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27話
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恵に似合いそうな服を選んで掲げるも首を振られた。
「何で」
「俺にはちょっと」
「何?」
「何か照れ臭い」
「何が……っ?」
手に取った服は普通のリネンジャケットで、色もブルー系で派手ではない。確かに自分が着ればいかにも夏にお洒落してますという感じはするかもしれないが、恵が着れば自然にしか見えない気がする。
「きよが着ればいい」
「俺には似合わないよ」
「似合うよ」
「俺はシャツをTシャツの上に羽織るくらいがせいぜいだよ。あ、じゃあ上羽織るの抵抗あるならさー、このアンクルスキニーならロングTだけでもいい感じ」
「……俺は普通のズボンでいいよ」
「何で。絶対似合うのに」
そんなやりとりした後で、お互い相手の服を一着ずつ買った。変に気を使わないよう、同じような値段の手ごろなアウトレット商品だ。聖恒が恵にプレゼントしたいと言えば「じゃあ俺もする」と返ってきたのだ。
「つき合ってからの初デートプレゼントだね」
聖恒が嬉しそうに言うと「きよはかわいいね」と言われる。
「……年下を馬鹿にしただろ」
少しだけ拗ねたように言うと笑われた。
「違う違う。っていうかきよの方が散々俺にかわいいとか言ってくるだろ」
「それはだって……本当のことだし」
「それなら俺だって本当のことだよ。こんな外で言うの恥ずかしいけど、好きだと自覚する前からきよのことはかわいくて仕方なかったんだ」
「……ぅ」
くすぐったさともぞもぞした落ち着かなさと、そして嬉しさが込み上げてくる。
「何だよ……」
呟くように言うと恵が「何?」と聖恒に顔を近づけてくる。
「だってあまり嬉しくないとかめぐちゃん言うけど、やっぱ嬉しいよ? 俺、何かそわそわするけど嬉しい。かわいいって言われんのも。年下扱いで馬鹿にしたんじゃなくて、愛しいなってほうのかわいいなんでしょ?」
「……な、……に言って」
笑っていた恵が本格的に照れだした。せっかく近づけてくれていた顔を離そうとする。聖恒はニッコリ笑うと慌てて耳打ちした。
「でもめぐちゃんのがかわいい」
「っ、昼! 昼食べよう! お腹空いただろっ?」
恵は慌てたようにサクサク歩いていったが、見えた耳朶が赤かった。完全に二人きりだったら押し倒してたと聖恒は思う。
……俺、けっこう冷めてるほうだったんだけどな。
心の中で呟きつつ、幸せな気持ちを噛みしめた。
昼はフードコートで食べた。混んでるので少し落ち着かなかったが、それでも恵と一緒に食べていることが嬉しい。
家庭教師してもらっていた頃にも一度ドライブへ連れていってもらった時に外食したが、普段は当たり前だが勉強を教えてもらうだけだった。時折、恵が買ってきてくれるおやつを一緒に食べることはあったが、そういうのと全然違う。
これからは時間さえ合えば、いつでも一緒に食べられる。もちろんそれ以外のことも、一緒に楽しめる。
だって俺の彼氏だもんね。
「何笑ってるの? 面白いものでも見た?」
恵に聞かれ、聖恒はニコニコ首を振る。
「こやって一緒に食べてんのが嬉しいだけ」
「あ、ああ、そうか。……そういえばもうすぐ期末テストだろ」
すぐに話を逸らしてきた恵に対しては、ムッとすることはない。面白いなあとしか思わない。照れているのが手にとるようにわかる。男同士なだけに、周りが気になってもいるようだが、多分二人きりだとしても、恵は照れるか戸惑ってきそうだった。普段男らしい人だからこそ、なおさらそういう部分が堪らない。
やっぱり好きだなぁと聖恒はしみじみ思った。
「きよ……ニヤニヤし過ぎ」
「ニヤニヤじゃないよ。ニコニコって言ってよ」
「……。で、期末は大丈夫そう?」
「うん。めぐちゃんのお陰でね」
「そうか。よかった。じゃあ俺は別の家庭教師、引き受けるな?」
恵の言葉に聖恒は笑顔で固まった。
「……きよ?」
「え?」
「? バイトしないと、車の維持費がな」
それはわかる。仕方ない。
理解しつつも、聖恒はとてつもなくモヤモヤした。自分以外のやつに、自分に教えてくれたように教えるのかと思うと、正直とてつもなく嫌だと思った。
「か、家庭教師じゃないと……駄目なの?」
「駄目ってわけじゃないけど……正直時給いいし、自分の勉強にもなるしな」
「そ、そうだろけど……」
「家庭教師する前は夜のバイトやってたんだけど、やっぱり時間遅いし勉強にも影響出そうな気がしてたしさ」
夜? 夜のバイト?
