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職業に気づけば、なるほどと思えることも増えた。どうりで生活時間が大聖と合わないわけだ。秀真は朝遅くまで寝ているのだろうし、大聖がアルバイトから帰ってくる頃にはホストの仕事に出かけているのだろう。そして夜中だか朝方だか知らないが帰ってきて朝遅くまで眠る。たまに見かけるとよく違う女性を連れていることにも気づいたが、それも仕事柄なのだろう。
ちなみに仕事柄と言っても実際ホストが何しているのかはあまりわからない。女性客とひたすら酒を飲んで、もしかしたら破廉恥なこともするのかもしれないと何となく思っている。
ただ、そうなるとますます大聖の大学で見かけた意味がわからない。ホストという職業に就いているなら、大学へ来る理由がないように思う。たまたま懇意にしている客が大学生だったのだろうか。最近のホストクラブは昔と違い、一般人でも入りやすくなったと、この間ホストについて検索した時に書いてはいた。
それでも大学生相手にわざわざ大学まで来たりするだろうか。もしかしたら人気のないホストなのかもしれない。あの目つきの悪さを思えば、むしろ人気あるとは思えない。しかし大学で見かけた時は目つきは普通の、ただのイケメンだった。大聖からすれば派手そうで苦手だが、あれくらいのイケメンならそこそこ人気あってもおかしくない気はする。
やはりもう少し様子を見てみようかと大聖は思った。故郷では隣人どころか周りの人たちのことで知らないことなどないのではというくらい皆知り合いだったこともあるからか、ただでさえ犯罪者なのか違うのかと悩むくらいよくわからない相手だけに、中途半端に知るとどうにも落ち着かない。
そんな風に考えていたある日の夜、秀真がまた出かけるのを台所にある窓で知った。ホストの仕事へ行くには変に遅い時間のような気がして、大聖はそっと外へ出て様子を窺う。誰かに電話で話しながら階段を下りて行く秀真の恰好は、大聖が見てもホストの仕事へ行く恰好ではなかった。もう片方の手に財布らしきものを持ち、Tシャツにゆるい感じのパンツ、そしてゴムのサンダル。
……今日は休み? コンビニだろうか?
深く考えずに秀真の家のドアをぼんやりと見た後近づいて、何とはなしにノブをそっと回すと、カチャリとドアが開いた。本当に開くとは思っていなかったので大聖はびくりと驚く。
開けっ放しだ。もしかして実は彼も田舎の人なのだろうか。いやまさか。どう見ても都会の人だろ。
自問自答しながら好奇心で部屋を覗くと、台所のシンクのところにおそらく玄関の鍵だろう、置いてあるのに気づいた。鍵かけるつもりで置いたものの、うっかりそのままにしていたのだろうか。もしそうなら案外抜けている人なのだろうか。電話での話に気を取られていたのかもしれない。さらに中を覗くと、台所の奥に大きなゴミ袋がぽんと置いてあった。中のゴミは結構いっぱいまで溜まっている。
「……ゴミ箱ないのかな……」
奥を見れば部屋が呆れるくらい散らかっているのがわかった。はっきり言って、めちゃくちゃ掃除したくなる。
「このまま上がって掃除したい、けどもしコンビニへ行っただけならすぐ戻ってくるよな」
こんな散らかり放題の部屋をそのままにしたくない、けれども部屋の住人と鉢合わせはしたくない。考えている内にも戻ってくるかもしれない。
大聖は心臓がドキドキして、落ち着いて考えられなくなった。挙句、取った行動はシンクの上に置いてある鍵を取ることだった。
ほんの少し借りるだけだ。ほんの少し。
多分本人はここに置きっぱなしにしていることすら気づいていないのではないだろうか。何となくそう思えた。
とりあえず慌てて自分の部屋へ戻ると、少しして階段を上ってくる足音が聞こえた。危ないところだったと思い切り息をはいていると「あ? やべ、俺鍵閉めてなかったんかよ」という声が聞こえてきた。やはりうっかりだったようだ。しばらく様子を窺っていたが「鍵がない」と騒ぐ声は聞こえてこなかった。
翌日、大聖は大学から帰る途中、少し離れたところにあるホームセンターへ寄った。そしてアパートへ戻るとアルバイトへ向かう。
「高津くんの総菜、今日のも美味しそうねえ」
「ありがとうございます」
パートの人とにこやかに話しながら仕事して、帰ってくると角部屋の様子を窺った。シンとしている。恐る恐るインターホンを押したが、誰も出てこなかった。しかしドアノブを回すと玄関は普通に開く。おそらく仕事へ出る時点で家の鍵がないことに気づいたのだろう、部屋の中は昨日よりもひっくり返っていた。きっと慌てて探し回ったに違いなかった。
「ごめん、迷惑かけたいわけではなかったんだ」
本人がいないままぼそりと謝ると、大聖は昨日取った鍵をシンク下の床にそっと置いておいた。掃除して帰りたいところだったが、鍵を探して自ら部屋中ひっくり返したことを痛いほどわかっているであろう秀真を思い、断腸の思いで今日は手つかずのまま、大聖は自分の部屋へ戻った。
