ケーキと幼馴染

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5話

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 祐真はぎゅっとシーツを握り締めた。

 そうだ。もとくんが俺のきぃの手からケーキを食べた。優しいきぃは怒りもせず、あろうことか残りを食べさせていた。それがモヤモヤしていたんだ。もしかしてじゃなくてもそれって、俺はもとくんに対してヤキモチを妬いているんじゃないの?
 ヤキモチ。
 嫉妬。
 なんで。

 祐真はさらに枕に顔を埋めた。
 稀斗が女子と話していた時もだが同じだとそして思う。

 俺のきぃと楽しそうに話しないで。

 そんな風に思った自分がいることを、彼らを見かけた時には認められないでいたけれども、認めざるを得ない。
 仕方ないとわかりつつもその相手が稀斗を頼っているのが落ち着かないのだと思う。稀斗は優しいし頼りがいもある。それに本人はいつも彼女ができないと言っているが、見た目だって別に悪くない。きっと今までだって祐真が稀斗の側をひたすらうろうろとしていなかったら彼女の一人や二人普通にできていたかもしれない。だからああやって頼っている内に好きになってしまうことだって十分あり得る。
 だから落ち着かないんだ、と祐真はまたツキンと痛み出した胸のあたりのシャツをぎゅっとつかみながら思った。
 それに稀斗は優しいから惜しげもなく笑顔でその優しさを振りまく。それも安売りではなく、最高のものをそっと自然に出してくる。見かけた女子にも自然な様子で笑いかけ、頭を撫でていた。あの行為を他の男子がしたら絶対「触らないでよ」などと言われている。だが稀斗だから相手は嬉しそうにしていた。

 そんなの、嫌だ。

 一度素直に自分の気持ちを振りかえってみると後はするすると出てきた。

 その子がきぃに心を奪われたらどうしよう。
 きぃがその子に心を奪われたらどうしよう。

 見かけた時に胸が痛かった理由もわかった。そして今も痛い。モヤモヤもわかれば晴れるかと思ったが、ある意味変な風に増した気がする。そして自分の性格はよくないのだということも今初めて実感した気がした。自分の心の狭さに驚く。普通なら自分が好きだと思う人が他の人に好かれるのは嬉しいことなのではないのだろうか。

 そう。

 祐真は深いため息をついた。

 俺、きぃのこと……好きなんだ。

 いつからなのだろうか。付き合いが古すぎてわからない。少なくとも昔はちゃんと、というか幼馴染として好きだったはずだと思うのだが、元々稀斗のことは幼馴染としても親友としても頼りがいのある一人の人としても好きだったのでいつからそういう風に好きだったのかわからない。

 というか、そうだよ。

 祐真はまたため息をついた。

 男なんだよ。

 男、と口にも出してみる。自分にそういう気があったのだろうかと考えてみるがどう考えても好きなのは女だとしか思えない。数えるほどしかないが付き合ったことがあるのも未彩を含めて女子ばかりだし、経験があるのも当然女子とだ。いいなと思うのも女性だし、体を見てドキドキするのも女性だ。念のため俳優や歌手等、見た目のいい男性の体を想像してみるが、ただの裸だった。
 自分で処理することは祐真にも当然あるが、もちろんおかず対象は女性である。元々周りの女子に興味は確かになかった。だから流石に身近な女子をおかずにしたことはないが、雑誌やDVDにはお世話になっている。
 ということはやはり自分は男性が好きなのではなく、女性が好きなのだろう。だったら何故稀斗なのか。やはり好きだというのが間違っているのだろうか。

 きぃ、ちょっとごめんね。

 心の中で謝りながら祐真は稀斗の裸を思い出そうとした。だが一緒に風呂に入ったりと稀斗の裸は意外にも小さな頃見ただけで、大きくなってからは見た記憶がない。いや、あるのかもしれないが思い出せない。
 中学の頃は水泳があったのだが生憎クラスが違った。高校でも水泳の授業はある上に今は同じクラスでもあるのだが、何故だろう、やはりちゃんと思い出せない。思い出せるのは小さな頃の稀斗だが、流石にそれに対して何か思うはずもない。
 仕方ないから想像することにした。一応痩せているけれども多分筋肉はあると思う。稀斗に適当な裸を当てはめて想像しようとしてみた。だがやはりそれだと本人じゃないのかどうにもぼんやりとした映像しか浮かばないし何とも思えない。
 それとも何とも思わないのはやはりそういう好きじゃないのだろうか。そもそも祐真に恋愛として好きだなんて思われても稀斗は迷惑でしかないだろう。ただでさえ普段から多分色々と迷惑もかけているだろうに、と祐真は少し落ち込んだ。

「は? 好き?」

 そんな風に困った顔をした稀斗が浮かんだ。

 そうだよね、困るよね。

 彼女は欲しがっていたがまさか彼氏は欲しくないだろう。好きと言われて赤くなる稀斗はまず想像できない。ただ、赤くなる稀斗と思ったところで妙に心臓がドキドキした。

 きぃが俺をみて赤くなることなんてまあないけど……でも何かでもし赤くなったきぃを見たら、俺は……。

 祐真はそれこそ自分の顔が熱くなるのがわかった。

 最初から裸とか思うからピンとこなかったんだ。きぃの赤くなる顔なんて見たら俺、どうにかなってしまうかもしれない。ううん、きぃが俺に笑いかけてくれたり頭をくしゃってしてくれるだけでいつだって嬉しかった。あまりに当たり前のようになってきてたけど、誰に笑いかけられても俺、きぃに笑いかけてもらうほど嬉しいと思ったこと、なかった。

 あまりに側にいてくれてそれがいつも嬉しかったから、逆に意識してなかったのだろうかと祐真は首を傾げた。

「……俺、すごくきぃ好きだ。ヤバいくらい好きだ、っていうか間違いないよヤバいよ……」

 元々好きだった幼馴染のことが恋愛として好きだと急に実感してきた。最初は何故か妙にテンションがあがったのだが、そのテンションは急降下する。
 男を好きになってしまったというショックは自分ながらに謎だがあまりなかった。多分前から稀斗以外あまり興味なかったからだろうと思われる。幼馴染が大好きでそれ以外興味ないという状態はたまに自分でもちょっとどうかなと思っていたが、稀斗のことが友愛ではなく恋愛として好きだからだったんだと気付いて、だからか、と変にテンションが上がったくらいだ。
 そうではなく、自分はいいとして稀斗に対して「ごめんなさい」と思ってしまう。昔の稀斗はそうではなかったが、いつからか祐真に対して優しいのは変わらないけれどもそっけなくなっていた稀斗が祐真の気持ちを知れば、そっけないどころか敬遠してくるかもしれない。

 ……嫌われちゃうかな……。

 少し目が潤んできた。

「また泣く」

 そんな稀斗の声が聞こえそうな気がした。
 昔から気持ちが隠せない祐真は悲しいという感情にも抗うのが下手だった。
 ただ稀斗はそっけなくても、「また泣く」なんて言ってきても、いつもちゃんと優しかった。そんな稀斗に嫌われたらどうしようと思うと祐真はまた胸が痛くなってきた。
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