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頭のヤバいやつかもしれない、と秀真は血の気が少し引いた。どのみち他人の家に不法侵入する時点で問題しかない。下手に近づかず、秀真は男を睨みつけた。
「は? 何わけわかんねーこと言ってやがる」
「この間見かけたDVDは眼鏡の似合う、きりっとしたタイプの女教師だった。なのにこれはやたら胸のでかい頭の悪そうな女子高生の恰好した女性じゃないか」
「は? お前何なの? 人の家不法侵入しておきながら何言ってんの?」
「結局どっちが好きなんだよ」
「どっちも好きだわ! いや、それはどうでもいいんだよ! つか警察に電話すっからな」
「そ、れは自首……?」
「じ……? は? 何で俺が捕まる方向なんだよ。てめーだよ!」
「俺? 俺は別に何も悪いことしようとか思ってないけど」
「じゃあ何でここにいんだよ」
さっきから調子が狂うなと思いながら睨みつけると、男は一瞬怯んだようだったがその後で少し下を向き、ため息ついてきた。
「……あまりにも部屋が汚くて」
「っ悪かったな! いや、そうじゃねーんだよ! いくら汚かろうが……」
「隣に住んでいるとどうしても気になって仕方ないんだよ」
「部屋の汚さがか? どんだけ神経質な……って隣? あ? あー、お前、前にわざわざ挨拶してきたやつかよ」
改めて男に目をやれば、どうでもよすぎて全然覚えていなかったが、言われてみると先ほども思ったことだが、見たことあるような気がしないでもない。
「野菜を突き返された」
「あー……いやマジ俺もらっても使わねえからな……腐らせるだけで勿体ないだろうが」
そう言うと、男はなぜかポカンとしたような顔してきた。だがその後「確かに自炊を一切してなさそうだもんな」と納得したように頷いている。
「るせぇ」
「コンビニ弁当やカップ麺ばかりとか体によくないと思う」
「つか何で知って……ああ? やっぱてめーがあれか、妖精か!」
「要請? ちょっと何を言ってるのかわからないんだが、とりあえず……」
「ざ、っけんな、何言ってんのか、つか何やってんのかわかんねーのてめーだろーが……!」
「俺は片づけしてた」
「そういうことじゃねえんだよ!」
「? あの、とりあえずよかったら俺の作ったご飯食べる?」
「はぁっ? 食わ……」
食わねえと言いかけた時、絶妙に嫌なタイミングで秀真の腹が鳴った。そういえば今日に限って仕事中もほぼ何も腹に入れてないし、終わってから何も食べていない。おまけにコンビニエンスストアへも立ち寄っていないし、今この部屋にあるのは食べる気のしない甘いパンだけだ。思わずグッと唇をきつく閉じていると「一瞬だけ待ってて」と男が立ち上がり、あっという間に家を出ていった。
「あ、てめ……」
まさか逃げたのかと思ったが、隣に住んでいることはもうわかっているのに逃げても仕方ない気がする。というか結局何だったのだと少々混乱していると「お待たせ」と男がどうどうとドアを開けて玄関から入り戻ってきた。
「待ってねえよ……つかまた勝手に入ってきやがって」
「よかったらこれ、食べて。夜作って食べたものの残り。昼の弁当にしようと準備してたんだ」
言いかけている秀真に対し、男は気にする様子もなく蓋を開けタッパーを差し出してきた。いい匂いする上に、茶色っぽいながらも美味そうな煮物やら何やらが詰まっている。思わず手が出そうになったところでハッとした。こんな得体の知れない相手の作ったものなど食べられるわけがない。
「い、らねえよ」
「田舎っぽい料理は苦手?」
「そういう意味じゃねえ。得体の知れねーてめーの手料理なんて食えるわけねーだろ」
「得体? 隣人の者だけど……」
「隣人は知ってるけど!」
「? だったら何? えっと何だったら改めて自己紹介をすればいいのか。高津大聖です。今年から大学生ということで初めての一人暮らしで、実家になるべく負担かけないよう、近所にあるスーパー、そこでアルバイトしてる。大学はあんたと同じだよ」
「自己紹介いら……って、は? 何で俺と同じ大学って知ってんだよ」
「大学で見かけた」
「あー」
「し、大学在学中ってわかる書類も見た」
「何でだよどこでだよ……!」
「この部屋片づけてて」
「……」
片づけている際に見かけたというのは確かにあるかもしれない。だが何だろうか、拭いきれない違和感がある。
……ってそりゃそうだろ俺……! そもそも隣人だろうがこいつ不法侵入……! もし万が一鍵空いてるの気づいて様子見したとかだったとしても普通勝手に上がって片づけねぇ……!
