ケーキと幼馴染

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7話

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 時折さっと二人に吹きつける風はまだまだ気持ちはいいもののやはり少し冷たくて、夏も終わり次に冬が来ることを実感させてくれた。稀斗はそんな秋の爽やかな風を感じつつ、どうしようかと思っていた。
 祐真が自分のことを好きなのはずっと前からわかっていた。

「幼馴染何年やってると思ってるんだ?」

 本人にいつから知ってたかといった話をする際にも呆れたようにため息をついた。あれだけ好きだと態度に出されればどんな鈍いヤツでもわかるだろう。とはいえ本人は自覚ないのだろうなというのも一応わかっていた。それこそとても顔や態度に出やすい祐真だから、もし自覚していたらここ最近のようにすぐ様子がおかしくなっていただろう。
 昔から祐真が自分を好いてくれているのは知っていたけれども、何となく違和感を感じるようになった時期は稀斗も正確にはわからない。さすがに小学生の頃は自分がまずそういった感情をよくわかっていなかったというのもある。だが中学生にもなると色々何となくわかってくる。薄々気づき始めた時に「もしかしたらアイツ、小学生の頃から……?」と思ったことはあるが、実際どうなのかは神のみぞ知る、だ。
 何が一番のきっかけかと言えば、中学のとある時に稀斗が指を怪我したことがあった。ただ切っただけだったので自分では気にしていなかったが、その場にいた祐真はその切った稀斗の指をつかむと迷いもなく口に含んできたのだ。
 当然、稀斗はギョッとした。いくら幼馴染で昔から仲がいいとは言え、男同士同性の友だちの指を、怪我をして血が出たからと舐めるだろうか。だが嫌悪感が湧くよりも、一生懸命指を舐めている祐真を見ていたらどうでもよくなってきた。
 その時から祐真が自分のことを友愛ではなく恋愛として好いているんだと確信したし、祐真のような性格ではないので元から友だちに甘えるような行為はしてこなかったものの、さらに突き放すかのようなそっけない態度を取るようにしてきた。稀斗も祐真のことは好きだ。だが幼馴染としてずっと好きだと思っていたし、稀斗自身付き合うのは女子がいい。だから祐真の気持ちには答えることができない。困った挙げ句、そっけない態度に出る事にしていた。

「きぃは中学の頃にはもう気づいてたんだー……」
「まあ、な」
「でもだったら俺が未彩と付き合うの、違和感なかった?」
「いや、お前そもそも自覚なさそうだったし、別にミサちゃんと付き合って彼女のことが好きになっても、それはそれで……」

 構わなかったと言いかけて稀斗はハッとなる。そして祐真を見るとやはり悲しげな顔をしていた。
 正直なところ、違和感は確かにあった。コイツ、ミサちゃんのこと好きじゃないだろうになどと思ったりもした。だがそんなことを当時言うつもりなかったし、今も「違和感あったよ」とか「俺のことが好きなくせにって」などと言えば勘違いさせてしまいそうで言えるはずもない。
 稀斗はまた吹いてきた風を感じるかのように目を瞑り「さて、どうしよう」と心の中で呟いた。だがやはり正直に言うのが一番だろうと目を開ける。

「ゆう、お前俺のことわかってんならわかるだろうけど、俺、答えてやれない」

 祐真のことは好きだ。だから祐真の悲しそうな顔や態度は見たくないし苦手だ。それもあって未彩にも「折山くん甘いよ」とよく言われるが、ついつい祐真の言うことを聞いてしまう。祐真も無自覚ではあるが甘えるのが上手いのでなおさらだった。
 だがこればかりは祐真にどうお願いされようとどうしようもない、と稀斗はなんとも言えない顔で祐真を見た。

「気にしないで」

 祐真は悲しげな笑顔で首を振ってきた。こういう顔をさせたくないし見たくなかったから気づかない振りをずっと続けてきたのにな、と稀斗は手を伸ばした。そして泣きそうな顔の祐真の頭をポンと撫でる。

