ホンモノの恋

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30話

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 どうやら予想以上に聖恒の言葉が自分は嬉しかったようだと恵はそっと思う。

「俺のこと好きだって大事にしてくれてるよ」

 確かに嬉しい言葉ではあるが、そんなに嬉しいなんて自分でも思っていなかった。

 ちゃんと俺、大事に出来ているんだ。そして相手にそう思ってもらえるんだ。

 よく、何考えているかわからないと言われた身としては驚くほどホッとしたし嬉しかった。聖恒がちゃんと気づいてくれるからか、それとも自分の態度も今までと今回は何か違うのだろうか。

「俺、ちゃんときよが好きだって言葉や態度に出てる……?」

 むしろ今は自信なさが言葉じりに出ていたらしい。聖恒に「何でそんなおずおず聞いてくんの」と笑われた。そして「かわいい」とも。
 聖恒はよくかわいいと言う。恵も聖恒を見てかわいいと思うことは多々あるが、聖恒ほど口にすることはない。

「きよはかわいいって言い過ぎだよ」
「そう? でも言う度に本当だから。普段めぐちゃんに会ってない時はかわいいって言う機会ないんだし、かわいいって思った時は言わせてよ。めぐちゃんも知ってる通り、俺、かわいいもの好きなんだもん」

 もんとか言う君のほうがかわいいと思う。

 そう思っていると「出てるよ」と微笑まれた。

「え?」

 一瞬、聖恒のことをかわいいと思っていた自分の気持ちが漏れていたのかと微妙になったが違うとわかった。

「出てる。めぐちゃん、俺のこと、好きだって思ってくれてるの、すごく伝わってくる」
「ほ、ほんとに? 俺……伝わってるんだ……」

 嬉しかった。そして改めて、今までの自分はやはりきちんと上手く気持ちを伝えられていなかったのかもしれないとも思った。聞かれたらちゃんと好きだと、大切だと答えてきた。だが何か足りなかったのだろう。
 聖恒に対しても聞かれたら答えるといったパターンが多いとは思う。だが自分からも言っている気がする。というか、かわいくて大好きで大切で、そんな気持ちが自然と溢れてくるのだ。

「めぐちゃん、やっぱかわいい。ねえ、キスしたい」

 考えて嬉しく思っていると聖恒が恵の手を取ってそんなことを言ってきた。

「は? いやいやいや、何言ってんだ……ここ、外! それも俺が通ってる学校だから無理」

 いくらかわいくても限度はあると、恵は焦ったように言い返す。

「さっきから誰も通らないのに」
「それでも無理」
「えー。そんだらさ、室内戻ろ? そろそろ暑くなってきたし、第一これ以上二人きりだと俺、襲う」
「それは困る」

 はっきり言ってくる聖恒に苦笑しながら、恵は立ち上がろうとした。その瞬間腕を引かれる。思わず浮かせた体を傾けると、キスされた。
 瞬時に蝉の声すら消えたような気がした。とても軽くだったが、唇に触れる唇の感触と聖恒の味に恵の心臓がドクリと跳ねた。

「……っ、きよ!」

 すぐに離れた唇を正直惜しみつつも、恵は困惑と羞恥に顔が熱くなる。消えたと思っていた蝉の声は変わらず必死な様子で聞こえていて、夏の木漏れ日はキラキラしながらも容赦なく射し込んでくる。サァッと時折風が吹き抜ける時は気持ちがいいが、基本的には蒸した空気が漂っていた。
 そんな夏の空気が余計にこのまま聖恒を抱きしめ汗の匂いと味を満喫したい欲望を助長してくる。

 どうかしてる。

 恵は立ち上がると「カフェテラスで冷たいもの飲もう」と歩き始めた。

「待ってよ、怒った? ごめんね、反省してる」

 聖恒が駆け寄ってきて顔を覗き込んでくる。そして嬉しそうに見てくる。

「反省してる子の顔じゃないな」
「めぐちゃんがかわいくて大好きだからかな」
「答えになってないし、ほんと外は無理!」
「あはは、ごめんて! にしてもめぐちゃん。アイス食べた後に冷たいものって、腹壊さねえ?」
「アイス腹はこの暑さでもう完全に消滅してるよ」
「確かに」

 笑い合うと一緒に歩き出した。このまま手を繋ぎたい気持ちだったがさすがにできないなと思っていると「手、繋ぎたいのにできないもどかしさ、どうしたらいい?」と言われて笑う。

「何で笑うんだよ」
「俺もそう思ってたから」

 笑いながら聖恒を見ると「……ほんと繋ぐよ?」などと呟きながらも少し赤い顔をしながら顔を逸らしてきた。

「あれ? 見たことない人だ」
「ほんとだ」

 エアコンの効いた室内で恵はアイスコーヒー、聖恒は「ハーブティーがない……」と言いながら頼んでいたアイスミルクティーを飲んでいると野々村と馬場の声がした。

「……ああ、彼は俺の……」

 案の定野々村たちで、同じテーブルに座ってきたので聖恒のことを説明しようとして恵は何と言えばいいのか戸惑った。

 友だち? それとも元教え子?

 流石に「彼氏なんだ」とは言い難い。だがその前に野々村が「かわいいね。もしかして高校生? あっ、ひょっとして大月くんの家庭教師してた子とかじゃ?」とある意味ズバリ言い当ててきた。

「……何でわかるんだ」

 少々戸惑いつつ聞けば笑いかけてくる。

「そりゃ大月くん絡みだしわかるよー。俺も大月くんと遊びたいな」
「何それ……」
「大学へ遊びに来たの? もしかしてこの大学希望? よかったら俺らも案内しようか?」

 馬場が今度は聖恒に声をかけている。

「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。俺は恵さんに案内してもらいますから」

 それに対し、聖恒がニッコリ断っていた。
 午後の授業は出なくても大丈夫そうなものが一つだけだったのでこのまま一緒にどこかへ寄って帰ろうと恵は思った。二人になった時に声をかけようとしたらその前に結構な力で手を引っ張られる。

「っちょ、きよ、何っ? 痛い」
「……」

 黙ったまま恵の腕を引き、サクサク歩く聖恒だったが、とある小さな教室が並んでいる廊下で立ち止まってきた。

「きよ……?」
「……俺、ちょっと勝手に嫉妬してイライラしてる」
「は?」
「それについて話したいから、人のいなさそうな教室、教えて」
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