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ところで都会なのだと実感すると、大学へ行くのも多少緊張してしまった。田舎者だと蔑まれるのだろうかと内心ドキドキしたが、全然そんなことはなかった。初日に仲よくなった人もいた。神保 修(しんぼ おさむ)という名前の、とても洗練された都会人かと大聖は思っていたが、それを口にすると呆れられた。
「都会人て」
「違うの?」
「俺も地方から来たんだけど」
「え、そうなんだ。それは僥倖だな」
「何て」
「? 君はとても洗練されてるからてっきりこの辺の人かと思ったよ。どこの田舎から来たんだ?」
「……高津、お前が悪いやつじゃないのはなんとなくわかるけどな、口には気をつけたほうがいいぞ。別に俺は気にしないし話の流れだから一応わかるけど、いきなりどこの田舎から来た、何て言われたら喧嘩売られてるって思うやつもいるかもしれないからな。ちなみに俺はここからだよ」
もしかして田舎から来たという状況は他所の人からすると喧嘩を売られたと思うほど嫌な状況なのかと内心驚愕しつつ、大聖は見せられた携帯の画面を見た。画像ですぐにわかった。観光地で有名なところだし、ついでに言うと田舎でもない。おそらく家の近所に喫茶店だってある場所だろう。
「結構な繁華街じゃないか」
「はは。ほんと変なやつだな」
「俺が?」
そんなつもりはないのだがと思ったが、もしかしたら田舎独特のノリというか風習というか、そういった何かが自分の気づいていない間に身についてしまっているのかもしれないと大聖は納得することにした。
「悪気はないんだけど」
「それはうん、わかるよ高津」
「なるべく早く、ここの空気に馴染めるよう、がんばってみる」
「うーん、でも高津は基本そのままでいいんじゃない? おもしろいし」
おもしろい? と大聖はポカンとした顔を修へ向けた。今まで生きてきて真面目だと言われたことは多々あるが、おもしろいと言われたことはない。やはりノリか何かが違うのかもしれない。
とはいえ修と話していて、大聖的には別にノリが違うなどと思うことは特にない。身長はもしかしたらほんの少し大聖より高いのかなくらいしか変わらない気がするが、垢ぬけた整った顔立ちしているのと、明るい茶色の髪色しているだけにもっと怖い、話の合わない人かと第一印象では思った。だが同じ明るい茶色でもアパートの隣人と違って清潔感を感じるし、髪型も垢ぬけているだろうにピシッと整ったようなきちんとした印象を大聖に与えてきた。それに性格はそれこそ隣人と違って穏やかそうだ。何より話しやすい。
そんなこんなで大学にはわりとすんなり慣れていった大聖だが、ことあるごとに隣人を思い出している気がして微妙な気持ちになる。それほど衝撃的というか、怖かったのだろう。幸い生活習慣が全く違うのか、ばったり会うことはない。このままずっと会わなくて済むといいなと思っていた。ちなみに反対側の隣人にも、今のところお目にかかっていない。こちらもあの超犯罪者級の隣人みたいだったらどうしようと思い、失礼かもしれないが挨拶も結局していないままだ。
そんなある日、大聖は大学内で二度見をしてなお、目を疑うものを見つけてしまった。
まさか、違う、よな?
うん、違う、はず?
三度見をしてもわからなく、四度目に見たところでやはり同じな気がしてきた。
隣人に見える。
あの時見たのと同じ髪色している。ただし今は軽そうではあるが整っている。挨拶の時に見た髪はぼさぼさだったが、もし寝ていたのならそれも仕方ないかもしれない。眠る時間でもなかったが。服装もあの時は部屋着だっただろうから今のように軽そうではあるもののちゃんとした恰好と、一致するはずない。だが何より首を傾げざるを得なかったのが目つきだ。軽そうな顔だが、目は穏やかそうに見える。あの時の人一人を殺していてもおかしくないような目つきでは少なくともない。
どういうことなのだろうか。やはり別人だろうか。ただ田舎に住んでいて人と接する機会に溢れていた大聖にとって、顔を覚えるのはわりと得意だ。色々違和感と不一致にまみれているものの、本能があの隣人と同一人物だと告げていた。
ただ、そうなると、なぜあの隣人がここにいるのかわからない。人を殺したため、こういうところに紛れ込んで誤魔化そうといった腹だろうか。
……何て俺も結構失礼だよな。別に人殺しを本当にしたわけじゃないのに、いくら冗談にしても自分だけが思っていることだからってそんなこと考えて……いやうん、して、ない、よな……?
