君の全てが……

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14話 ※

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「で、できたら、で、いい……から……できるので、あれば……、したい」

 そんな風に囁かれ、普通でいられるはずなんてなかった。キスをしただけで、柾は自分を抑えるのに割と必死だった。だというのにそんな風に囁かれると耐えられなくなる。ただでさえ、キスを終えた後に首筋に顔を押し付けられドキドキとしていた。
 したい、と言ってきた後、蓮は少し震えながら柾にしがみついてきた。
 到底、耐えられそうに、ない。
 柾は蓮の顔を上げさせるとまたキスをする。

「そんなこと……今こんなところで言わないで……」

 絞り出すように言うと蓮が動揺したように謝ろうとしてきた。

 違う、違うよ蓮……。

 柾はその口をまた塞いだ。そして激しくキスを求め、味わった。そうすることで力が抜けたようになり、柾に体を預けてくる蓮が可愛くてまた堪らなくなる。今すぐにでも浴衣を乱し、全てを貪りたくなる。
 堪えるように柾は蓮の浴衣の袖へ手を這わせていき、蓮の腕をなぞる。華奢で色白で中性的な顔をした蓮だが、腕にはちゃんとしっかりとした筋肉があった。脇の辺りに這わせていく手が感じ取る感触も、女のそれとは全然違う。そもそも身長からして、男ならそこそこであっても女ならかなり高身長だろう。
 ちゃんと柾の体も心も、蓮が男だと把握している。先ほどまで性別を意識さえしていなかったが、今こうして実際触れることで改めて男なのだと実感しても昂る気持ちに変わりはなかった。

 謝らないで、蓮。
 ちゃんと、俺も君が、欲しいと思っている――

「こんなところで、したくなる。だから、言わないで」

 とはいえ気が昂っているせいで上手く言葉にできない。なんとか言えたのが「君の家に行っていい?」だった。陳腐極まりないことしか言えない自分が情けないと歩きながら思った。
 せめてちゃんと丁寧に抱きたい。そう思ったところでふと我に返る。

 ところで、どっちだ……?

 夢中になって抱きしめキスをしていた時はなにも思っていなかったが、気づいてしまうと気になって仕方がない。そもそも自分はやり方が分かるのだろうかとも思った。そして蓮は男の経験はあるのだろうかということまで思い至り、腹の中がモヤモヤとした不快な感じに包まれた。

「あ、あの……、中、入って、て。俺、下駄だったからちょっと足、洗いたい」

 家に着くと蓮が遠慮がちに言ってくる。それに対し「ああ、うん」と返しながらもまだモヤモヤとしていた。
 とりあえず言われた通り部屋の中で一旦寛ぐ。蓮の部屋は簡素ですっきりとしていた。これでは散らかりようもないのでは、と前に家へ行くことを断られた時のことを思い出す。
 なにか見られたくないものでもあったのだろうかと思いながらテーブルに目を落とすと、何やら見慣れないものに気づいた。平たいスティック状のそれはプラスチックで出来た先にステンレスの刃がついている。

 ……まさかこれでいつも腕や手首を……?

 気になったが不用意に触れてもし蓮が使うものに対して自分のせいで衛生的になにかあればと思い、柾は見るだけにしておいた。
 ふー、と深い息を吐く。何か悩んでいることがやはりあるのだろうかと気になった。

 ……俺のことが好きなら、打ち明けてくれないだろうか……。

 しんみりと思ったはずだったが、好き、という言葉から何故か木々の中でキスをした蓮を思い出してしまい、また気が昂ってきた。中坊や高校生のガキじゃあるまいし、などと自分を揶揄するように思いつつもどうしようもなかった。
 蓮が「待ってもらってありがとう……」と部屋に入ってきた時はドキリとしてしまってむしろ平静を装うように「ゆっくりだったね」と蓮に笑いかける。だがほんのり香ってくる石鹸の香りや少し上気したような顔を見ると平静を装うなんて無理だとわかった。
 ベッドになだれ込むように思い切り蓮を引き寄せた。ベッドの上に座り込んだ蓮にキスをしながら、柾は蓮の浴衣を乱しつつ手を中へ入れる。
 細いはずの体は直接触れるとそれなりに筋肉も感じられた。それでもやはり華奢だなと思いながら、柾は蓮の唇を貪り指を這わせていく。胸の突起に触れると蓮は熱っぽいため息を吐きながら体をピクリと震わせた。