「これだけ言えばもう知り合いだろ。ほら、食べたらいいよ」
「何その理論。知り合いじゃね……」
言い返している口にタッパーの中身を箸で放り込まれた。
「な、にしやが……、んだこれうめえ……!」
「ナスのしぐれ煮。美味いだろ。ほら、もっと食べたらいいよ。でも自分で食べて。さすがに俺、あんたみたいなのに食べさせる趣味ないし」
「俺も食べさせられる趣味なんてねえよ!」
そう言いながらもつい箸を受け取り、タッパーの中のおかずを食べた。しぐれ煮の横に入っていたちくわと糸こんにゃくのおかずも甘辛くていくらでも食べられそうだった。
「それはちくわと糸こんにゃくの甘辛炒め」
「やべぇうめぇ、白飯食いてぇ」
「大丈夫、ちゃんと持ってきたから」
その後、大聖が「じゃあ空になったタッパーは持って帰る。また」と帰っていき、久しぶりに家庭の味らしいおかずを腹いっぱい食べたことに満足げにゲップしてから気づいた。
「いや、だからあいつ何なんだよ……!」
「は? 何わけわかんねーこと言ってやがる」
「この間見かけたDVDは眼鏡の似合う、きりっとしたタイプの女教師だった。なのにこれはやたら胸のでかい頭の悪そうな女子高生の恰好した女性じゃないか」
「は? お前何なの? 人の家不法侵入しておきながら何言ってんの?」
「結局どっちが好きなんだよ」
「どっちも好きだわ! いや、それはどうでもいいんだよ! つか警察に電話すっからな」
「そ、れは自首……?」
「じ……? は? 何で俺が捕まる方向なんだよ。てめーだよ!」
「俺? 俺は別に何も悪いことしようとか思ってないけど」
「じゃあ何でここにいんだよ」
さっきから調子が狂うなと思いながら睨みつけると、男は一瞬怯んだようだったがその後で少し下を向き、ため息ついてきた。
「……あまりにも部屋が汚くて」
「っ悪かったな! いや、そうじゃねーんだよ! いくら汚かろうが……」
「隣に住んでいるとどうしても気になって仕方ないんだよ」
「部屋の汚さがか? どんだけ神経質な……って隣? あ? あー、お前、前にわざわざ挨拶してきたやつかよ」
改めて男に目をやれば、どうでもよすぎて全然覚えていなかったが、言われてみると先ほども思ったことだが、見たことあるような気がしないでもない。
「野菜を突き返された」
「あー……いやマジ俺もらっても使わねえからな……腐らせるだけで勿体ないだろうが」
そう言うと、男はなぜかポカンとしたような顔してきた。だがその後「確かに自炊を一切してなさそうだもんな」と納得したように頷いている。
「るせぇ」
「コンビニ弁当やカップ麺ばかりとか体によくないと思う」
「つか何で知って……ああ? やっぱてめーがあれか、妖精か!」
「要請? ちょっと何を言ってるのかわからないんだが、とりあえず……」
「ざ、っけんな、何言ってんのか、つか何やってんのかわかんねーのてめーだろーが……!」
「俺は片づけしてた」
「そういうことじゃねえんだよ!」
「? あの、とりあえずよかったら俺の作ったご飯食べる?」
「はぁっ? 食わ……」
食わねえと言いかけた時、絶妙に嫌なタイミングで秀真の腹が鳴った。そういえば今日に限って仕事中もほぼ何も腹に入れてないし、終わってから何も食べていない。おまけにコンビニエンスストアへも立ち寄っていないし、今この部屋にあるのは食べる気のしない甘いパンだけだ。思わずグッと唇をきつく閉じていると「一瞬だけ待ってて」と男が立ち上がり、あっという間に家を出ていった。
「あ、てめ……」
まさか逃げたのかと思ったが、隣に住んでいることはもうわかっているのに逃げても仕方ない気がする。というか結局何だったのだと少々混乱していると「お待たせ」と男がどうどうとドアを開けて玄関から入り戻ってきた。
「待ってねえよ……つかまた勝手に入ってきやがって」
「よかったらこれ、食べて。夜作って食べたものの残り。昼の弁当にしようと準備してたんだ」
言いかけている秀真に対し、男は気にする様子もなく蓋を開けタッパーを差し出してきた。いい匂いする上に、茶色っぽいながらも美味そうな煮物やら何やらが詰まっている。思わず手が出そうになったところでハッとした。こんな得体の知れない相手の作ったものなど食べられるわけがない。
「い、らねえよ」
「田舎っぽい料理は苦手?」
「そういう意味じゃねえ。得体の知れねーてめーの手料理なんて食えるわけねーだろ」
「得体? 隣人の者だけど……」
「隣人は知ってるけど!」
「? だったら何? えっと何だったら改めて自己紹介をすればいいのか。高津大聖です。今年から大学生ということで初めての一人暮らしで、実家になるべく負担かけないよう、近所にあるスーパー、そこでアルバイトしてる。大学はあんたと同じだよ」
「自己紹介いら……って、は? 何で俺と同じ大学って知ってんだよ」
「大学で見かけた」
「あー」
「し、大学在学中ってわかる書類も見た」
「何でだよどこでだよ……!」
「この部屋片づけてて」
「……」
片づけている際に見かけたというのは確かにあるかもしれない。だが何だろうか、拭いきれない違和感がある。
……ってそりゃそうだろ俺……! そもそも隣人だろうがこいつ不法侵入……! もし万が一鍵空いてるの気づいて様子見したとかだったとしても普通勝手に上がって片づけねぇ……!
「これだけ言えばもう知り合いだろ。ほら、食べたらいいよ」
「何その理論。知り合いじゃね……」
言い返している口にタッパーの中身を箸で放り込まれた。
「な、にしやが……、んだこれうめえ……!」
「ナスのしぐれ煮。美味いだろ。ほら、もっと食べたらいいよ。でも自分で食べて。さすがに俺、あんたみたいなのに食べさせる趣味ないし」
「俺も食べさせられる趣味なんてねえよ!」
そう言いながらもつい箸を受け取り、タッパーの中のおかずを食べた。しぐれ煮の横に入っていたちくわと糸こんにゃくのおかずも甘辛くていくらでも食べられそうだった。
「それはちくわと糸こんにゃくの甘辛炒め」
「やべぇうめぇ、白飯食いてぇ」
「大丈夫、ちゃんと持ってきたから」
その後、大聖が「じゃあ空になったタッパーは持って帰る。また」と帰っていき、久しぶりに家庭の味らしいおかずを腹いっぱい食べたことに満足げにゲップしてから気づいた。
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