君の全てが……

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19話 ※

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 理解できなかった。
 言うつもりなんてなかった。
 誰にも一生言うことのないことだと思っていた。

「……っ、ぁ」

 柾のキスが唇から耳、首筋へと移動していく。手がシャツの中へ入っていき、胸の突起を優しく愛撫してくると熱の籠ったため息のような声が漏れた。
 男に興味のない柾が、蓮を好きだと言ってくれている。それだけでなく、思わず打ち明けてしまったどうしようもない性癖を受け入れるとさえ言ってくれている。
 理解できるはずなかった。

 そんなことがあるはずない。
 あるはずが、ない。

「ん、っん……、ぅ」

 柾の触れてくるところがどこもジンジンと熱く疼く。いつだって堪らない気持ちになるのだが今はさらに耐え難い程気持ちがよく、なのにもどかしくてどうにかしたくて込み上げてくるなにかに飲み込まれそうだった。

「な……、んで……」
「なにがなんでなの。俺が蓮を好きだってこと、それこそなんで信じてくれないの。受け入れてくれないの」

 柾が言いながら蓮の熱く、すでに情けない程濡れた昂りを口に咥える。

「は、ぁ……っく」
「可愛い……、もっと俺に蕩けて」
「ぅ、あ、っあ」

 エアコンをかけているというのに汗が伝う。目からも体中からも、そして昂りからもいたるところをぐしょぐしょと濡らしている気がして蓮は羞恥にまみれる。せめて情けない醜い様子が見られたくなくて腕で顔を隠した。

「隠さないで」

 すると蓮のものから口を離した柾が体を起こし、蓮の顔から腕を離してきた。そして手首をつかむともう片方の手で蓮の昂りを扱きながら腕の傷に唇や舌を這わせてくる。

「ここ、まだ新しい……。傷がまだちゃんと乾いてない。蓮の血の味する」

 実際まだ新しい傷口に舌を這わされてそんなことを言われ、蓮は表情を歪ませる。蓮の血を、柾が舐めている。そう思うだけで体の奥から表現しがたい疼きが押し寄せてきた。

「ぁ、あっ、あ……っいゃ、っあっ」

 溢れんばかりの疼きと快楽に苛まれ、蓮はあっけなく柾の手の中で果てた。
 顔が熱い。
 だが柾もまるで熱に浮かされたような表情を浮かべ、蓮を見てきた。

「蓮の様子、エロすぎる」

 呟くと、指を後腔へやり、ゆっくりと中に埋めてきた。指が二本、三本と増えていく毎にまた蓮の昂りが硬く熱を持っていく。

「ねえ、俺の指か首、傷つけて舐める……?」

 不意にそんなことを聞かれ、蓮は言われたことが脳内に浮かびふるりと体を震わせる。だがそんなこと到底出来ない。柾の血がどうこうではなく、柾を傷つけるなんて無理だと思った。
 ただでさえ自分の気持ちが悪い性癖を見せつけているようなものなのに、これ以上ほんの少しでも負担をかけたくないし傷つけたくない。
 中の弱いところを指で擦られ、びくびくとまた体を震わせながら蓮は必死に首を振った。

「なんで? 俺のは嫌?」
「違、ぅ。でもお前を傷つけたく、ない! っん、は……っ、したく、ない……」
「……そんなの、構わないのに……。でもそうだね、俺まだ慣れてないからちょっと噛んだり切ったりで血が出るの、怖い、かな……。ヘタレでごめんね」

 切なそうに謝る柾に、蓮はさらに首を振る。ただ知られた上に血について話しているからだろうか、自分の腕を切り、その血を舐めたくて舐めたくて仕方がなくなってきた。
 普段も本当はそうしたくて堪らなかったのだが、必死に我慢していた。そしてそんな自分を嫌悪したし抱いてくれている柾に申し訳なさすら覚えていた。
 しかし思わずテーブルの上にあるメスをちらりと見てしまっていたらしい。柾が「……切りたい?」と聞いてきた。

