30 / 45
30話
しおりを挟む
どうやら予想以上に聖恒の言葉が自分は嬉しかったようだと恵はそっと思う。
「俺のこと好きだって大事にしてくれてるよ」
確かに嬉しい言葉ではあるが、そんなに嬉しいなんて自分でも思っていなかった。
ちゃんと俺、大事に出来ているんだ。そして相手にそう思ってもらえるんだ。
よく、何考えているかわからないと言われた身としては驚くほどホッとしたし嬉しかった。聖恒がちゃんと気づいてくれるからか、それとも自分の態度も今までと今回は何か違うのだろうか。
「俺、ちゃんときよが好きだって言葉や態度に出てる……?」
むしろ今は自信なさが言葉じりに出ていたらしい。聖恒に「何でそんなおずおず聞いてくんの」と笑われた。そして「かわいい」とも。
聖恒はよくかわいいと言う。恵も聖恒を見てかわいいと思うことは多々あるが、聖恒ほど口にすることはない。
「きよはかわいいって言い過ぎだよ」
「そう? でも言う度に本当だから。普段めぐちゃんに会ってない時はかわいいって言う機会ないんだし、かわいいって思った時は言わせてよ。めぐちゃんも知ってる通り、俺、かわいいもの好きなんだもん」
もんとか言う君のほうがかわいいと思う。
そう思っていると「出てるよ」と微笑まれた。
「え?」
一瞬、聖恒のことをかわいいと思っていた自分の気持ちが漏れていたのかと微妙になったが違うとわかった。
「出てる。めぐちゃん、俺のこと、好きだって思ってくれてるの、すごく伝わってくる」
「ほ、ほんとに? 俺……伝わってるんだ……」
嬉しかった。そして改めて、今までの自分はやはりきちんと上手く気持ちを伝えられていなかったのかもしれないとも思った。聞かれたらちゃんと好きだと、大切だと答えてきた。だが何か足りなかったのだろう。
聖恒に対しても聞かれたら答えるといったパターンが多いとは思う。だが自分からも言っている気がする。というか、かわいくて大好きで大切で、そんな気持ちが自然と溢れてくるのだ。
「めぐちゃん、やっぱかわいい。ねえ、キスしたい」
考えて嬉しく思っていると聖恒が恵の手を取ってそんなことを言ってきた。
「は? いやいやいや、何言ってんだ……ここ、外! それも俺が通ってる学校だから無理」
いくらかわいくても限度はあると、恵は焦ったように言い返す。
「さっきから誰も通らないのに」
「それでも無理」
「えー。そんだらさ、室内戻ろ? そろそろ暑くなってきたし、第一これ以上二人きりだと俺、襲う」
「それは困る」
はっきり言ってくる聖恒に苦笑しながら、恵は立ち上がろうとした。その瞬間腕を引かれる。思わず浮かせた体を傾けると、キスされた。
瞬時に蝉の声すら消えたような気がした。とても軽くだったが、唇に触れる唇の感触と聖恒の味に恵の心臓がドクリと跳ねた。
「……っ、きよ!」
すぐに離れた唇を正直惜しみつつも、恵は困惑と羞恥に顔が熱くなる。消えたと思っていた蝉の声は変わらず必死な様子で聞こえていて、夏の木漏れ日はキラキラしながらも容赦なく射し込んでくる。サァッと時折風が吹き抜ける時は気持ちがいいが、基本的には蒸した空気が漂っていた。
そんな夏の空気が余計にこのまま聖恒を抱きしめ汗の匂いと味を満喫したい欲望を助長してくる。
どうかしてる。
恵は立ち上がると「カフェテラスで冷たいもの飲もう」と歩き始めた。
「待ってよ、怒った? ごめんね、反省してる」
聖恒が駆け寄ってきて顔を覗き込んでくる。そして嬉しそうに見てくる。
「反省してる子の顔じゃないな」
「めぐちゃんがかわいくて大好きだからかな」
「答えになってないし、ほんと外は無理!」
「あはは、ごめんて! にしてもめぐちゃん。アイス食べた後に冷たいものって、腹壊さねえ?」
「アイス腹はこの暑さでもう完全に消滅してるよ」
「確かに」
笑い合うと一緒に歩き出した。このまま手を繋ぎたい気持ちだったがさすがにできないなと思っていると「手、繋ぎたいのにできないもどかしさ、どうしたらいい?」と言われて笑う。
「何で笑うんだよ」
「俺もそう思ってたから」
笑いながら聖恒を見ると「……ほんと繋ぐよ?」などと呟きながらも少し赤い顔をしながら顔を逸らしてきた。
「あれ? 見たことない人だ」
「ほんとだ」
エアコンの効いた室内で恵はアイスコーヒー、聖恒は「ハーブティーがない……」と言いながら頼んでいたアイスミルクティーを飲んでいると野々村と馬場の声がした。
「……ああ、彼は俺の……」
案の定野々村たちで、同じテーブルに座ってきたので聖恒のことを説明しようとして恵は何と言えばいいのか戸惑った。
友だち? それとも元教え子?
