ケーキと幼馴染

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9話

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 稀斗に部活があるのを知っていた祐真は一人で帰ろうとしていた。学校を出ようとするとだが祐真を見つけた未彩が駆けつけてくる。

「ゆうくーん、帰るの?」
「うん。未彩も?」
「あ、ううん。私はこの後友だちと遊びに行くんだ」
「そっか」
「それよりもゆうくん、折山くんに好きって言ったんだって?」

 未彩がニコニコと聞いてくる言葉に首を傾げた後、祐真は少し赤くなる。

「何で知ってるの? あ、そっか。きぃが言ったんだね」

 自分と未彩が付き合っていたのを知っている稀斗なら言いそうだ、と祐真は自分で言った後に頷いた。

「うん」
「そっか。うん、言った。俺、きぃのこと好きだったみたいだから」
「凄い今さらだよね」
「え。待って、未彩ももしかしてきぃみたいに前から気付いてたの?」

 未彩の反応に、祐真はポカンとした。

「んー、折山くんがいつから知ってたのかはわからないけど、ゆうくんは凄くわかりやすいんだもん。むしろ何でゆうくんが自分のこと気づかないのか不思議だよ」
「そうなの? わー何か俺、バカみたい……」
「大丈夫だよ、とってもゆうくんらしいよ」
「う……。……でも……いくらお互いそんなんじゃないよーな付き合いでも、未彩嫌だったり気持ち悪かったりしなかったの?」

 ふと思いついて祐真が聞くも、未彩は「あはは」と楽しげに笑ってきた。

「それもほんと今さら! 私とゆうくんは前も今も変わらないでしょ。それに気持ち悪いって何よ、変なゆうくん!」
「ええっ。……でもありがとう。俺、未彩も好きだよー」
「えへへ、私も」

 お互いニッコリとし合った後に「応援してるから! 頑張ってね」と祐真の背中をポンと叩いてから未彩は待っているであろう友だちの元へ駆けていった。祐真は何となく幸せな気分になりながら家に帰る。そして学校じゃなくても稀斗に会いたくなり、口実としてお菓子を作りだした。
 何にしようかと考えた結果、シュークリームに決めた。カスタードはもちろん甘さをかなり抑えている。その分とてもコクのある風味のいい味にした。

「……ん、これならきぃ、また甘くないって言ってくれるかな」

 味見をしてから祐真は一人、ニッコリとする。甘いものが苦手である稀斗が言ってくれる「甘くない」は最大限の褒め言葉だと祐真は思っている。稀斗はその辺正直だから、甘くなくても不味かったら「不味い」とちゃんと言う。逆に「美味い」と言わないのは、甘さをいくら控えようが実際甘いお菓子だからだ。
 いつでも手作りのお菓子を持っていけるよう、ストックしてある無地の箱を組み立ててその中に作ったシュークリームを入れると、もう少しだけ時間を置いてから祐真は家を出た。多分今ならもう帰っているだろう、と近くにある稀斗の家を訪れる。
 ドアを開けてくれたのは稀斗自身だった。手には何やら食べかけのケーキを持っている。クリームの乗ったケーキだというのに手づかみなところが稀斗らしいと思いつつ「ケーキ食べてたの?」と聞くと稀斗はため息をついてきた。

「まーな。でも甘すぎて無理。お前食う?」

 そう言ってケーキを差し出してくる。途端祐真は自分の顔が熱くなるのがわかった。

 これ、このまま食べてもいいってことかな。

 そう思うと祐真は遠慮なく稀斗の手からケーキにかじりついた。

「あ、これおばさんが作ったやつだね。甘くて美味しい」

 一口食べると直ぐに稀斗の母親が作ったものだとわかった。ふと見ると稀斗の手にもクリームがついている。祐真は無意識にそのクリームも舐めていた。

「ば……っ」

 何やら焦ったような稀斗の声にそして我に返る。つい自分が稀斗の手も舐めていたんだと気づき、祐真は自分のしたことに顔がまた熱くなった。

「ご、ごめんね」

 慌てて顔を上げると、稀斗の顔も呆れながらも赤くなっている。何となく気まずくて「上がっていい?」と祐真は遠慮がちに稀斗に聞いた。

「いつも勝手に上がってるだろ?」

 稀斗はもういつもの稀斗に戻っており、呆れたように祐真を見た後で祐真を中に通してくれた。そしてそのまま二階に促してくれる。

「先上がってろ。何か飲み物入れて持ってく。あ、でも食い物がなー」
「きぃ、食べ物ならあるよ」

 階段を上がりながら、祐真は手元の箱を稀斗に見せやすいように持ちあげた。

「シュークリーム」
「また作ってきたのか……」

 稀斗はまた呆れたように呟くと台所に一旦消えていった。二階の稀斗の部屋に入り、とりあえずベッドの縁にもたれるようにして待っていると何やら話し声が聞こえてきた。そしてドアが開く。

「ゆうくんいらっしゃい。帰ってきたら稀斗がゆうくん来てるって言うから」

 稀斗の母親がニコニコと挨拶をしてきた。その後ろから稀斗が「いちいち挨拶いらねえっつってんのに」と言いながらも部屋に入ってくる。

「こんに……こんばんは、なのかなー。おばさん、俺、シュークリーム作ってきたんだ。よかったらおばさんも食べて」

 稀斗が持ってきた皿に一つずつシュークリームを乗せた後に、祐真はニコニコと箱を稀斗の母親に手渡した。

「ゆうくんのお菓子久しぶりねえ、ありがとう」

 嬉しそうに受け取った後「夕飯はどうする?」と聞いてきたので祐真は「ご飯は帰って食べるよ」と断った。
 稀斗の母親が行ってしまうと「皆ほんと甘いもん好きなんだからな……」とため息をつきながら稀斗はマグカップを差し出してきた。

「ありがとー」

 受け取ったそれはミルクがたっぷり入ったコーヒーだった。稀斗の分はブラックだ。コクリと飲むと、ちゃんと甘くない。甘いお菓子が好きな祐真は、飲み物はむしろ甘くない方が好きだ。だけれどもコーヒーならブラックよりは牛乳がたっぷり入っている方が好きだ。紅茶よりもコーヒーを好むのは、コーヒーは砂糖無しで十分美味しく、ケーキにとても引き立ってくれるからだ。紅茶も砂糖なしでも味わえるが、茶葉の香りや味を引き立たせるには砂糖が入っていた方がいい。なので単品で飲むなら紅茶、お菓子と飲むならコーヒーが好きだったりする。

「ゆうのくせにめんどくさい」

 前にそんな風に言われたこともあるが、それでもちゃんと覚えてくれているのが稀斗だ。

「えへへ、コーヒー美味しい」
「インスタントだし半分は牛乳だぞ、それ」
「きぃが淹れてくれたんだから美味しい!」
「……何言ってんだよ……」

 稀斗は呆れながらごくりとブラックコーヒーを飲んでいる。祐真は何気なく稀斗の部屋を見渡した。そこは相変わらずシンプルで綺麗に片付けられた部屋だ。そして部屋中、稀斗の匂いがする。当然と言えば当然なのだが、祐真は妙にドキドキとした。そういえば好きだと自覚してからは初めて入ったのかもしれない。

「ゆう? どうした」
「ううん。シュークリーム食べようよ」


 稀斗に怪訝そうに見られ、祐真は誤魔化すように笑顔でシュークリームに手をつけた。
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