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ちょっとどうしていいかわからなさすぎて、秀真としては考えごとすらままならない。ただ仕事中はアルバイトとはいえ真面目にやりたいので、考えにもならない考えごとは押しやった。それでもまだどこか上の空なところでもあるのか、何回か客にも「昴、大丈夫?」と聞かれた。
「ほんと、大丈夫なのかお前。何かあった?」
どちらも一旦客が引いて待機中に、悠人が水を飲みながら聞いてくる。
大丈夫じゃねえ。
「大丈夫だ。具合が悪いとか、そーいうんじゃねえし」
「にしてもどっか変っつーか、気もそぞろって感じだけど」
そりゃそうだろ、お前だってケツで気持ちよくなってたとか言われてみろ。魂が抜けきってねーだけマシだわ。
「眠いんだろ、多分」
「んだよ、その他人事な言い方はよ。まあ問題ねーならいいけど、もし何かあんのなら言えよ」
「あー。サンキュ。そん時は言うわ」
言えたらな。
仕事が終わると秀真はどこへも寄らず、コンビニエンスストアで水や茶だけ買って家へ帰った。少なくともしばらくは仕事以外で酒を飲むのはやめたい。
家の中に入る時はとてつもなく警戒した。だが大聖がいないとわかると少し拍子抜けする。いつも勝手に鍵を開けて勝手に入っているだけに「責任を」とか「つき合う」などふざけたことを言っていたのもあり、また当然のように勝手に上がり込んでいると何となく思っていた。
一人にしてくれと口にしたことは覚えている。もしかしてそれを汲んでいるのだろうか。
……あの話を聞かないゴーイングマイウェイストーカー野郎が? まさか。
酒を仕事中もなるべく控えていたのもあり、少しも酔っていないすっきりした頭でシャワーを浴びた。出てからテレビをつけ、湯を沸かしてカップラーメンを作る。
「……濃い」
最近ずっと大聖が作ってくる手料理を食べているせいか、インスタント食品への障害がもう出てしまっているようだ。とりあえず麺だけ食べ終えると、前なら残さず飲み干していたスープは捨てた。
「やべぇ、あの変態ストーカーの飯食いてえ……」
犯罪野郎に胃袋をつかまれてどうするのかと、思い切り自分に突っ込みたい。突っ込みたいついでに言うなら、本当に自分は突っ込まれて気持ちよくなっていたのだろうかと自分に尋問したい。
確かに以前、そういう店でそういうプレイをされた時は悪くはなかった。最初は少々引きながらも、やってみたら案外できないことはなかった。だがそれは相手が綺麗なお姉さんだからでしかない。男に本物を突っ込まれて気持ちよくなっていたのだとしたら、秀真的にそれはもうアウトなのではないかと思ってしまう。
別に男同士や女同士にどうこう思うことはないが、それはあくまでも他人事だからだ。例え友人であれ、本人が好きなら同性も好きになればいいじゃないかと思うが、それはあくまでも自分のことではないからだ。
秀真はずっと異性が好きだったし、今なお異性が好きだ。性的嗜好は間違いなく異性だ。迷うことなき事実だ。だというのに男に突っ込まれて気持ちよくなってどうするのか。
間違いではないのだろうかと思いたい。現に翌日から数日は座るのも違和感だった。尻の穴付近が少し腫れていて、そこが当たるのだ。痛痒いのが不快感だし何より腫れていることが正直少し怖かった。そんなだというのに気持ちがよかったなど、あり得るのか。
……つか、俺、男もいけるやつだった、とか?