後日、秀真がおそらく仕事でいない夜に大聖はそっと秀真の家の中へ入った。施錠されていたので置いた鍵に気づいたのだろう。さすがにひっくり返ったような状態ではなくなっていたものの、相変わらず散らかり放題だった。ほこりもいたるところに溜まっている。よくこんな部屋で寝起きができるなと思いながら、まずは上のほうの棚などを持ってきたほこり取りで綺麗にしていった。これくらいだと多分帰ってきても気づかないだろう程度に掃除すると、まだまだ心残りはあるものの諦めて大聖は自分の家へ戻る。
本人に気づかない程度にじわじわ掃除をしていく。これが現目的だった。その過程で秀真の素性が知れる何かがあれば確認させてもらう。隣人がどんな人かわかる上に部屋も綺麗になるという大聖にとって一石二鳥のアイデアだった。
ちなみに仕事柄と言っても実際ホストが何しているのかはあまりわからない。女性客とひたすら酒を飲んで、もしかしたら破廉恥なこともするのかもしれないと何となく思っている。
ただ、そうなるとますます大聖の大学で見かけた意味がわからない。ホストという職業に就いているなら、大学へ来る理由がないように思う。たまたま懇意にしている客が大学生だったのだろうか。最近のホストクラブは昔と違い、一般人でも入りやすくなったと、この間ホストについて検索した時に書いてはいた。
それでも大学生相手にわざわざ大学まで来たりするだろうか。もしかしたら人気のないホストなのかもしれない。あの目つきの悪さを思えば、むしろ人気あるとは思えない。しかし大学で見かけた時は目つきは普通の、ただのイケメンだった。大聖からすれば派手そうで苦手だが、あれくらいのイケメンならそこそこ人気あってもおかしくない気はする。
やはりもう少し様子を見てみようかと大聖は思った。故郷では隣人どころか周りの人たちのことで知らないことなどないのではというくらい皆知り合いだったこともあるからか、ただでさえ犯罪者なのか違うのかと悩むくらいよくわからない相手だけに、中途半端に知るとどうにも落ち着かない。
そんな風に考えていたある日の夜、秀真がまた出かけるのを台所にある窓で知った。ホストの仕事へ行くには変に遅い時間のような気がして、大聖はそっと外へ出て様子を窺う。誰かに電話で話しながら階段を下りて行く秀真の恰好は、大聖が見てもホストの仕事へ行く恰好ではなかった。もう片方の手に財布らしきものを持ち、Tシャツにゆるい感じのパンツ、そしてゴムのサンダル。
……今日は休み? コンビニだろうか?
深く考えずに秀真の家のドアをぼんやりと見た後近づいて、何とはなしにノブをそっと回すと、カチャリとドアが開いた。本当に開くとは思っていなかったので大聖はびくりと驚く。
開けっ放しだ。もしかして実は彼も田舎の人なのだろうか。いやまさか。どう見ても都会の人だろ。
自問自答しながら好奇心で部屋を覗くと、台所のシンクのところにおそらく玄関の鍵だろう、置いてあるのに気づいた。鍵かけるつもりで置いたものの、うっかりそのままにしていたのだろうか。もしそうなら案外抜けている人なのだろうか。電話での話に気を取られていたのかもしれない。さらに中を覗くと、台所の奥に大きなゴミ袋がぽんと置いてあった。中のゴミは結構いっぱいまで溜まっている。
「……ゴミ箱ないのかな……」
奥を見れば部屋が呆れるくらい散らかっているのがわかった。はっきり言って、めちゃくちゃ掃除したくなる。
「このまま上がって掃除したい、けどもしコンビニへ行っただけならすぐ戻ってくるよな」
こんな散らかり放題の部屋をそのままにしたくない、けれども部屋の住人と鉢合わせはしたくない。考えている内にも戻ってくるかもしれない。
大聖は心臓がドキドキして、落ち着いて考えられなくなった。挙句、取った行動はシンクの上に置いてある鍵を取ることだった。
ほんの少し借りるだけだ。ほんの少し。
多分本人はここに置きっぱなしにしていることすら気づいていないのではないだろうか。何となくそう思えた。
とりあえず慌てて自分の部屋へ戻ると、少しして階段を上ってくる足音が聞こえた。危ないところだったと思い切り息をはいていると「あ? やべ、俺鍵閉めてなかったんかよ」という声が聞こえてきた。やはりうっかりだったようだ。しばらく様子を窺っていたが「鍵がない」と騒ぐ声は聞こえてこなかった。
翌日、大聖は大学から帰る途中、少し離れたところにあるホームセンターへ寄った。そしてアパートへ戻るとアルバイトへ向かう。
「高津くんの総菜、今日のも美味しそうねえ」
「ありがとうございます」
パートの人とにこやかに話しながら仕事して、帰ってくると角部屋の様子を窺った。シンとしている。恐る恐るインターホンを押したが、誰も出てこなかった。しかしドアノブを回すと玄関は普通に開く。おそらく仕事へ出る時点で家の鍵がないことに気づいたのだろう、部屋の中は昨日よりもひっくり返っていた。きっと慌てて探し回ったに違いなかった。
「ごめん、迷惑かけたいわけではなかったんだ」
本人がいないままぼそりと謝ると、大聖は昨日取った鍵をシンク下の床にそっと置いておいた。掃除して帰りたいところだったが、鍵を探して自ら部屋中ひっくり返したことを痛いほどわかっているであろう秀真を思い、断腸の思いで今日は手つかずのまま、大聖は自分の部屋へ戻った。
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