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16話
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「教授が怪訝な顔してお前を見てたぞ」
講義が終わったらしく、松村が呆れた顔をして紘に話しかけてきた。だが紘は心ここにあらずという状態のせいで気づいていない。
「結城。おい、結城! ゆーきってば!」
何度も呼んだ挙げ句、松村は紘の脇腹をくすぐろうとした。そして指が触れた瞬間、紘から一瞬妙な声が聞こえて固まる。紘も今のでようやく我に返った。そして微妙な顔で松村を見る。
「ゆーきサン、今喘いだ?」
「あ、喘いでねぇよ……。つか触んなボケ」
「だって呼んでも全然返事しねーからだろ。目ぇ開けて寝てたんかよ」
「起きてる。……ちょっとあれだ。瞑想してただけだ」
「はぁ? 何瞑想って。それは寝てるっつーんじゃ……」
「起きてるっつってるだろ」
実際起きていた。ただ、ひたすら悶々と考えていただけだ。何をともし聞かれても、だが答えられない。言いたくない内容だからというのもあるが、何より紘の中で考えが固まっていないというか、要は何をどう考えればいいかもわからないまま考えていた。
数日前、延々とキスをされるだけでなく達せさせられた。
男の手で。
リーバイの手で。
それも二回も。
最初は一瞬触れられただけで達してしまった。相手が男云々を置いておいても結構居たたまれない。ただそこに触れられる前に相当高ぶらされていたせいではある。
それに唖然としていると今度は本格的に触れらた。その際も何度もキスをしながら色々聞いてきたり馬鹿みたいに甘い言葉を吐いてきたりした。結局二回目も普段と違ってあっという間に果てる羽目になった。
そして今日までに既に数回、紘はリーバイによって絶頂を味わわされている。親が寝静まったであろう夜にも襲われた。部屋に鍵をかけても無駄だった。リーバイ曰く「室内ドアの鍵くらいならテンションレンチとペーパークリップさえあれば余裕」らしい。恐ろしい。しかも一昨日、昨日は延々と尻の穴まで弄られた。昨日なんて弄られながら達してしまった。言い訳すると前を扱きながらだったからそちらの刺激に耐えられなかっただけだ。決して尻を弄られて達したのではない。はず。
俺は……どうしたらいい? いやどうしたらというか……でもどうしたらとしか……クソ、リーバイ殴る。今日こそ帰ったら絶対殴る。
最初の時に殴ればよかったのだろうが、あまりに頭が働かなさすぎてあの後どう過ごしたのかさえ定かではない。
おまけに考え過ぎていて油断していたのもあるが、松村相手に変な声が出た。ついでに松村も殴りたい。
「なぁ、お前殴っていいか?」
「唐突に何? あとそれで俺がいいと言うと思ってんのか。俺はドエムかよ」
結局何一つ自分がどうすればいいのかどころか何を考えればいいのかさえ分からないまま今日の授業は終わった。できればすぐに帰りたくなくて時間潰しを松村に付き合ってもらおうとしたが「何でお前とカフェデートしなきゃなの」と言われた。
「デートじゃねえだろ」
「男二人で、何かの用事のついででもねえのにカフェでコーヒーする気分になれません。つか、じゃあカラオケ行こう。カラオケなら付き合う」
「歌いたくねえ」
「ワガママかよ……! だったら俺一人で歌うからお前その横でコーヒー飲んでりゃいいだろ」
「それとカフェ行くのどう違うんだよ」
「俺が歌えるだろ」
「……っち」
背に腹は代えられないとカラオケへ行ったが、何か喋るでもなく興味のない松村の歌を延々と聞かされながら大して美味くもないコーヒーを飲むのは微妙過ぎたので勝手に自分だけ酒を注文してやった。ドリンクバーまで行くのが面倒なため、端末でオーダーするコースをあらかじめ付けてもらっていたので気づかれず、後で「テメーだけ酒飲んでたな」と言われたが知ったことではない。
