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22話
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電話がかかってきた時は、知らない番号だったにも関わらず恵は聖恒だと思った。出るのに少しだけ時間を要したのは、情けないことに出てどんなことを言えばいいのか、どうすればいいのかわからなかったからだ。
もちろん、恵は自分の気持ちを受け入れている。覚悟をもって、聖恒のことを好きだと認めている。
ただそれとこれとは別というか、要は緊張した。電話に出るだけで。今まで何人かとつき合ってきているというのに、電話に出るだけでまるで初恋をしたかのようにドキドキして恥ずかしくなってテンパって緊張したのだ。電話を切った後も、心臓は煩く動いていた。
何だよこれ。
顔まで赤くなっていたらしい。「ちょっと出てくる」と車のキーを持ちながら母親に告げると「顔赤いけど、まさか飲んでないでしょうね」と言われてしまった。
「飲んでないよ!」
思わずムキになって恵は言い返した。
待ち合わせ場所に着くと、恵はとりあえず邪魔にならないところへ車を停めて車内から辺りを窺った。すると駅の方へと駆けている聖恒を見つける。
「きよ」
気づけばドアを開けながら名前を呼んでいた。聖恒の姿を見た瞬間、恵は確信した。本当に自分は聖恒のことが好きなのだな、と。
何故好きになったのかなどわからない。確かにかわいいとは前から思っていたが、それはあくまで弟のようにかわいいと思っただけだ。それは間違いない。ただ、気づけば好きになっていた。
エアコンの効いている車内と違い、外はムッとした湿り気を帯びた空気を漂わせており、服だけでなく肌にまで絡みついてくるようだった。
気づいた聖恒がこちらへ走ってくる。駅からの灯りで嬉しそうに笑っている顔が見えた。
ああ、この笑顔いいなあ。
そんな風に思いつつ、そういえば「好きだ」とまだ一度も口にしていないことに気づいた。そして今夜ちゃんと言おうと恵は思う。言わないと後悔することはきっとたくさんあるのだと改めて今日、実感していた。
聖恒と見知らぬ子がキスしていたところを見てしまった。それで完全に諦めモードに入っていた。真和が教えてくれなかったら、きっと知らないまま聖恒ともこのままだったかもしれない。
それも今までだったら「仕方ないか……」と諦めがついていたかもしれないが、聖恒に対してだけは嫌だと思った。こんなことで諦めることになるのだけは嫌だ。だからちゃんと言っていかないとと思った。キスのことも、その場で声かけられなくても、後で「こんなところを見てしまったんだけども……」と聞いていたら悩むことなどなかったのだろう。
「めぐちゃん……!」
聖恒は汗を流しながら息を切らせていた。
「暑いね」
とりあえずそう言うと、恵は中へ入ることを促した。助手席に乗り込む聖恒を見てから自分もまたドアを開けて運転席へ座る。聖恒は助手席に座ったまま、恵をじっと見ていた。
「……きよ?」
あまりにじっと見ている聖恒に声をかけると、グイッと腕を引っ張られた。そしてそのままキスしてきた。
「っふ?」
唇は少ししたら離れていく。離れた後の唇はだがまだ聖恒に触れられているような感触が残っていた。
「……きよ」
「ずっとしたかったから。……俺、めぐちゃんが好き。実はその、俺、別の子に勝手にキス、されちゃって……めぐちゃんが好きだから……感触を上書きしたかった」
車内は暗くて、あまり聖恒の顔色は見えない。だが真面目な表情からは少しだけ照れているようなところも感じとられる。
やっぱり、かわいいな……。あと、先、言われちゃったな。
そう思いながら恵も打ち明けた。
「俺も、きよが好きだよ」
目が合い、お互い微笑む。本当は抱き寄せ、ギュッと抱きしめてキスしたい。だがいくら暗いといえども、近くには明るい駅がある。
「……俺、そういえばめぐちゃんがつき合ってる人いるのかどうかすら知らなかったのに、そういうこと全部ふっ飛ばしてた」
そう言われて何となくおかしくなって笑うと、聖恒もまた微笑んできた。
「めぐちゃん。ドライブ、しない?」
「うん」
お互い、同じようなことを思っているのかはわからないが、少なくとも恵はどこか二人きりだと感じられるところへ行きたかった。さすがにホテルへ行くつもりはない。聖恒は高校生だし、好きだと打ち明け合ったばかりだ。
だがせめて人気のない静かなところへは行きたいと思った。そこでゆっくり話して、そしてキスしたい。
ハンドルをきり、車を出した。一応聞く。
「きよ、行きたいところある?」
「いいならホテル?」
「この高校生、ほんと」
「ふふ。めぐちゃんが連れてってくれるとこならどこでも。車でぶらぶらだけでもいいし」
「んー……こないだは向こうの山にある、夜景見るのに丁度いいとこへ行ったんだ」
「……誰と?」
声にムスッとした響きを感じて恵は運転しながら笑った。
かわいい。
「一人でだよ」
「寂しい」
寂しいと言いながら、今度は嬉しそうだ。
「誰かとのほうがよかった?」
「んな訳ねーし……。てゆーか、めぐちゃん」
「何」
「俺はめぐちゃんが好き」
「……うん」
嬉しさが今さらブワッと体中に広がった。鳥肌が立ちそうだった。
「めぐちゃんも、……俺が、好き」
今度は噛み締めるように言ってくる。
「……かわいいなあ」
「っえっ?」
「うん、好きだよ」
言い直すと一瞬シンとした後に咳払いが聞こえてきた。
「……ええと……。あ、そう。両思いだよね」
