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18話
しおりを挟む いくら自分の中で憤慨しようが、実際本人に問い詰められるかといえば、問い詰められない。
だってそうだろう。言える訳がない。
「あれだけ散々甘い言葉吐き倒して俺にキスしたり触りまくっておきながら、一回ヤったらあとはもうどうでもいいのか」
どう考えても捨てられたヤツのセリフでしかない。言える訳がない。
捨てるも何も、付き合ってもないのだ。いや、そもそも男であるリーバイとそうなるつもりなんてないし、なりたくなんてない。だが口にすればそう思っているようにしか聞こえない。
とはいえ紘の考えすぎかもしれない。相変わらずリーバイはにこやかだし無視をしてきたりといったことは全くない。ただこれも、同居しているから仕方なくかもしれない。リーバイはイギリス在住だ。いずれは帰るだろう。それまでことを荒げないための対処かもしれない。
そこまで考えると、何だか知らないが胃が重苦しく感じた。
翌日、紘は大学へ向かいながら今まで付き合った彼女とのパターンを思い返してみたが、そもそも最後までしたことがないので参考となる案件がない。
昼になると松村とは一緒の授業が今日はないため、仕方なく一人で食堂へ向かった。一応他にも友人はいるが、別に無理に一緒の行動をしなければならない理由はない。特に男子校だった高校の頃などは他の皆もわりとそんな感じでそれぞれ自由に好き勝手やったりつるんだりしていたものだが、大学に入ってから結構カルチャーショックを受けたものだった。男同士でも一緒になって行動している者ばかりで、一人でいると「どうしたの」とまで言われた。心配されるのも面倒なので一番仲がいい松村がいる時は一緒に行動することが多いものの、いないなら別に一人でいいや、となる。
昼飯を食べた後、ぼんやりコーヒーを飲んでいたら隣のテーブルから「もう駄目なのかな」という声が聞こえてきた。今までも会話は聞こえていたのかもしれないが頭にまで入ってきていなかった。思わずそっと耳を澄ましていると、それに気づいていない女子たちが話し続ける。
「どうだろ。本人に聞くしかなくない?」
「あ、でもそういうの聞かれると嫌がるヤツ結構いるんじゃ」
「だよね。あたしもそれ気になって聞けない。でもさ、あんなに優しかったのに一回ヤった後音沙汰ないって、やっぱさ……」
「……あの、さ。あんたには悪いけど私からしたらそれ、絶対遊ばれたんだよ」
「わぁん、やっぱそう?」
「やっぱそうなのかっ?」
気づけば身を乗り出していた紘を、女子たちがポカンとした顔で見上げてくる。
「結城くん?」
「あの、今の聞いてた?」
「つか、何でそんな必死そうなの」
「……あ、えっと、た、たまたま、たまたま聞こえてきて……その、あの、ごめん」
恥ずかしい。めちゃくちゃ恥ずかしい。
紘は顔が熱くなるのがわかった。
「い、いけど……何で結城が聞いてくんの。むしろあんた同じ男なんだし、あたしが聞きたいよ」
「だよね。どうなの。男としてさぁ。散々甘やかしておきながら一回ヤったら音沙汰なしって」
「え、いや、あの……」
答えられるか。というか答えたくない。
誤魔化してこの場から去ろうと思った紘だったが、当事者らしい子の表情を見るとため息を吐いてから向き直った。
「宇野さん」
「うん」
「男だからって皆同じとは言えねえし、正解なんて俺もわからない。だけど俺だったらがんばってそこまで進めた女の子をその後放っておくなんてできないよ」
その子は「だよね」と悲しそうに頷いた後「ありがとう」と紘に笑いかけてきた。
午後の講義はまた集中できなかった。このままでは単位を落としてしまうのではないかと何とか活を入れて集中しようとした。今はまだ講義ばかりだが、来年からは実験や実習が多くなる。それについていけなくなるのも困る。
ようやく終わり、本屋などで時間をつぶしながら家へ帰っている途中、紘は改めて微妙な気持ちになっていた。
──昼のあれ、まるで俺が俺に回答したようなもんじゃねぇか。
思い切り頭を抱えて蹲りたい気分になった。
いや、同じではない、リーバイは音沙汰がないのではないと自分に言ってみるが、同じ屋根の下なのだから無視できるはずがないだけじゃないかともう一人の自分が続けてくる。
「駄目だ」
声に出し、紘は舌打ちした。
こんなのは面倒くさい。好きじゃない。そもそもなんて不甲斐ない軟弱でうじうじした逃げ腰姿勢なんだろうと自分に呆れる。
そもそも自分に手を出してきたリーバイのせいだとは思うが、快楽に負けて何だかんだで受け入れてしまったのは自分だ。もちろん歓迎してはいないものの女が男から無理やり犯されるのとは違う。いや、男同士でもレイプはあるが、そもそもリーバイは何だかんだで無理やりなことは一切していない。力は強いし強引だが、紘が本当に嫌がることはしない。現に慣らされていた時に尻の穴を舐めようとしてきて「それだけは絶対に嫌だ」と言えばすぐに止めてくれた。
ついその時のことを思い出し、紘は何とも言えない顔になりつつ、頭を振った。
うじうじと情けねぇ。