ただニ、三時間は潰れたものの、どのみち家へ帰る訳で。
──いや、帰りが遅くなればその分、リーバイと二人になる時間がなくなる。
家に帰ると母親が夕食の準備をしていた。リーバイはその手伝いをしていた。ほっと紘は小さく息を吐く。
「あら、ひろちゃんお帰り」
「おかえり、ヒロ」
気づいた二人が振り向いて言ってきたが、紘は「うん」とだけ口にすると顔を合わせることもなく自分の部屋へ向かった。
リーバイと顔を合わせたくない。顔を見たくない。話したくないし声を聞きたくない。考えすらまとまらないというのに、絶対に無理だ。
「ヒロ、げんきない? ヒナコがしんぱいしてた」
だというのにリーバイはこうして気軽にやって来る。学校では絶対に殴ると思っていたのに今はそんな気にもなれない。とにかく出ていって欲しい。
「何でもない」
「ほんと? でもげんき、なさそう」
「何でもない」
「ヒロ」
「煩い! あんたのせいだろ。あんたと顔合わせたくなくて、話したくなくて、声も聞きたくなくて避けてただけだっつーの!」
近づかれ、心配そうとはいえ紘に散々あんなことをした時と同じ声で名前を呼ばれ、紘は咄嗟に口にしてしまった。思っているだけと本人に言うのとでは雲泥の差がある。紘は慌てて手のひらで口を押さえた。
「ヒロ……」
「わ、るい……言い過ぎ、た……」
自分なら今みたいに言われたら落ち込む。少し血の気が引きそうになりながら謝ると、そっと手が伸びてきて髪を撫でられた。ビクリと震える。
「あやまらない、ヒロ。だいじょうぶ」
「大丈夫って……俺、今ひどいこと言った」
「だいじょうぶ。だって……」
リーバイは紘の髪に触れている手を優しく動かした。さらりと撫でられ、紘はまた震えた。
「そんなせつなそうなかお、あかくして言われたらぎゃくにしか、きこえないよ」
講義が終わったらしく、松村が呆れた顔をして紘に話しかけてきた。だが紘は心ここにあらずという状態のせいで気づいていない。
「結城。おい、結城! ゆーきってば!」
何度も呼んだ挙げ句、松村は紘の脇腹をくすぐろうとした。そして指が触れた瞬間、紘から一瞬妙な声が聞こえて固まる。紘も今のでようやく我に返った。そして微妙な顔で松村を見る。
「ゆーきサン、今喘いだ?」
「あ、喘いでねぇよ……。つか触んなボケ」
「だって呼んでも全然返事しねーからだろ。目ぇ開けて寝てたんかよ」
「起きてる。……ちょっとあれだ。瞑想してただけだ」
「はぁ? 何瞑想って。それは寝てるっつーんじゃ……」
「起きてるっつってるだろ」
実際起きていた。ただ、ひたすら悶々と考えていただけだ。何をともし聞かれても、だが答えられない。言いたくない内容だからというのもあるが、何より紘の中で考えが固まっていないというか、要は何をどう考えればいいかもわからないまま考えていた。
数日前、延々とキスをされるだけでなく達せさせられた。
男の手で。
リーバイの手で。
それも二回も。
最初は一瞬触れられただけで達してしまった。相手が男云々を置いておいても結構居たたまれない。ただそこに触れられる前に相当高ぶらされていたせいではある。
それに唖然としていると今度は本格的に触れらた。その際も何度もキスをしながら色々聞いてきたり馬鹿みたいに甘い言葉を吐いてきたりした。結局二回目も普段と違ってあっという間に果てる羽目になった。
そして今日までに既に数回、紘はリーバイによって絶頂を味わわされている。親が寝静まったであろう夜にも襲われた。部屋に鍵をかけても無駄だった。リーバイ曰く「室内ドアの鍵くらいならテンションレンチとペーパークリップさえあれば余裕」らしい。恐ろしい。しかも一昨日、昨日は延々と尻の穴まで弄られた。昨日なんて弄られながら達してしまった。言い訳すると前を扱きながらだったからそちらの刺激に耐えられなかっただけだ。決して尻を弄られて達したのではない。はず。
