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部屋を密かに片づけていると驚くほどたくさんのことを、大聖は知れた。
大雑把な性格なのだろうとは部屋のあり様を見ただけでわかるが、大雑把なだけでなくわりと何でも取っておくタイプのようだ。大聖も実家から昔のアルバムを少し持ってきたりしたが、まさかホストをしている極悪そうな秀真が、小さな頃の写真をしっかり持っているとは思いもよらなかった。あまり枚数は多くなく、アルバムに整理されてもなく、缶の入れ物に無造作に入っているだけだったが、意外だった。
小さい頃は普通にかわいらしい子どもだったようだ。成長の過程で道を誤ったのか突然不良っぽくなったようだがそれでも、おそらく中学生だろう、幼い顔立ちだったようで怖いというよりかわいらしく見える。
……それが今じゃ犯罪者……っぽい見た目。
少しずつ片づけているからか、大雑把な性格だからか、今のところ気づかれていないようだった。もう少し片づけても大丈夫かもしれないと大聖は思う。ポストに入っていたものを全部持ってきてそのまま放置したのだろう、辺りに置きっぱなしになっている不動産やデリバリーなどのチラシを集めると、ゴミ袋へ捨てた。
積んだり適当に置いたりしているところから強引に何かを引き抜く度、崩れていったのであろう山を整理していると、いくつかのアダルトDVDがあった。レンタルショップのシールなどはないので、わざわざ買ったものなのだろう。一つを手に取ればケースの画像には、かっちりしたシャツとタイトスカート姿の眼鏡女性が、シャツをはだけさせ決して大きくはないものの美乳を覗かせて微笑んでいる。タイトルを見れば「女教師の特別授業」とあった。
女性の見た目の好みは悪くない気がするが、少なくとも大聖が知っている限り、こんな格好の教師は学校で見かけたことない。微妙な顔になりながら一瞬ゴミ袋へ放り込みかけたが、さすがに私物を勝手に捨てるわけにはいかないだろう。せめて積んである雑誌やDVDを整理した。代わりにその辺に放置されているコンビニ弁当の空箱をゴミ袋へ突っ込む。挨拶の時に言っていたように、どうやら本当に自炊していないようだ。いつからコンビニ弁当やカップ麺ばかりの生活をしているのだろうと、大聖はほんのりゾッとした。
片づけている時、あまりに予想外で目を疑ったのだが、大学で使うような教科書やノートも出てきた。
「昔の写真もちゃんと持っているようなやつだし、たまたま学生時代の教科書も紛れ込んでいたのかもしれない」
そう思ってみたが、そうだとしたら今現在使っていそうな鞄の中に入っていたりしないはずだ。もしかして以前大学で見かけたのは顧客が大学生だったのではなく、秀真本人が大学生だからなのだろうか。
あちこち探してようやく大聖と同じ大学に在学していることがわかる書類を見つけた。
翌日、大学で大聖は秀真の姿を探す。ノートに挟んであった時間割りのメモを携帯電話で撮ってあるのですぐにわかった。見た目が目立つのもあるからか、探さなくても目がいく。
まさか俺と同じ大学生だったなんて。それも案外ちゃんと講義を受けてるなんて。
人の多そうな授業に一度紛れ込んでみたが、秀真は意外にもしっかり教授の話を聞き、ノートを取っていた。ますます予想外だった。現在四年生のようなので今年で卒業だろうが、この様子なら留年することないのかもしれない。取っている科目はかなり少ないことは時間割りからも見てとれる。ということは今までに十分単位が取れているということになる。
……就活はだいたい皆三年の時にするって聞くけど……この人ももう就職先決まってんのかな。やっぱりホストなんだろうか。
とてつもなく偏見だし職業に貴賤はないが、大学へ、それも結構入学が難しい大学へ入ってまでホストを仕事にするものなのだろうかと大聖はつい思ってしまう。
