ホンモノの恋

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1話

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 とてもかわいらしい店で、周りにいる客の大半は女性。男性もいるが皆カップルで来ており、そしてどこか居心地悪そうに見える。
 そんな中、まだカップルではないが好きな相手と来ていた松原 聖恒(まつばら きよひさ)はとても馴染んでいた。

「きょーちゃん」

 聖恒が好きになる人は大抵かわいいタイプが多かった。リボンの似合う、甘いミルクティーのような、砂糖菓子のようなふわふわ系女子だ。

「ん?」
「これ、食べる?」

 目の前にいるふんわりかわいい子は今の好きな子だ。まだつき合っていないが、そろそろいい感じかなと思っていた。
 聖恒はニッコリ微笑む。

「うん」
「じゃあ、あーん」

 ニコニコ差し出してくるスプーンを、一瞬だけピクリと反応した後で聖恒は抵抗なく口にした。

「おいしい?」
「ちょっと、甘いかな」
「えー、ダメ。マナがあげたんだからおいしいって言って」
「おいしい」

 聖恒がニッコリ笑って言うと、相手は甘い顔で微笑んだ。んー……、っと聖恒は内心呟く。

 この子もかぁ……。

 すぅっと冷めていく自分に聖恒はそっとため息ついた。



「はぁ? きょー、あの子が好きだったんじゃねぇの? つき合うまであと一息って感じだっつってただろっ?」

 聖恒の親友でもあり幼馴染みでもある紺野 真和(こんの まさかず)が微妙な顔で聖恒を見てくる。

「悪口言うようでごめんなとは思うけど、だってさ、色仕掛けみたいなの結構されてきたんだもん。そーゆーのってさ、あからさまだと冷めねぇ? 俺はダメ。キモい」
「あの子が?」
「うん。そぉ」

 真和の部屋でゲーム機を持ちながら、聖恒は上を向いて思い切りため息つく。

「一応少しは様子見したよ。でもせっかくかわいいお店でさー、あーんとかしてくんだよな、色目使って。意味ありげに俺を見ながら拗ねてみたり」
「かわいいじゃねーの」

 何で? といったように真和が聖恒を見てくる。聖恒はジロリと真和を見返した。

「いや、ムリ」
「俺はそういう子って結構タイプだけどな。でもお前、見た目かわいい子好きなくせに何だかんだで清純な子がタイプだもんな」
「うん」

 コクリと頷くと、真和はさらにじっと聖恒を見てくる。

「何だよ」
「お前こそ見た目かわいい顔して人懐こそうなのにさ、なっかなか他人を受け入れねーよな」

 ため息つく真和に、聖恒は「お前と利麻のことは好きだよ」とニッコリ笑いかけた。
 真和が言うように、そしてかわいい店であろうが違和感なく馴染むように、聖恒の外見はかわいい方だ。それこそふわふわ系男子かもしれない。目は大きくクリクリしている。肌はきめ細かく頬は皆に柔らかそうだと言われる。明るくも落ち着いた色の髪は大抵いつも片方のサイドをピンで留めている。身長は別に低くないが、長身というわけでもない。

「きょーちゃんはゆるふわに見せかけて冷めてるのよ」

 別の日、一緒に買い物していた利麻に聖恒はきっぱり言われた。

「別に冷めてないってば。それにふわふわに見せかけて実は結構いい体してるよ」
「そんなの聞いてないよ」
「だいたいさー、俺、清純派に見せかけた肉食系はマジ苦手なんだもん」
「それはきょーちゃんの幻想。女子は皆、恋したら好きな子落とすため必死なの。そういう一生懸命な子、かわいいじゃない。私は好きだよ」

 こうして男女二人で買い物しているが、利麻とは決してそういう関係ではない。ふわふわ系女子ではないからという理由でなく、利麻も幼馴染だからだ。真和の姉、というか双子だった。

「あー。こんもそういう子、かわいいって言ってた。やっぱ双子だな。多分かわいいって言ってる意味、お互い全然違うんだろうけどさ」
「カズが? 生意気」
「同じ歳なのに。だいたいかわいいってのは見た目もそうだけど中身も控えめだからかわいいと思うんだよ。別に女の子らしくしろって言ってんじゃねーよ? ただ清純であれってだけで」
「高望みっていうか、きょーちゃんは顔かわいくて結構モテるのになんかこう、残念だよね」

 利麻が呆れたように見ながら聖恒の額を指でぴんっと小突いてきた。結構痛い。聖恒は涙目になって額を抑えながら唇を尖らせた。

「痛い。お前はほんとイケメンだよね、かわいくない」
「きょーちゃんにかわいいって言われなくったって結構」

 実際利麻は聖恒にとってはかわいくない。というかタイプではない。幼馴染であり身内みたいな感覚なのでむしろタイプでなくてよかったと思っている。
 かわいくないというか、美人系なのだと聖恒は思う。断言しないのは性格がとても男勝りでどちらかと言えば王子様タイプだからだ。背も女子にしては高めだ。学校でも女子に人気ある気がする。ちなみに彼氏はちゃっかりいる。
 どちらかといえば双子の弟、真和のほうがかわいい顔している気がする。もちろん二卵性とはいえ双子なので何となく二人とも似ているのだが、性格の違いが顔に出ているのだろうか。真和の身長は利麻より高めだが聖恒より低い。
 真和が清純なおしとやかだとは断じて言わないが、利麻に昔からいいように遊ばれているところを見ていると、何となく利麻よりかわいらしく見えても仕方ない気がする。いいやつではあるのだが、そういう性格のせいか、単に運がないのか、姉の利麻と違って真和に彼女はいない。今いないというか、生まれてきてこの方いないというか。

「こんってほんと、顔は悪くないと思うのに何で彼女いないんだろうな」
「俺の周りにいる女子に聞いてきて」

 後日同じクラスである真和にしみじみ言えば、席も前後なので後ろを向いてきた真和が微妙な顔で言ってくる。

「やだよ面倒くさい」
「親友とは思えねーセリフだな」
「何言ってんだよ。親友だからこそ遠慮のない気持ちだろ」
「るせー。それなら言うけどお前のこの点数なんだよ」

 先ほどは数学の授業で、この間あったテストの答案用紙が返された。聖恒が唇を膨らませていると背後から「ほんとだ。きょーちゃん、この点数はヤバくない?」という利麻の声がした。

「自分のクラスにいろよ」

 聖恒がムッとして振り返ると利麻はニコニコ「友だちに用事があったんだよ」と答えた後に「ほんとひっどいなこれ」と笑っている。

「俺が苦手なのは数学だけだから! 他はできるし」
「あ、そういえば」

 生温い顔していた真和が思い出したように聖恒を見てきた。

「お前いつも数学ヤバかっただろ。お前んとこのおばちゃん、こないだウチに来た時俺らの母さんにカテキョがどうこうって話してたぞ」
「は? え、マジか……」

 聖恒は微妙な顔した。
 大学生の兄が聖恒にはいる。この兄がとても頭よくて、聖恒は尊敬しているし兄が昔から大好きだ。その兄が難易度の高い大学へ行っている。通える距離ではあるのだが、すでに家も出ていて、せめて同じ大学へ行きたい聖恒はわりとしっかり勉強しているつもりだ。
 とはいえ兄ほどできるわけではないし、勉強そのものはそんなに好きでない。むしろ部活のほうが楽しい。
 だからというのもあり、家庭教師には全く興味がない。面倒くさいし迷惑だとさえ思えた。
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