ケーキと幼馴染

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16話

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 最近どんどん祐真に流されている気がする。別のクラスとの合同授業のせいで広い音楽教室に移動した後で、別の席に座って女子と何やら喋っている祐真を稀斗はぼんやりと見てため息をついた。

「ぼーっとしてどうした。やきもちか」
「あ? 誰がやきもちだ」

 呆れたように声をかけてきた相手をジロリと見ると、氷の王子様として二年の間で密かに有名な男子であり、クラスは違うが稀斗の友人の一人だった。

「氷王子かよ。訳の分からんこというな。何で俺が女子にやきもちを妬くんだよ」
「お前こそわからんことを。だいたい誰が氷だ。やたら女子に囲まれた早川を見てるからそう思っただけだ」
「そこから何故やきもちになるんだよ。そういや囲まれるっつったらお前もそういやよく女子に囲まれてるよな、くそ。氷お……柳瀬」

 目の前の男も祐真と同じように背が高く、顔だけではなく頭も良いので女子に人気がある。ただ祐真と違ってとことん淡々とした態度から密かに氷の王子様という呼び名で呼ばれたりしている。ただ人気があるだけに密かに呼ばれていても本人の耳に届いているため、稀斗は遠慮せずに揶揄するように呼んだりする。

「それだ」
「は? 何がそれなんだ?」

 怪訝な顔を向けると、淡々とした様子の相手は眼鏡を押し上げながらため息をついてきた。

「いつも彼女羨ましいなどと言っているお前に俺は『女子に囲まれている早川にやきもちか』という意味で言っただけだ。今お前が俺にそういったつもりで言ってきたように」
「……っ」
「何故俺がだな、お前が女子にやきもちを妬いていると言うと思ったんだ? 片腹痛いな」
「……うるせぇ王子! お前のそういうとこまじうぜぇぞ」

 耳が少し熱くなるのを感じながら稀斗がジロリと、祐真のように背の高い相手を睨み上げるも気にした様子もなく「じゃあな」と自分の席に歩いていった。その際に鼻で笑われたような気がする。
 前にそういえば未彩にも似たようなことを言われた気もする。ただそれは多分祐真が妙なことばかりしてくるからだと稀斗はまたそっとため息をつきながら祐真を見た。相変わらず幾人かの女子に囲まれている祐真はまた髪で遊ばれているようで、今もやたらかわいらしい髪留めで前髪をあげられている。
 確かに祐真の髪はふわりとしてて何だか触っていて気持ちがいいのもわからないでもない。この間また変な風に触られた時に、思わず目の前にあった祐真の頭をつかんでしまい、ふわりとした髪に触れたことをただ、ふと思い出してしまい稀斗はそのまま机に突っ伏した。そのまま祐真の慣れた様子を思い出す。

 そういえばゆうは俺と違って経験もあったよな。

 昔中学の頃、祐真が「俺、初体験ってやつ、しちゃった……っ」と稀斗に打ち明けてきた時のことが頭に浮かんだ。あの時は「ゆうのくせに」と微妙な気持ちになったのを覚えている。何が「ゆうのくせに」か我ながらわからないが、とりあえず微妙だった。だがそれを今思い出しても何となくもやもやとした。

「……ねむ」

 多分眠いからだなと稀斗は少し目を瞑る。しかしその直後にチャイムが鳴り、稀斗はため息をつきながら頭を起こした。
 合同授業が終わり自分の教室へ戻る時、弄られた髪のまま祐真はニコニコと稀斗に近付いてきた。

「きぃ、今日は学校に持ってこられなかったし家帰ってから何か焼こうかなって思ってるんだけど、どうかな?」
「……髪、おかしなことになってんぞ」

 かわいらしく留められていたのだろうが、多分祐真が授業中に無意識に弄ったのだろう、髪留めが妙な風に留っているのを稀斗は呆れたように見た。

「え、そう? あ! だったらきぃが直して!」

 きょとんとした後に、いいことを思いついたといった風に祐真が嬉しそうに稀斗を見てきた。

「なんでだよ。さっきの女子にやってもらうか外すかすればいいだろ」

 微妙な顔で祐真を見上げると「そこはきぃに髪を弄ってもらうという下心があったんだもん」と唇を尖らせている。

「……どいつもこいつもわけのわからんことを……」
「どいつも? 俺は別にわけわかんないことなんて言ってないよーっ。だってきぃが好きなんだから髪、触ってもらうの気持ちいいに決まってるのに」
「うるさい。ったく」