たくさんのことを知れたが、やはりまだわからないことは多そうだ。大学で秀真を見つけるたびに携帯電話で写真を撮った。それを見ながら大聖はぼんやり思った。
秀真の家へ入り片づけを続けているが、そろそろあまり目立たない程度に片づけるのにも限界があるし、新しい情報も大して手に入らない。どうしようかなと思いながら玄関を出て鍵を閉め、自分の部屋へ戻ろうとしたところで、怪訝そうな顔でこちらを見ている知らない人に気づいた。
その人は背の高い秀真よりひょっとしたら身長があるかもしれない。とても整った綺麗な顔立ちしていて、怪訝そうに大聖を見る表情はだがどこか人のよさそうな感じがする。目が少し垂れ気味だからそう見えるのだろうか。
って、いやいや。そうじゃないだろ俺。
こんなに怪訝な顔をされるということは、もしかしてこの隣人の知り合いなのだろうか。もしかして大聖が不審者だと勘違いされてるのだろうか。
「あの……」
話しかけようとしたら、逆に向こうから話しかけられた。
「あれ? もしかしてここへ新しく引っ越してきたの?」
「え? あ、はい」
「へえ……そっかあ。ああ、初めまして。僕は君の隣に住んでるんだよ。柄本って言います」
隣、ということは何度か挨拶に向かっても一度も在宅していなかった人か。
「俺は高津と言います。こちらから挨拶するべきでしたのに申し訳ありません」
「ええー、いいよそんなの。僕、わりと留守がちだったしね……。えっと、大学生かな?」
ちらり、と秀真の住むドアのほうを見た後に大聖の手元にある鍵を見てきたのがわかった。だがそれに対しては何も言わず、「僕はサラリーマンだよ」とにこやかに笑いかけてくる。とてもいい人という印象を受けた。
「はい。今年から大学生になりました」
「そう。おめでとう。ああ、ごめんね立ち話みたいになって。じゃあ今後ともよろしくね」
ほんの少し申し訳なさそうに言うと、大聖の反対側である隣の部屋の鍵を開けて入っていった。
大雑把な性格なのだろうとは部屋のあり様を見ただけでわかるが、大雑把なだけでなくわりと何でも取っておくタイプのようだ。大聖も実家から昔のアルバムを少し持ってきたりしたが、まさかホストをしている極悪そうな秀真が、小さな頃の写真をしっかり持っているとは思いもよらなかった。あまり枚数は多くなく、アルバムに整理されてもなく、缶の入れ物に無造作に入っているだけだったが、意外だった。
小さい頃は普通にかわいらしい子どもだったようだ。成長の過程で道を誤ったのか突然不良っぽくなったようだがそれでも、おそらく中学生だろう、幼い顔立ちだったようで怖いというよりかわいらしく見える。
……それが今じゃ犯罪者……っぽい見た目。
少しずつ片づけているからか、大雑把な性格だからか、今のところ気づかれていないようだった。もう少し片づけても大丈夫かもしれないと大聖は思う。ポストに入っていたものを全部持ってきてそのまま放置したのだろう、辺りに置きっぱなしになっている不動産やデリバリーなどのチラシを集めると、ゴミ袋へ捨てた。
積んだり適当に置いたりしているところから強引に何かを引き抜く度、崩れていったのであろう山を整理していると、いくつかのアダルトDVDがあった。レンタルショップのシールなどはないので、わざわざ買ったものなのだろう。一つを手に取ればケースの画像には、かっちりしたシャツとタイトスカート姿の眼鏡女性が、シャツをはだけさせ決して大きくはないものの美乳を覗かせて微笑んでいる。タイトルを見れば「女教師の特別授業」とあった。
女性の見た目の好みは悪くない気がするが、少なくとも大聖が知っている限り、こんな格好の教師は学校で見かけたことない。微妙な顔になりながら一瞬ゴミ袋へ放り込みかけたが、さすがに私物を勝手に捨てるわけにはいかないだろう。せめて積んである雑誌やDVDを整理した。代わりにその辺に放置されているコンビニ弁当の空箱をゴミ袋へ突っ込む。挨拶の時に言っていたように、どうやら本当に自炊していないようだ。いつからコンビニ弁当やカップ麺ばかりの生活をしているのだろうと、大聖はほんのりゾッとした。
