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「恋人とか冗談でもやめろ」
とりあえすまずはそれだ、と思い切り言い放つと大聖が怪訝な顔で秀真を見てきた。
「あとそういう、お前何言ってんのって顔もやめろ。お前にだけはそんな表情で見られる謂れはねぇ。お前にだけはな!」
「何をムキになっているんだ? カルシウムが足りていないんじゃないか? しばらく魚メインの料理を考えるか……」
魚──そういえば腹立たしいこと山の如しだが、この変態ストーカーの料理に飢えているのだったと秀真はとてつもなく嫌な顔をしながら「そうじゃねぇ」と絞り出すように言う。一瞬腹の虫が鳴りそうだったのもあり、腹に力を入れたせいもあるが、絞り出すような言い方はほぼ今の気持ちの表れだ。
「まあ確かにそうだ」
「あ? 珍しく素直に理解したのか」
「イライラ、イコールカルシウムってのは安易かもしれない」
「は。当然だろが。お前がろくでもねぇ言動ばっかとってくるからだな」
「他にビタミンCやB不足っていうのもあるし、あんたみたいに酒ばっかなら、そうだな、亜鉛不足ってこともある」
「ああクソ、だからそうじゃねぇんだよ……!」
ああもう、と力いっぱい言い放てば、大聖がまた怪訝な顔で秀真を見てきた。さらにイラっとさせられる。
「大丈夫か? とりあえずまんべんなく栄養がとれる美味いもん、作るよ」
「……っ、それはまぁ……作ってきたらいい」
「ここの片づけ終わったらな」
「おぅ。……じゃなくて! だから何でお前が当然のように不法侵入して俺の部屋片づけてんだよ!」
「? 前は母親のように心配だったからだが、今は恋人だからだな」
「クソ、クソ……! この無駄なほどの堂々巡り誰かどうにかしてくれ……!」
「一体どうしたんだ本当に」
「お前だよ……! 今俺を苛立たせてんの百パーセントお前」
「なぜ?」
また怪訝な顔された。イライラが恨み骨髄に徹する前に秀真は思い切り深呼吸する。
「秀真?」
「……まず何より理解しろ。いいか? お前は、俺の、恋人じゃねぇ」
大聖に言い聞かせるように一つ一つ区切って言い放つ。
「……? ああ、なるほど」
さすがに今度こそ残念な頭に言葉が浸透したか、と秀真は大聖を見る。
「はは。照れ隠しか。仕方ないな、秀真は。でもお手柔らかに願いたい。俺こそ誰かとつき合うなんてしたことないし照れもある。でもがんばって、いい彼氏になるよ」
通じない。
どうしたらいいのか。もういっそ泣けばいいのか。思い切り泣けばいいのか。そうじゃないのだと泣き崩れたらこの変態ゴーイングマイウェイストーカーの耳も多少通りがよくなるのか。
頭を抱えていると大聖が立ち上がった。
「とりあえず今日はこんなものか。じゃあちょっと待ってて。食事持ってくる」
「……おぅ」
人の話をちゃんと聞かないままふざけるな馬鹿野郎と罵倒したいところだが、食事と聞いて秀真はただ頷いた。仕方ない。大聖の料理不足で禁断症状が少々出ている。カップラーメンなどが楽しめなくて食べることすら億劫になりかねなくなっている。仕方ない。
しばらくするとまた勝手にドアを開けて大聖が入ってきた。
「今日の夕食の残りは魚じゃなかったんだけどね。明日は魚にしよう」
鶏肉と夏野菜の揚げびたしを小さなコーヒーテーブルに置きながら言ってくる。すでに美味そうな匂いが漂ってきており、本気で禁断症状が出ているのかもしれないと秀真は内心思った。ようやく食べると体に染み込み、それらがまるで染み渡るかのように美味い。もうこれがないと本気で日々過ごせないのではないかと思うくらい美味い。
って、何考えてんだ俺。
口の中のものを咀嚼し終え、秀真は舌打ちしてから大聖を睨んだ。
「つかだいたいお前、いつもいつも何で勝手に入ってくんだよ」
「鍵でだけど」
「そうじゃねぇぇぇ……つかそもそも何でお前が俺の家の鍵持ってんだよ、今さら過ぎてアレだけども!」
「合鍵だな」
「だから何で」
「作ったから」
「……いつ、どうやって……」
「そんなことより早く食べてくれ。洗い物も片づけてしまいたいしな」
改めて本気でこいつはストーカー野郎だと秀真はしみじみ思った。だがなぜだろうか、怖さはない。職場で聞いたりしていたストーカーは他人事ながらに怖いと思っていた。どう考えても犯罪だしそれに巻き込まれるなんてヤバすぎると思っていた。だというのに今もちっとも怖くない。とてつもなく、途方もなく、心底呆れはあるが、恐怖ではない。
話に聞いていたストーカーと、何が違うのだろうか。勝手にポストを漁られたり、勝手に合鍵を作られたり、勝手に不法侵入されたり、改めてどう考えても同じような犯罪だとしか思えない。何が違うのか。
認めたくないが、すでにもう自分の中で大聖はただの知り合いよりもう一歩近い存在だと認めているのだろうか。いや、とはいえわりと最初からこんな感じだった気もしないでもない。
「はー……もう、わけわかんねぇ」
ため息つくと「悩みごとか? 俺に相談してみろ」と言われた。
「……お前が原因なんだよ」
