隣に住むものは……

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 目が覚めた途端、頭がガンガンして最悪の気分だと秀真は唸った。
 昨日、少々飲み過ぎてしまったようだ。いつもは加減して飲むのだが、アルバイト先で仲よくしている何人かの一人が誕生日ということで、仕事中大いに盛り上がってしまったせいかもしれない。秀真の客もその場のノリに合わせていつもより多めにボトルを入れてくれたのもあり、とにかくひたすら飲んだ。おかげでどうやって家へ帰ってきたのかもあまり覚えていない。

「……いや、確か途中であまりに頭ん中ぐらぐらしてそのまま寝ようとしたんだっけか」

 もうここで寝てもいいのではと、やたら気が大きくというかどうでもよくなっていた秀真は、道端で寝てしまおうとした。だが何とか辛うじて理性を総動員し、アパートまでたどり着いた気がする。それもあり、自宅へ着いた途端タガが外れ、倒れ込むようにして寝た覚えがある。
 考えながら体を起こすと、頭だけでなく妙に尻がズキズキ痛む。怪訝に思いながら立ち上がろうとし、秀真はカクンと崩れ落ちた。

「……何だ?」

 と同時に下着に濡れた感触を覚える。

 え? い、いやいやいやいや、いくら飲み過ぎたからって、まさか腹壊し過ぎて緩過ぎるものを寝てる間に俺、漏らしてたとかそんなんじゃねえよな?

 怖くて確認したくない。二十一歳にもなってそれは嫌すぎる。もしくはまだ二十一歳なのに年寄りみたいな気分にさえなりつつ、青ざめながら秀真は恐る恐る下着をずらそうとした。その際に、今さらだが自分がボクサーパンツしか履いていないことに気づいた。酔っぱらって無意識に脱ぎ倒したのだろうか。
 恐々と下着をずらし、大便を漏らしたのではないとわかり心底ホッとする。だが間違いなく下着は濡れている。寝ている間に尻から何かが漏れたのはやはり確実な気がしてまた青ざめていると、布団に寝ていたのが自分一人でないことにようやく気づいた。

「……っ大聖……?」

 なぜ大聖がここで寝ているのか。
 いくらストーカー野郎だとしても、今まで大聖がここで眠ったことはない。
 とてつもなく怪訝に思っている秀真の頭の中のハテナの中に、薄っすら妙なシーンが混じった。

「……、……っ?」

 思わず目を見開きながら、手で口元を押さえつつ秀真は何とかカクカクしながらも起き上がる。慌ててバスタオルをひっつかみ、風呂場へ向かった。中へ入りシャワーを出すと、まだ完全に湯になる前にそれを頭から浴びる。

 嘘だろ……誰か嘘だと言ってくれよ。いやほんとマジで……嘘だろ?

 はっきり明確に思い出したわけではないが、昨日自分が馬鹿みたいに酔っ払い、やって来た大聖をなぜか女と間違い、襲ったのは多分幻覚ではない。しかも襲っただけでなく、勘違いに勘違いを重ね倒した挙句、最終的に襲われたのは自分だ。
 大聖めと舌打ちした後でしかし、そもそも襲ったのが自分だと再度思い出し、頭を抱えて天井を仰ぐとシャワーの湯が顔に降り注いだ。

「ああくそ……! つかあんな店に連れてくから……!」

 ここにはいないアルバイト先の先輩を逆恨みしつつ、ひたすらシャワーの湯を浴びながら頭を抱えた。
 M性感の店には元々興味ないし、無理やり連れられて経験したもののハマってはいない。また行きたいとも思っていない。確かに店で受けたプレイでは、素人の女からは味わえないような快楽を堪能できた。だが一度経験したら十分だと秀真は思っていた。おまけにいくらソフトとはいえ、アナル責めも一度味わったら十分だった。

 だというのに俺は酔ってたっつってもマジ何やらかしてんだよ……! つかパンツ濡れてたのって、もしかしなくてもクソ大聖のクソ精液ってことじゃねーか……っ?

 未だ明確に思い出していないが、尻の穴を弄られる流れで、なぜか指だけでなく大聖のものまで突っ込まれたのは間違いない。コンドームを使うことすらせず、多分そのまま中へ出されるまでされた。

 ……ってことはまあ、俺のケツからヤベーもんが出てきたってわけじゃねーのか。

 寝ている間に尻から何が漏れたのかと青ざめたことを思い出し、秀真はホッとした。だがすぐに「ちげーだろ俺……!」と頭を振り、まだ残っている二日酔いのせいでガンガンと激しい痛みを味わう。
 さすがに「処女を失っちゃった」などといった嘆きはないが、自分にも大聖にもドン引きだ。というか、自分を棚に上げていいのなら自分は酔っていたからまだしも、素面の大聖がよく男に突っ込めたなと思う。男が好きなやつなのかと考えてみたが、仕事柄というか他所でも飲みに行く機会が多いからというか、何となくではあるが男が好きなタイプには見えない。もちろん百パーセントわかるわけではないのだが。
 結局大してすっきりしないまま、それでも体だけはすっきりさせ、秀真は風呂から出た。バスタオルしか持ってきていないので、体を拭いたあとにそれを腰に巻く。
 はぁ、とため息つきながら服を入れている押し入れへ向かうと、風呂に入る前はまだ眠っていた大聖が目を覚ましており、魂を抜かれたような顔して座り込んでいた。
 魂が抜かれたような気持ちになりたいのはこっちだと微妙な顔しながらも、そもそも最初に襲ったようなものなのは自分のため、秀真としては怒鳴り散らすわけにもいかない。犯罪ストーカー野郎だとしても理不尽に怒りをぶつける気はない。
 秀真はため息つきながら、唖然としている大聖へ近づいた。
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