隣に住むものは……

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 アルバイト先のスーパーにも大聖はいくつか野菜を持って行った。惣菜担当など知り合いの従業員で欲しがる人に持って帰ってもらうためだ。
 その後総菜を追加で作り、売り場に少し出ていると「あれ、大聖くん?」と声かけられた。

「? ああ、柄本さん! 柄本さんもこういうところで買い物するんだね」
「そりゃね。そういえばこのスーパーの総菜コーナーでバイトしてるって言ってたっけ。でもまさか今いるとは思ってなかった。仕事お疲れ様」
「ありがとう。総菜、柄本さんも買うの?」
「……そうだなあ。君が作ったのは?」

 何か少し考えたかと思うと、昌氏はにっこり笑みを向けてきた。

「俺が? えっと、この種類と……あとはこれらかな」
「そう。じゃあそれら全部買うよ」
「えっ? いや、同じ種類ばかり結構あるけど……」
「それが?」

 昌氏を見ると、本気で「それがどうかしたのか」といった表情している。相当頭がよさそうだというのに、もしや秀真ほどではなくとも日常生活に少々困難をきたしているタイプの秀才なのだろうかと大聖は困惑顔で昌氏を改めて見た。

「どうかしたのかな」
「いえ、同じ種類ばかり大量に買っても仕方なくないかな、って」
「冷凍することもできるし、何なら職場で誰かに勧めてもいいしね」
「ああ、まぁ……」

 ありがとう、と大聖は昌氏の持つカゴに自分が作った総菜を入れていった。

「ところでまたコーヒーでも飲みに来ないかい」
「それは嬉しいな。柄本さん、いつなら都合いいの?」
「今かなあ」
「はは、さすがに俺仕事中だしね」
「早退すれば?」
「え?」
「冗談だよ。そうだね、今日はこのままこっちにいるから君がアルバイトを終えてからはどうだろうか。何時まで?」
「あ、っと……今日は八時までで……」
「そうかぁ。コーヒーっていう時間じゃないかなあ。ちょっと僕、明日からしばらくまた忙しくてね。中々時間が作れないと思うんだよ」

 とても残念そうにしている昌氏を見て大聖が申し訳なく思っていると、社員の一人が話しかけてきた。

「高津くんのお知り合いだよね。この人のおかげで一気に総菜売れたんだし、今日はそんなに忙しくなさそうだしさ。あれだったら別の日にまた出勤してくれたらいいから今日、高津くん帰ってくれてもいいよ。何とかなると思う」
「え、でもそれは……」
「本当ですか。それは申し訳ない、けど僕としては嬉しいな」

 ニコニコ実際嬉しそうにする昌氏に、話しかけてきた社員もニコニコ大聖を見る。

「……じゃあ、ご迷惑でなければ……そうさせてもらいます」
「うん、いいよいいよ。皆も大丈夫だよな」
「いいっすよ」
「あ、それなら私、今週の金曜ちょっと休めたらいいなって思ってたんですよね。その日お休みの高津くんが代わってくれると助かるかも」
「はい、それはもちろん、喜んで」

 生活費を稼ぐためにアルバイトしているので、休むより働く日が増えることは勉学に響かないのなら大聖としても歓迎だった。
 今さら困るとも言えずで大聖は人のいい職場の皆に礼を言い、そのまま仕事を上がらさせてもらった。一応二時間は働いているのでまあよしとする。
 二人でアパートへ向かいながら、大聖はまだ内心少々困惑していた。
 別に昌氏が実際無理強いしたわけではないし、大量に総菜も買ってくれた。迷惑どころかいい客だったのだと思う。だがやはりどこか違和感というか、これでいいのかなといった疑問がほんのり生じる。自分が真面目気質だからというのもあるのだろうか。知人とコーヒーを飲むためだけにアルバイトを早退するという結果に、首を傾げざるを得ない。だが昌氏は申し訳がるどころかニコニコ機嫌がいい。大聖だったら相手の職場に迷惑をかけていないだろうかとか、相手に迷惑だったのではとか気になって仕方ない気がするのだが、考えすぎなのだろうか。

「ちょうどまたいい豆を仕入れてたんだ。はやく大聖くんに味わって欲しいなと思ってたんだよ」

 昌氏は嬉しそうにニコニコ笑いかけてきた。

 ……やっぱり俺の考えすぎかな。気になるほうが悪いのかもしれない。

 自分の中で納得させると、大聖も背の高い昌氏を見上げ、笑いかけた。

「コーヒー、楽しみだな」

 そして、そうだ、と思い出した。
 階下に住んでいる老婦人が言っていたことを昌氏にも聞いてみようと。別に大したことじゃないだろうが、何となく気になっている。多分単に前に住んでいた女性が引っ越しし、昌氏が新たに入ってきただけなのだろう。階下の人は年配の女性だし住んでいる人のことを少なくとも秀真よりはずいぶん詳しそうだと老婦人を見ていたら思うが、そっと出入りしていたら知らないままなんてこともあるかもしれない。なんと言ってもここは都会だ。大聖がずっと住んでいた地元とは違う。地元だったら誰がどう出入りしたか知らない者はいないくらいだが、都会ならそういうこともあるだろう。
 自分の中でまた納得しつつ、話のタネ的に聞いてみればいいか、と大聖は思った。
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