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最近になってようやく、大聖は初めて挨拶に向かった時の秀真の目つきについて謎が解けた、というか理由がわかった。休日、アルバイトは午後からだしと大聖が秀真の家へ向かった際に判明した。
ここ数日は大学のレポートなどがあったりして中々行けてなかったため、部屋は相当不衛生なことになっているかもしれないし食事もろくなものをとっていないのではと、また母親のように心配になった大聖は、朝からいつものように合鍵で勝手にあけて入った。一応話もするようになってはいるが、以前ドアをノックして開けてもらおうとしたら顔だけ覗かせて「不法侵入者を俺が入れると思ってんのか」とまた閉められたことがあった。その際に丁度作って持っていたポトフの存在を知ると結局秀真はドアを開けてきたのだが、いちいち面倒なのでそれ以来構わず合鍵を使っている。
朝に入ることは今までなかったので少々新鮮な気持ちになりつつ、外は清々しく明るい空気と空だというのに淀んだような薄暗い部屋を見て大聖はため息ついた。夜中までホストの仕事をしていのでまだ眠っているだろうとはわかっていたため、なるべく大きな音は立てないようにして食事の用意をし、片づけられるものは片づけていたつもりだ。しかし舌打ちが聞こえたかと思うと「朝からうるせぇ……」と心底鬱陶しそうな声とともに、おそらく人を五人は少なくとも殺していそうなあの極悪な目つきした秀真が起き上がって大聖を睨んでいることに気づいたのだ。
その時に叫び声を上げなかった自分を褒めてあげたいと大聖は思う。ホラー耐性はあるはずだが多分寿命は縮んだ。
「てめ……うるせぇんだよ……」
「あんた……もしかして誰か殺してきたのか?」
「ぁあ?」
「そ、それとも手を出してはいけない薬でもやったのか……? ああいうのは廃人になると聞くぞ、やめたほうがあんたのためだ」
「真剣な顔で何言ってんのお前……」
大聖としては本気で危ぶんだし諭したつもりだったが、肝心の秀真はひたすら射殺しそうな目つきのまま引いていた。
その後、初めて挨拶をした時もそうだが、寝起きのせいだと判明したわけだ。
「ただの寝起きであんな目つきになるのか」
「安眠を妨げられたんだぞ。忌々しく思うのは仕方ないだろ。あと寝起きの目つきが悪いのは今まで何度も友だちや女から言われて俺も知ってるけどな、人殺したんかと言われたのは初めてだわ」
「そうか」
「……得意げな顔すんな……褒めてんじゃねんだよ!」
「そう言うが、多分今まで言われなかったのは誰もあんたが恐ろしいから言えなかっただけなのじゃないか? 俺はあんたが怖いと思いつつも心配して言ったんだぞ」
「やかましい」
なぜかわからないが、どうも隣人は怒りっぽいらしいと大聖は首を傾げた。
最初は秀真のことを犯罪者かもしれないと警戒しまくっていた大聖ではあるが、さすがに腹立たしさを覚えたことはない。何がそんなに腹立たしいのかわからなくて聞いてみたら、なぜか宇宙人を見たかのような顔された。
「何でそんな顔しているんだ?」
「……お前こそ何でわからないんだ? よく考えろ。お前はな、知り合いでも何でもねえ俺の部屋に不法侵入しただけじゃなく勝手に物色までした犯罪者野郎なんだぞ……? ラッキーなことに俺が寛大だから警察行きじゃねえってだけで。そんな俺に対して『何でいつも怒りっぽいんだ』だと? テメーは不法侵入してきたヤツにニコニコ笑顔で愛想振りまくんかよ?」
本気で理解できないといった顔で、結構衝撃的なことを言われた気がする。ただ、大聖としてはなぜそんなことを言われるのかわからない。
「最初に勝手に入ったのは確かに行き過ぎだったなと思うしそれは謝る。だけどあまりに部屋が不衛生なのと、毎日ちゃんと生活できているのか気になるから仕方ないじゃないか。何が不満なんだ? ご近所なんだぞ。何かあってからじゃ遅いだろ。お互い助け合うものじゃないのか?」
「ずれてんだよ……! テメーは俺のかーちゃんかよ……!」
「確かにそんな気持ちがあるのは否めないけど……」
「否めないんかよ……! いや、普通にキモいだろ」
「キモイ? 気持ち悪いのか? 二日酔いか? 昨夜は俺、行けてないけどちゃんと食事はとったのか?」
「そうじゃねぇ……!」
「だけど、そうか。わりとしっかりした煮物を持ってきたんだけど……お粥のほうがよかったかな」
「…………煮物を食う」
今日は昨日作っていた夏野菜の煮物を持ってきていた。冷蔵庫で冷やしながら味をしっかり染み込ませている。カボチャやオクラ、ナスやトマトなどを適当に入れたものだが、秀真は気に入ったのか箸の進みは早かった。
「そういえば秀真は知ってるか?」
「あ? つかお前、遠慮なく俺を呼び捨てにすんな」
「ああいや、今のは確認も含んでいたんだ」
「確認? 何のだよ」
「だってあんたは一度も俺に名乗ってくれてないじゃないか。だから一度あんたの公共料金の支払いの紙で名前を確認したことあって」
「……待て。どこで確認したって?」
「下のポストだけど」
「……いやいやいや、おかしくね? あれ鍵かかって……」