アルバイトで水商売して得た経験は、案外色んなことに生かせている。以前より物事を柔軟に捉えたり考えたりできるようにもなれたと思う。犯罪ストーカー野郎の大聖がいつの間にか当たり前のように上がり込んでいることに、通報もせず何だかんだで多少なりとも受け入れられているのもそのせいかもしれない。大聖と性行為をやらかしてしまったらしいと知った後にあまり取り乱すことなく、終わったことは仕方ないと受け流せていたのもそのせいかもしれない。たださすがに尻でいける、というのはどうにも受け入れ難い気がする。だが性的嗜好に対しても柔軟に考えてみればいいのではないだろうかと想像してみた。
──いや、ないわ……無理、ないわ……。
仲のいい友人相手に想像するのはさすがに性別関係なく抵抗があるので、顔見知り程度の男相手に想像してみようとしたが、どうしたってまず脳が抵抗を見せてくる。あと大聖で考えてみようとしたら、酔っぱらい過ぎてほぼないはずの記憶の断片が頭に浮かんだので即考えるのをやめた。
「いや、ここで考えんのやめるから考えごとすらままならねーんじゃねえか?」
ぼそりと呟き、秀真は敷きっぱなしの布団に転がった。
翌日になっても大聖は顔を見せなかった。性行為をしてしまった後もそうだったが、その後責任を取ると斜め上なことを言いに顔を見せてきたというのに、またこれだ。もしかして本当に、一人にしてくれという言葉を汲んでいるのだろうか。とはいえどうしても大聖がこちらの話をちゃんと聞いてその通りにしてくるヤツだと思えない。
というか、尻で気持ちよくなっていたという衝撃の発言を聞いてからやたら大聖のことばかり考えてしまっている。恋焦がれてではなく、どちらかというと微妙な気持ちで考えているのだとしても何というか、忌々しい。
「つか結局考えごとままならねぇままじゃねーか。何やってんだ俺」
ぶつぶつ独り言を呟きつつ、今日も酒を控えめにしてどこへも寄らず仕事から帰ってくると、部屋に明かりがついており、中で数日振りに大聖が相変わらず不法侵入な上に堂々と掃除という名の物色を行っている。
「っおま……」
「ああ、お帰り、ハニー」
秀真に気づいた大聖が、照れることもなく淡々とそんなことを言ってきた。
「ハニーはやめろ……! つか数日来なかったわりに結局当たり前のように不法侵入かよ」
「不法侵入? 俺は恋人の部屋を片付けているだけだけど」
ああそうだ。ケツで気持ちよくなる云々も深刻な悩みかもしれねーが、それよりもまずどうにかしねーとな問題があったんだった。
秀真は顔を引きつらせた。
「ほんと、大丈夫なのかお前。何かあった?」
どちらも一旦客が引いて待機中に、悠人が水を飲みながら聞いてくる。
大丈夫じゃねえ。
「大丈夫だ。具合が悪いとか、そーいうんじゃねえし」
「にしてもどっか変っつーか、気もそぞろって感じだけど」
そりゃそうだろ、お前だってケツで気持ちよくなってたとか言われてみろ。魂が抜けきってねーだけマシだわ。
「眠いんだろ、多分」
「んだよ、その他人事な言い方はよ。まあ問題ねーならいいけど、もし何かあんのなら言えよ」
「あー。サンキュ。そん時は言うわ」
言えたらな。
仕事が終わると秀真はどこへも寄らず、コンビニエンスストアで水や茶だけ買って家へ帰った。少なくともしばらくは仕事以外で酒を飲むのはやめたい。
家の中に入る時はとてつもなく警戒した。だが大聖がいないとわかると少し拍子抜けする。いつも勝手に鍵を開けて勝手に入っているだけに「責任を」とか「つき合う」などふざけたことを言っていたのもあり、また当然のように勝手に上がり込んでいると何となく思っていた。
一人にしてくれと口にしたことは覚えている。もしかしてそれを汲んでいるのだろうか。
……あの話を聞かないゴーイングマイウェイストーカー野郎が? まさか。
酒を仕事中もなるべく控えていたのもあり、少しも酔っていないすっきりした頭でシャワーを浴びた。出てからテレビをつけ、湯を沸かしてカップラーメンを作る。
「……濃い」
最近ずっと大聖が作ってくる手料理を食べているせいか、インスタント食品への障害がもう出てしまっているようだ。とりあえず麺だけ食べ終えると、前なら残さず飲み干していたスープは捨てた。