今夜、絶対に聞き出してやる、と紘は気合いを入れた。その際に両頬をパン、と叩いたのを通りがかりの人に見られて警戒され、また少し微妙な気持ちになった。
だってそうだろう。言える訳がない。
「あれだけ散々甘い言葉吐き倒して俺にキスしたり触りまくっておきながら、一回ヤったらあとはもうどうでもいいのか」
どう考えても捨てられたヤツのセリフでしかない。言える訳がない。
捨てるも何も、付き合ってもないのだ。いや、そもそも男であるリーバイとそうなるつもりなんてないし、なりたくなんてない。だが口にすればそう思っているようにしか聞こえない。
とはいえ紘の考えすぎかもしれない。相変わらずリーバイはにこやかだし無視をしてきたりといったことは全くない。ただこれも、同居しているから仕方なくかもしれない。リーバイはイギリス在住だ。いずれは帰るだろう。それまでことを荒げないための対処かもしれない。
そこまで考えると、何だか知らないが胃が重苦しく感じた。
翌日、紘は大学へ向かいながら今まで付き合った彼女とのパターンを思い返してみたが、そもそも最後までしたことがないので参考となる案件がない。
昼になると松村とは一緒の授業が今日はないため、仕方なく一人で食堂へ向かった。一応他にも友人はいるが、別に無理に一緒の行動をしなければならない理由はない。特に男子校だった高校の頃などは他の皆もわりとそんな感じでそれぞれ自由に好き勝手やったりつるんだりしていたものだが、大学に入ってから結構カルチャーショックを受けたものだった。男同士でも一緒になって行動している者ばかりで、一人でいると「どうしたの」とまで言われた。心配されるのも面倒なので一番仲がいい松村がいる時は一緒に行動することが多いものの、いないなら別に一人でいいや、となる。
昼飯を食べた後、ぼんやりコーヒーを飲んでいたら隣のテーブルから「もう駄目なのかな」という声が聞こえてきた。今までも会話は聞こえていたのかもしれないが頭にまで入ってきていなかった。思わずそっと耳を澄ましていると、それに気づいていない女子たちが話し続ける。
「どうだろ。本人に聞くしかなくない?」
「あ、でもそういうの聞かれると嫌がるヤツ結構いるんじゃ」
「だよね。あたしもそれ気になって聞けない。でもさ、あんなに優しかったのに一回ヤった後音沙汰ないって、やっぱさ……」
「……あの、さ。あんたには悪いけど私からしたらそれ、絶対遊ばれたんだよ」
「わぁん、やっぱそう?」
「やっぱそうなのかっ?」
気づけば身を乗り出していた紘を、女子たちがポカンとした顔で見上げてくる。
「結城くん?」
「あの、今の聞いてた?」
「つか、何でそんな必死そうなの」
「……あ、えっと、た、たまたま、たまたま聞こえてきて……その、あの、ごめん」
恥ずかしい。めちゃくちゃ恥ずかしい。
紘は顔が熱くなるのがわかった。
「い、いけど……何で結城が聞いてくんの。むしろあんた同じ男なんだし、あたしが聞きたいよ」
「だよね。どうなの。男としてさぁ。散々甘やかしておきながら一回ヤったら音沙汰なしって」
「え、いや、あの……」
答えられるか。というか答えたくない。
誤魔化してこの場から去ろうと思った紘だったが、当事者らしい子の表情を見るとため息を吐いてから向き直った。
「宇野さん」
「うん」
「男だからって皆同じとは言えねえし、正解なんて俺もわからない。だけど俺だったらがんばってそこまで進めた女の子をその後放っておくなんてできないよ」
その子は「だよね」と悲しそうに頷いた後「ありがとう」と紘に笑いかけてきた。
午後の講義はまた集中できなかった。このままでは単位を落としてしまうのではないかと何とか活を入れて集中しようとした。今はまだ講義ばかりだが、来年からは実験や実習が多くなる。それについていけなくなるのも困る。
ようやく終わり、本屋などで時間をつぶしながら家へ帰っている途中、紘は改めて微妙な気持ちになっていた。
──昼のあれ、まるで俺が俺に回答したようなもんじゃねぇか。
思い切り頭を抱えて蹲りたい気分になった。
いや、同じではない、リーバイは音沙汰がないのではないと自分に言ってみるが、同じ屋根の下なのだから無視できるはずがないだけじゃないかともう一人の自分が続けてくる。
「駄目だ」
声に出し、紘は舌打ちした。
こんなのは面倒くさい。好きじゃない。そもそもなんて不甲斐ない軟弱でうじうじした逃げ腰姿勢なんだろうと自分に呆れる。
そもそも自分に手を出してきたリーバイのせいだとは思うが、快楽に負けて何だかんだで受け入れてしまったのは自分だ。もちろん歓迎してはいないものの女が男から無理やり犯されるのとは違う。いや、男同士でもレイプはあるが、そもそもリーバイは何だかんだで無理やりなことは一切していない。力は強いし強引だが、紘が本当に嫌がることはしない。現に慣らされていた時に尻の穴を舐めようとしてきて「それだけは絶対に嫌だ」と言えばすぐに止めてくれた。
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うじうじと情けねぇ。
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