ホンモノの恋

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15話

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 その日は何度もキスした。
 最初は少し触れただけだった。だが恵が拒否しないとわかり、もう一度重ねる。今度はもう少し触れていると恵が応じてきてくれた。そこからは何度も繰り返した。唇が離れたと思えばもう重ね合っていた。
 聖恒は自分の気持ちをすでに自覚してはいたが、改めてやっぱり好きだと思った。恵がかわいくて堪らなかった。聖恒よりも年上で背も少し高い男性だろうが、かわいくて仕方なかった。
 キスだけでとても気持ちよかった。どうにかなりそうで、でもどうすることもできなくて、いっそこのままキスで溶け合って一つになれたらよかったのにと、冷静な時に思い出せば自分に対し微妙な気持ちになりそうなことさえひたすら考えていた。
 キス以外何もしていない。キスだって何度も何度もしたわりに深いキスはしていない。それでも最高に気持ちよくて最高に幸せだと思った。
 ようやく唇を完全に離した時には恵の唇がほんの少しぷくりと膨らんでいるようにさえ見えた。エロいな、と思った。
 恵はただ「帰るね」としか言わなかったような気がする。正直あまりにふわふわして、うっとりして、興奮して、その後のことはちゃんと覚えていない。
 翌日になって「そういえば俺、ちゃんと好きだとすら言ってないままキスしてね?」と気づいた。これじゃあ自分が苦手だと思うガンガン進めてくる女子と同じではないかと一人青くなった。
 もちろんというか、女にはガンガン進めて欲しくないという、双子たち曰く「古い」考えを持っているだけで男はむしろ多少なりとも積極的に行くべきだとは思っている。いくらかわいいふわふわしたタイプが好きだからといって、積極的過ぎる女が苦手な一番の理由は双子も知らない。真和は理由を言えば「ああ、あの時の!」とわかるだろうが、まさかそんなに引きずっているとは思っていないだろう。
 昔つき合っていた、一人のふわふわかわいい子が実は結構な肉食系女子だった。積極的なんてものじゃなかった。本来は聖恒がその子を、あえて下世話な表現すれば「食う」はずだったのだろうが、まだ心の準備もできていない時に逆に食べられた感じしかしない。中学生だった聖恒にはある意味トラウマだと言ってもいい。正直、怖かった。
 真和も年の近い女子に対してトラウマを抱えているようだが、トラウマのタイプが似ているようで全然違うので特に親近感はないし、真和が怖がっている気持ちは多少しかわからない。利麻のようなタイプは聖恒としては友だちとして仲よくしたいと思うからだろうか。
 怖かったとはいえ、生理的現象により最後まで致したわけではあるが、本当に無理だと思った。それ以来、積極的過ぎる子は苦手だった。元々好みではなかった程度だったが完全に苦手になった。もちろんその後もあまり多いわけではないが、セックスの経験はある。だが肉食系女子とは据え膳だろうがなんだろうが、絶対にしたくないとは思っている。
 こんな思春期の男子として一番センシティブでありプライドが関わるような話を「怖かった」と双子にするにはまだ傷が癒えていないというか、大人になれていないので、ただ好みじゃないとだけ言っている。好みじゃないのも本当ではある。
 それもあって、自分が同じようなことをするのもやはり嫌だと思っている。男は少しくらい積極的でないとにしても、好きだとも言わずにいきなりキスというのはやはりどうかと思われた。
 ふと恵に何か言いたいと思う。

 ごめんなさい、ありがとう、好きです、つき合ってください。

 言いたいとひたすら思うが、いまさらながらに恵の電話番号もアドレスも知らないのだと気づいた。迂闊だった。元々は家庭教師として出会った人なのだ。普段なら連絡先を聞きたくなるタイミングは初めて会った頃にあるはずもなかったし、その後仲よくなっていってからは正直、うっかりしていた。
 大学は知っている。だがさすがに大学の前で延々と待ち伏せはできないだろう。まるでストーカーのようだし恵に迷惑をかけるかもしれない。

 まあ、次の授業の時でいいか。

 そう思い、聖恒は一人、微笑んだ。

「きょー! 今日暇だろ?」

 真和が授業の終わりにニコニコしながら近寄ってきた。聖恒は呆れたように答える。

「暇じゃない。俺がいつも暇みたいに言うな」
「えー。だって今日カテキョ来ないだろ?」
「先生が来なくても部活はあるんだよ。てゆーか、お前は勉強に忙しいんじゃなかったっけ?」
「だから、教えてもらいたいところがあってだな」

 だから教えろと、真和が目で訴えつつせがんでくる。

「あー……わかったから、家で待ってろ。終わったらお前んち寄るから」

 ため息つきながら「近い!」と真和を引き離した。
 部活を終えるとそのまま自分の家へ帰りそうになったが、真和との約束を思い出す。

「面倒くさいなー」

 そんな風に呟くが、何だかんだで幼馴染みたちのことは好きだ。つい頼みごとも聞いてしまう。 真和の家へ寄ると「待ってたぞ」と真和が迎え出てくれた。勉強道具をすでに準備してあった部屋ではニコニコしながら、座るよう勧めてきた。それを見て呆れつつも、約束通り勉強を教える。ニコニコしていた真和もちゃんと真剣な様子を見せてきた。
 そろそろきりがいいなという時間になると「こんなもんでいいか?」と聖恒は声をかける。

「あー、うん。そーだな。何かだいぶわかったし! ありがとーな、きょー!」
「いや。んじゃ帰るわ」

 そう言って聖恒が立ち上がりかけると、真和が声をかけてきた。

「きょーさぁ、最近何かあったのか?」
「何かって?」

 振り返ると真和はテーブルに乗せた腕の上に顔を乗せながら聖恒をじっと見ていた。中途半端な体勢だったため、聖恒はもう一度座り直す。

「いや、何もないならいいんだ。たださー、少し雰囲気変わったかなって」

 昔から聖恒に関することに鋭い真和には、到底隠し事は無理だろうなと聖恒はしみじみ思った。ただ言ってしまっていいものか迷いはする。
 雰囲気が変わったのかどうかは定かではないが、もし本当に変わったのなら、恵のことが関係しているのだろうと思われた。だが恵が好きだなどと言ってしまっていいのだろうか。
 真和を見た後でそして思う。

 悩むことなんてないだろ。こいつなら、大丈夫……。

 聖恒は口を開いた。

「俺、好きになっちゃったんだよな。例の家庭教師のこと」
「えー、マジかよ。ほらー、やっぱり年上の家庭教師とか堪ら……あれ?」

 ニヤリとしていた真和がふとポカンとしてくる。

「……え」

 聖恒が言った意味を理解するまでに、真和は数秒間の時間を費やした。
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