「やべぇ、あの変態ストーカーの飯食いてえ……」
犯罪野郎に胃袋をつかまれてどうするのかと、思い切り自分に突っ込みたい。突っ込みたいついでに言うなら、本当に自分は突っ込まれて気持ちよくなっていたのだろうかと自分に尋問したい。
確かに以前、そういう店でそういうプレイをされた時は悪くはなかった。最初は少々引きながらも、やってみたら案外できないことはなかった。だがそれは相手が綺麗なお姉さんだからでしかない。男に本物を突っ込まれて気持ちよくなっていたのだとしたら、秀真的にそれはもうアウトなのではないかと思ってしまう。
別に男同士や女同士にどうこう思うことはないが、それはあくまでも他人事だからだ。例え友人であれ、本人が好きなら同性も好きになればいいじゃないかと思うが、それはあくまでも自分のことではないからだ。
秀真はずっと異性が好きだったし、今なお異性が好きだ。性的嗜好は間違いなく異性だ。迷うことなき事実だ。だというのに男に突っ込まれて気持ちよくなってどうするのか。
間違いではないのだろうかと思いたい。現に翌日から数日は座るのも違和感だった。尻の穴付近が少し腫れていて、そこが当たるのだ。痛痒いのが不快感だし何より腫れていることが正直少し怖かった。そんなだというのに気持ちがよかったなど、あり得るのか。
……つか、俺、男もいけるやつだった、とか?
アルバイトで水商売して得た経験は、案外色んなことに生かせている。以前より物事を柔軟に捉えたり考えたりできるようにもなれたと思う。犯罪ストーカー野郎の大聖がいつの間にか当たり前のように上がり込んでいることに、通報もせず何だかんだで多少なりとも受け入れられているのもそのせいかもしれない。大聖と性行為をやらかしてしまったらしいと知った後にあまり取り乱すことなく、終わったことは仕方ないと受け流せていたのもそのせいかもしれない。たださすがに尻でいける、というのはどうにも受け入れ難い気がする。だが性的嗜好に対しても柔軟に考えてみればいいのではないだろうかと想像してみた。
──いや、ないわ……無理、ないわ……。
仲のいい友人相手に想像するのはさすがに性別関係なく抵抗があるので、顔見知り程度の男相手に想像してみようとしたが、どうしたってまず脳が抵抗を見せてくる。あと大聖で考えてみようとしたら、酔っぱらい過ぎてほぼないはずの記憶の断片が頭に浮かんだので即考えるのをやめた。
「いや、ここで考えんのやめるから考えごとすらままならねーんじゃねえか?」
ぼそりと呟き、秀真は敷きっぱなしの布団に転がった。
翌日になっても大聖は顔を見せなかった。性行為をしてしまった後もそうだったが、その後責任を取ると斜め上なことを言いに顔を見せてきたというのに、またこれだ。もしかして本当に、一人にしてくれという言葉を汲んでいるのだろうか。とはいえどうしても大聖がこちらの話をちゃんと聞いてその通りにしてくるヤツだと思えない。
というか、尻で気持ちよくなっていたという衝撃の発言を聞いてからやたら大聖のことばかり考えてしまっている。恋焦がれてではなく、どちらかというと微妙な気持ちで考えているのだとしても何というか、忌々しい。
「つか結局考えごとままならねぇままじゃねーか。何やってんだ俺」
ぶつぶつ独り言を呟きつつ、今日も酒を控えめにしてどこへも寄らず仕事から帰ってくると、部屋に明かりがついており、中で数日振りに大聖が相変わらず不法侵入な上に堂々と掃除という名の物色を行っている。
「っおま……」
「ああ、お帰り、ハニー」
秀真に気づいた大聖が、照れることもなく淡々とそんなことを言ってきた。
「ハニーはやめろ……! つか数日来なかったわりに結局当たり前のように不法侵入かよ」
「不法侵入? 俺は恋人の部屋を片付けているだけだけど」
ああそうだ。ケツで気持ちよくなる云々も深刻な悩みかもしれねーが、それよりもまずどうにかしねーとな問題があったんだった。
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