流石に「彼氏なんだ」とは言い難い。だがその前に野々村が「かわいいね。もしかして高校生? あっ、ひょっとして大月くんの家庭教師してた子とかじゃ?」とある意味ズバリ言い当ててきた。
「……何でわかるんだ」
少々戸惑いつつ聞けば笑いかけてくる。
「そりゃ大月くん絡みだしわかるよー。俺も大月くんと遊びたいな」
「何それ……」
「大学へ遊びに来たの? もしかしてこの大学希望? よかったら俺らも案内しようか?」
馬場が今度は聖恒に声をかけている。
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。俺は恵さんに案内してもらいますから」
それに対し、聖恒がニッコリ断っていた。
午後の授業は出なくても大丈夫そうなものが一つだけだったのでこのまま一緒にどこかへ寄って帰ろうと恵は思った。二人になった時に声をかけようとしたらその前に結構な力で手を引っ張られる。
「っちょ、きよ、何っ? 痛い」
「……」
黙ったまま恵の腕を引き、サクサク歩く聖恒だったが、とある小さな教室が並んでいる廊下で立ち止まってきた。
「きよ……?」
「……俺、ちょっと勝手に嫉妬してイライラしてる」
「は?」
「それについて話したいから、人のいなさそうな教室、教えて」
「俺のこと好きだって大事にしてくれてるよ」
確かに嬉しい言葉ではあるが、そんなに嬉しいなんて自分でも思っていなかった。
ちゃんと俺、大事に出来ているんだ。そして相手にそう思ってもらえるんだ。
よく、何考えているかわからないと言われた身としては驚くほどホッとしたし嬉しかった。聖恒がちゃんと気づいてくれるからか、それとも自分の態度も今までと今回は何か違うのだろうか。
「俺、ちゃんときよが好きだって言葉や態度に出てる……?」
むしろ今は自信なさが言葉じりに出ていたらしい。聖恒に「何でそんなおずおず聞いてくんの」と笑われた。そして「かわいい」とも。
聖恒はよくかわいいと言う。恵も聖恒を見てかわいいと思うことは多々あるが、聖恒ほど口にすることはない。
「きよはかわいいって言い過ぎだよ」
「そう? でも言う度に本当だから。普段めぐちゃんに会ってない時はかわいいって言う機会ないんだし、かわいいって思った時は言わせてよ。めぐちゃんも知ってる通り、俺、かわいいもの好きなんだもん」
もんとか言う君のほうがかわいいと思う。
そう思っていると「出てるよ」と微笑まれた。
「え?」
一瞬、聖恒のことをかわいいと思っていた自分の気持ちが漏れていたのかと微妙になったが違うとわかった。
「出てる。めぐちゃん、俺のこと、好きだって思ってくれてるの、すごく伝わってくる」
「ほ、ほんとに? 俺……伝わってるんだ……」
嬉しかった。そして改めて、今までの自分はやはりきちんと上手く気持ちを伝えられていなかったのかもしれないとも思った。聞かれたらちゃんと好きだと、大切だと答えてきた。だが何か足りなかったのだろう。
聖恒に対しても聞かれたら答えるといったパターンが多いとは思う。だが自分からも言っている気がする。というか、かわいくて大好きで大切で、そんな気持ちが自然と溢れてくるのだ。
「めぐちゃん、やっぱかわいい。ねえ、キスしたい」
考えて嬉しく思っていると聖恒が恵の手を取ってそんなことを言ってきた。
「は? いやいやいや、何言ってんだ……ここ、外! それも俺が通ってる学校だから無理」
いくらかわいくても限度はあると、恵は焦ったように言い返す。
「さっきから誰も通らないのに」
「それでも無理」
「えー。そんだらさ、室内戻ろ? そろそろ暑くなってきたし、第一これ以上二人きりだと俺、襲う」
「それは困る」
はっきり言ってくる聖恒に苦笑しながら、恵は立ち上がろうとした。その瞬間腕を引かれる。思わず浮かせた体を傾けると、キスされた。
瞬時に蝉の声すら消えたような気がした。とても軽くだったが、唇に触れる唇の感触と聖恒の味に恵の心臓がドクリと跳ねた。
「……っ、きよ!」
すぐに離れた唇を正直惜しみつつも、恵は困惑と羞恥に顔が熱くなる。消えたと思っていた蝉の声は変わらず必死な様子で聞こえていて、夏の木漏れ日はキラキラしながらも容赦なく射し込んでくる。サァッと時折風が吹き抜ける時は気持ちがいいが、基本的には蒸した空気が漂っていた。
そんな夏の空気が余計にこのまま聖恒を抱きしめ汗の匂いと味を満喫したい欲望を助長してくる。
どうかしてる。
恵は立ち上がると「カフェテラスで冷たいもの飲もう」と歩き始めた。
「待ってよ、怒った? ごめんね、反省してる」
聖恒が駆け寄ってきて顔を覗き込んでくる。そして嬉しそうに見てくる。
「反省してる子の顔じゃないな」
「めぐちゃんがかわいくて大好きだからかな」
「答えになってないし、ほんと外は無理!」
「あはは、ごめんて! にしてもめぐちゃん。アイス食べた後に冷たいものって、腹壊さねえ?」
「アイス腹はこの暑さでもう完全に消滅してるよ」
「確かに」
笑い合うと一緒に歩き出した。このまま手を繋ぎたい気持ちだったがさすがにできないなと思っていると「手、繋ぎたいのにできないもどかしさ、どうしたらいい?」と言われて笑う。
「何で笑うんだよ」
「俺もそう思ってたから」
笑いながら聖恒を見ると「……ほんと繋ぐよ?」などと呟きながらも少し赤い顔をしながら顔を逸らしてきた。
