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26話
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翌日、大学では「何かいいことあったの?」と聞かれた。あまり顔に出ないタイプだと自分で思っていた恵はポカンとしたように相手を見ると「意外にわかりやすいよ」と笑われた。そんなにわかりやすいのかと顔が熱くなる。
いいことあったかと聞かれると、それはもう最高にいいことがあったのだが、さすがに口には出せない。ただ思うのは、好きな相手と両思いになるというだけで凄いことではあるが、その相手が同性であればその確率は大人になれるマンボウ並みの確率なのではないかということだ。
マンボウのメスは一度に三億個もの卵を産むが、そのほとんどが成長する前に他の生き物に食べられてしまう。一、二個だけが無事、成長を果たし大人になる。その確率は実にジャンボ宝くじ一等よりも低い。
それくらい稀有なことだと思う。最早奇跡だと。もちろん大袈裟だろう。世の中に同性カップルは意外にも沢山いる。だが恵の中ではそれくらい凄いことだった。
今でも男同士で大丈夫だろうかとか年下未成年相手に何やっているのだといった考えは心の片隅にある。自虐的な性格のつもりはないが、今まで無難に生きてきたせいかもしれない。
それでも嬉しくて堪らなかった。週末までずっとそわそわしていた。会う約束していた前日も、まるで遠足が楽しみな小学生のように眠れなかった。
当日、また駅で待ち合わせをしていたので停めても大丈夫なところへ車を駐車させ、恵は一旦外へ出た。その方が気づきやすいだろうと思ったし、実際やってきた聖恒はすぐに気づいてくれた。
「めぐちゃん!」
見つけてとても嬉しそうに駆けてくる聖恒がとてもかわいいと思う。携帯電話でやりとりしていたが、実際に顔を合わせたのは告白したりキスしたあの日以来なので、何となく落ち着かないというかそわそわした。すると聖恒が少しだけ顔を赤らめつつも「めぐちゃんかわいいよね」と嬉しそうに言ってくる。
「……そういえば俺、君に何度かかわいいと言われてる気がするけど……」
「うん」
「……俺は実際かわいくないし、俺にとっては褒め言葉でもないぞ?」
微妙な顔で言うとニッコリ笑ってきた。
「えー。実際かわいいんだよ! 褒めてるっていうより事実っていうか思ったこと言ってるだけ」
「……いや……」
この子大丈夫かなと思っていると「あっ! きょーと大月さんだ!」という声がした。見ると聖恒の幼馴染みである双子がいる。
「きょー!」
そして真和が嬉しそうに走ってきた。その様子を見て、恵は思わず微笑む。
真和に対して嫉妬することはない。彼が聖恒のことを好きだと思っていても、本人が言ったように幼馴染みで親友としての聖恒を大事だと思ってくれているのが喫茶店で話していた時にとても伝わってきたからだと思う。今も無邪気と言ってもいいほど嬉しそうな顔していた。
「こら、カズ! 二人の邪魔しないの」
利麻が困った顔をしながら後に続いた。走ってきた真和は遠慮なく聖恒に抱きつく。
あ、嫉妬しないと言ったのは前言撤回かも。
恵は内心思った。こういうのはどうしても複雑な気持ちになってしまう。すると聖恒が恵の顔をニッコリ見てきた。何だろうと恵が思っていると聖恒がベリッと音でもしそうな勢いで真和を引きはがす。
「利麻、ちゃんとこんの手綱握っとけよ」
「ごめんごめん」
「? 手綱って何だよ! 俺馬じゃねーし」
「馬? そんな上等なもんじゃないよ。おバカさんなわんこって感じ」
利麻があはは、と笑いながら引きはがされた真和の背中をバンバンと叩く。
「利麻、痛い!」
「お前ら相変わらずだな。っていうかほんと邪魔だからね」
聖恒がニコニコしながら言う。それを恵が唖然とした顔で見るも、双子は気にした様子もなく「きょーちゃんほんとストレートよね」「つか俺にもっと敬意をしめせ」などそちらも好き勝手言っていた。
その後すぐに去っていった二人を見ていると「行こ」と聖恒が声をかけてくる。
「あ、ああ」
車へ乗り込むと、シートベルトを着用した後に聖恒が嬉しそうに恵の腕をちょんちょんと軽く指でつついてくる。
「何?」
「さっき、めぐちゃんもしかしてこんにヤキモチやいた?」
聖恒を見ると顔を近づけてきて耳元でそんなことを言ってくる。途端、恵は顔が熱くなった。
「赤くなった。かわいい。安心してよ、俺にはめぐちゃんしか見えないから」
この子何言ってんの?
