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いつも帰ってくるのはもっと遅いはずなので、油断していたというのもある。だが何よりも、あまりに不可解だったため油断していたのは否めない。
「……何でこの間のと全然違うタイプなんだ」
秀真のことは、最初の頃に比べると相当ヤバい人だと思わなくはなっている。それというのも何度も部屋に入って片づけたりすることで「犯罪者かもしれない」という考えは間違っているかもしれないと思えるようになってきたからだろう。とはいえホストをしている怖そうな人というイメージが消えることはまだない。
それなら関わらなければいいのだが、あまりの部屋の汚さについ、少しずつ片づけたり掃除したりしてしまう。
……地元の近所のおばちゃんが言ってたこと、何かわかるなあ。
大聖より年下の子どもがいる、実家近くに住んでいる人が以前「ほんと大聖くんと違ってウチの子、手がかかるのよ。何が駄目なのかしらねえ。もしかしてつい私がやっちゃうからかしら」などと言っていたのを思い出す。息子は家で何もしない上、すぐ部屋を散らかすらしく、それについて叱りながらも放っておけなくて自分がしてしまうのだと言っていた。その時はなぜやってしまうのか、放っておけないのかと疑問だった。だが今ではわかる。さすがに秀真のことを我が息子だなどと思えないが、素行が気になり過ぎてアパートだけでなく大学でも目で追ったり後をつけたりしていた結果、素行どころか存在自体気になるようになってしまったのだろう。今でもまだ何かやらかすかもしれない怖い人という認識は消えないながらも、こうして部屋の様子を探ったりして、ちゃんと生活しているのか気にしつつ、部屋の汚さについ掃除したりしてしまう。
今日もその流れで散らかっている雑誌などをまとめていた。その時、目新しいDVDに気づき、手に取っていた。そして首を傾げていた。
この間見たDVDの女優は大人でクールそうな女性といった感じだった。だからそういうタイプが好きなのだろうと思っていたのだが、今手にしているDVDの女優は胸がやたらでかい、知的といったイメージからかけ離れたタイプだった。普通似たようなタイプに走るものではないのだろうか。DVDにお世話になったことない大聖からしたらわからない。地元で大聖がお世話になっていたのは、唯一少し遠回りしたところにある本屋で買っている少年漫画雑誌のグラビアアイドルだった。胸はそこそこあって真面目そうながらに少し大胆でかわいいタイプだった。たまに全然違うタイプのアイドルが載っていた時は、その気になることもなく普通に中の漫画を読んでいたものだ。
そんなことを考え、やはりここの住人はよくわからないやつだなと改めてしみじみ思っていると「お前誰だよっ?」という声がしたのだ。
「……あ」
もちろんまずいなとは思った。このまま殺されてしまったらどうしようとか、ボコボコに殴られたらどうしようとか思った。だが思わず声したほうを見れば、秀真が睨みつつも少し怯えたようにこちらを見ていることに気づいた。ホストしている怖そうな人がなぜ怯えているのだと、大聖は少しポカンとする。睨んでいる目も、引っ越しの挨拶をしに行った時に見た極悪非道といった目つきとは比べものにならない。
もしかして、実はやはりそんな怖い人ではないのかもしれない。ついそう思ってしまったからだろうか、大聖は思わず今一番不可解に思っていたことを口にしていた。
「あんたの好みに一貫性はないのか」
「は? 何わけわかんねーこと言ってやがる」
言葉遣いは悪いし威嚇しているような響きだが、大聖に近づこうともしないでやはりどこか怯えたように見えてしまう。
「この間見かけたDVDは眼鏡の似合うきりっとしたタイプの女教師だった。なのにこれはやたら胸のでかい頭の悪そうな女子高生の恰好をした女性じゃないか」
「は? お前何なの? 人の家不法侵入しておきながら何言ってんの?」
秀真は少し怯んだまま、唖然としたように聞いてくる。聞きたいのはこちらだとばかりに大聖はもう一度聞き返した。
「結局どっちが好きなんだよ」
「どっちも好きだわ! いや、それはどうでもいいんだよ! つか警察に電話すっからな」
警察?
