隣に住むものは……

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 目の前の相手を秀真はドン引きしながら見る。いつの時代に入手したのか謎な黒ぶち眼鏡で、ぼさぼさの髪した冴えない男だ。よくよく見れば整った顔していそうな気もしないではないが、その前によくよく見る気ないし、どのみち整ってようがそうでなかろうがどうでもいい。とりあえずどこかずれたヤバいやつでしかない。
 やはり最初に通報しておくべきだったのかもしれない。どう考えてもヤバいストーカー野郎だ。ただ、持ってくる料理がはっきり言ってかなりツボだったりする。こんな美味い飯は母親からも提供されたことない。というかそもそも秀真の母親はスーパーの総菜愛用者だったので、手料理はどちらかと言えば今までつき合った彼女からのほうが食べる率は高かったかもしれない。どのみちそれと比べても余り余るほど美味しいのではと思われた。

「非常識? 最初に非常識な態度を取られたのは俺だと思うんだけど」
「最初?」
「挨拶に伺った時」
「あ? 野菜断ったからかよ。飯作れねーんだからしょうがねえだろ。貰って腐らせるほうが駄目だろが」
「というか態度が」
「態度?」
「でも秀真はこういう話し方が基本なんだなと思うと仕方ないかと考えるようにしてる。でも、俺はお隣さんだからもういいけど、あまり知らない人にはもう少し丁寧さを心がけたほうがいいと思うぞ」
「お前も知らない人なんだよ基本的に……!」

 何自分は知り合いだみたいな言い方しているのだと秀真は睨んだ。

「つか、テメーだけ偉そうに呼び捨てにしてくんの癪に障る」
「そんな勝負みたいなことを言われても」
「うるせぇ。お前の名前、何」
「ええ? この間改めてフルネームで名乗ったのに」
「んなもん覚えてるわけねーだろ。何」
「大聖だよ。高津大聖」
「たいせー? え、マジで」

 ついブハッと吹きそうになった。仲いい悠人の源氏名が大星と書いて、たいせいだ。そんな偶然の一致など欲しくもないが、一瞬おかしくて笑いそうになった。

「俺の名前、変な名前だろうか?」

 そんな理由などストーカー気質であってもさすがに知る由もないようで、大聖が怪訝な顔している。

「あーいや。いい名前なんじゃね?」

 少し笑い気味で言えば、何となく妙な顔をしていた。

「つか結局何だよ」
「え?」
「え、じゃねぇ。お前が言ってきたんだろ、知ってるか、って。何が知ってるかって?」
「ああ。さっきの。えっと、俺の反対側のお隣さんのこと」
「んだ、そんなことかよ。あんま知らねえし、どうでもいいんだけど」
「何度か挨拶に行っても留守だったし全然会わなかったから、ついその人もあんたみたいに怖い人だったらどうしようと思って挨拶は諦めてたんだけど、この間偶然会って。秀真と違って凄く大人って感じの人だったよ。実際大人な人で多分会社の偉いさんだと思う。二十八歳で、すごいよな」
「いや、何でまだその話続けてくんか知らねえけど俺、別に興味ねえんだよ。つか俺が怖い人ってどういうことだよ」

 心底どうでもよくて言ったのだが、大聖は続けてくる。不法侵入者な上に空気の読まない、会話の上でも侵入者かよと秀真は呆れたように大聖を見た。

「現に寝起きの目つき酷いだろ。その人は物腰も丁寧で。なのに俺に対して敬語はいらないって言ってくれてさ。俺、敬語ってあまり得意じゃないから助かったな」
「てめ、俺には最初から敬語のケの字もなかっただろうが! 確か俺より下だろお前。んだよその違いは」

 どうでもいいながらに、自分への扱いが軽んじられるのはどうにも気にくわない。秀真がムッとしながら言えば「敬語、あまり得意じゃないから」とまた言ってくる。

「それでもそいつにはかろうじて敬語だったんだろが」
「だって大人の人だし」
「俺も上」
「三つしか変わらないけど」
「学生の三つはデカいだろが!」

 あとホストの世界でも上下関係はわりと厳しい。
 だいたい真面目そうな雰囲気の上にかなり田舎から出てきたらしいくせに敬語が苦手って何でだよ、と秀真は微妙な顔になる。ただの決めつけでしかないが、真面目なやつや素朴なやつは敬語が得意という印象しかない。

「俺の地元だと多少の年の差なら下手したら同じ教室で勉強してたし、周りは年寄りとか多かったけどほとんど皆知り合いで敬語使うことなかったから、三歳違いくらいだとピンとこないし敬語も慣れてない」

 想像を越えた田舎暮らしっぷりかよ!

 ふと、この不法侵入や異常なほどの世話っぷりもその影響かと思ったりしたが、秀真はいやいやと首を振る。この行為を正当化してやる義理はない。

 ……飯は美味いけども。

「あと、それでも一応引っ越しの挨拶に出向いた時はあんたにも敬語で接してたよ。初対面の人にはこれでも使うようにしてるし」
「ほぼ喋った記憶ねーけど。それにお前が不法侵入した時もある意味初対面みたいなもんだろが」
「ほぼ喋ってないのはあんたがその時間をくれなかったからだし、この部屋で対面した時は俺の中ではかなりあんたと接してる気がしてたし」
「それ間違いなく気がしてるだけだからな! もうその発想からしてお前やべぇだろ……」
「問題があるのはあんたの普段からの生活だと思うけど……」

 大聖は怪訝な顔をして首を傾げてきた。本気でそう思っていて自分のヤバさに気づいてないところがそもそもかなりどうかと思われる。

「俺の生活はまあ確かに褒められたもんじゃねーけども! お前自分の行動省みろよ……」
「俺? 省みろと言われても……そうだな、朝は六時に起きて……」
「そうじゃねんだよ……!」
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