「俺、それでも……好きでいていい?」

 俯いていた祐真が顔を上げておずおずと聞いてきた。

「別にいい」

 そっけなくだが答えると、それでも祐真は今度は嬉しそうに笑ってきた。もしかしたらここで「駄目」って言うべきだったのかもしれない。昔から甘えるのが上手いしお願いが聞いてもらえそうならグイグイ行く割に周りからも可愛がられていた祐真だが、決して我がままを通す性格ではない。稀斗が「駄目」と言えば諦めたのかもしれない。

「よかったあ。俺、ほんときぃ好きだから。そりゃ好きの好きが違ってたの気づいたのはほんと最近だけど、でもね、ほんとずっと好きだったからね、バレちゃってきぃに嫌われたらどうしようってね、ずっと思ってたんだ」

 えへへ、と笑いかけてくる祐真は本当ならとても恰好がいい、大抵の者が「イケメン」と言うであろう容姿だと言うのに可愛らしい。

 可愛らしいけど、しかし残念なイケメンだよな。

 稀斗は微妙な顔で思った。

「どうしたの?」
「……いや。なんつーか、もったいねえよなって。お前、その気になれば直ぐに彼女、なんぼでも作れるのにな。よりによって何で男なんだよ。それも俺」

 呆れたように言いながら稀斗は立ち上がって伸びをした。

「ええ? でも俺ほんと別に彼女いらないし……」

 だったらそのモテ力、俺にくれ、と稀斗はそっと思う。

「それに別に俺も男が好きなわけじゃないよ。だってきぃのこと好きなのかなって色々考えてた時にね、男イケるのかなとも思って想像してみたけど駄目だった」
「……想像したのかよ」
「きぃだから、好きだよ」

 祐真も立ち上がり、静かに笑いかけてきた。

「……変なヤツだよ、お前は」

 そんな笑顔を見た後では大したことは何も言えず、稀斗はため息をついた。

「きぃがいいなら俺、すごく変なヤツでもバカなヤツでもいいよ」
「んなわけあるか。俺を何だと思ってんだよ。そんな変なのもバカなのもごめんだからな」
「ええ? そうなの?」

 呆れつつ歩きだすと、祐真も慌てて後についてくる。そして後ろから稀斗の髪に触れてきた。さらり、と流すように触れた後に、祐真は「俺はきぃの全部が好きだから、変なきぃになってくれても大丈夫だよ」と笑いかけてきた。

「なるか。つかほんとお前、髪触るの好きだな……」
「んー、きぃの髪ね、好き」
「……」

 先程から祐真の口から出る言葉は「好き」ばかりだ。早まったのかもしれない、と稀斗は微妙になりながら思った。
 ただでさえ無自覚な時ですらあんなに「好き」という気持ちを全面的に出していた祐真である。自覚してからは色々思うところもあっただろうからか、むしろ落ち込んでいた祐真だが、稀斗に気持ちがばれていたと知り、しかも「好きでいていい」とある意味許可を貰ったようなものである。

 もしかしてこれからとてつもなく呆れる程に気持ちを出してくるんじゃないだろうな。

 そんな風に思うが、かといって一度「いい」と言った事を取り消すのも恰好が悪いし多分祐真は相当落ち込むだろう。

「はーぁ」
「きぃ、どうしたの? 大丈夫?」

 思いきりため息をつくと、その原因である祐真が心配そうに聞いてきた。

「……なんだよ、ついさっきまではお前のが大丈夫か? って状態だったくせにな」
「うん、でもだって好きだってバレててもきぃはずっときぃだったってわかったし、それに好きでいていいって言ってくれたから!」

 ジロリと稀斗が見上げるも、祐真は満面の笑みで頷いてきた。

 さっきの悲しそうな顔どこいった。

 呆れたように思いつつも、それでもやはり祐真は笑っている方がいい、と稀斗は苦笑した。
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