片づけている時、あまりに予想外で目を疑ったのだが、大学で使うような教科書やノートも出てきた。
「昔の写真もちゃんと持っているようなやつだし、たまたま学生時代の教科書も紛れ込んでいたのかもしれない」
そう思ってみたが、そうだとしたら今現在使っていそうな鞄の中に入っていたりしないはずだ。もしかして以前大学で見かけたのは顧客が大学生だったのではなく、秀真本人が大学生だからなのだろうか。
あちこち探してようやく大聖と同じ大学に在学していることがわかる書類を見つけた。
翌日、大学で大聖は秀真の姿を探す。ノートに挟んであった時間割りのメモを携帯電話で撮ってあるのですぐにわかった。見た目が目立つのもあるからか、探さなくても目がいく。
まさか俺と同じ大学生だったなんて。それも案外ちゃんと講義を受けてるなんて。
人の多そうな授業に一度紛れ込んでみたが、秀真は意外にもしっかり教授の話を聞き、ノートを取っていた。ますます予想外だった。現在四年生のようなので今年で卒業だろうが、この様子なら留年することないのかもしれない。取っている科目はかなり少ないことは時間割りからも見てとれる。ということは今までに十分単位が取れているということになる。
……就活はだいたい皆三年の時にするって聞くけど……この人ももう就職先決まってんのかな。やっぱりホストなんだろうか。
とてつもなく偏見だし職業に貴賤はないが、大学へ、それも結構入学が難しい大学へ入ってまでホストを仕事にするものなのだろうかと大聖はつい思ってしまう。
たくさんのことを知れたが、やはりまだわからないことは多そうだ。大学で秀真を見つけるたびに携帯電話で写真を撮った。それを見ながら大聖はぼんやり思った。
秀真の家へ入り片づけを続けているが、そろそろあまり目立たない程度に片づけるのにも限界があるし、新しい情報も大して手に入らない。どうしようかなと思いながら玄関を出て鍵を閉め、自分の部屋へ戻ろうとしたところで、怪訝そうな顔でこちらを見ている知らない人に気づいた。
その人は背の高い秀真よりひょっとしたら身長があるかもしれない。とても整った綺麗な顔立ちしていて、怪訝そうに大聖を見る表情はだがどこか人のよさそうな感じがする。目が少し垂れ気味だからそう見えるのだろうか。
って、いやいや。そうじゃないだろ俺。
こんなに怪訝な顔をされるということは、もしかしてこの隣人の知り合いなのだろうか。もしかして大聖が不審者だと勘違いされてるのだろうか。
「あの……」
話しかけようとしたら、逆に向こうから話しかけられた。
「あれ? もしかしてここへ新しく引っ越してきたの?」
「え? あ、はい」
「へえ……そっかあ。ああ、初めまして。僕は君の隣に住んでるんだよ。柄本って言います」
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「俺は高津と言います。こちらから挨拶するべきでしたのに申し訳ありません」
「ええー、いいよそんなの。僕、わりと留守がちだったしね……。えっと、大学生かな?」
ちらり、と秀真の住むドアのほうを見た後に大聖の手元にある鍵を見てきたのがわかった。だがそれに対しては何も言わず、「僕はサラリーマンだよ」とにこやかに笑いかけてくる。とてもいい人という印象を受けた。
「はい。今年から大学生になりました」
「そう。おめでとう。ああ、ごめんね立ち話みたいになって。じゃあ今後ともよろしくね」
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