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29話
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試験の結果は今回もばっちりだった。聖恒はニコニコ恵にも報告した。恵は自分のことのように喜んでくれた。
その恵だが、今はもう新しい家庭教師のアルバイトを始めている。今度は女子高生らしい。
「どんなって……そりゃかわいい子だよ。自分でできるからいらないとも言われなかったし」
「む……。どんな感じ? そんなにかわいいの?」
恵もニコニコと、聖恒にとってはそこそこ悪質な冗談を言ってきたがそれには誤魔化されず、女子高生について追及する。
「きよ、怒らない?」
え、何だよそれっ?
即座に思ったが、ぐっと飲み込んで「……怒らない……と思う。けど聞かなきゃわかんない」と正直に答えた。
「うーん。できれば怒らない方向で。……その、俺にとって基本的に高校生は皆、かわいいんだ」
「え?」
「もちろん、きよは別だよ? でもごめん、元々は年下とつき合ったことないし、年下の高校生たちはどうしてもかわいく見える」
予想していたのとは違う答えが返ってきた。その子についてのかわいさを聞くつもりが、年下について聞かされてある意味とても微妙な気持ちだ。
「って、もしかして前から俺のことかわいいって思ってたのも……?」
「ああ、きよはまた別だってば。きよに対しては弟みたいにかわいいなって思ってたから、一般の高校生に対してと少し違う」
弟。それだって少々複雑だと聖恒は思う。もちろん今はちゃんと好きでいてくれるのはわかっているので怒るに怒れないが、微妙だ。
「じゃあその女子高生と、どーにかなるとかは……」
「えっ? 君とどーにかなっておいて言う資格ないかもだけど、ないよ」
驚かれた後に苦笑された。その様子には「そんなこと思いもよらなかった」といった恵の気持ちがありありと出ている。
思いもよらなかったからこその、ああいった返答だったのだろうなと安心しつつも、やはり微妙だ。だからといって「年下とか関係ない」などと言えば本末転倒というか、その女子高生を少しでも対象に思わせてどうする、と自分に諌める。
「だ、だからといって油断しちゃ駄目だからね?」
「何の?」
「めぐちゃんは綺麗な顔してるから。普通に女にも下手したら男にもモテるから」
「それはきよだろ」
何言っているんだと恵がまた苦笑する。もしかしてこの人は本気でそう思っているのだろうかと聖恒はため息つきそうになった。
顔が整っている自覚ない人は多々いるかもしれないが、恵にだけは多少なりとも自覚していて欲しかったと思う。恵の顔が整っていると思うのは決して惚れている聖恒の欲目だけではない。少なくとも真和も「綺麗な顔してるよな」と言っていた。
「は?」
「喫茶店でラテ奢ってもらったから言ってんじゃねーぞ。近くで見てて思った」
「思わなくていーけど」
「おやおや、俺が取るんじゃねーかって心配してんの?」
「イラっとするからその言い方と顔やめろ。つか、めぐちゃん年上だけど、おねーさんじゃねーからお前対象じゃねーだろ。だいたいお前に取られる心配はさすがにしない」
「きょー」
「俺のが絶対めぐちゃんの好みだろーし」
「そこは親友のお前がそんなことするわけないの知ってるし、とかだろ!」
そんなやり取りをしたのを思い出しつつ、そういえば恵の好みって知らないなと気づいた。
「自覚なくてもいーから、気をつけて。わかった?」
「わかったって言われても……何に油断しなければいいんだ?」
「誘惑とか」
「いやないだろ」
「いいから気をつける!」
「……わかった」
恵がまた苦笑している。ああ、押し倒したいなあと聖恒は不意に思う。
二人がいるのは、周りは木々に囲まれた木陰のベンチだ。蝉が懸命になって求愛しているこの時期、さすがに人の気配は他にない。聖恒たちも先ほどまでアイスを食べていたとはいえ、木陰の風だけではそこまで快適とは言えない。それでも二人きりではある。
ただ、問題はここが恵が在学している大学の中ということだ。こんなとこで押し倒した日には、恐らく恵はしばらく口を利いてくれなくなるかもしれない。
聖恒が何故大学にいるかというと、夏休みに入っているからだ。高校生が夏休みであっても大学生はまだらしい。ある日、恵にお願いして紛れ込まさせてもらった。真面目な恵は駄目だと言うかと思えば、意外にもあっさり「いいよ」と言ってくれた。
先ほどは授業も受けた。聖恒が紛れ込んでも周りも何も言わない。
「バレないの?」
「まあ、広いとこだしね」
授業はさっぱりわからなかった。
とりあえず押し倒すのは我慢して、聖恒は気づいたことを聞いてみた。
「そういえばさ、めぐちゃんの好みってどんなの?」
「好み?」
「うん、タイプの子」
ポカンとしていた恵が笑った。
「ああ。……んー……好み、かぁ」
「そんな考えること?」
「まぁ、ね。俺、あまりそういうの、なくて」
「え、でも今までつき合ってきた子とかは……」
「告白されたり、好意を周りから聞かされてついその気になっちゃったりとかで……」
軽……!