「あれ? 見たことない人だ」
「ほんとだ」
エアコンの効いた室内で恵はアイスコーヒー、聖恒は「ハーブティーがない……」と言いながら頼んでいたアイスミルクティーを飲んでいると野々村と馬場の声がした。
「……ああ、彼は俺の……」
案の定野々村たちで、同じテーブルに座ってきたので聖恒のことを説明しようとして恵は何と言えばいいのか戸惑った。
友だち? それとも元教え子?
流石に「彼氏なんだ」とは言い難い。だがその前に野々村が「かわいいね。もしかして高校生? あっ、ひょっとして大月くんの家庭教師してた子とかじゃ?」とある意味ズバリ言い当ててきた。
「……何でわかるんだ」
少々戸惑いつつ聞けば笑いかけてくる。
「そりゃ大月くん絡みだしわかるよー。俺も大月くんと遊びたいな」
「何それ……」
「大学へ遊びに来たの? もしかしてこの大学希望? よかったら俺らも案内しようか?」
馬場が今度は聖恒に声をかけている。
「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。俺は恵さんに案内してもらいますから」
それに対し、聖恒がニッコリ断っていた。
午後の授業は出なくても大丈夫そうなものが一つだけだったのでこのまま一緒にどこかへ寄って帰ろうと恵は思った。二人になった時に声をかけようとしたらその前に結構な力で手を引っ張られる。
「っちょ、きよ、何っ? 痛い」
「……」
黙ったまま恵の腕を引き、サクサク歩く聖恒だったが、とある小さな教室が並んでいる廊下で立ち止まってきた。
「きよ……?」
「……俺、ちょっと勝手に嫉妬してイライラしてる」
「は?」
「それについて話したいから、人のいなさそうな教室、教えて」
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。
虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する
あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。
領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。
***
王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。
・ハピエン
・CP左右固定(リバありません)
・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません)
です。
べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。
***
2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。
イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です
はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。
自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。
ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。
外伝完結、続編連載中です。
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
ヤンキーDKの献身
ナムラケイ
BL
スパダリ高校生×こじらせ公務員のBLです。
ケンカ上等、金髪ヤンキー高校生の三沢空乃は、築51年のオンボロアパートで一人暮らしを始めることに。隣人の近間行人は、お堅い公務員かと思いきや、夜な夜な違う男と寝ているビッチ系ネコで…。
性描写があるものには、タイトルに★をつけています。
行人の兄が主人公の「戦闘機乗りの劣情」(完結済み)も掲載しています。
消えない思い
樹木緑
BL
オメガバース:僕には忘れられない夏がある。彼が好きだった。ただ、ただ、彼が好きだった。
高校3年生 矢野浩二 α
高校3年生 佐々木裕也 α
高校1年生 赤城要 Ω
赤城要は運命の番である両親に憧れ、両親が出会った高校に入学します。
自分も両親の様に運命の番が欲しいと思っています。
そして高校の入学式で出会った矢野浩二に、淡い感情を抱き始めるようになります。
でもあるきっかけを基に、佐々木裕也と出会います。
彼こそが要の探し続けた運命の番だったのです。
そして3人の運命が絡み合って、それぞれが、それぞれの選択をしていくと言うお話です。
無自覚両片想いの鈍感アイドルが、ラブラブになるまでの話
タタミ
BL
アイドルグループ・ORCAに属する一原優成はある日、リーダーの藤守高嶺から衝撃的な指摘を受ける。
「優成、お前明樹のこと好きだろ」
高嶺曰く、優成は同じグループの中城明樹に恋をしているらしい。
メンバー全員に指摘されても到底受け入れられない優成だったが、ひょんなことから明樹とキスしたことでドキドキが止まらなくなり──!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる