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そのまま話を聞くと、大聖の実家は農家を営んでいるらしい。どうりでやたら野菜めいていると秀真は内心そっと思う。引っ越し挨拶に野菜を配る以外にも、大聖がアルバイト先ですらたまに野菜を持っていっているのを本人から何度か聞いていた。
「あの大学は偏差値が高いし受かったのはとても嬉しかったんだよ。でも到底家から通える距離じゃないしね、仕方なく出てきた。本当は家を出るのは心苦しかったんだ。もちろん両親は俺たちをしっかり育ててくれたのもあって苦しい生活を送った記憶なんてないけど、それでも大学の資金を出したり仕送りしたりを楽にできる余裕なんてないだろうから。それでも快くここへ送り出してくれた両親にはとても感謝してる。あと、跡を継いでくれる兄にも」
「兄ちゃんいんのか」
あまりに変わり者だという印象からか、何となく一人っ子だと秀真は思っていた。
「うん」
「……兄ちゃんもお前みたいにやべぇやつなのか?」
「ちょっと言っていることがよくわからないけど……兄は優しくて頼りがいのある人だよ。もうすぐ結婚するだろう彼女がいるから高津家の農業も安泰だし」
変態ストーカー野郎の口から普通の家族話が出るのがとてつもなく違和感だったが、大聖の口から出る家族についての言葉が優しいことだけは秀真にもわかった。
「つか兄ちゃんにはちゃんと彼女いんのかよ。お前も兄ちゃん倣って彼女作れよ……」
「特に欲しいとは思ってなかったけど……でも今は俺にはあんたがいるし」
「何だよその流れ……。俺をその枠に入れんな。いいか、俺はその枠じゃない」
「枠? あんたはあんただろ。何か不安でもあるのか? 俺は今までつき合ったことすらなかったからな、あんたにも包容力とかそういうの発揮するのは上手くないかもだけど、ゆっくり勉強していくから何でも言ってくれ」
「そんなこと言ってねぇんだよ……!」
言い放った後にハッとなる。怒ってばかりではなく普通に接していこうと思ったところだというのにこれだ。とはいえやはり自分が悪いというより大聖がほぼ悪いようにしか思えないのだが、自分勝手な目線なのだろうか。
「っち。んであれか、家は兄が継ぐから代わりにお前がいい会社入って稼いで実家を支えたいってわけか」
「そうだね。構わないかな?」
「あ? 何で俺に聞くんだよ」
「だって将来は一緒になるんだし、俺の実家のことだけにあんたにも了承を得たほうがいいかなって」
「……」
口を開けば「ならねぇよ」「いらねぇよ」「ふざけんな」「死ね」とかしか出てこない。口を開かなくても頭の中はその言葉しかない。なので一旦黙った。
「秀真? どうしたんだ。まさか具合でも悪いのか」
そうじゃねぇんだよクソが! 何もかもお前とのやり取りのせいだよ……!
「……、……悪く、ねぇんだよ……」
「とてつもなく悪そうだぞ……! 早く横になったほうがいい。悪かった。仕事で疲れているだろうに。俺はもう帰るよ」
「そうじゃねぇ……っ、んだよ。いい、帰んな」
「甘えてくれるのは嬉しいが、具合が悪い時は早く寝た方がいいぞ」
もはや文句を言わずに返事ができない。秀真がまた黙っていると大聖が「ほら、歯を洗って」と秀真を促してきた。確かに洗面所に立つことで自分も一旦落ち着くだろうと秀真は言われた通りにする。すると大聖はますます困惑したように「やっぱり具合、悪そうだ」などと呟いていた。
磨いた後、大聖によって布団に横たわるのを余儀なくされる。秀真としても普通に接しようにも中々に難しいことを改めて実感していたのもあり、気づけばやはり言われた通り横になっていた。その後珍しく、昼前どころか朝に目が覚めた時、我に返った。
……何で俺はこいつに添い寝されてんだよ……何で俺は添い寝までそのまま受け入れてんだよ……つか文句を飲み込んで接するほうが怒ってるより気力擦り減ってんぞクソ……!
朝からイライラし、添い寝をかましてくれた大聖を睨む。眼鏡を外し、ぐっすりと眠っている大聖の寝顔は変態とは思えないほどあどけなそうだった。その目がゆっくり開く。
「あ……おはよう。あんたのほうが目が覚めるの早いなんて意外だな」
「起きて早々照れてんじゃねぇ……!」
「んん? ああ、よかった。具合はよくなったみたいだな」
「あ? どういうことだよ」
「寝起きの目であまり俺を見つめないで。嬉しいけど、さすがにまだちょっとその目つきは怖い……」
「見つめてねぇんだよ……! つか具合がよくなったとかどういうことだっつってんだろ」
「夜中のあんたはそうやっていつも俺に素直な気持ちをぶつけてくるどころか、やたら遠慮した感じだったから」
素直? 遠慮?