「……っ、いや……。……。……嘘……。切りたい……血を見て、味わい、たい……」

 否定するとむしろ柾が悲しそうな顔をしてきた。中を弄られ既に興奮させられている蓮は、もうどうとでもなれという勢いで本音を漏らす。

「うん……。……本当は、駄目って言うべきなんだろうね。よくないよって言うべきなのかな。だって俺だって蓮を傷つけたくないし自分でも傷つけて欲しくない」

 柾はそう言いながらもテーブルからディスポメスを手に取った。

「でも、苦しむ蓮はもっと見たくなくて。きっと俺はよくない彼氏なんだろうね。でも君の全てが好きなんだ、だからいいよってしか言えない」

 優しくキスをしながら柾は囁くように言い、蓮にメスを手渡してきた。

「俺は慣れてないから今、俺はしてあげられない、ごめんね」
「……ぅん」

 なんて言えばいいかわからないまま、蓮は手の震えをなんとか抑えていつものように腕を傷つけた。途端、熱い程の痛みが走る。切る前は痛みが嫌だと思っているのにそれすら愛おしく思える程、血を待ち望んでいた。傷からはじわりと赤い血が滲んでくる。
 鮮明で煽情的で眩暈がしそうだった。

「秋尾……、入れて」

 乱れた息の隙間から柾に請う。そして上になっていた柾をとん、と押して自ら柾の上に乗りあげた。そして柾の服を乱し、既に昂っていた熱を取り出した。

「ううん、俺が、自分で入れる」

 囁くように言い、ゆっくりと身体をそこに下ろしていく。自分ですると中々上手く入らないが、途中から柾も動いてくれ、それはぐぐ、と中に入ってきた。

「っぁ、は……」

 熱く硬い楔が自分を下から貫いている感触が堪らなくて蓮はふるりと震えた。そのまま蓮は腕を伝う血を眺めた。その赤にクラクラとしながら舌を這わせる。

「ぁ、あっ、あ……っ」

 塩味のある鉄っぽい味が口の中に広がり、恍惚となる。おまけに柾の熱が蓮の中を突き上げてきて耐え難い程の快楽が脳や足の爪先にまで広がる。

「ぁ、っひ……、あき、ぉ」
「気持ちい? 蓮……好きだよ、蓮……」

 柾の言葉に胸が熱くなる。だが柾を見ると蓮の腕から滴った血で頬や服が汚れていた。その様子にさらに興奮しつつも蓮はまた涙が込み上げてきた。

「ぁ……、あ、ごめん、ごめん……、気持ち悪いもの見せるだけじゃなくて秋尾を汚し……っ」

 じわじわと込み上げてくる辛さに喉が塞がる。思わず血の滴る側の手で口元を覆うと柾が手を伸ばしてきた。その手が優しく蓮の髪を梳いてくる。

「謝らないで……俺は蓮がいつも『ありがとう』って言ってくれるとこが大好きだよ」

 切なそうな顔をニッコリ微笑ませると柾は続けてきた。

「それに汚されてないよ。君がそうやってまるで罪を犯してるみたいに苦しんでいるとこ、とても煽情的で甘いけど、でもやっぱり俺は笑顔が見たいよ。全部好きだけど、笑顔は格別だよ……。言ったよね、全て受け入れたいって。謝る必要なんて何一つない。沢山泣いてくれていいけど、最後には笑ってね」
「っ……、」

 蓮は喉に痛みすら覚えた。だが堪えなくていいと沢山泣いていいという言葉に素直に従った。

「ぁ、あっ」

 喉の塞がりを取り払うかのように声を絞って泣いた。泣きながら血を舐め、腰を動かせる。
 もうぐちゃぐちゃだった。だけど嬉しくて気持ちがよくて、訳のわからないまま思い切り精を放った。

「体位変えていい?」

 柾がそういって今度はまた上になる。思い切り足を開かされ、硬く猛った熱をこれでもかというくらい突き上げてきた。

「ぁあっ、あっ、あっ、は……っ」

 思い切り奥を蹂躙され、蓮は痙攣するように中を震わせる。その間もひたすら腕の赤に舌を這わせていた。

「好きだよ、蓮。好き。ねえ、気持ちいい?」
「ん、ぅん、うん……っ」
「ほら、ここ、もっと突いてあげるね……、ん。……ねえ、だからもう別れるなんて、言わないね?」
「ん、んん、ぅん、ぁき、お……、好き、柾……、柾、堪らなく好き。ほんとは別れたくない、っぁ、あっ、好き、好きだ、っも……ぁあっ」

 もうおかしくなる。脳がチカチカとして気が触れそうな程の快感に耐えられず、蓮は何度も達した挙句、意識を保てなくなった。
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