なぜ?
……もしかして、やはりこの人は何かやらかしていたのだろうか? 俺が何か暴いたのかともしかしたら怯えていた? それに耐えられなくなって?
「そ、れは自首……?」
「じ……? は? 何で俺が捕まる方向なんだよ。てめーだよ!」
「俺? 俺は別に何も悪いことしようとか思ってないけど」
「じゃあ何でここにいんだよ」
凄んでくる様子にはまだ慣れない。怖いとも思う。だが別に誤魔化すことなど何もない。大聖はため息ついた後、思ったことをそのまま口にした。
「……あまりにも部屋が汚くて」
「っ悪かったな! いや、そうじゃねーんだよ! いくら汚かろうが……」
「隣に住んでいるとどうしても気になって仕方ないんだよ」
「部屋の汚さがか? どんだけ神経質な……って隣? あ? あー、お前、前にわざわざ挨拶してきたやつかよ」
「野菜を突き返された」
「あー……いやマジ俺もらっても使わねえからな……腐らせるだけで勿体ないだろうが」
あの時は怖いながらも本当に失礼な人だなと大聖は思ったものだが「せっかくだけど俺、料理しねーし、腐らせるだけなんだわ。気持ちだけ貰っとく。じゃ」と言われたことに嘘はなかったのだなと改めて知った。
「確かに自炊を一切してなさそうだもんな」
「るせぇ」
「コンビニ弁当やカップ麺ばかりとか体によくないと思う」
「つか何で知って……ああ? やっぱてめーがあれか、妖精か!」
要請とは。俺が何を要請したと?
「要請? ちょっと何を言ってるのかわからないんだが、とりあえず……」
「ざ、っけんな、何言ってんのか、つか何やってんのかわかんねーのてめーだろーが……!」
「俺は片づけしてた」
「そういうことじゃねえんだよ!」
では何を言っているのかと首を傾げつつ、とりあえず腹が減っているのであろうことは間違いないだろうと確信し、提案した。
「あの、とりあえずよかったら俺の作ったご飯食べる?」
その後、夜に作った余り物ではあるが丁度明日の弁当にしようとタッパーに詰めていたものを食べさせた。誰かにいいことをした後はやはり気持ちいい。
「……何でこの間のと全然違うタイプなんだ」
秀真のことは、最初の頃に比べると相当ヤバい人だと思わなくはなっている。それというのも何度も部屋に入って片づけたりすることで「犯罪者かもしれない」という考えは間違っているかもしれないと思えるようになってきたからだろう。とはいえホストをしている怖そうな人というイメージが消えることはまだない。
それなら関わらなければいいのだが、あまりの部屋の汚さについ、少しずつ片づけたり掃除したりしてしまう。
……地元の近所のおばちゃんが言ってたこと、何かわかるなあ。
大聖より年下の子どもがいる、実家近くに住んでいる人が以前「ほんと大聖くんと違ってウチの子、手がかかるのよ。何が駄目なのかしらねえ。もしかしてつい私がやっちゃうからかしら」などと言っていたのを思い出す。息子は家で何もしない上、すぐ部屋を散らかすらしく、それについて叱りながらも放っておけなくて自分がしてしまうのだと言っていた。その時はなぜやってしまうのか、放っておけないのかと疑問だった。だが今ではわかる。さすがに秀真のことを我が息子だなどと思えないが、素行が気になり過ぎてアパートだけでなく大学でも目で追ったり後をつけたりしていた結果、素行どころか存在自体気になるようになってしまったのだろう。今でもまだ何かやらかすかもしれない怖い人という認識は消えないながらも、こうして部屋の様子を探ったりして、ちゃんと生活しているのか気にしつつ、部屋の汚さについ掃除したりしてしまう。
今日もその流れで散らかっている雑誌などをまとめていた。その時、目新しいDVDに気づき、手に取っていた。そして首を傾げていた。