聖恒は微妙な顔で恵を見る。
「適当につき合ってたの?」
「そういうわけじゃないよ。いやまあきっかけは受け身だけど、つき合ったら俺もちゃんと相手のこと、好きになってたよ。だいたい苦手な子だったらさすがに俺もつき合わない」
「じゃあやっぱ好みあるってことだろ」
「好みっていうか……例えば明らかに性格が悪そうとかだったら多分苦手だろうなって」
「漠然としてるなあ」
聖恒が言うと、恵は少し困ったような、落ち込んだような表情をした。
「……こんなだからつき合っても続かなかったのかもなあ。でも俺は俺なりに相手の子、大事にしてきたんだけどな」
恵の表情を見て、聖恒は慌てて手を振った。
「別に駄目だとかそんなことは言ってないよ? その、ただめぐちゃんの好みが俺、知りたかっただけだから。それに今もちゃんとめぐちゃん、俺のこと好きだって大事にしてくれてるよ」
そう言うと、何故か恵が今度は少し嬉しそうな顔をしてきた。困った顔のままか照れるくらいかもと思っていたので嬉しそうな表情は意外だった。
「……ありがとう、きよ。うん、俺、きよが好きだし大事だよ。そうだな、好みはきよ、かな」
優しい声で恵が穏やかに言ってくる。思わず聖恒は真っ赤になってしまった。
その恵だが、今はもう新しい家庭教師のアルバイトを始めている。今度は女子高生らしい。
「どんなって……そりゃかわいい子だよ。自分でできるからいらないとも言われなかったし」
「む……。どんな感じ? そんなにかわいいの?」
恵もニコニコと、聖恒にとってはそこそこ悪質な冗談を言ってきたがそれには誤魔化されず、女子高生について追及する。
「きよ、怒らない?」
え、何だよそれっ?
即座に思ったが、ぐっと飲み込んで「……怒らない……と思う。けど聞かなきゃわかんない」と正直に答えた。
「うーん。できれば怒らない方向で。……その、俺にとって基本的に高校生は皆、かわいいんだ」
「え?」
「もちろん、きよは別だよ? でもごめん、元々は年下とつき合ったことないし、年下の高校生たちはどうしてもかわいく見える」
予想していたのとは違う答えが返ってきた。その子についてのかわいさを聞くつもりが、年下について聞かされてある意味とても微妙な気持ちだ。
「って、もしかして前から俺のことかわいいって思ってたのも……?」
「ああ、きよはまた別だってば。きよに対しては弟みたいにかわいいなって思ってたから、一般の高校生に対してと少し違う」
弟。それだって少々複雑だと聖恒は思う。もちろん今はちゃんと好きでいてくれるのはわかっているので怒るに怒れないが、微妙だ。
「じゃあその女子高生と、どーにかなるとかは……」
「えっ? 君とどーにかなっておいて言う資格ないかもだけど、ないよ」
驚かれた後に苦笑された。その様子には「そんなこと思いもよらなかった」といった恵の気持ちがありありと出ている。
思いもよらなかったからこその、ああいった返答だったのだろうなと安心しつつも、やはり微妙だ。だからといって「年下とか関係ない」などと言えば本末転倒というか、その女子高生を少しでも対象に思わせてどうする、と自分に諌める。
「だ、だからといって油断しちゃ駄目だからね?」
「何の?」
「めぐちゃんは綺麗な顔してるから。普通に女にも下手したら男にもモテるから」
「それはきよだろ」
何言っているんだと恵がまた苦笑する。もしかしてこの人は本気でそう思っているのだろうかと聖恒はため息つきそうになった。
顔が整っている自覚ない人は多々いるかもしれないが、恵にだけは多少なりとも自覚していて欲しかったと思う。恵の顔が整っていると思うのは決して惚れている聖恒の欲目だけではない。少なくとも真和も「綺麗な顔してるよな」と言っていた。