挨拶の時の顔が、というか目つきが凶悪過ぎて先入観が半端ないのかもしれない。どうしても実際に殺していてもおかしくないようにしか思えない。小さな頃から植えつけられていた都会人のイメージも原因の一つかもしれない。現に大学に来てから都会人の皆が皆、冷たくて怖い人たちではないと体感しているし、かなり偏見なのだろうなと反省はしているのだが、三つ子の魂百までだ。
悶々と考えつつ、大聖はとりあえず隣人かもしれない人を少し尾行してみようと思い立った。ちょうど授業も終わりだ。そうしないと気になって夜も眠れなさそうだった。
男は誰かと話した後、そのまま鞄を持って歩きだした。帰るのだろう。もし隣人でないとしたら申し訳ないし、そもそも隣人だとしても失礼だと百も承知だが、大聖はそっと後つけた。道中、自分もよく通る道だけに疑問はどんどん確信へ変わっていく。アパートへ着いたところで、完全に間違いないと知った。念のため外から様子を窺うが、やはり間違いなく大聖の隣である角部屋へ入っていく。
どういうことだろうか。まさかあのヤバい隣人も大聖と同じ学校の学生なのだろうか。
……はっ、も、もしかして俺に対して苛立ちを覚えるか何か理不尽な感情をあれ以来抱いていて俺の素性を調べていたとかだったらどうしよう。ストーカーされていたのだとしたらどうしよう。
まさかそんなはずないと理性は言っているのだが、あの目つきが頭から離れないのと都会の人が怖いというなかなか拭いきれない偏見のせいだろうか。感情が追いつかないし、浮かんだらどんどんそうなのかもしれない気がしてきた。
「都会人て」
「違うの?」
「俺も地方から来たんだけど」
「え、そうなんだ。それは僥倖だな」
「何て」
「? 君はとても洗練されてるからてっきりこの辺の人かと思ったよ。どこの田舎から来たんだ?」
「……高津、お前が悪いやつじゃないのはなんとなくわかるけどな、口には気をつけたほうがいいぞ。別に俺は気にしないし話の流れだから一応わかるけど、いきなりどこの田舎から来た、何て言われたら喧嘩売られてるって思うやつもいるかもしれないからな。ちなみに俺はここからだよ」
もしかして田舎から来たという状況は他所の人からすると喧嘩を売られたと思うほど嫌な状況なのかと内心驚愕しつつ、大聖は見せられた携帯の画面を見た。画像ですぐにわかった。観光地で有名なところだし、ついでに言うと田舎でもない。おそらく家の近所に喫茶店だってある場所だろう。
「結構な繁華街じゃないか」
「はは。ほんと変なやつだな」
「俺が?」
そんなつもりはないのだがと思ったが、もしかしたら田舎独特のノリというか風習というか、そういった何かが自分の気づいていない間に身についてしまっているのかもしれないと大聖は納得することにした。
「悪気はないんだけど」
「それはうん、わかるよ高津」
「なるべく早く、ここの空気に馴染めるよう、がんばってみる」
「うーん、でも高津は基本そのままでいいんじゃない? おもしろいし」
おもしろい? と大聖はポカンとした顔を修へ向けた。今まで生きてきて真面目だと言われたことは多々あるが、おもしろいと言われたことはない。やはりノリか何かが違うのかもしれない。
とはいえ修と話していて、大聖的には別にノリが違うなどと思うことは特にない。身長はもしかしたらほんの少し大聖より高いのかなくらいしか変わらない気がするが、垢ぬけた整った顔立ちしているのと、明るい茶色の髪色しているだけにもっと怖い、話の合わない人かと第一印象では思った。だが同じ明るい茶色でもアパートの隣人と違って清潔感を感じるし、髪型も垢ぬけているだろうにピシッと整ったようなきちんとした印象を大聖に与えてきた。それに性格はそれこそ隣人と違って穏やかそうだ。何より話しやすい。
そんなこんなで大学にはわりとすんなり慣れていった大聖だが、ことあるごとに隣人を思い出している気がして微妙な気持ちになる。それほど衝撃的というか、怖かったのだろう。幸い生活習慣が全く違うのか、ばったり会うことはない。このままずっと会わなくて済むといいなと思っていた。ちなみに反対側の隣人にも、今のところお目にかかっていない。こちらもあの超犯罪者級の隣人みたいだったらどうしようと思い、失礼かもしれないが挨拶も結局していないままだ。
そんなある日、大聖は大学内で二度見をしてなお、目を疑うものを見つけてしまった。
まさか、違う、よな?