 自覚する前から祐真は皆の前で「きぃ、きぃ」と煩かったので、こうして絡んでくるのは今さらといえば今さらなのだが、どういう風に好きだと言っているのかわかっている稀斗としては落ち着かない。

「うるさくないし。ていうかきぃ、さっき、れーじと何か楽しそうに話してた! れーじと何話してたの? ずるい」
「は? 柳瀬か? 何がズルイんだよ。そういうならお前だって女子に囲まれてたろ、そっちのがずるいわ」

 そんな話をしていると基治が「お前ら痴話喧嘩か」などと楽しそうに通り過ぎていった。

「猿、なんだと」
「もっきー、そう見えるっ?」

 じろりと稀斗が睨むも横で祐真が嬉しそうにしている。

「何嬉しそうにしてんだよ……」
「え、だって嬉しいし。っていうかさっきの質問答えてくれてない」
「は? 何か聞いてきたか?」

 本気で怪訝そうに稀斗が聞くと祐真が唇を尖らせながら「ケーキだよー」と言ってくる。そういえば「どうかな」と言われていたなと稀斗は思い出した。

「どうかなって言われても。別にいらんっつってもお前、焼いてくんだろ。つかさ、最近俺、腹に肉ついてきた気がする。だから遠慮できるなら、する」

 教室に入ると微妙な顔をしながら稀斗は自分の椅子に座った。

「そう? きぃは太ってないよ?」
「……いや、絶対やばい。つかなんでお前がんな甘いもんばっかり食べて平気なのか理解できない」
「?」

 稀斗の言葉に祐真は怪訝そうに首を傾げている。稀斗からすれば常に祐真はケーキに囲まれているイメージがある。だというのに祐真は上にばかり伸びてちっとも太らない。

 そういやゆうの体って俺、見た記憶あるっけか?

 ふと最近変なことばかりしてくる祐真に色々なところを見られている割に自分は祐真の体を見ていないように思えた。だが直ぐに何を考えているんだと頭を振る。

「俺、甘いもの好きだけど基本作る側だしなあ。でもきぃはほんと、むしろ肉なさすぎなくらいだと思う。痩せてるようにも見えるし、別にもうちょっと肉ついても俺いいと思う」

 祐真は別に変なつもりで言ったわけではないのだろうが、自分が変な風に考えていたせいで妙に居心地の悪い感覚に稀斗は陥った。

「何言ってんだよ。うるさい。わかったよ、食うし何か焼いてくればいいだろ」
「ほんと? じゃあ今日またきぃの家に行くね!」

 嬉しそうに祐真が笑いかけてきた。別に来るのは構わないが、何か祐真の狙い通りといった感じがして気にくわない。それにきっと、また自分は祐真に何かされるのではないだろうか。学校や外で会っている時はさすがに何もしてこないが、稀斗の部屋で二人でいると最近は大抵何やら手を出してくる。どんどん流されているのではと思った一つに、祐真が触れてくるのに遠慮がなくなっている気がするというのもある。
 嬉しそうな様子は変わらないが「ごめんね」と申し訳なさそうに触れてくることがあまりなくなっている。それどころかさらに色々触れてきて、最近違う扉を開かされそうなのが困る。
 ここはビシリと躾をすべきかとも思うのだが、きらきらとした目が悲しそうになるところを極力見たくなくて、つい色々許してしまうのだ。

「きぃ? どうかした?」

 稀斗が微妙な顔で黙っていると祐真は呑気な様子で覗きこんでくる。開きかけた口をやはり閉じ稀斗は「なんでもねえよ」とため息をついた。
 だがやはりちゃんと躾をするべきなのだとその日自分の部屋で稀斗は心の底から思った。

「お前……何考えてんだよ……やめろ」

 案の定いつものようになし崩しにキスをされ、体に指や唇で触れられた後に自分のものを刺激された。正直普通じゃないだろと思いながらも相変わらず嫌悪感がない。むしろつい「お前の体も見せろ」的なことまで呟いてしまった。多分今日そんな話をしたせいだと思われる。
 とりあえず慣れたから嫌悪感もないのだろうかなどと思っていたら祐真の指が変なところに触れてくるのに気付いたのだ。

「きぃ、大丈夫だよ」

 焦ったように祐真を押し返そうとするも、最近どんどん厚かましくなっている稀斗の幼馴染はそんな稀斗の口にまたキスをしながらも、その行為をやめることはなかった。
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