「は?」
「喫茶店でラテ奢ってもらったから言ってんじゃねーぞ。近くで見てて思った」
「思わなくていーけど」
「おやおや、俺が取るんじゃねーかって心配してんの?」
「イラっとするからその言い方と顔やめろ。つか、めぐちゃん年上だけど、おねーさんじゃねーからお前対象じゃねーだろ。だいたいお前に取られる心配はさすがにしない」
「きょー」
「俺のが絶対めぐちゃんの好みだろーし」
「そこは親友のお前がそんなことするわけないの知ってるし、とかだろ!」
そんなやり取りをしたのを思い出しつつ、そういえば恵の好みって知らないなと気づいた。
「自覚なくてもいーから、気をつけて。わかった?」
「わかったって言われても……何に油断しなければいいんだ?」
「誘惑とか」
「いやないだろ」
「いいから気をつける!」
「……わかった」
恵がまた苦笑している。ああ、押し倒したいなあと聖恒は不意に思う。
二人がいるのは、周りは木々に囲まれた木陰のベンチだ。蝉が懸命になって求愛しているこの時期、さすがに人の気配は他にない。聖恒たちも先ほどまでアイスを食べていたとはいえ、木陰の風だけではそこまで快適とは言えない。それでも二人きりではある。
ただ、問題はここが恵が在学している大学の中ということだ。こんなとこで押し倒した日には、恐らく恵はしばらく口を利いてくれなくなるかもしれない。
聖恒が何故大学にいるかというと、夏休みに入っているからだ。高校生が夏休みであっても大学生はまだらしい。ある日、恵にお願いして紛れ込まさせてもらった。真面目な恵は駄目だと言うかと思えば、意外にもあっさり「いいよ」と言ってくれた。
先ほどは授業も受けた。聖恒が紛れ込んでも周りも何も言わない。
「バレないの?」
「まあ、広いとこだしね」
授業はさっぱりわからなかった。
とりあえず押し倒すのは我慢して、聖恒は気づいたことを聞いてみた。
「そういえばさ、めぐちゃんの好みってどんなの?」
「好み?」
「うん、タイプの子」
ポカンとしていた恵が笑った。
「ああ。……んー……好み、かぁ」
「そんな考えること?」
「まぁ、ね。俺、あまりそういうの、なくて」
「え、でも今までつき合ってきた子とかは……」
「告白されたり、好意を周りから聞かされてついその気になっちゃったりとかで……」
軽……!
聖恒は微妙な顔で恵を見る。
「適当につき合ってたの?」
「そういうわけじゃないよ。いやまあきっかけは受け身だけど、つき合ったら俺もちゃんと相手のこと、好きになってたよ。だいたい苦手な子だったらさすがに俺もつき合わない」
「じゃあやっぱ好みあるってことだろ」
「好みっていうか……例えば明らかに性格が悪そうとかだったら多分苦手だろうなって」
「漠然としてるなあ」
聖恒が言うと、恵は少し困ったような、落ち込んだような表情をした。
「……こんなだからつき合っても続かなかったのかもなあ。でも俺は俺なりに相手の子、大事にしてきたんだけどな」
恵の表情を見て、聖恒は慌てて手を振った。
「別に駄目だとかそんなことは言ってないよ? その、ただめぐちゃんの好みが俺、知りたかっただけだから。それに今もちゃんとめぐちゃん、俺のこと好きだって大事にしてくれてるよ」
そう言うと、何故か恵が今度は少し嬉しそうな顔をしてきた。困った顔のままか照れるくらいかもと思っていたので嬉しそうな表情は意外だった。
「……ありがとう、きよ。うん、俺、きよが好きだし大事だよ。そうだな、好みはきよ、かな」
優しい声で恵が穏やかに言ってくる。思わず聖恒は真っ赤になってしまった。
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