うん、違う、はず?
三度見をしてもわからなく、四度目に見たところでやはり同じな気がしてきた。
隣人に見える。
あの時見たのと同じ髪色している。ただし今は軽そうではあるが整っている。挨拶の時に見た髪はぼさぼさだったが、もし寝ていたのならそれも仕方ないかもしれない。眠る時間でもなかったが。服装もあの時は部屋着だっただろうから今のように軽そうではあるもののちゃんとした恰好と、一致するはずない。だが何より首を傾げざるを得なかったのが目つきだ。軽そうな顔だが、目は穏やかそうに見える。あの時の人一人を殺していてもおかしくないような目つきでは少なくともない。
どういうことなのだろうか。やはり別人だろうか。ただ田舎に住んでいて人と接する機会に溢れていた大聖にとって、顔を覚えるのはわりと得意だ。色々違和感と不一致にまみれているものの、本能があの隣人と同一人物だと告げていた。
ただ、そうなると、なぜあの隣人がここにいるのかわからない。人を殺したため、こういうところに紛れ込んで誤魔化そうといった腹だろうか。
……何て俺も結構失礼だよな。別に人殺しを本当にしたわけじゃないのに、いくら冗談にしても自分だけが思っていることだからってそんなこと考えて……いやうん、して、ない、よな……?
挨拶の時の顔が、というか目つきが凶悪過ぎて先入観が半端ないのかもしれない。どうしても実際に殺していてもおかしくないようにしか思えない。小さな頃から植えつけられていた都会人のイメージも原因の一つかもしれない。現に大学に来てから都会人の皆が皆、冷たくて怖い人たちではないと体感しているし、かなり偏見なのだろうなと反省はしているのだが、三つ子の魂百までだ。
悶々と考えつつ、大聖はとりあえず隣人かもしれない人を少し尾行してみようと思い立った。ちょうど授業も終わりだ。そうしないと気になって夜も眠れなさそうだった。
男は誰かと話した後、そのまま鞄を持って歩きだした。帰るのだろう。もし隣人でないとしたら申し訳ないし、そもそも隣人だとしても失礼だと百も承知だが、大聖はそっと後つけた。道中、自分もよく通る道だけに疑問はどんどん確信へ変わっていく。アパートへ着いたところで、完全に間違いないと知った。念のため外から様子を窺うが、やはり間違いなく大聖の隣である角部屋へ入っていく。
どういうことだろうか。まさかあのヤバい隣人も大聖と同じ学校の学生なのだろうか。
……はっ、も、もしかして俺に対して苛立ちを覚えるか何か理不尽な感情をあれ以来抱いていて俺の素性を調べていたとかだったらどうしよう。ストーカーされていたのだとしたらどうしよう。
まさかそんなはずないと理性は言っているのだが、あの目つきが頭から離れないのと都会の人が怖いというなかなか拭いきれない偏見のせいだろうか。感情が追いつかないし、浮かんだらどんどんそうなのかもしれない気がしてきた。
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