とてつもなく動揺して思い切り顔を仰け反らせると、またニッコリ笑われた。
「……きよ……君、性格変わった?」
「何も変わってない。俺はずっとこうだよ」
そうだっけか?
恵は思いつつも自分もシートベルトを締めた。
とはいえもし性格が変わったように感じたとしても、決してマイナスに思う方面ではない。聖恒の根本が変わっていない気はするので、別に嫌だとは思わない。ただ、少々恵にとって心臓によろしくない性格が露見した気がしたのだ。
アウトレットに着くと、聖恒はとても嬉しそうだった。
「ここ、電車だと少し来にくい場所だからさ、前から一度行ってみたいなって思ってて行けずじまい」
「ならよかった。そういえばお兄さんは車、持ってないのか?」
「うん。めぐちゃんと違って車には特に興味ないみたいで。持ってたらモテるよって言っても『別にいい』って言うし。兄さんの行動範囲は大抵歩きか電車で賄えるから車はかえって合理的じゃないんだってさ」
「へえ」
服の趣味が基本的に違うのだが、一緒に買い物をするのは予想以上に楽しかった。他愛もないことを話しながら、服や雑貨を見ていく。
恵は車関連のせいで余裕がある訳ではないし、聖恒も高校生で普段はアルバイトをしていないのであまり余裕はないと言う。
「バイトも興味あるけど部活やってるしさ」
「テニスだっけ」
「うん。楽しいよ? めぐちゃんもする?」
「いや……俺はあまりスポーツ、得意じゃない」
「そうなの? かわいいなあ」
「……きよ」
「何?」
「その、何かにつけてかわいいって言ってくるの、止めよう」
微妙な顔で言うと、本当に分からないと言った風に聖恒が怪訝な顔をしてくる。
「何で?」
「ここ来る前も言ったけど、俺はかわいくないし男だからかわいいは別に嬉しくない」
「でも、俺、かわいいもの好きだって知ってるよね?」
何でそういう切り返しをしてくるのかと恵はマジマジと聖恒の顔を見たが、すぐに目を逸らした。
「……知ってる」
「それに俺、思ってもないこと言うの嫌いだよ、めぐちゃん」
「……ああもう」
年下なのに何というか敵わない。恵は顔を逸らせながらそう思った。
いいことあったかと聞かれると、それはもう最高にいいことがあったのだが、さすがに口には出せない。ただ思うのは、好きな相手と両思いになるというだけで凄いことではあるが、その相手が同性であればその確率は大人になれるマンボウ並みの確率なのではないかということだ。
マンボウのメスは一度に三億個もの卵を産むが、そのほとんどが成長する前に他の生き物に食べられてしまう。一、二個だけが無事、成長を果たし大人になる。その確率は実にジャンボ宝くじ一等よりも低い。
それくらい稀有なことだと思う。最早奇跡だと。もちろん大袈裟だろう。世の中に同性カップルは意外にも沢山いる。だが恵の中ではそれくらい凄いことだった。
今でも男同士で大丈夫だろうかとか年下未成年相手に何やっているのだといった考えは心の片隅にある。自虐的な性格のつもりはないが、今まで無難に生きてきたせいかもしれない。
それでも嬉しくて堪らなかった。週末までずっとそわそわしていた。会う約束していた前日も、まるで遠足が楽しみな小学生のように眠れなかった。
当日、また駅で待ち合わせをしていたので停めても大丈夫なところへ車を駐車させ、恵は一旦外へ出た。その方が気づきやすいだろうと思ったし、実際やってきた聖恒はすぐに気づいてくれた。
「めぐちゃん!」
見つけてとても嬉しそうに駆けてくる聖恒がとてもかわいいと思う。携帯電話でやりとりしていたが、実際に顔を合わせたのは告白したりキスしたあの日以来なので、何となく落ち着かないというかそわそわした。すると聖恒が少しだけ顔を赤らめつつも「めぐちゃんかわいいよね」と嬉しそうに言ってくる。
「……そういえば俺、君に何度かかわいいと言われてる気がするけど……」
「うん」
「……俺は実際かわいくないし、俺にとっては褒め言葉でもないぞ?」
微妙な顔で言うとニッコリ笑ってきた。
「えー。実際かわいいんだよ! 褒めてるっていうより事実っていうか思ったこと言ってるだけ」
「……いや……」