その言葉の響きにいかがわしさしか感じられず、聖恒は唖然とした顔を恵へ向けた。
まさか恵が? と思う。似つかわしくないというか、恵の性格上、いかがわしい仕事自体、しなさそうでしかない。
「よ、夜のバイトって……?」
食べ終えて水を飲んでいた恵が「ああ、」と笑いかけてきた。
「短期ばかりだったけどね。警備員とかガソスタとか。ガソスタは車好きだし楽しいかなって思ったけど、ほぼ関係なかった」
恵がおかしそうに言ってくる。
ですよね!
聖恒は泣きそうなくらいホッとしていた。派手なタイプが基本的に苦手なだけに余計だった。これほど好きになってしまった恵なら、お水系の仕事をしていても今さら嫌いになれないとは思う。それでもやはり違うとわかると、とてつもなくホッとした。そして、それ以外に夜の仕事はないだろうといった屈託のない様子に愛しささえ湧き起こる。
「めぐちゃん……今すぐ抱きしめていい?」
「い、嫌だよ何言ってんだよ……」
少し赤くなりながらも恵は微妙な顔をしてきた。
「何で」
「俺にはちょっと」
「何?」
「何か照れ臭い」
「何が……っ?」
手に取った服は普通のリネンジャケットで、色もブルー系で派手ではない。確かに自分が着ればいかにも夏にお洒落してますという感じはするかもしれないが、恵が着れば自然にしか見えない気がする。
「きよが着ればいい」
「俺には似合わないよ」
「似合うよ」
「俺はシャツをTシャツの上に羽織るくらいがせいぜいだよ。あ、じゃあ上羽織るの抵抗あるならさー、このアンクルスキニーならロングTだけでもいい感じ」
「……俺は普通のズボンでいいよ」
「何で。絶対似合うのに」
そんなやりとりした後で、お互い相手の服を一着ずつ買った。変に気を使わないよう、同じような値段の手ごろなアウトレット商品だ。聖恒が恵にプレゼントしたいと言えば「じゃあ俺もする」と返ってきたのだ。
「つき合ってからの初デートプレゼントだね」
聖恒が嬉しそうに言うと「きよはかわいいね」と言われる。
「……年下を馬鹿にしただろ」
少しだけ拗ねたように言うと笑われた。
「違う違う。っていうかきよの方が散々俺にかわいいとか言ってくるだろ」
「それはだって……本当のことだし」
「それなら俺だって本当のことだよ。こんな外で言うの恥ずかしいけど、好きだと自覚する前からきよのことはかわいくて仕方なかったんだ」
「……ぅ」
くすぐったさともぞもぞした落ち着かなさと、そして嬉しさが込み上げてくる。
「何だよ……」
呟くように言うと恵が「何?」と聖恒に顔を近づけてくる。
「だってあまり嬉しくないとかめぐちゃん言うけど、やっぱ嬉しいよ? 俺、何かそわそわするけど嬉しい。かわいいって言われんのも。年下扱いで馬鹿にしたんじゃなくて、愛しいなってほうのかわいいなんでしょ?」
「……な、……に言って」
笑っていた恵が本格的に照れだした。せっかく近づけてくれていた顔を離そうとする。聖恒はニッコリ笑うと慌てて耳打ちした。
「でもめぐちゃんのがかわいい」
「っ、昼! 昼食べよう! お腹空いただろっ?」
恵は慌てたようにサクサク歩いていったが、見えた耳朶が赤かった。完全に二人きりだったら押し倒してたと聖恒は思う。
……俺、けっこう冷めてるほうだったんだけどな。