俺は……どうしたらいい? いやどうしたらというか……でもどうしたらとしか……クソ、リーバイ殴る。今日こそ帰ったら絶対殴る。
最初の時に殴ればよかったのだろうが、あまりに頭が働かなさすぎてあの後どう過ごしたのかさえ定かではない。
おまけに考え過ぎていて油断していたのもあるが、松村相手に変な声が出た。ついでに松村も殴りたい。
「なぁ、お前殴っていいか?」
「唐突に何? あとそれで俺がいいと言うと思ってんのか。俺はドエムかよ」
結局何一つ自分がどうすればいいのかどころか何を考えればいいのかさえ分からないまま今日の授業は終わった。できればすぐに帰りたくなくて時間潰しを松村に付き合ってもらおうとしたが「何でお前とカフェデートしなきゃなの」と言われた。
「デートじゃねえだろ」
「男二人で、何かの用事のついででもねえのにカフェでコーヒーする気分になれません。つか、じゃあカラオケ行こう。カラオケなら付き合う」
「歌いたくねえ」
「ワガママかよ……! だったら俺一人で歌うからお前その横でコーヒー飲んでりゃいいだろ」
「それとカフェ行くのどう違うんだよ」
「俺が歌えるだろ」
「……っち」
背に腹は代えられないとカラオケへ行ったが、何か喋るでもなく興味のない松村の歌を延々と聞かされながら大して美味くもないコーヒーを飲むのは微妙過ぎたので勝手に自分だけ酒を注文してやった。ドリンクバーまで行くのが面倒なため、端末でオーダーするコースをあらかじめ付けてもらっていたので気づかれず、後で「テメーだけ酒飲んでたな」と言われたが知ったことではない。
ただニ、三時間は潰れたものの、どのみち家へ帰る訳で。
──いや、帰りが遅くなればその分、リーバイと二人になる時間がなくなる。
家に帰ると母親が夕食の準備をしていた。リーバイはその手伝いをしていた。ほっと紘は小さく息を吐く。
「あら、ひろちゃんお帰り」
「おかえり、ヒロ」
気づいた二人が振り向いて言ってきたが、紘は「うん」とだけ口にすると顔を合わせることもなく自分の部屋へ向かった。
リーバイと顔を合わせたくない。顔を見たくない。話したくないし声を聞きたくない。考えすらまとまらないというのに、絶対に無理だ。
「ヒロ、げんきない? ヒナコがしんぱいしてた」
だというのにリーバイはこうして気軽にやって来る。学校では絶対に殴ると思っていたのに今はそんな気にもなれない。とにかく出ていって欲しい。
「何でもない」
「ほんと? でもげんき、なさそう」
「何でもない」
「ヒロ」
「煩い! あんたのせいだろ。あんたと顔合わせたくなくて、話したくなくて、声も聞きたくなくて避けてただけだっつーの!」
近づかれ、心配そうとはいえ紘に散々あんなことをした時と同じ声で名前を呼ばれ、紘は咄嗟に口にしてしまった。思っているだけと本人に言うのとでは雲泥の差がある。紘は慌てて手のひらで口を押さえた。
「ヒロ……」
「わ、るい……言い過ぎ、た……」
自分なら今みたいに言われたら落ち込む。少し血の気が引きそうになりながら謝ると、そっと手が伸びてきて髪を撫でられた。ビクリと震える。
「あやまらない、ヒロ。だいじょうぶ」
「大丈夫って……俺、今ひどいこと言った」
「だいじょうぶ。だって……」
リーバイは紘の髪に触れている手を優しく動かした。さらりと撫でられ、紘はまた震えた。
「そんなせつなそうなかお、あかくして言われたらぎゃくにしか、きこえないよ」
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