「ちらっと覗いてたからちょっと引っ張って出させてもらった。で、そこに富崎 秀真って書いてたんだけどさ。名字はわかるけど名前、何て読むのかなってちょっと思ってたんだ。『しゅうま』で合ってた」
「普通ポストの中のもん見ねぇんだよ! お前どこまでストーカーなの……?」
「ストーカー? 違うな。俺は秀真のお隣さん」
「ああもう! 誰かこいつに非常識って言葉を一から説明してくれねぇか……!」
ここ数日は大学のレポートなどがあったりして中々行けてなかったため、部屋は相当不衛生なことになっているかもしれないし食事もろくなものをとっていないのではと、また母親のように心配になった大聖は、朝からいつものように合鍵で勝手にあけて入った。一応話もするようになってはいるが、以前ドアをノックして開けてもらおうとしたら顔だけ覗かせて「不法侵入者を俺が入れると思ってんのか」とまた閉められたことがあった。その際に丁度作って持っていたポトフの存在を知ると結局秀真はドアを開けてきたのだが、いちいち面倒なのでそれ以来構わず合鍵を使っている。
朝に入ることは今までなかったので少々新鮮な気持ちになりつつ、外は清々しく明るい空気と空だというのに淀んだような薄暗い部屋を見て大聖はため息ついた。夜中までホストの仕事をしていのでまだ眠っているだろうとはわかっていたため、なるべく大きな音は立てないようにして食事の用意をし、片づけられるものは片づけていたつもりだ。しかし舌打ちが聞こえたかと思うと「朝からうるせぇ……」と心底鬱陶しそうな声とともに、おそらく人を五人は少なくとも殺していそうなあの極悪な目つきした秀真が起き上がって大聖を睨んでいることに気づいたのだ。
その時に叫び声を上げなかった自分を褒めてあげたいと大聖は思う。ホラー耐性はあるはずだが多分寿命は縮んだ。
「てめ……うるせぇんだよ……」
「あんた……もしかして誰か殺してきたのか?」
「ぁあ?」
「そ、それとも手を出してはいけない薬でもやったのか……? ああいうのは廃人になると聞くぞ、やめたほうがあんたのためだ」
「真剣な顔で何言ってんのお前……」
大聖としては本気で危ぶんだし諭したつもりだったが、肝心の秀真はひたすら射殺しそうな目つきのまま引いていた。
その後、初めて挨拶をした時もそうだが、寝起きのせいだと判明したわけだ。
「ただの寝起きであんな目つきになるのか」
「安眠を妨げられたんだぞ。忌々しく思うのは仕方ないだろ。あと寝起きの目つきが悪いのは今まで何度も友だちや女から言われて俺も知ってるけどな、人殺したんかと言われたのは初めてだわ」
「そうか」
「……得意げな顔すんな……褒めてんじゃねんだよ!」
「そう言うが、多分今まで言われなかったのは誰もあんたが恐ろしいから言えなかっただけなのじゃないか? 俺はあんたが怖いと思いつつも心配して言ったんだぞ」
「やかましい」
なぜかわからないが、どうも隣人は怒りっぽいらしいと大聖は首を傾げた。
最初は秀真のことを犯罪者かもしれないと警戒しまくっていた大聖ではあるが、さすがに腹立たしさを覚えたことはない。何がそんなに腹立たしいのかわからなくて聞いてみたら、なぜか宇宙人を見たかのような顔された。
「何でそんな顔しているんだ?」
「……お前こそ何でわからないんだ? よく考えろ。お前はな、知り合いでも何でもねえ俺の部屋に不法侵入しただけじゃなく勝手に物色までした犯罪者野郎なんだぞ……? ラッキーなことに俺が寛大だから警察行きじゃねえってだけで。そんな俺に対して『何でいつも怒りっぽいんだ』だと? テメーは不法侵入してきたヤツにニコニコ笑顔で愛想振りまくんかよ?」
本気で理解できないといった顔で、結構衝撃的なことを言われた気がする。ただ、大聖としてはなぜそんなことを言われるのかわからない。
「最初に勝手に入ったのは確かに行き過ぎだったなと思うしそれは謝る。だけどあまりに部屋が不衛生なのと、毎日ちゃんと生活できているのか気になるから仕方ないじゃないか。何が不満なんだ? ご近所なんだぞ。何かあってからじゃ遅いだろ。お互い助け合うものじゃないのか?」
「ずれてんだよ……! テメーは俺のかーちゃんかよ……!」
「確かにそんな気持ちがあるのは否めないけど……」
「否めないんかよ……! いや、普通にキモいだろ」
「キモイ? 気持ち悪いのか? 二日酔いか? 昨夜は俺、行けてないけどちゃんと食事はとったのか?」
「そうじゃねぇ……!」
「だけど、そうか。わりとしっかりした煮物を持ってきたんだけど……お粥のほうがよかったかな」
「…………煮物を食う」
今日は昨日作っていた夏野菜の煮物を持ってきていた。冷蔵庫で冷やしながら味をしっかり染み込ませている。カボチャやオクラ、ナスやトマトなどを適当に入れたものだが、秀真は気に入ったのか箸の進みは早かった。
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「ああいや、今のは確認も含んでいたんだ」
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「普通ポストの中のもん見ねぇんだよ! お前どこまでストーカーなの……?」
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