飲んでいた秀真が大聖めがけてその茶を吹いてきた。
「……っおい、さすがにそれは酷いじゃないか」
「クソが! わざとじゃねぇよ! てめぇがキモイこと言ってくるからだろうが! マジで死ね、もうほんと死ね」
「また照れる。あまり照れが酷いのも困りものだな。あと拭くもの借りるぞ」
「人の家に勝手に上がり込んだ上で勝手に捨てたりするストーカー野郎のくせにいちいち聞いてくんのか」
「あんたは俺を何だと思ってるの」
「変態ストーカー野郎だっつってんだろ」
どうにも埒が明かない。とはいえ素直な秀真というのも今さらそれこそ気持ちが悪い気がする。何も言い返してこないと、この間のように具合が悪いのかと心配になるだろうし、やはりこれが秀真なのだろう。受け入れるしかない。
笑みを浮かべ、拭くものを取るため立ち上がると「慈悲深そうな顔してくんじゃねぇ、意味わからねぇだろうが」となぜか引かれた。
その後滅多にないことだが一緒に夕食をとっている時、秀真が「そういやお前の隣のやつ、何つったっけ」と聞いてきた。
「本当に名前を覚えない人だな。柄本さんだよ。たしか昌氏だったかな。柄本昌氏。なんで」
「……そいつってマジでにこやかで優しいやつなのか?」
「そうだけど」
「……で、イケメン」
「うん。とても綺麗な顔をしてるしスタイルもいいし、あといつも高そうな恰好してる。さすがエリートって感じ」
大聖がうんうん頷けば、秀真は変な顔して黙っている。
「なぜ? どうかしたのか?」
「……別に」
「彼氏が親しくしている相手が気になるってやつか? やきもちとか? なら安心してくれ。俺は浮気しない。問題ない」
「ちげぇわ……! お前は何でそうなんだよ、馬鹿かよ。そうじゃなくて……」
突っ込みや言い返してくる言葉に何というか、覇気がない気がする。いつもなら照れ隠しもあって罵詈雑言といった感じのはずだ。大聖は「うん」と静かに続きを待った。
学校とアルバイトを終え秀真の部屋へ向かうと、最初紙袋を差し出されたから何事かと大聖は思った。だが「……俺にプレゼント?」と聞けば「んなわけねぇだろ死ね」と返ってきたので、とりあえずこの間一瞬具合が悪そうだったのはもう完全に治っているようだとむしろ安心する。
説明を聞き、紙袋を開けるとどこかで買ってきたであろう煎餅と、自分で漬けたのであろう漬物が入っていた。
「美味しそう。漬物も煎餅も後で一緒に食べよう」
「つかそんなに親しくしてたんか?」
「おばあちゃんと? まあそれなりに」
「てめぇのそれなりはストーカーレベルの場合があるからな」
「相変わらずたまに言ってることがわからないな。でも急に引っ越しだなんて……何かあったのかな」
「ババァは娘と孫が急に同居しようと言ってきたっつってたけどな。ああでも何つったっけか……心配だのなんだのって言われたらしーわ」
「離婚して女手一つで孫を育てている娘がいるって話は聞いてたけど……」
「やっぱ聞いてんのか。さすがだな」
秀真が生温い目で見てきたが、何がさすがなのか大聖にはさっぱりわからない。首を傾げていると「まあでもババァ、引っ越すのも楽しそうではあったんじゃね」と言ってきた。
「そうか。うん、そうだよね。一緒に暮らすほうが俺も安心かな。おばあちゃん一人だとやっぱりちょっと心配だし、娘さんやお孫さんが心配するのもわかるよ」
「急に心配になった感じだったけどな」
「娘さんやお孫さんの周りで何か心配になるような出来事でもあったのかも。都会って老人がひっそり亡くなったりするんだろ? 怖いよな」
「あー」
今度は微妙な顔された。
「ああ、つかよぉ、ババァが何つったっけかな。きんぎょだっけか。俺にくれて」
「金魚を? 飼うの?」
「買う? いや、くれたんだよ。これな」
怪訝な顔しながら秀真がごそごそ、冷蔵庫から何やら出してきた。それを見て大聖は理解した。あと、改めて秀真はあまり覚える気がないものは覚えないよなとしみじみ思う。下手したら頭が悪い人なのかと思う勢いだが、在学している、大聖も入るために苦労した学校を思うとまずそうではないことだけはわかる。
「ああ、錦玉か。綺麗だな」
「そう、それ。お前と食え、だとよ」
「それで律儀にも俺が来るまで食べるの待ってたのか? 案外かわいい人だよな、あんたって」
「ああっ? ちっげーわ! 別に何も考えてねぇわ! たまたま忘れてたんだよ、それを今思い出しただけだわ、気持ち悪いこと言ってくんな」
「それに相変わらず照れ具合が半端ない」
「だからちげぇっつってんだろ!」
チッと舌打ちしながら、秀真は手づかみで錦玉を取るとそのまま食べだした。そして「クッソあめぇ!」などとぼやいている。
「待って。とりあえずお茶淹れるから。日本茶か中国茶と一緒のほうが合うよ」
「んな茶はここにねぇよ。ペットボトルの茶でいい」
「茶葉持ってくるけど」
「どうせ入れるもんがねぇわ」
あと手がベタベタする、と言いながら食べかけの和菓子を入っていた入れ物に一旦置き、秀真は立ち上がって先に手を洗いにいった。そして冷蔵庫からペットボトルの茶を取り出して持ってくる。
「一本だけ?」
「俺、そんな飲まねーし、後はお前が飲めばいいだろ」
「間接キスというやつか。照れ屋のくせに大胆だな」
真顔で言えば、ちょうど茶を飲んでいた秀真が大聖めがけてその茶を吹いてきた。
「……っおい、さすがにそれは酷いじゃないか」
「クソが! わざとじゃねぇよ! てめぇがキモイこと言ってくるからだろうが! マジで死ね、もうほんと死ね」
「また照れる。あまり照れが酷いのも困りものだな。あと拭くもの借りるぞ」
「人の家に勝手に上がり込んだ上で勝手に捨てたりするストーカー野郎のくせにいちいち聞いてくんのか」
「あんたは俺を何だと思ってるの」
「変態ストーカー野郎だっつってんだろ」
どうにも埒が明かない。とはいえ素直な秀真というのも今さらそれこそ気持ちが悪い気がする。何も言い返してこないと、この間のように具合が悪いのかと心配になるだろうし、やはりこれが秀真なのだろう。受け入れるしかない。
笑みを浮かべ、拭くものを取るため立ち上がると「慈悲深そうな顔してくんじゃねぇ、意味わからねぇだろうが」となぜか引かれた。
その後滅多にないことだが一緒に夕食をとっている時、秀真が「そういやお前の隣のやつ、何つったっけ」と聞いてきた。
「本当に名前を覚えない人だな。柄本さんだよ。たしか昌氏だったかな。柄本昌氏。なんで」
「……そいつってマジでにこやかで優しいやつなのか?」
「そうだけど」
「……で、イケメン」
「うん。とても綺麗な顔をしてるしスタイルもいいし、あといつも高そうな恰好してる。さすがエリートって感じ」
大聖がうんうん頷けば、秀真は変な顔して黙っている。
「なぜ? どうかしたのか?」
「……別に」
「彼氏が親しくしている相手が気になるってやつか? やきもちとか? なら安心してくれ。俺は浮気しない。問題ない」
「ちげぇわ……! お前は何でそうなんだよ、馬鹿かよ。そうじゃなくて……」
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