「ちょっと言っている意味がわからないな」
「俺はお前がわからねーよ……」
とりあえすまずはそれだ、と思い切り言い放つと大聖が怪訝な顔で秀真を見てきた。
「あとそういう、お前何言ってんのって顔もやめろ。お前にだけはそんな表情で見られる謂れはねぇ。お前にだけはな!」
「何をムキになっているんだ? カルシウムが足りていないんじゃないか? しばらく魚メインの料理を考えるか……」
魚──そういえば腹立たしいこと山の如しだが、この変態ストーカーの料理に飢えているのだったと秀真はとてつもなく嫌な顔をしながら「そうじゃねぇ」と絞り出すように言う。一瞬腹の虫が鳴りそうだったのもあり、腹に力を入れたせいもあるが、絞り出すような言い方はほぼ今の気持ちの表れだ。
「まあ確かにそうだ」
「あ? 珍しく素直に理解したのか」
「イライラ、イコールカルシウムってのは安易かもしれない」
「は。当然だろが。お前がろくでもねぇ言動ばっかとってくるからだな」
「他にビタミンCやB不足っていうのもあるし、あんたみたいに酒ばっかなら、そうだな、亜鉛不足ってこともある」
「ああクソ、だからそうじゃねぇんだよ……!」
ああもう、と力いっぱい言い放てば、大聖がまた怪訝な顔で秀真を見てきた。さらにイラっとさせられる。
「大丈夫か? とりあえずまんべんなく栄養がとれる美味いもん、作るよ」
「……っ、それはまぁ……作ってきたらいい」
「ここの片づけ終わったらな」
「おぅ。……じゃなくて! だから何でお前が当然のように不法侵入して俺の部屋片づけてんだよ!」
「? 前は母親のように心配だったからだが、今は恋人だからだな」
「クソ、クソ……! この無駄なほどの堂々巡り誰かどうにかしてくれ……!」
「一体どうしたんだ本当に」
「お前だよ……! 今俺を苛立たせてんの百パーセントお前」
「なぜ?」
また怪訝な顔された。イライラが恨み骨髄に徹する前に秀真は思い切り深呼吸する。
「秀真?」
「……まず何より理解しろ。いいか? お前は、俺の、恋人じゃねぇ」
大聖に言い聞かせるように一つ一つ区切って言い放つ。
「……? ああ、なるほど」
さすがに今度こそ残念な頭に言葉が浸透したか、と秀真は大聖を見る。
「はは。照れ隠しか。仕方ないな、秀真は。でもお手柔らかに願いたい。俺こそ誰かとつき合うなんてしたことないし照れもある。でもがんばって、いい彼氏になるよ」
通じない。
どうしたらいいのか。もういっそ泣けばいいのか。思い切り泣けばいいのか。そうじゃないのだと泣き崩れたらこの変態ゴーイングマイウェイストーカーの耳も多少通りがよくなるのか。
頭を抱えていると大聖が立ち上がった。
「とりあえず今日はこんなものか。じゃあちょっと待ってて。食事持ってくる」
「……おぅ」
人の話をちゃんと聞かないままふざけるな馬鹿野郎と罵倒したいところだが、食事と聞いて秀真はただ頷いた。仕方ない。大聖の料理不足で禁断症状が少々出ている。カップラーメンなどが楽しめなくて食べることすら億劫になりかねなくなっている。仕方ない。
しばらくするとまた勝手にドアを開けて大聖が入ってきた。
「今日の夕食の残りは魚じゃなかったんだけどね。明日は魚にしよう」
鶏肉と夏野菜の揚げびたしを小さなコーヒーテーブルに置きながら言ってくる。すでに美味そうな匂いが漂ってきており、本気で禁断症状が出ているのかもしれないと秀真は内心思った。ようやく食べると体に染み込み、それらがまるで染み渡るかのように美味い。もうこれがないと本気で日々過ごせないのではないかと思うくらい美味い。
って、何考えてんだ俺。
口の中のものを咀嚼し終え、秀真は舌打ちしてから大聖を睨んだ。
「つかだいたいお前、いつもいつも何で勝手に入ってくんだよ」
「鍵でだけど」
「そうじゃねぇぇぇ……つかそもそも何でお前が俺の家の鍵持ってんだよ、今さら過ぎてアレだけども!」
「合鍵だな」
「だから何で」
「作ったから」
「……いつ、どうやって……」
「そんなことより早く食べてくれ。洗い物も片づけてしまいたいしな」
改めて本気でこいつはストーカー野郎だと秀真はしみじみ思った。だがなぜだろうか、怖さはない。職場で聞いたりしていたストーカーは他人事ながらに怖いと思っていた。どう考えても犯罪だしそれに巻き込まれるなんてヤバすぎると思っていた。だというのに今もちっとも怖くない。とてつもなく、途方もなく、心底呆れはあるが、恐怖ではない。
話に聞いていたストーカーと、何が違うのだろうか。勝手にポストを漁られたり、勝手に合鍵を作られたり、勝手に不法侵入されたり、改めてどう考えても同じような犯罪だとしか思えない。何が違うのか。
認めたくないが、すでにもう自分の中で大聖はただの知り合いよりもう一歩近い存在だと認めているのだろうか。いや、とはいえわりと最初からこんな感じだった気もしないでもない。
「はー……もう、わけわかんねぇ」
ため息つくと「悩みごとか? 俺に相談してみろ」と言われた。
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