心の中で呟きつつ、幸せな気持ちを噛みしめた。
昼はフードコートで食べた。混んでるので少し落ち着かなかったが、それでも恵と一緒に食べていることが嬉しい。
家庭教師してもらっていた頃にも一度ドライブへ連れていってもらった時に外食したが、普段は当たり前だが勉強を教えてもらうだけだった。時折、恵が買ってきてくれるおやつを一緒に食べることはあったが、そういうのと全然違う。
これからは時間さえ合えば、いつでも一緒に食べられる。もちろんそれ以外のことも、一緒に楽しめる。
だって俺の彼氏だもんね。
「何笑ってるの? 面白いものでも見た?」
恵に聞かれ、聖恒はニコニコ首を振る。
「こやって一緒に食べてんのが嬉しいだけ」
「あ、ああ、そうか。……そういえばもうすぐ期末テストだろ」
すぐに話を逸らしてきた恵に対しては、ムッとすることはない。面白いなあとしか思わない。照れているのが手にとるようにわかる。男同士なだけに、周りが気になってもいるようだが、多分二人きりだとしても、恵は照れるか戸惑ってきそうだった。普段男らしい人だからこそ、なおさらそういう部分が堪らない。
やっぱり好きだなぁと聖恒はしみじみ思った。
「きよ……ニヤニヤし過ぎ」
「ニヤニヤじゃないよ。ニコニコって言ってよ」
「……。で、期末は大丈夫そう?」
「うん。めぐちゃんのお陰でね」
「そうか。よかった。じゃあ俺は別の家庭教師、引き受けるな?」
恵の言葉に聖恒は笑顔で固まった。
「……きよ?」
「え?」
「? バイトしないと、車の維持費がな」
それはわかる。仕方ない。
理解しつつも、聖恒はとてつもなくモヤモヤした。自分以外のやつに、自分に教えてくれたように教えるのかと思うと、正直とてつもなく嫌だと思った。
「か、家庭教師じゃないと……駄目なの?」
「駄目ってわけじゃないけど……正直時給いいし、自分の勉強にもなるしな」
「そ、そうだろけど……」
「家庭教師する前は夜のバイトやってたんだけど、やっぱり時間遅いし勉強にも影響出そうな気がしてたしさ」
夜? 夜のバイト?
その言葉の響きにいかがわしさしか感じられず、聖恒は唖然とした顔を恵へ向けた。
まさか恵が? と思う。似つかわしくないというか、恵の性格上、いかがわしい仕事自体、しなさそうでしかない。
「よ、夜のバイトって……?」
食べ終えて水を飲んでいた恵が「ああ、」と笑いかけてきた。
「短期ばかりだったけどね。警備員とかガソスタとか。ガソスタは車好きだし楽しいかなって思ったけど、ほぼ関係なかった」
恵がおかしそうに言ってくる。
ですよね!
聖恒は泣きそうなくらいホッとしていた。派手なタイプが基本的に苦手なだけに余計だった。これほど好きになってしまった恵なら、お水系の仕事をしていても今さら嫌いになれないとは思う。それでもやはり違うとわかると、とてつもなくホッとした。そして、それ以外に夜の仕事はないだろうといった屈託のない様子に愛しささえ湧き起こる。
「めぐちゃん……今すぐ抱きしめていい?」
「い、嫌だよ何言ってんだよ……」
少し赤くなりながらも恵は微妙な顔をしてきた。
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