君の全てが……

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13話

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 腰が砕けてしまうようなキスをされ、蓮は色々もう我慢できそうになかった。とはいえ、自分も男同士での行為はしたことがない。ちゃんとしたセックスを自らリードできそうにない。だけれども柾が欲しくて仕方がなかった。
 こういう場合、どうしたらいいのだろうかと思う。彼女相手なら、もっとゆっくり段階を踏んでちゃんとしていた気がする。そしてこちらからリードしていた。だが柾相手だとどうしたらいいかわからない。まず、ゆっくり段階など踏んでいられないほど、柾が欲しくて堪らない。しかし自分からリードするにも方法がわからない。
 そもそも、キスをしてくれたからといって完全にノンケである柾が蓮とそういった行為をしたいとまず思わなさそうだった。
 蓮としては、多分だが、柾に抱いて欲しい。したことがないので絶対だとは言い切れないが、自分が柾にするよりは柾に抱きしめられ、中に入って欲しいと思える。それを思うと、後ろの経験もないくせにドキドキとし、腹の奥がきゅうっと縮こまるような感覚に陥る。

 とりあえず、言ってみるしかない。

 先ほどからずっとキスをしているせいでほとんど機能していない脳で、蓮はそう考えた。

 言うしかない。
 キスだって、言ったらしてくれた。

「……は、ぁ……」

 ようやく唇が離れた後、蓮は自分の真っ赤になっているであろう顔を見られないよう柾の首筋に押し付けた。ほんのりと汗の匂いがする。それが柾の匂いと混じって更に蓮を興奮させてきた。

「秋尾……」
「な、に?」

 緊張と興奮で震える声で呼びかけると、心なしか柾の声も上ずっているような気がする。

「花火、見にきてあれだけど……俺、秋尾と、したい……」
「……え?」
「で、できたら、で、いい……から……できるので、あれば……、したい」

 なんとか告げると、息を飲むような音が聞こえてきた。

 嫌だと言われるだろうか。
 嫌われるだろうか。

 急に怖くなって蓮はむしろ少し震えながら顔を首筋に押し付け、腕を首に回してしがみつくようにして抱きしめた。

「……蓮」

 柾は名前を呟くと蓮の顔を上げさせてきた。花火は今、小さめのものが時折上がっている状態だからかあまり表情がよくわからない。困っているようにも、どこか切羽詰まっているようにも見える。

 断られる。

 そう思ったらまたキスをされた。

「っ?」
「そんなこと……今こんなところで言わないで……」

 唇が離れると柾が囁くように言ってくる。

「っご、ごめ……」

 そうだよな、迷惑だよなと思い、申し訳ない気持ちと自分が言ってしまったことに対して恥ずかしくて居たたまれない気持ちに苛まれる。だがまたキスをされ、蓮は混乱した。

「っん、ぅ」

 何度も何度も唇を味わわれ、苦しくなって開いた中に舌が入ってくる。ハッとなったが、その舌が中を探るかのように蹂躙してきて、一瞬強張った体に力が入らなくなった。

「ぁ、ふ……」

 舌を絡ませあうとますます力が入らなくなり、蓮は思い切り柾に体を委ねるような状態になる。すると柾の手が、浴衣の袖の中に入ってきた。
 浴衣の中で腕を撫でられ、蓮はそれだけでぴくりと体を震わせた。そこから脇の辺りまで手を這わされ、ますますびくびくと震える。

「こんなところで、したくなる。だから、言わないで」

 また唇が離れると、囁くような声で柾が言うのが聞こえた。え? と思っていると離れた唇が耳元へ移動していく。そしてそっと耳朶を食まれた。

「……っ、」
「……君の家、行っていい……?」

 また体を震わせていると耳元で囁かれた。もはやメスがあるからどうこう気にすることもできなかった。
 ここからだと少し歩くが、電車に乗らなくていいのは蓮の家だ。こんな状態で明るい電車になど乗れそうにもない。
 一体柾はどうしたんだろうと、自分から初めに誘っておきながら蓮は動揺もしていた。とはいえ、どんな理由だろうがその気になってくれているなら遠慮しない、とも思う。
 コクリと頷いた後、二人はようやく一旦体を離した。少しだけ気まずい思いをしていると柾がまた手を握ってきた。
 歩いている間、ドキドキしすぎて血管が破裂するのではないかと思った。だが赤い血が溢れ出るところを想像したらさらに興奮してしまい、自分で微妙になりながら違うことを考えようとする。

 ……秋尾、ほんとどうしたんだろう……。

 同情だけでこんなに優しくできるものなのだろうかとふと思う。とはいえもしかして柾も自分が好きなのではないかなどと楽観視はしない。というか楽観視できるほど自分をいいものとして見られない。別に卑下したり卑屈になっている訳ではないが、自分ならこんな性癖を持った自分など願い下げだと思っているからだろうか。

 ……変な性癖持ってること……言わないまま付き合ってもらい、抱いてもらってもいいんだろうか……。

 ふとそんなことが頭を過ったが、言えるはずもない。それに、もしかしたら柾と繋がることで変わるかもしれないという願いに近い思いも抱いていた。
 通りに出てからは手を放してもらった。花火はキスの間に沢山上がっていたのか、歩き始めてしばらくすると終わったようだった。そのまま蓮の家に着くまでは言葉少なげなまま、二人は歩いた。
 家に入ってもまだ言葉少なげだった。

「あ、あの……、中、入って、て。俺、下駄だったからちょっと足、洗いたい」
「ああ、うん」

 どうしても赤くなる顔を見られたくなくて俯きながら言うと、どこか落ち着いた声が返ってきた。
 どうしよう、我に返ってしまったんだろうか、と少し不安になる。この際、メスに関しては気にしないでいようと思った。多分一見何か分からないかもしれない。血を拭ったティッシュも今日はゴミ箱にない。どのみち柾には傷があることは完全にバレている。ただしリストカットだと思われているだろうが。
 部屋の中に入っててもらうと「冷蔵庫から勝手になんか出して飲んでて」とだけ言って蓮はバスルームへ向かった。一旦腕の包帯を解き、浴衣と下着を脱いで浴室に入り、足を洗う。そしてついでに自分で後ろを解した。
 できれば時間を空けたくはない。その間にもし柾が興覚めしてしまって、もうしたくないと言われたらと思うと早く部屋に戻りたい。だけれども、蓮も初めてだし間違いなく柾も男とするのは初めてだ。
それでもできるだけスムーズに進めたいと思うし、できるのであれば最後までしたかった。
 後ろを解すのは、柾と付き合うようになってから自発的にやっている。最初は恐くて堪らなかったし今でも余裕という訳ではないが、それでも万が一柾とする可能性があるのならという一心で時折やっていた。

 ……秋尾……。

 浴室から出るとドキドキとしながらまた浴衣を着た。着付けは叔父である智也の知り合いに教えてもらったことがあったので一人でできる。包帯も巻き直したが焦っているのか、巻き慣れないのもあり中々上手く巻けなかった。

「待ってもらってありがとう……」

 部屋に戻ると「ゆっくりだったね」と柾が笑いかけてきた。その穏やかな表情を見ると、ホッとすると同時に「もう冷めてしまっただろうか」と不安になった。だが柾に近づいた途端、取り越し苦労だったとわかる。

「っ、ん」

 腕を引かれ、そのままベッドに一緒になってなだれ込む形になった。座り込んだ状態の蓮にキスをしながら、柾の手が浴衣の衿の中に入ってくる。

「ぁ……」

 柾の唇や手が触れるところすべてが焼けるように熱く、蕩けていきそうだった。
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