この間見たDVDの女優は大人でクールそうな女性といった感じだった。だからそういうタイプが好きなのだろうと思っていたのだが、今手にしているDVDの女優は胸がやたらでかい、知的といったイメージからかけ離れたタイプだった。普通似たようなタイプに走るものではないのだろうか。DVDにお世話になったことない大聖からしたらわからない。地元で大聖がお世話になっていたのは、唯一少し遠回りしたところにある本屋で買っている少年漫画雑誌のグラビアアイドルだった。胸はそこそこあって真面目そうながらに少し大胆でかわいいタイプだった。たまに全然違うタイプのアイドルが載っていた時は、その気になることもなく普通に中の漫画を読んでいたものだ。
そんなことを考え、やはりここの住人はよくわからないやつだなと改めてしみじみ思っていると「お前誰だよっ?」という声がしたのだ。
「……あ」
もちろんまずいなとは思った。このまま殺されてしまったらどうしようとか、ボコボコに殴られたらどうしようとか思った。だが思わず声したほうを見れば、秀真が睨みつつも少し怯えたようにこちらを見ていることに気づいた。ホストしている怖そうな人がなぜ怯えているのだと、大聖は少しポカンとする。睨んでいる目も、引っ越しの挨拶をしに行った時に見た極悪非道といった目つきとは比べものにならない。
もしかして、実はやはりそんな怖い人ではないのかもしれない。ついそう思ってしまったからだろうか、大聖は思わず今一番不可解に思っていたことを口にしていた。
「あんたの好みに一貫性はないのか」
「は? 何わけわかんねーこと言ってやがる」
言葉遣いは悪いし威嚇しているような響きだが、大聖に近づこうともしないでやはりどこか怯えたように見えてしまう。
「この間見かけたDVDは眼鏡の似合うきりっとしたタイプの女教師だった。なのにこれはやたら胸のでかい頭の悪そうな女子高生の恰好をした女性じゃないか」
「は? お前何なの? 人の家不法侵入しておきながら何言ってんの?」
秀真は少し怯んだまま、唖然としたように聞いてくる。聞きたいのはこちらだとばかりに大聖はもう一度聞き返した。
「結局どっちが好きなんだよ」
「どっちも好きだわ! いや、それはどうでもいいんだよ! つか警察に電話すっからな」
警察?
なぜ?
……もしかして、やはりこの人は何かやらかしていたのだろうか? 俺が何か暴いたのかともしかしたら怯えていた? それに耐えられなくなって?
「そ、れは自首……?」
「じ……? は? 何で俺が捕まる方向なんだよ。てめーだよ!」
「俺? 俺は別に何も悪いことしようとか思ってないけど」
「じゃあ何でここにいんだよ」
凄んでくる様子にはまだ慣れない。怖いとも思う。だが別に誤魔化すことなど何もない。大聖はため息ついた後、思ったことをそのまま口にした。
「……あまりにも部屋が汚くて」
「っ悪かったな! いや、そうじゃねーんだよ! いくら汚かろうが……」
「隣に住んでいるとどうしても気になって仕方ないんだよ」
「部屋の汚さがか? どんだけ神経質な……って隣? あ? あー、お前、前にわざわざ挨拶してきたやつかよ」
「野菜を突き返された」
「あー……いやマジ俺もらっても使わねえからな……腐らせるだけで勿体ないだろうが」
あの時は怖いながらも本当に失礼な人だなと大聖は思ったものだが「せっかくだけど俺、料理しねーし、腐らせるだけなんだわ。気持ちだけ貰っとく。じゃ」と言われたことに嘘はなかったのだなと改めて知った。
「確かに自炊を一切してなさそうだもんな」
「るせぇ」
「コンビニ弁当やカップ麺ばかりとか体によくないと思う」
「つか何で知って……ああ? やっぱてめーがあれか、妖精か!」
要請とは。俺が何を要請したと?
「要請? ちょっと何を言ってるのかわからないんだが、とりあえず……」
「ざ、っけんな、何言ってんのか、つか何やってんのかわかんねーのてめーだろーが……!」
「俺は片づけしてた」
「そういうことじゃねえんだよ!」
では何を言っているのかと首を傾げつつ、とりあえず腹が減っているのであろうことは間違いないだろうと確信し、提案した。
「あの、とりあえずよかったら俺の作ったご飯食べる?」
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