「は? てめぇの目と脳みそはどうなってやがんだ……」
「目は知っての通りよくないよ。眼鏡が必要だからね。頭もわかるだろ、あんたと同じ大学行ってるんだし」
「だからそうじゃねぇんだよ……!」
結局これが大聖に対してデフォルトの接し方のようだと秀真は思った。怒ってばかりは気力がいるのかもしれないが、大聖に対してはこちらのほうがむしろ普通な気、さえしてきた。
「あの大学は偏差値が高いし受かったのはとても嬉しかったんだよ。でも到底家から通える距離じゃないしね、仕方なく出てきた。本当は家を出るのは心苦しかったんだ。もちろん両親は俺たちをしっかり育ててくれたのもあって苦しい生活を送った記憶なんてないけど、それでも大学の資金を出したり仕送りしたりを楽にできる余裕なんてないだろうから。それでも快くここへ送り出してくれた両親にはとても感謝してる。あと、跡を継いでくれる兄にも」
「兄ちゃんいんのか」
あまりに変わり者だという印象からか、何となく一人っ子だと秀真は思っていた。
「うん」
「……兄ちゃんもお前みたいにやべぇやつなのか?」
「ちょっと言っていることがよくわからないけど……兄は優しくて頼りがいのある人だよ。もうすぐ結婚するだろう彼女がいるから高津家の農業も安泰だし」
変態ストーカー野郎の口から普通の家族話が出るのがとてつもなく違和感だったが、大聖の口から出る家族についての言葉が優しいことだけは秀真にもわかった。
「つか兄ちゃんにはちゃんと彼女いんのかよ。お前も兄ちゃん倣って彼女作れよ……」
「特に欲しいとは思ってなかったけど……でも今は俺にはあんたがいるし」
「何だよその流れ……。俺をその枠に入れんな。いいか、俺はその枠じゃない」
「枠? あんたはあんただろ。何か不安でもあるのか? 俺は今までつき合ったことすらなかったからな、あんたにも包容力とかそういうの発揮するのは上手くないかもだけど、ゆっくり勉強していくから何でも言ってくれ」
「そんなこと言ってねぇんだよ……!」
言い放った後にハッとなる。怒ってばかりではなく普通に接していこうと思ったところだというのにこれだ。とはいえやはり自分が悪いというより大聖がほぼ悪いようにしか思えないのだが、自分勝手な目線なのだろうか。
「っち。んであれか、家は兄が継ぐから代わりにお前がいい会社入って稼いで実家を支えたいってわけか」
「そうだね。構わないかな?」
「あ? 何で俺に聞くんだよ」
「だって将来は一緒になるんだし、俺の実家のことだけにあんたにも了承を得たほうがいいかなって」
「……」
口を開けば「ならねぇよ」「いらねぇよ」「ふざけんな」「死ね」とかしか出てこない。口を開かなくても頭の中はその言葉しかない。なので一旦黙った。
「秀真? どうしたんだ。まさか具合でも悪いのか」
そうじゃねぇんだよクソが! 何もかもお前とのやり取りのせいだよ……!
「……、……悪く、ねぇんだよ……」
「とてつもなく悪そうだぞ……! 早く横になったほうがいい。悪かった。仕事で疲れているだろうに。俺はもう帰るよ」
「そうじゃねぇ……っ、んだよ。いい、帰んな」
「甘えてくれるのは嬉しいが、具合が悪い時は早く寝た方がいいぞ」
もはや文句を言わずに返事ができない。秀真がまた黙っていると大聖が「ほら、歯を洗って」と秀真を促してきた。確かに洗面所に立つことで自分も一旦落ち着くだろうと秀真は言われた通りにする。すると大聖はますます困惑したように「やっぱり具合、悪そうだ」などと呟いていた。
磨いた後、大聖によって布団に横たわるのを余儀なくされる。秀真としても普通に接しようにも中々に難しいことを改めて実感していたのもあり、気づけばやはり言われた通り横になっていた。その後珍しく、昼前どころか朝に目が覚めた時、我に返った。
……何で俺はこいつに添い寝されてんだよ……何で俺は添い寝までそのまま受け入れてんだよ……つか文句を飲み込んで接するほうが怒ってるより気力擦り減ってんぞクソ……!
朝からイライラし、添い寝をかましてくれた大聖を睨む。眼鏡を外し、ぐっすりと眠っている大聖の寝顔は変態とは思えないほどあどけなそうだった。その目がゆっくり開く。
「あ……おはよう。あんたのほうが目が覚めるの早いなんて意外だな」
「起きて早々照れてんじゃねぇ……!」
「んん? ああ、よかった。具合はよくなったみたいだな」
「あ? どういうことだよ」
「寝起きの目であまり俺を見つめないで。嬉しいけど、さすがにまだちょっとその目つきは怖い……」
「見つめてねぇんだよ……! つか具合がよくなったとかどういうことだっつってんだろ」
「夜中のあんたはそうやっていつも俺に素直な気持ちをぶつけてくるどころか、やたら遠慮した感じだったから」
素直? 遠慮?
「は? てめぇの目と脳みそはどうなってやがんだ……」
「目は知っての通りよくないよ。眼鏡が必要だからね。頭もわかるだろ、あんたと同じ大学行ってるんだし」
「だからそうじゃねぇんだよ……!」
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