ケーキと幼馴染

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6話

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「どうかしたのか?お前こないだからやっぱりおかしいぞ」

 稀斗が怪訝そうに祐真の顔を見てきた。
 今日は休日だが稀斗は部活の練習があった。見学じゃなくて終わってから寄るくらいならたまにはいいかなと祐真は差し入れを作って学校へ向かい、バレー部の練習が終わるまではぼんやり空を見ながら時折ノートに浮かんだお菓子のメモをしていた。
 稀斗には連絡してあったので、部活が終わると稀斗は祐真が待っている校舎を繋ぐ渡り廊下にやってきてくれた。そして片隅で座っている祐真の隣に戸惑う事なく座る。

 ああ、こんなささやかなことも気持ちがばれたらなくなってしまうのだろうか。

 祐真がふと考えていると「おかしい」と稀斗は心配してきたのだ。隠すことできるかなと少しは思ったりもしたが、今の稀斗の言葉を聞いて祐真はやはり無理なのだろうなと改めて思う。昨日までは心配をかけてはいけないと何とか笑顔を作って「何でもないよ」と答えていたのだが、結局「おかしい」と言われている。多分祐真がモヤモヤとしだしたあの時から稀斗は祐真の様子を気にしてくれているのだろうと思われた。

 やっぱり俺、きぃのこと好きだ。

 優しくて頼りがいがあって、そして何もしなくても男らしいのに時折変にカッコつけたりする可愛らしいきぃが好きだ。
 きっとずっと昔から大好きだったのだろうなと祐真は改めて思った。ずっと友愛だと思っていたけれども恋愛だった。しかし今の祐真にモヤモヤはない。むしろスッキリしている。ただ、稀斗に知られたら嫌われるだろうかという思いは辛い。

 ……好きになってごめんなさい。

 そっと心の中で謝る。口に出さないのは謝っても稀斗がむしろ困るだろうからだ。
 だが自分の気持ちに嘘をつくことも祐真はできそうになかった。どのみち隠してみようとしても顔や態度に出る。

 だから、言う。

 祐真はそっと上を向いて息を吸い込んだ。秋の高い空が目に入ってくる。心地よい風がすっと通っていく。

「きぃが好きだよ」

 本当はもっとちゃんと色々思ったことや言葉を添えるつもりだった。しかし気持ちのいい空の青を見ていたら気づけば何の飾り気もない言葉が口から出ていた。祐真の発した言葉は遠くで聞こえる、まだやっている部活の掛け声とともに空気に溶けていく。
 一瞬、何も反応がない稀斗に祐真はやはり引かれたのかなと思った。好きという意味が伝わっていないとは思わない。それこそ昔からの付き合いだ、今の意味が友愛の意味じゃないことは稀斗もわかる気がする。

 きぃ、嫌いになった?
 気持ち悪い?
 側にいてくれない?
 側にいたら嫌?
 ……もう、ケーキ、食べて、くれない……?

 そんな思いが一瞬の内に祐真の中に広がる。

「はぁ」

 祐真の中でどんどん膨れ上がっていく不安な思いは稀斗のため息で今度はズキリと固まった。

「き……ぃ?」
「ゆう」

 稀斗が祐真を見てきた。祐真も恐る恐る稀斗を見る。

「お前、今さら何言ってんの?」
「え?」

 何って、えっと……。

 祐真が困惑していると稀斗が続けてきた。

「俺が気づいてないと思うか?」
「えっ? そ、そんなに俺、あからさまなの?」

 意識して数日、自分はそんなに態度に出ていたのだろうか。祐真は赤くなりながら稀斗を見た。

「昔からな」
「そっかぁ……って、昔?」
「ああ、昔」
「え? お、俺ね、確かに昔からきぃのこと好きだったんだろうなって思ったけど、気づいたの数日前、だよ……?」

 ぽかんとすると稀斗が苦笑してきた。

「自覚ないとか救いがたいな?」
「ええ?」
「っていうか何かまた作ってきたんだろ。今度は何持ってきたんだよ。さすがに運動後に甘いケーキは辛いぞ」

 唖然と祐真が稀斗を見るも、稀斗は何でもないかのように切り返してきた。それに対しつい反応してしまう。

「あ! うん。でも今日はケーキじゃないよ。スイーツは何もケーキばかりじゃないよ」

 ハッとなりつつ持ってきたものを渡し、祐真は笑った。スポーツで少し疲れている時にはビタミンCやクエン酸かなと安易ではあるがグレープフルーツのゼリーを作ってきていた。いつものように綺麗に盛りつけることはできないが、とりあえず普通のプラスチック容器に入れてきたゼリーは多少溶けても美味しく食べられるよう、そして稀斗でも大丈夫なように甘さをかなり控えていて、その分沢山グレープフルーツをカットして入れてある。
 一応保冷性のある鞄に入れてはきていたのでまだその容器は少しヒヤリとしていた。外の気温も少し涼しくはあるが、運動の後ならきっと美味しいのではないだろうかと思ってのことだ。

「あー、うん。甘いけどあまり甘くない」

 稀斗はゼリーを食べるといつもと変わらない様子で言ってくれた。途端、祐真は少し泣きそうになる。

「おい、ゼリーの味そんな不安だったのか?」

 そんな祐真の表情を見て、稀斗が苦笑してきた。

「ち、ちがくて……」

 今のこの気持ちを何とか言葉にしようと思った祐真だが、ふと稀斗の顔を見た時に稀斗がわかってて言ったような気がした。

「あ、あのさ。きぃはその、いつから気づいてたの? 何でバレてたの? 俺すらわかってなかったのに……」

 変わらない態度のまま、いつものように全部食べてくれた稀斗に胸が一杯になりながら祐真は少し俯き加減で聞いた。

 いつから知ってたんだろう。わかっていてもこうしてずっといてくれたんだ。
 ……でもわかってて何も言ってもくれなかったってことでも、あるのかな……?

 自分の気持ちを自覚したばかりだからだろうか、祐真は自分でも情けないと思うが少々気持ちが安定していない気がした。稀斗はそんな祐真を見た後でまた少しため息をついてきた。

「お前なあ……だいたいお前はいつも無駄にふわふわしてるんだからあんま悩むなんて似合わないことするなよ」
「う」

 悩んでいるのもとりあえずバレていた、と祐真はさらに俯く。そんな祐真に稀斗は頭をポン、と軽く撫でてきた。ふとこの間見た稀斗と女子の光景が浮かぶ。
 頭に久しぶりに触れてもらえて、だけれどもこの間の女子と同じ扱いをされているような気もして、祐真は喜んでいいのか落ち込んでいいのかわからずに、また何とも言えない気持ちになって胸が痛んだ。なんだか自分がまるで女子になったようじゃないかと少し思いつつもどうしようもない。

「お前は色々わかりやすいから」

 稀斗が仕方ないなと言った風に教えてくれた。
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