「ここ、気持ちいい……?」
「聞、くな」

 耳元で囁くと、どこか切羽詰まったような声で蓮も囁く。

「なんで。だって聞かなきゃわからないよ。俺、蓮が気持ちいいとこに一杯触れたい」
「ん、ん……、あ、く」

 そのまま指の腹で突起を撫でていくとすぐに硬くなっていく。男は基本的に胸を弄ることも弄られることもあまりなく慣れていないのもあって大抵はなにも感じないんじゃないのだろうかと柾は思う。だが蓮は凄くというわけではないが、明らかにそれなりには感じている気がする。

 ……男とも経験、あるのかな……。

 ついまたそんな風に思ってしまった。聞きたい。でも聞くべきことじゃないとは思う。男女の関係だって普段聞かない。
 気を逸らすように、柾は蓮の既に昂っているものと自分のものを擦り合わせた。一緒に持ち、刺激させる。まだ半立ちくらいだった自分のものがそれで一気に硬くなっていく。

「ぁ、っあ……っ」
「……っく」

 お互いの先から零れる先走りがぬるぬるとそのものや手に伝う。それがさらに柾を煽ってきた。

 ……男同士とか、想像もできなかったのに……。

 全然普通に、というよりむしろ堪らなく煽情的だとさえ思えた。柔らかみのない、痩せた、それでも筋肉を感じる体も、自分と同じものがついているところも、なにもかもが煽情的だった。なによりも普段淡々とさえしている蓮の、涙目や赤らめた表情が堪らない。
 擦り合わせているだけじゃ密度が足りない。もっと激しく繋がりたい。そう思ったが蓮が受け入れる側の気持ちでいてくれるかどうかもわからないのに勝手はできなかった。それにあまりやり方もわからない。女性にするように解したらどうにかなるものなのだろうか。自分にもあるものだがそんなことだけで入るなんて到底思えなかった。

「ごめん、蓮……。俺、どうしていいかあまりわからないけど、でも君の中に入れたい……。でもそれ――」
「いいよ……」

 言いかけたところで蓮が遮るように柾を見てきた。

「え」
「大丈夫だから。その、俺、一応準備、してきた、から……その、一応濡らしては欲しいけど……そのまま入れて」

 その言葉を聞いた途端、痛いほどに自分のものが反応するのがわかった。だがチクリと小さく突き刺さるものもある。
 自分の為に準備してくれたのかとか「入れて」なんて言われることとか、本当に堪らないのだが、もしや慣れているのだろうかとつい思ってしまいチクチクと胸の奥がなにかで突き刺さる。

 そんなことでいちいち気にするな、小さい……!

 自分に言い聞かせながら、柾は「ぁ……、ゴム……」と呟いた。

「いらない。そのまま入れて……」
「っ……、」

 堪えることなどできるはずもなかった。渡されたローションを使って少しだけ恐る恐る蓮の後腔に指を入れて解すようにしながら何度も濡らした後、硬く猛った自身を柾は思い切ってぐ、っと埋め込んでいく。

「っぁ、っく」

 そこは思っていた以上にに柾をぐにぐにと締め付け、そして思っていた以上に熱かった。柾のすべてを捉えて離さないといった感じで狭いきつく、思っていた以上襞がきゅうきゅうと刺激してくる。
おまけに受け入れてくれている蓮の様子がまた堪らない。今にも達してしまいそうだった。とはいえ、蓮の表情は感じているというよりもやはりどうみてもきつそうで申し訳なさが溢れる。

「きつい? 無理だったら……」
「だ、いじょうぶ、だから! っは、くっ、大丈夫、だ、からお願いだ、やめないで……」

 蓮は切なげな表情と声で、柾をぎゅっと抱きしめてきた。
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