この子大丈夫かなと思っていると「あっ! きょーと大月さんだ!」という声がした。見ると聖恒の幼馴染みである双子がいる。
「きょー!」
そして真和が嬉しそうに走ってきた。その様子を見て、恵は思わず微笑む。
真和に対して嫉妬することはない。彼が聖恒のことを好きだと思っていても、本人が言ったように幼馴染みで親友としての聖恒を大事だと思ってくれているのが喫茶店で話していた時にとても伝わってきたからだと思う。今も無邪気と言ってもいいほど嬉しそうな顔していた。
「こら、カズ! 二人の邪魔しないの」
利麻が困った顔をしながら後に続いた。走ってきた真和は遠慮なく聖恒に抱きつく。
あ、嫉妬しないと言ったのは前言撤回かも。
恵は内心思った。こういうのはどうしても複雑な気持ちになってしまう。すると聖恒が恵の顔をニッコリ見てきた。何だろうと恵が思っていると聖恒がベリッと音でもしそうな勢いで真和を引きはがす。
「利麻、ちゃんとこんの手綱握っとけよ」
「ごめんごめん」
「? 手綱って何だよ! 俺馬じゃねーし」
「馬? そんな上等なもんじゃないよ。おバカさんなわんこって感じ」
利麻があはは、と笑いながら引きはがされた真和の背中をバンバンと叩く。
「利麻、痛い!」
「お前ら相変わらずだな。っていうかほんと邪魔だからね」
聖恒がニコニコしながら言う。それを恵が唖然とした顔で見るも、双子は気にした様子もなく「きょーちゃんほんとストレートよね」「つか俺にもっと敬意をしめせ」などそちらも好き勝手言っていた。
その後すぐに去っていった二人を見ていると「行こ」と聖恒が声をかけてくる。
「あ、ああ」
車へ乗り込むと、シートベルトを着用した後に聖恒が嬉しそうに恵の腕をちょんちょんと軽く指でつついてくる。
「何?」
「さっき、めぐちゃんもしかしてこんにヤキモチやいた?」
聖恒を見ると顔を近づけてきて耳元でそんなことを言ってくる。途端、恵は顔が熱くなった。
「赤くなった。かわいい。安心してよ、俺にはめぐちゃんしか見えないから」
この子何言ってんの?
とてつもなく動揺して思い切り顔を仰け反らせると、またニッコリ笑われた。
「……きよ……君、性格変わった?」
「何も変わってない。俺はずっとこうだよ」
そうだっけか?
恵は思いつつも自分もシートベルトを締めた。
とはいえもし性格が変わったように感じたとしても、決してマイナスに思う方面ではない。聖恒の根本が変わっていない気はするので、別に嫌だとは思わない。ただ、少々恵にとって心臓によろしくない性格が露見した気がしたのだ。
アウトレットに着くと、聖恒はとても嬉しそうだった。
「ここ、電車だと少し来にくい場所だからさ、前から一度行ってみたいなって思ってて行けずじまい」
「ならよかった。そういえばお兄さんは車、持ってないのか?」
「うん。めぐちゃんと違って車には特に興味ないみたいで。持ってたらモテるよって言っても『別にいい』って言うし。兄さんの行動範囲は大抵歩きか電車で賄えるから車はかえって合理的じゃないんだってさ」
「へえ」
服の趣味が基本的に違うのだが、一緒に買い物をするのは予想以上に楽しかった。他愛もないことを話しながら、服や雑貨を見ていく。
恵は車関連のせいで余裕がある訳ではないし、聖恒も高校生で普段はアルバイトをしていないのであまり余裕はないと言う。
「バイトも興味あるけど部活やってるしさ」
「テニスだっけ」
「うん。楽しいよ? めぐちゃんもする?」
「いや……俺はあまりスポーツ、得意じゃない」
「そうなの? かわいいなあ」
「……きよ」
「何?」
「その、何かにつけてかわいいって言ってくるの、止めよう」
微妙な顔で言うと、本当に分からないと言った風に聖恒が怪訝な顔をしてくる。
「何で?」
「ここ来る前も言ったけど、俺はかわいくないし男だからかわいいは別に嬉しくない」
「でも、俺、かわいいもの好きだって知ってるよね?」
何でそういう切り返しをしてくるのかと恵はマジマジと聖恒の顔を見たが、すぐに目を逸らした。
「……知ってる」
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