「そうだね」
「じゃあ、つき合ってる?」
幸せでどうにかなりそうだと思った。
「うん、つき合ってる。もしまだつき合ってないなら、きよ、俺とつき合って」
もちろん、恵は自分の気持ちを受け入れている。覚悟をもって、聖恒のことを好きだと認めている。
ただそれとこれとは別というか、要は緊張した。電話に出るだけで。今まで何人かとつき合ってきているというのに、電話に出るだけでまるで初恋をしたかのようにドキドキして恥ずかしくなってテンパって緊張したのだ。電話を切った後も、心臓は煩く動いていた。
何だよこれ。
顔まで赤くなっていたらしい。「ちょっと出てくる」と車のキーを持ちながら母親に告げると「顔赤いけど、まさか飲んでないでしょうね」と言われてしまった。
「飲んでないよ!」
思わずムキになって恵は言い返した。
待ち合わせ場所に着くと、恵はとりあえず邪魔にならないところへ車を停めて車内から辺りを窺った。すると駅の方へと駆けている聖恒を見つける。
「きよ」
気づけばドアを開けながら名前を呼んでいた。聖恒の姿を見た瞬間、恵は確信した。本当に自分は聖恒のことが好きなのだな、と。
何故好きになったのかなどわからない。確かにかわいいとは前から思っていたが、それはあくまで弟のようにかわいいと思っただけだ。それは間違いない。ただ、気づけば好きになっていた。
エアコンの効いている車内と違い、外はムッとした湿り気を帯びた空気を漂わせており、服だけでなく肌にまで絡みついてくるようだった。
気づいた聖恒がこちらへ走ってくる。駅からの灯りで嬉しそうに笑っている顔が見えた。
ああ、この笑顔いいなあ。
そんな風に思いつつ、そういえば「好きだ」とまだ一度も口にしていないことに気づいた。そして今夜ちゃんと言おうと恵は思う。言わないと後悔することはきっとたくさんあるのだと改めて今日、実感していた。
聖恒と見知らぬ子がキスしていたところを見てしまった。それで完全に諦めモードに入っていた。真和が教えてくれなかったら、きっと知らないまま聖恒ともこのままだったかもしれない。
それも今までだったら「仕方ないか……」と諦めがついていたかもしれないが、聖恒に対してだけは嫌だと思った。こんなことで諦めることになるのだけは嫌だ。だからちゃんと言っていかないとと思った。キスのことも、その場で声かけられなくても、後で「こんなところを見てしまったんだけども……」と聞いていたら悩むことなどなかったのだろう。
「めぐちゃん……!」
聖恒は汗を流しながら息を切らせていた。
「暑いね」
とりあえずそう言うと、恵は中へ入ることを促した。助手席に乗り込む聖恒を見てから自分もまたドアを開けて運転席へ座る。聖恒は助手席に座ったまま、恵をじっと見ていた。
「……きよ?」
あまりにじっと見ている聖恒に声をかけると、グイッと腕を引っ張られた。そしてそのままキスしてきた。
「っふ?」
唇は少ししたら離れていく。離れた後の唇はだがまだ聖恒に触れられているような感触が残っていた。
「……きよ」
「ずっとしたかったから。……俺、めぐちゃんが好き。実はその、俺、別の子に勝手にキス、されちゃって……めぐちゃんが好きだから……感触を上書きしたかった」
車内は暗くて、あまり聖恒の顔色は見えない。だが真面目な表情からは少しだけ照れているようなところも感じとられる。
やっぱり、かわいいな……。あと、先、言われちゃったな。
そう思いながら恵も打ち明けた。
「俺も、きよが好きだよ」
目が合い、お互い微笑む。本当は抱き寄せ、ギュッと抱きしめてキスしたい。だがいくら暗いといえども、近くには明るい駅がある。
「……俺、そういえばめぐちゃんがつき合ってる人いるのかどうかすら知らなかったのに、そういうこと全部ふっ飛ばしてた」
そう言われて何となくおかしくなって笑うと、聖恒もまた微笑んできた。
「めぐちゃん。ドライブ、しない?」
「うん」
お互い、同じようなことを思っているのかはわからないが、少なくとも恵はどこか二人きりだと感じられるところへ行きたかった。さすがにホテルへ行くつもりはない。聖恒は高校生だし、好きだと打ち明け合ったばかりだ。
だがせめて人気のない静かなところへは行きたいと思った。そこでゆっくり話して、そしてキスしたい。
ハンドルをきり、車を出した。一応聞く。
「きよ、行きたいところある?」
「いいならホテル?」
「この高校生、ほんと」
「ふふ。めぐちゃんが連れてってくれるとこならどこでも。車でぶらぶらだけでもいいし」
「んー……こないだは向こうの山にある、夜景見るのに丁度いいとこへ行ったんだ」
「……誰と?」
声にムスッとした響きを感じて恵は運転しながら笑った。
かわいい。
「一人でだよ」
「寂しい」
寂しいと言いながら、今度は嬉しそうだ。
「誰かとのほうがよかった?」
「んな訳ねーし……。てゆーか、めぐちゃん」
「何」
「俺はめぐちゃんが好き」
「……うん」
嬉しさが今さらブワッと体中に広がった。鳥肌が立ちそうだった。
「めぐちゃんも、……俺が、好き」
今度は噛み締めるように言ってくる。
「……かわいいなあ」
「っえっ?」
「うん、好きだよ」
言い直すと一瞬シンとした後に咳払いが聞こえてきた。
「……ええと……。あ、そう。両思いだよね」
「そうだね」
「じゃあ、つき合ってる?」
幸せでどうにかなりそうだと思った。
「うん、つき合ってる。もしまだつき合ってないなら、きよ、俺とつき合って」
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